
PwC Japanグループでキャリアを積んだ後、新たな道を切り拓いて活躍している卒業生がたくさんいます。どのようなスキルや経験が、その後の仕事に生かされているのでしょうか。約11年間にわたりPwCアドバイザリー合同会社に在籍した滝川祐介氏は、オルタナティブ資産の運用を主業とする株式会社マーキュリアホールディングスの執行役員として、コーポレート部門をリードしています。今回は卒業生という外部の視点から、PwCでの経験を振り返ってもらうとともに、現在のキャリアについて語ってもらいました。
話し手
株式会社マーキュリアホールディングス
執行役員/経営管理統括/事業企画統括
滝川 祐介氏
聞き手
PwCアドバイザリー合同会社
パートナー
川村 健
PwCアドバイザリー合同会社
パートナー
森 隼人
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
川村:
現在、どのような仕事をされているのか教えていただけますか。
滝川:
ファンド運用を行うマーキュリアインベストメント、およびその持株会社であるマーキュリアホールディングスで執行役員を務めています。経営管理および事業企画の統括というポジションで、経営企画、財務、経理、人事、総務、IRなど幅広い業務を担うコーポレート部門をリードしています。グループ全体としては100人規模で、コーポレート部門は15人ほどのチームとなります。
ファンドと言えば一般的に、投資信託などを思い浮かべられると思いますが、私たちが手がけているのはオルタナティブ資産の運用です。
川村:
オルタナティブ資産とは一般的に聞き慣れない用語かもしれません。簡単に説明いただけますか。
滝川:
オルタナティブとは「代替」を意味し、オルタナティブ資産は国内株式、国内債券、海外株式、海外債券という伝統的4資産以外の資産を指します。伝統的4資産には相場があり、売買が容易です。一方でオルタナティブ資産には相場がありません。そのため比較的中長期的に投資して、代わりにより高いリターンを追求する性質の資産となります。
当社はオルタナティブ資産の中でも、プライベート・エクイティ、インフラ、不動産などを主な投資対象としたファンドを運用しています。
川村:
PwCから現在の会社に転職するきっかけを教えてください。
滝川:
PwC時代に、当時、日本政策投資銀行(以下、DBJ)の投資部門リーダーを務めていた、現在のマーキュリア取締役と協業する機会がありました。
マーキュリアインベストメントは、2005年にDBJとヘッジファンドの合弁会社としてスタートしています。協業の機会があったのは、設立から5年ほど経過した時点です。その後、リーマンショックを乗り越え、投資先の不動産を香港証券取引所に上場させるなど一定のトラックレコードを積み上げていたマーキュリアインベストメントが、外部の投資家を招いて新しいファンドを立ち上げようとしていました。
また投資家に対して透明性を高め、投資先や日本の経済成長に長期的に向き合うため、上場を目指していました。そこでDBJのメンバーから「一緒に挑戦してみないか」とお誘いを受け、2014年に転職することにしました。
ファンドにはいろいろなタイプがあります。マーキュリアインベストメントは、コストや人員削減をメインとするよりも、企業を成長させたり、見えにくい高い技術や能力を顕在化させたりすることで、日本企業が本来有している事業価値を実現していくスタイルです。運用方針は「ファンドの力で、日本の今を変える」というミッションに集約されていますが、その志に共感したのが転職の大きな決め手となりました。
川村:
とても素晴らしいミッションですね。PwCのパーパスは「Build trust in society and solve important problems(社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する)」。長期的に広く社会に貢献していきたいという思いが込められています。マーキュリアインベストメントの価値観に通ずるところがありますね。働いていてPwCとの共通点を感じられますか。
滝川:
はい。日々の業務に取り組んでいると、どうしても視点が短期的になりがちです。判断に迷った時、悩んだ時は、より長期的なビジョンや理念が大事になります。どちらも大きなビジョンを掲げており、働きがいがあるという点でも共通しています。
森:
マーキュリアホールディングスはオルタナティブ投資を主業とするファンドの持株会社として上場していますが、転職後、組織づくりや上場準備にはどのように取り組まれたのでしょうか。
滝川:
もともと2社の合弁会社でしたので、組織としてはかなりシンプルでした。私は上場に向けて、組織設計や規程の整備、ガバナンス体制の構築、外部に対する財務報告やそのための連結財務諸表をタイムリーにつくる体制の整備、投資家に提示する事業計画の策定などを担いました。また新しい資本を招き入れる準備も行い、伊藤忠商事と三井住友信託銀行に戦略パートナーに加わっていただいています。準備を整え、2016年に東証2部に、翌2017年には東証1部に上場することができました。
株式会社マーキュリアホールディングス 執行役員/経営管理統括/事業企画統括 滝川 祐介氏
川村:
PwCアドバイザリーに入社した経緯についても改めて教えていただけますか。
