PwCグループでキャリアを積んだ後、新たな道を切り拓いて活躍している卒業生がたくさんいます。どのようなスキルや経験が、その後の仕事に生かされているのでしょうか。PwCコンサルティング合同会社の戦略コンサルティング部門「Strategy&」を卒業後、アフリカ地域でランタンレンタル事業を展開するスタートアップ・WASSHA株式会社に入社した蒔田祐貴氏は、事業拡大と社会的インパクト創出のために奮闘しています。本対談ではPwCで得た経験・スキルや、今後のWASSHAにおける展望について語ってもらいました。
話し手
WASSHA株式会社
EaaS事業部 ディレクター
蒔田 祐貴氏
聞き手
PwCコンサルティング合同会社
Strategy& パートナー
森 祐治
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
森:
蒔田さんは2017年から2022年までStrategy&に在籍されました。その後、アフリカ5カ国の未電化地域でランタンの日次レンタル事業を展開しているWASSHAに転職されています。まず、企業のサービス概要や現在の役職などについて教えてください。
蒔田:
当社はアフリカ現地の村の小売店(キオスク)とエージェント契約を結び、そこから未電化地域に住んでいる人を対象にランタンを貸し出すサービスを展開しています。進出しているのはタンザニア、ウガンダ、モザンビーク、ナイジェリア、コンゴ民主共和国の計5カ国。計6,000以上の小売店と契約を結んでおり、サービスの利用者は数十万人規模にのぼります。ちなみに、WASSHAという社名には、スワヒリ語で「明かりを灯す」という意味が込められています。
私の役割としては国別で最大の売上があるタンザニアの統括、グローバルにおける営業標準化、サプライチェーンマネジメント統括、ハードウェア統括、新製品開発などを担当しています。
森:
ランタンのレンタル事業は日本ではなじみがありませんが、現地では競合が多いのですか。
蒔田:
競合で最も多いのがランタンやバッテリーを月割りで割賦販売するモデルです。ただ、企業側の利益や顧客の支払いが滞る「デフォルト率」を加味しなければいけないので、収入が低い、または安定しない顧客にとっては割高になります。一方、当社の事業は日常のレンタルモデルなので少額で借りることができ、割賦販売の顧客よりも収入が乏しい層にも利用していただけるのが特徴です。ただ、最近は欧米系のスタートアップもレンタル事業に参入するようになってきました。
森:
蒔田さんはStrategy&に入る前から、途上国の発展や貧困解消を経済面から考察する「開発経済学」に強い関心をお持ちだったそうですね。
蒔田:
大学で経済学を学んでいくうちに、世の中の格差や不平等に対して問題意識を感じるようになったのが直接のきっかけです。経済的な格差は世代を超えて固定化されるという理論もあるので、何らかの形でテコ入れをしなければ改善しないのだろうなと考えるようになりました。生まれながらにして恵まれない人がいる状態を是正して、もっと良い世の中にしていく仕事に関わりたいという気持ちが、仕事のモチベーションの1つになっています。
森:
開発経済学を学んで意欲を燃やした学生が、現地の過酷さに打ちのめされた末に普通の企業に就職するケースは珍しくありません。蒔田さんも大変な思いをされることがあったと思いますが、どのようにしてモチベーションを維持しているのでしょう。
蒔田:
私も大学院卒業後には、開発経済の分野を選べなかった部分があります。そこで課題解決へのアプローチ手法を学べるコンサルタントという職種を選びました。実際にStrategy&では企業の成長をご支援する過程で、しっかりとしたスキルを身につけることができました。同時にお金を稼ぐことが人々を惹きつけ、サステナブルかつインパクトがある循環を生むという確信も得ることができました。それらのスキルと確信があるからこそ、困難が多い現実にもしっかりと向き合えているのだと思います。
森:
途上国を対象とするNPO組織やソーシャルビジネス企業に、大学や大学院を出てすぐに入るのはハードルが高い側面もあると思いますか。
蒔田:
そうですね。マーケットが有望ではないですし、それなりのスキルや経験がないとうまく適応できないと思います。青年海外協力隊を含め、インターンやボランティアで来られる方は多くいらっしゃいますが、仕事としてお金を稼ぐとなると即戦力が求められる市場です。
WASSHA株式会社 EaaS事業部 ディレクター 蒔田 祐貴氏
森:
先ほど課題解決へのアプローチ手法を学べるという理由でコンサルタントという職種を選んだとおっしゃっていました。Strategy&で培った経験やスキルは現在のお仕事にどのように生きているでしょうか。
