PwCグループでキャリアを積んだ後、新たな道を切り拓いて活躍している卒業生がたくさんいます。どのようなスキルや経験が、その後の仕事に生かされているのでしょうか。PwCコンサルティング合同会社を卒業した加戸菜々恵氏は、総合スポーツ教育サービスを中心に複数の事業を展開する株式会社biimaの新規事業部長として、次世代を担う子どもたちの能力や思考力の向上に注力しています。今回は現在の仕事に生きているPwC時代の経験と、将来の展望について語ってもらいました。
話し手
株式会社biima
新規事業部 事業部長
加戸 菜々恵氏
聞き手
PwC コンサルティング合同会社
パートナー
久木田 光明
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
久木田:
加戸さんは2019年にPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)に入社後、現在のX-Value&Strategy(以下、XVS)にあたるチームに配属され、4年近く勤務されました。現在は株式会社biimaで新規事業部長を務めてらっしゃいます。まず会社の事業について教えていただけますか。
加戸:
biimaは今期8期目のベンチャー企業で、メイン事業は総合スポーツ教育などの企画・運営です。全国約250拠点で幼児・少学生を中心とした4,000名以上の会員を対象に、年間7種目以上のスポーツ教育を実践し、基礎運動能力や非認知能力などを高めるサービスを提供しています。
その他にも、総合スポーツ保育園やダンススクール、多様な領域の新規事業開発支援を行うコンサルティングサービスなどの事業を展開しています。また最近では、その他の教育事業サービスも準備・ローンチしております。
久木田:
加戸さんは新規事業部長という立場ですが、biimaではどのような新規事業を展開する計画でしょうか。可能な範囲で教えていただけますか。
加戸:
現在私たちが計画している事業としては、アート思考やデザイン思考を子どもの頃から習慣化させる取り組みがあります。
久木田:
興味深いですね。なぜアートとデザイン思考にフォーカスしたのでしょうか。
加戸:
これからの社会は、答えや正解が決して1つではありません。それぞれが後悔しない人生を送るためには、人から与えられた問題に対して正しい正解を出す能力よりも、自分で問いを見出し、その答えを自らの視点で導き出す必要があります。そういった自分なりの答えを生み出していくためには、アート的な素養や思考が不可欠です。
一方、自分なりの問いと答えを反芻するだけでは、社会で生き抜いていくことは困難です。社会に寄り添い、共感し、相手のためを思ったアウトプットも必要となるため、デザイン領域にもフォーカスしようと考えました。
久木田:
XVSに所属するストラテジーコンサルタントたちも、加戸さんと同じ視点の議論をよく交わしています。コンサルティングの世界においても、顕在化した課題やアジェンダを解決するだけのプロブレムソルバー的なアプローチはすでにコモディティ化していて、課題を見出し、シェイプしていくアジェンダシェイパーが求められています。アート思考やデザイン思考はとても大切ですが、その習慣化に子どもの頃から取り組むということですね。
加戸:
はい。賢い大人は、テクニックでそれら思考が身についているように振る舞うことができます。しかしそうではなく、子どもの頃から専門的な教育を受けられるようにして、真に習慣として反射的に思考できる人材を育てていくことが目標です。
久木田:
コンサルティングファームから事業会社に転職された加戸さんですが、挑戦を決めたきっかけを教えてください。
加戸:
PwCコンサルティングでさまざまな経験をさせていただいて、コンサルタントとしての基礎的な能力や動き方が身に付いたと感じたのが3年目くらいです。そのタイミングで、事業会社の仕組みをより深く理解しながら、自分たちが提供したソリューションが本当に良いものなのか、事業会社の視点から改めて確認したいという思いに駆られました。
仮に挑戦するならば、自分の興味のある分野に挑戦したい。そう考えていた時に、知り合いの方からbiimaを紹介いただき、ラッキーなことに順調に話が進みました。
