
PwC Japanグループでキャリアを積んだ後、新たな道を切り拓いて活躍している卒業生がたくさんいます。どのようなスキルや経験が、その後の仕事に生かされているのでしょうか。株式会社LooopのCFOに就任した藤田総一郎氏は、PwCアドバイザリー合同会社(以下PwCアドバイザリー)卒業後、再生可能エネルギー分野の最前線で数々の課題と向き合いながら、その解決に向け邁進しています。本対談ではPwCで得た経験、再生可能エネルギー分野における事業展望など、藤田さんのキャリアの過去・現在・未来について語ってもらいました。
話し手
株式会社Looop
取締役CFO/戦略本部長
藤田 総一郎氏
聞き手
PwCアドバイザリー合同会社
パートナー
齋藤 良司
PwCアドバイザリー合同会社
パートナー
野村 泰史
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
野村:
藤田さんは大学卒業後、大手監査法人に入社し、公認会計士として主に金融機関をクライアントとする会計監査、会計アドバイザリー、M&Aアドバイザリー業務などに従事されました。監査法人時代には、大手金融機関に出向しストラクチャードファイナンス業務も経験されています。PwC入社後は、事業再生コンサルタントとして自動車業界などの事業再生案件を担当されました。そして現在、CFOを務めていらっしゃるLooopには2020年8月に転職されています。まず簡単に御社の事業についてご紹介いただけますか。
藤田:
Looopは人々がエネルギーを自由に使えるとともに、新しい価値を創造・発揮しながら持続的な豊かさを享受できる「エネルギーフリー社会」の実現を目指しています。
もともとLooopは太陽光発電所をつくる事業で会社を立ち上げましたが、現在は風力発電も含めた再生可能エネルギー関連事業、そして電力小売事業の2つがメイン事業となっています。自社発電所でつくった電力は電力会社に販売し、電力小売事業は電源を市場から仕入れてお客さまに販売するビジネスモデルです。
齋藤:
設立から約12年が経過した現在、Looopは日本の再生可能エネルギー分野で大きな存在感を発揮されています。その設立の経緯も象徴的で、東日本大震災がきっかけになったと伺っています。
藤田:
代表取締役会長を務める中村創一郎はもともと中国で事業をしていましたが、震災が起きたタイミングで、中国の知人たちから「日本に役立てて欲しい」と太陽光パネルを譲り受けました。それを被災地に設置して携帯電話の充電用電源として活用するなど、インフラが寸断された場所で電気を使えるようにボランティアをしたのが会社設立のきっかけとなりました。
その後、Looopは太陽光発電所をつくる事業で成長し、2016年に自由化されたタイミングで電力小売事業に参入しました。現在、社員数は300名ほどまで増えており、大手電力会社や証券会社との相互出向なども活発に行われています。
野村:
2022年9月には完全市場連動型の料金プランもローンチされていますね。これにはどのような狙いがあるのでしょうか。
藤田:
電気はその特性上、発電と同時に消費しなければならず、在庫することができません。そのため、発電量に対して、電気使用量が増える時間帯には相対的に電力価格が高く、反対に電力使用量の少ない時間帯には電力価格は安くなります。現在、電力価格は昼間の時間帯はkWh当たり0.01円という低価格ですが、電気を多く使う夕方や夜のタイミングになると30円まで高騰します。1日のなかで3000倍ものボラティリティがあるのです。
また、この昼間の時間帯においては、せっかく発電した再生可能エネルギーを、出力制御として、捨ててしまっています。
野村:
以前、あるクライアントから「工場で大量の電気を使用するため、夜しか稼働させない」という話を聞いたことがありますが、今は昼間に動かした方が得なのですね。
藤田:
はい。つい最近までは日中料金の方が高かったのですが、原子力発電所の稼働再開や太陽光発電に対する国の支援など複数の要因で状況が変化しています。
そのような価格構造で取引される電力調達市場に対し、お客さまに市場連動型メニューを提供することで、固定価格型では図れない課題解決に挑みたいと考えています。例えば、「昼間にEV車を充電すると電気代が安くなる」などメリットを提示できれば、捨てている電力に対して需要を引き起こすことができるでしょう。余った電気をしっかりと需要家に届けることで、間接的に再生可能エネルギーの普及を拡大していきたいというのが私たちの狙いです。
齋藤:
近年「ネットゼロ」など再生可能エネルギーに対する社会的要請は高まっている反面、伝統的な電力会社はさまざまなしがらみから迅速な変革が難しいという課題があります。そんななかでもLooopは革新的なビジネスを積極的に展開されている印象です。市場連動型料金プランもその1つですが、ユーザーにメリットを享受してもらうためには、何か具体的な施策はあるのでしょうか。
藤田:
例えば、Looopでは個人の電気使用を市場価格と連動させて最適化できるシステムやアプリも開発中です。電気代は翌日のマーケット価格が決まっているため、どの時間帯が安いか事前に把握することができます。私たちが提供しているアプリには、その事前情報を活用し、電気代の値動きに連動してエアコン温度を自動的に調整する機能が実装されています。今後は価格が安いタイミングでEV車の自動充電を行う機能なども開発を進めて提供していく計画です。
株式会社Looop 取締役CFO/戦略本部長 藤田 総一郎氏
野村:
転職して3年半が経過しましたが、入社前にやりたいと思っていたことは実現できていますか?