蒔田:
一般的にスタートアップは社内の教育制度がそれほど整っておらず、時間に余裕もないので業務を1から教えていくわけにもいきません。しかも、日々さまざまな課題に直面するわけです。そうした中でも自分で主体的にたどり着いた答えを主張し、ステークホルダーと連携しながら価値を提供できているのは、コンサルタントとして培ったスキルがベースにあるからです。
Strategy&でさまざまな課題を分解・理解しながら解を見つけていく方法を学べたおかげで、どのような課題に対しても自分なりの答えを一通り出せるようになったのは、非常に大きいと思っています。
森:
社内にはさまざまなバックグラウンドの方がいらっしゃると思いますが、その中でも蒔田さんの問題解決能力に対する期待は大きいでしょうね。
蒔田:
当社には商社やベンチャー企業の出身者など多彩な経歴の人材が集まっており、それぞれに独自の視点を持っています。そうした中でも戦略ファーム出身者としてアドバンテージを感じる点は、市場洞察の感度が高いことです。将来的な市場の変化の見通しや顧客の購買アクション、あるいは市場に対する外部からの影響など、市場の現状や未来については他の人材よりも深い洞察ができると自負しています。
森:
ともすればベンチャー企業は目先の目標や業務で手いっぱいになりがちですが、経営者的視点で事業を俯瞰的に捉えられる能力は大きなアドバンテージとなりそうですね。ちなみに、コンサルタントで言えば、どのぐらいのスキルベースがあるとWASSHAのような会社で活躍できると考えますか。
蒔田:
プロジェクトをある程度1人で回せるシニアアソシエイトぐらいのレベルがあれば、十分回せるのではないかと思います。
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& パートナー 森 祐治
森:
問題解決能力だけではなく、「多様なステークホルダーと連携しながら価値を提供できている」というご発言がありました。この部分もStrategy&で培った経験が役立っているのでしょうか。
蒔田:
はい。PwCグループの中で、自分とまったく異なる知識や経験を持つチーム・人材と触れ合えたことが財産になっています。別のチームには業界知見が豊富でクライアントの理解度が高い方や、テクノロジーに精通した人材がいましたし、アドバイザリーのメンバーが持つM&Aに関する知識には圧倒されました。それが日本に限らず、グローバルで人材ネットワークが張り巡らされているところが、PwCの最大の魅力だと思います。
森:
総合ファームをうたっている組織は他にもありますが、PwCの場合は専門性の高い人材がただ集まっているのではなく、相互に有機的につながっている点が面白いですよね。法人間のつながりもそうですし、その連携の柔軟性やハードルの低さは他企業にない大きな強みだと私も思います。
蒔田:
特に戦略分野では他社との差別化が難しくなってきているので、自分たちの強みを生かしながら違いを出していこうとする中で行き着いたあり方なのかもしれませんね。
森:
コンサルタントの業務を俯瞰で見ると、クライアントを支援することで企業の行動が変わり、その結果として社会も変化していくという流れになっていますよね。これはソーシャルビジネスにも通ずると思うのですが、いかがでしょう。
蒔田:
まさにおっしゃる通りです。そうしたマインドセットについても、PwCの在籍中に土台を構築できました。特に岐阜県内で実施したプロボノ活動はとても印象に残っています。地元のスポーツチームの経営支援だけではなく、中長期的に地域コミュニティを活性化するという社会性のある目標も視野に入れた活動は、通常の業務では得られない新たな気付きで満ちていました。
2018年には(世界の起業家や企業の若手リーダーが集まるイベント)「One Young World Summit」に参加するため、オランダのハーグに派遣されました。社会課題や自分の興味がある分野、またPwCやクライアントを組み合わせて何を実現できるかを1年かけてじっくり議論した経験は、何物にも代えがたいものがあります。同じ年代の方々の意欲や課題意識に触れることで、自分のマインドにも大きな影響がありました。
また、「より良い社会を作りたい」という思いを持ったPwC内の有志が集まるSII(ソーシャル・インパクト・イニシアチブ)というバーチャル組織にも、Strategy&から1名で参加しました。SIIでさまざまな思いを持つメンバーと知り合い率直な意見をいただく過程で、開発経済分野に関する自分の考えやモチベーションがより研ぎ澄まされた気がします。
森:
PwCはさまざまな人材を抱えているので、自分と極めて近い問題意識を持っている方に出会える瞬間がありますよね。特にSIIは思いや志を共有して共鳴し合う良い機会になりそうです。そうした活動を、生活の中で最も時間を投資する仕事というインフラ上で行えるのは、合理性がありますし面白い仕組みだと思います。
(左から)蒔田 祐貴氏、森 祐治
森:
WASSHAに転職されて3年が経ちました。蒔田さんご自身の今後の展望についても教えていただけますか。
蒔田:
WASSHAはこれまで、ランタンのレンタルビジネスに注力してきましたが、売上としてはまだそれほど大きくありません。社会にインパクトを創出するためにも、さらなる売上と利益を追求していきたいです。他企業と協業する形で新しいビジネスモデルをつくることも含めて、既存ビジネスを土台としたステップアップを模索していきます。
例えば、WASSHAにはランタンのレンタルのために築いた小売店とのネットワークがあるので、そこに医療品やバイクの修理用品、漁業用エンジンなど、現地でニーズの高い新商品を加える方向性が考えられます。また、電力が安定していない地域向けの停電対策ソリューションのほか、より所得が高い事業者向けのミニグリッド(小規模電力網)など、当社が未電化地域で培ってきたエネルギー事業を成長させる方向でも可能性があります。
まったくの飛び地ではありますが、個人的にはモバイルマネー事業にも注目しています。アフリカでは送金のたびに2~5%程度が徴収されるなど、手数料が非常に高額です。コスト面で使いやすいモバイルマネーの需要は極めて高いでしょう。
森:
新規事業を展開するにあたって、タイムスパンはどうお考えですか。
蒔田:
POC(概念実証)であれば1年程度、実際に売上を立てるのは2~3年後を想定しています。現在のランタンビジネスに次ぐポジションを確立するには、5年程度の時間軸が目標になると思います。
森:
最後にPwCに期待することがあれば教えてください。
蒔田:
当社はまだ小さいスタートアップであり、自分たちだけでは実現できないことばかりです。余力があって投資できる企業や、自社の技術をアフリカで展開したい企業とぜひつながりたいと考えています。その点でPwCおよびアルムナイのネットワークは非常に魅力的だと感じています。
森:
開発経済は単純にお金があるユーザーに払ってもらうだけでなく、そもそも何もないところから歯車を回さなければなりません。PwCやアルムナイネットワークの中には、「開発経済」という言葉そのものを知らない方も少なくないと思います。開発経済、そしてそれを目的としたビジネスがあることを知っていただくこと自体にも価値はありますし、知らないがゆえに生み出せる新しいアイデアもあるでしょう。今回の対談やアルムナイネットワークが、その一助になれば幸いです。
本日は貴重なお話をありがとうございました。蒔田さんの今後のさらなるご活躍を期待しております。
蒔田 祐貴
WASSHA株式会社 EaaS事業部 ディレクター
東京大学経済学部卒業。住友電気工業株式会社に新卒入社、自動車事業本部にてワイヤーハーネス事業の営業企画に従事。退職後、東京大学公共政策大学院(修士)にて開発経済学を学び、途上国開発を志す。
2017年よりPwC Strategy&にて戦略コンサルタントとしてさまざまな業界を経験し、途上国開発に本格的に携わるべく2022年にWASSHAに参画。WASSHAでは、新製品開発・HW・SCM・タンザニア支店運営などを担当。
森 祐治
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& パートナー
日本電信電話(NTT)勤務の後、日米の大学院で行動科学領域の研究に従事。米国でのベンチャー起業や、マイクロソフト米国法人・日本法人でインターネットおよびサービス開発、政府交渉などを経験。マッキンゼー・アンド・カンパニージャパンを経て、コンテンツ系投資ファンドを設立。同ファンドの償還後、電通傘下の経営戦略コンサルティング会社設立に加わり、その代表を経て、Strategy&のパートナーとなる。
通信、インターネットビジネス、メディア・エンタテイメント、エレクトロニクス、新規事業創出、デザインコンサルティング、未来予測、マーケティング、アライアンス設計の分野を中心にコンサルティング経験を多く有する。
情報サービス、メディア・コンテンツ領域の政府委員会委員を歴任。知的財産アナリスト認定講座(コンテンツビジネスプロフェッショナル)、デジタルハリウッド大学大学院、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科などで教鞭をとる。