株式会社biima 新規事業部 事業部長 加戸 菜々恵氏
久木田:
PwCコンサルティング入社のきっかけは、たしかボストンキャリアフォーラムでしたよね。入社を決めた理由や経緯について教えていただけますか。
加戸:
大学時代に社会学部に所属していた私は、人や社会のさまざまな事象を1つの理論に落とし込むことが楽しくて好きでした。その経験から、さまざまなクライアントの悩みを自分の考えを用いて解決するコンサルタントの仕事に興味を抱きました。
コンサルティング業界のなかでPwCコンサルティングを選んだ理由は、“人の種類”がとても多くて魅力的に映ったからです。情報収集するうちに、元気な人、穏やかな人、チームワークが好きな人、個人プレイヤー的な人など、多様な方々がリスペクトし合いながら働いている会社であるという印象を受けました。大学3年生の頃にはすでにPwCコンサルティングに希望を決めていたので、4年生になって具体的に入社のためのプロセスを踏むことにしました。
久木田:
加戸さんは他の新卒メンバーと比較しても、色々な案件に関わっていたイメージが強いです。自分の成長を実感できた印象的なプロジェクトを教えてください。
加戸:
思い出深いプロジェクトはたくさんあるのですが、なかでも記憶に鮮明に残っているのがとあるプライベート・エクイティ・ファンドのバリューアップ案件です。工場の常駐部屋に籠って膝を突き合わせて議論する日々を繰り返すうちに、社員の方々からも親しみを込めて「加戸ちゃん」と呼んでいただけるようになりました。現場感を養い、クライアントと信頼関係を構築することの大切さ、プロジェクトに対してオーナーシップ持つことの重要性を特に学ばせていただいた案件でした。
印象深いもう1つのプロジェクトは、外資系と日系小売企業のクロスボーダー買収案件です。そちらは圧倒的な規模感に感動しました。一方は大企業的な思想で組織が運営されているのに対し、もう一方は叩き上げの社長がトップダウンで組織を指揮していて、言語も企業カルチャーも全く異なっていました。その両社をつなげるに際しての課題について、上司や同僚の皆さんとディスカッションしたことはとても楽しく、有意義な経験でした。最終的にデイワンを迎えた時は、とても大きなやりがいを感じたことを覚えています。
久木田:
たしかに大規模なクロスボーダー案件やM&A案件は、PwCコンサルティングならではですよね。楽しそうにお話しされていますが、当時はとてもハードな仕事も多かったと思います。加戸さんはPwCコンサルティングに在籍した3~4年間で、仕事のスキルやできることが徐々に広がった実感はありますか。またPwC時代の自分の成長をどのように整理していますか。
加戸:
最初は目の前の1つのドキュメントをこなすことに必死でしたが、最終的に1つのセグメントを全て任していただき、スキルアップしていることはもちろん、信頼や裁量をいただけていることを実感できました。また新卒の後輩の皆さんに教える段階では、自分の成長やスキルアップを感じる機会が特に多かったです。
PwCコンサルティングでは、本質的なロジカルシンキングなど、私の苦手な部分を克服させてもらいました。物事を整理した上で論理的に相手に伝えるスキルは現在の会社でも大いに役立っており、普段の業務に応用させていただいています。
また、自分の強みを磨き上げていただきました。私はPwCのプロフェッショナルに求められる行動特性のうち、リーダーシップに強みがあると、上司の方々から評価いただいていました。リーダーシップにも、いろいろな要素があり、自分が与えられた責務を全うしてリードするという意味でのリーダーシップ、また案件自体を自分のものとして捉えるオーナーシップ的な観点などです。3~4年目になると、リーダーシップとオーナーシップの違いがしっかりと認識できるようになりましたし、クライアントにバリューを提供する際の自分の強みとして掘り下げることができたと思っています。
PwC コンサルティング合同会社 パートナー 久木田 光明
久木田:
新卒入社にとっての最初の職階であるアソシエイトの役割や仕事のスコープは限定されますが、そのなかでもオーナーシップは常に求められます。そしてその集合体がプロジェクトチームであり、組織であり、PwC全体でもある。プロフェッショナルファームの特徴や良さは、チーム内の役割分担が明確であるだけでなく、各個人がオーナーシップを持って価値を出していけること。言い換えれば、各個人がパーツで終わらないことだと私も思います。
事業会社に転職された今、PwCコンサルティングでキャリアを形成することの魅力についてはどう捉えていますか。
加戸:
退社面談の時も上司の方々に「チームに対してネガティブな部分があれば教えてほしい」と言われたのですが、本当になくて困ってしまった記憶があります。
私はPwCがとても好きなのですが、特にそれぞれのメンバーが互いをリスペクトして、フラットに意見を話し合える文化が醸成されている点に魅力を感じていました。コミュニケーションがフラットだからこそ、プレッシャーなく自分の成長を楽しめる。キャリアを形成する上で、怖気づかずに何度もトライアル&エラーできるのはすごく良いポイントだと思います。
そして“無理をさせないリスペクト”も魅力です。各メンバーのペースや働き方、ワークライフバランスを許容してくれますし、「カルチャーの押しつけがないカルチャー」が私は心理的に楽でとても好きでした。
久木田:
これまでのストラテジーコンサルタントは、専制的な立場で強いオーナーシップやリーダーシップを発揮し、プロジェクトや案件を力強く推進していくイメージでした。セルフィッシュでプライドが高いかもしれませんが、能力が高く尖っていることに価値があるとされていたのです。ただ昨今では、クライアントが求めるコンサルタントの価値も変化しています。ましてや、クライアントのなかに能力が高い方が増えてくると、自分たちのスタイルやスタンスも変化させていく必要があります。
ここ数年間は、相手の立場に立って正しいことをどう伝えるか、また伝え方に対する工夫も含めて戦略的にアプローチしていける人材こそ戦略コンサルタントだという議論をよく交わしてきました。だからこそ、若手育成に関してもインクルージョン&ダイバーシティの観点も含めて寄り添ってきたと自負しています。加戸さんにその点で魅力を感じていただけたならとてもうれしく思います。なお卒業後にも、PwCメンバーとのつながりはありますか。
加戸:
現役の皆さんには、今でも毎週のように飲み会に誘っていただいています。仕事や最新のトレンドについて議論することも多いです。卒業生同士のコミュニティもつながりが強く、例えば私が「こんな人を探している」と相談するとすぐに紹介してくます。もともとPwCコンサルティングの方々はリソースを共有してくれることに躊躇がありませんでしたが、卒業後もそのスタンスに変化がなくとても助かっています。
久木田:
今後、事業会社で新たなチャレンジが続くと思いますが、取り組みたいことなど展望についてお聞かせいただけますか。
加戸:
目下の目標は、子どもたちが自分なりの視点や思考を育めるアート・デザイン関連の新規事業をbiimaという場所でしっかり展開していくことです。子どもが自分なりの視点で思考し、選択できる人生を作る。そういった目標はbiimaを卒業したとしても、自分の人生の目標として変わることはないと思っています。また、その先の将来的な目標として、大人と子どもが一緒に学びや遊びを共有できる環境や、コミュニティづくりに取り組みたいと思っています。
久木田:
現代社会は大人が遊ぶことが難しい時代です。合理性や効率性をとことん突き詰めた資本主義社会では、バッファという意味での余裕がどんどん失われています。デザイン思考やアート思考も遊びの感覚がないと絶対に生まれないでしょう。大人が子どもと一緒に遊びを共有できるコミュニティという発想は興味深いですね。
加戸:
もう少し踏み込むならば、大人と子ども、仕事と遊びなど、相反するとされている物事の境界を取り除く取り組みを広げていきたいです。
久木田:
そのモチベーションはどこにあるのでしょうか。
加戸:
自分なりの視点や思考を育むことや、物事の境界線をなくすことに対する強いモチベーションは、大学時代の経験に根差しています。海外の大学で学んでいると、マイノリティの立場から、マジョリティの価値観や“多数者の正しさ”という重圧に触れる機会がとても多かったのですが、数年もしないうちにマイノリティの価値観が対等もしくは社会的に正義とされることが増えてきました。つまり、不正解だとされてきたものが、いつ正解になるか分からない時代になったというのが私の認識です。
そういう世の中にあって、一定の境界のなかで正解を追い続けることは人々を疲弊させ、悩ませるだけだと思います。それよりも、マイノリティとマジョリティなど、さまざまな境界をなくしていくこと、そして自分の視点・思考で好きなものを選べる人を増やした方が、個人にとっても社会にとっても良いと考えるようになりました。その感覚はPwCコンサルティング在籍時の経験を通じて、より確固としたものとして磨き上げられたと思っています。
久木田:
現代社会の課題を自分なりの視点でしっかり見つめている加戸さんのことを、元同僚としてとても頼もしく思います。
私たちのようなグローバルプロフェッショナルファームは大企業向けのアドバイザリーや、企業の成長のための支援がメインです。もちろん、それが直接的、あるいは間接的に社会課題の解決につながる部分も少なからずあると思いますが、NPOやボランティア団体など専門的な組織と比べるとどうしても課題との距離感がある。そのギャップを埋めていくことはPwCのパーパスであり、常に意識するようにしていますが、加戸さんは今後、PwCやプロフェッショナルファームにどのようなことを期待しますか。
加戸:
私はコンサルティングサービスを大企業に提供し続けていく道は、ゆくゆくは社会課題の解決につながっていくと信じています。ただこれからの時代には、蓄積した事象や正しい答えだけでなく、社会の見通しや寄り添い方も含めて提供する新たなアプローチが必要になるのではないかと考えています。事業会社の立場からみても、新たなアプローチを模索しながら進んでいるプロフェッショナルファーム、そしてコンサルタントの皆さんは尊敬していますし、引き続きとても期待しています。
久木田:
加戸さんが計画しているような事業を通じて能力を培った子どもたちが社会に出て、企業に所属し、次世代の経営者や事業の責任者となれば、事業会社としての価値の出し方もまた現在とは大きく変わっていくのでしょうね。そのような未来には、指摘のとおり、業界のベストプラクティスを集めた答えの提示や、成功モデル踏襲型の価値を提供するタイプのコンサルティングはまったくフィットしなくなるはずです。むしろ、ともに考え新しいものを生み出したり、答えのない世界で寄り添ってアジェンダを設計したりしていけるパートナーが求められると思いました。
私が個人的に思うのは、コンサルタントが社会を変えていくという姿勢を持つこともさることながら、社会も自然と変化していることを認識することが重要になるということです。新しい世代が経営に携わった時、企業のニーズにマッチするサービスやケイパビリティを提供し続けられるように、コンサルタントも常に変化しなければならない――。今日の対談で改めて得た気づきを、社内のメンバーに一層強く伝えていきたいと思います。現在は立ち位置が異なりますが、今後も深く連携・議論しながら、来る社会に向け提供できる価値を生みだしていきましょう。本日はありがとうございました。
加戸 菜々恵
株式会社biima 新規事業部 事業部長
海外の大学を卒業後、PwCコンサルティング合同会社のXVS部門に新卒入社。国内・クロスボーダーのPMI案件やPEファンドとの各種案件の支援を行う。
2023年8月に株式会社biimaに入社。教育サービスの新規事業開発を中心に担当。
久木田 光明
PwC コンサルティング合同会社 パートナー
大手日系コンサルティングファームを経て2012年より現職。
中小企業から大企業までさまざまな企業に対して、企業戦略、事業戦略、営業/マーケティング戦略、経営管理、グループ経営、経営変革(BPR)などの戦略/ビジネスコンサルティングを10年以上にわたって提供。
特に近年ではM&A戦略の策定、買収対象企業の選定、ビジネスデューデリジェンス、統合後の統合プランの策定および統合の実行(物流統合含む)など、M&A/企業統合に関する支援実績を多数有する。