また事業会社と監査法人やコンサルティング会社では、見えている景色がまったく異なるものなのでしょうか。
藤田:
転職する前は事業再生の経験や知見を活かして、いつかCFOなど経営に近いポジションで仕事をしたいと考えていました。当初、経理課長クラスの役職で入社したのですが、2022年4月にはCFOを任せていただけることになりました。正直、すぐ役員になれるとは思っていなかったので重圧もありましたが、ここ1年半くらいはやりたかったことが実現できていると実感しています。
PwCアドバイザリー時代の事業再生案件は顧客との距離が近かったこともあり、事業会社に入社した際のイメージはどことなく描くことができていました。ただ想像以上にいろいろなことが起きるというのが率直な感想です。昨年は特に電力コスト高騰など市場の影響を直接的に受けたことで、経営的に難局も迎えました。何とか乗り切ることができましたが、Looopはまだまだベンチャー企業としての側面も色濃い。常に“有事”な状態なので、今後も考えなければならないことがたくさん出てくると思います。
なお事業会社を舵取りしていく上で、事業再生の現場を体験できたことはとても大きな財産だったと個人的に考えています。
齋藤:
メンタルや考え方などソフトスキル面、もしくは交渉術や数字の分析などテクニカル面のどちらが役に立っていますか?
藤田:
両方です。例えば事業再生案件では銀行との最も厳しい交渉を経験しました。その手前の状況での交渉であればメンタル的にひるむことはありませんし、交渉の方法というテクニカル面においても当時の経験が大いに役に立っています。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 齋藤 良司
野村:
藤田さんはなぜPwCアドバイザリーに入社を決めたのでしょうか。
藤田:
監査法人時代の会計アドバイザリー業務から得た知見、また銀行出向経験などを活かし、人の役に立つ仕事がしたいと考えたのがきっかけです。なかでも厳しい局面にある企業を立て直す事業再生の仕事に高い関心を抱いていました。当時、他社でもいくつか内定をいただきましたが、事業再生分野においてPwCアドバイザリーの評判が高いことを知り入社を決心しました。入社は2019年4月です。在籍期間は1年半でしたが、とても濃い経験をさせていただきました。
野村:
PwCアドバイザリー時代には私たちと同じチームで、自動車部品会社の事業再生案件を担当したこともありましたね。かなりハードな日々だったと思いますが、振り返ってみていかがですか。
藤田:
プロジェクトが始まる前にある程度は覚悟して臨みましたが、現場の状況はいつも想像以上でした。自分が作成した資料が少しでも間違っていたら資金繰りがショートする、もしくはバイサイドのファンドとの交渉が立ち行かなくなる可能性が常にありました。時間的にも追い込まれているシビアな状況で常に質の高い仕事を求められたことは、何ものにも代えがたい尊い経験だったと思います。
今思えば、PwCのメンバーは常にプロフェッショナルであろうという意識が高く、チーム内においても互いに水準を高め合おうとするカルチャーがありました。業務を任せてもらえる機会も多かった印象です。
齋藤:
なぜ転職を考えたのでしょうか。
藤田:
自動車部品会社の案件で一通りの業務を経験して、“やりきった感”が湧いてきたからという理由が大きいです。それにもう一度フルラインで再生プロジェクトを経験できるか分からない状況でしたので、転職という選択肢が徐々に頭に浮かんできました。
野村:
確かに同案件は工場再編やリストラ、顧客の絞り込みなどフルラインで業務にあたりましたね。苦境であるからこそ人間性がそのまま表出していましたし、そこに対し経済的合理性を提示していく日々でした。ステークホルダーの調整がとても大変でしたから、やりきった感が出たというのも共感できます。では、Looopに決めた理由は何だったのでしょうか。
藤田:
知人がLooopの当時のCFOを務めていて、打診いただいたのが直接的なきっかけです。社会的に意義があることをやりたいと思っていたので、再生可能エネルギーという領域にも強く惹かれました。
なお私の父は中東で石油やLNGプラントなどをつくる会社に勤めていました。幼い頃に「地図に残る仕事はかっこいいだろう」と言われていたこともあり、どこかでエネルギーやインフラ関連の仕事に潜在的な興味を持っていたのかもしれません。
齋藤:
事業会社の経営陣の立場から見たPwCの印象はいかがですか。
藤田:
当社では複数のプロフェッショナルサービスファームと取引がありますが、PwCは出てくる資料のスピードや質が高いように思います。思い返せば、PwCアドバイザリーに転職した当初、上司の方々から資料の色使いや文字サイズについて細かく指摘いただきました。「なんでだろう」と思いながら資料作成の方法について学んでいましたが、事業会社側に立った時、その重要さを改めて認識しました。資料がガタガタだと、中身を見る前に仕事を任せられるか心配になってしまいます。細部までプロフェッショナルであろうというPwCの仕事の流儀は今でも変わりません。
齋藤:
今後、PwCやアルムナイネットワークに対して期待することはありますか。
藤田:
私と同じような事業会社のポジションにいるPwC出身者は多いはずです。卒業生同士の横のつながりを強化できれば、悩みやつまずくポイントも共有できるだろうし、とても心強いと思います。
齋藤:
最後にご自身やLooopの今後の展望について教えてください。
藤田:
お客さまにとって最適なタイミングで電気を使えるか、が市場連動型プランのメリットを享受する上で重要なポイントとなります。Looopとしては、その最適なタイミングでの電力使用を促すため、エネルギーマネジメントの自動化をさらに推し進めていきたいです。電力使用やお客さまのデータが蓄積されればされるほどマネジメント効率は高まり、最適化は進みます。そして大量のデータを集めるためには、電力小売のお客さまの数を何倍にも増やさなければなりません。そのため当面は、お客さまを増やすことに特に注力しながら経営計画を着実に前進させていきたいです。
また、Looopはエクイティの調達や上場も目指しています。達成できればまた違うステージの仕事ができるようになると思いますので、その実現のために私自身も自分の仕事により一層注力していきたいです。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 野村 泰史
藤田 総一郎
株式会社Looop
取締役CFO/戦略本部長
大学卒業後、大手監査法人に入社。公認会計士として、金融機関を中心に会計監査、会計アドバイザリー、M&Aアドバイザリー業務に従事。
大手金融機関へ出向し、ストラクチャードファイナンス業務を経験した後、PwCアドバイザリー合同会社に入社。事業再生コンサルタントとして、自動車、アパレル業界などの事業再生案件を担当。
2020年8月に株式会社Looopに入社、経理財務部長、財務戦略本部長を経て、2023年6月より現職。早稲田大学商学部卒。
齋藤 良司
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
メガバンクにて法人融資などに従事後、実行支援に特化した外資系コンサルティングファームにおいて売上・利益などの定量目標にコミットしたハンズオンの業績改善プロジェクトを数多く経験。2007年にPwCアドバイザリー株式会社に入社し、以降10年超にわたり一貫して事業再生プロジェクトに従事。上場・大手企業からオーナー企業まで、事業デューデリジェンス、事業再生計画の策定、経営管理高度化やM&Aなど含む事業再生・再編支援を数多く経験している。
野村 泰史
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
シンクタンク系コンサルティング会社にて事業戦略立案、業務改革(BPR)、ITを利用した新規事業開発など、数多くの案件に従事。2008年にPwCアドバイザリー株式会社に入社。事業再生を中心に、戦略立案から実行支援まで、幅広い領域において企業の変革を支援している。