滝川:
大学卒業後、第一勧業銀行に就職し、公認会計士試験を経て2003年に中央青山監査法人に入社しました。当時、同社では会計監査の仕事に就こうと考えていましたが、銀行での経験もあり、トランザクションサービス(現在のディールズ)に配属していただきました。配属されたのは森さんと私、もう1名の合計3名。面接担当は川村さんでしたね。
川村:
懐かしいですね。当時、私は人事担当パートナーでした。会計士試験に合格された方を、監査業務ではなくダイレクトにアドバイザリーで採用させていただいたのは初めてのこと。滝川さんのような優秀な方に来ていただけて本当にうれしかったです。
滝川:
今は公認会計士の業務は幅広いですが、当時はまだ監査がメインでFASや企業内会計士は珍しい時代でした。ただ、採用時の説明を伺い、とてもやりがいがあり、大きな仕事ができると感じたことを覚えています。
森:
PwCでは具体的にどのような業務に携わられたのでしょうか。
滝川:
財務デューデリジェンス(以下、DD)やバリュエーション、また事業再生関連では専門的な第三者的視点から説明資料を作成し、クライアントと一緒に銀行に報告する業務などに携わりました。
PwC時代を振り返ると、とても鍛えていただいたという記憶があります。財務DDのプロジェクトは1件おおよそ1カ月間程度のペース。年間10本ぐらいの案件を経験するなかで、常に短距離走を繰り返すような日々でした。とても刺激的な環境でしたよ。
現在はバーチャルデータルーム化やペーパーレス化が進み、資料はオンラインで確認できます。しかし私が入社した2000年代前半は、会社の資料は基本的に紙でした。クライアントから依頼を受けて、調査対象となる会社の事業所で契約書や議事録、財務諸表などを確認して、経理担当者の方に適宜インタビューし、必要な資料があればコピーする。それを2週間位こなして、事務所に戻ってクライアントに報告するための報告資料をつくるという流れのプロジェクトが多かったです。
マネージャーになった後は、クライアントに対して直接的に報告責任を負うことになります。多くのディールでは、関係者の方々にとっては一生に一度あるかないかの貴重な機会。クライアントが何を考えているか読み取ることに力を注いだ一方、立場に理解を示しつつもディール全体を考えて率直に進言することを強く意識しました。
森:
特に印象に残っている仕事やプロジェクトにはどのようなものがありますか。
滝川:
クライアントリレーションという観点ですと、クライアントから直接自分に依頼をいただけた仕事が最もうれしかったですね。1回目、2回目、3回目と仕事をしていると、互いのことが分かってきます。毎日のようにクライアントとコンタクトを取って、プロジェクトに伴走していく仕事はとても充実感がありました。プロフェッショナルとしてリスクをしっかり分析することは大前提ですが、社内の意思決定プロセスに必要な資料を揃えるなど、クライアントの立場に立って、オーダーメイド的にサービスを提供することを心掛けていました。
またスケールや話題性という観点ですと、クライアントのマネジメントの方と一緒に交渉に臨み、上場会社同士の合併が成功し、その結果が新聞に大きく掲載されたことはとても感慨深かったです。
川村:
PwC時代に金融機関の投資部門に出向されたとお伺いしています。自ら希望して行かれたのでしょうか。
滝川:
はい。それまでアドバイザーという立場でサービスを提供してきましたが、クライアントの気持ちやニーズ、「なぜ私たちにサービス依頼するのか」を理解したいと考えていました。また、それまでも投資に一時点で関わることはできていましたが、上流での流れや投資後の顛末にも興味を持っていました。出向した約2年間で担当した案件数は10件ほどです。日本国内およびベトナムなど海外への投資も経験しました。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 川村 健
森:
PwC時代に身につけたスキルや、現在も生きている経験について教えてください。
滝川:
PwCでは多くのことを学ばせていただきました。財務DDのプロジェクトでは1カ月間で会社のリスクやマネジメントの考えを把握し、キャッシュフロー、議事録、契約書などにも目を通します。そこで現場をしっかり見るスキルや、地に足のついた基礎的な能力を身に付けられたと思います。
また当時気づいたことは、プロフェッショナルとして専門性を発揮して職務を果たすことは大前提であり、クライアントに理解していただいて初めてサービスの価値が出るということです。そのため特にプレゼンテーション能力を意識して習得しました。この能力は現在もIR業務などに生きています。
私たちは5~10年と長期間にわたりファンドを運用します。ファンドを組成して事業が順調に推移しても、事業特性上、決算として成果が現れるには時間を要するため、具体的な状況がしっかり伝わらないと株価につながりません。ビジネスモデルも分かりにくく、機関投資家、個人投資家など相手方の立場に立ってそれぞれ説明を変えていく必要もあります。相手が何を考えているか、それぞれどんな前提条件があるかなどを読み取る視点もPwC時代に養われたものです。
PwCではさまざまなテーマのプロジェクトに関わりました。そのなかで公認会計士、コンサルティングファーム出身者、銀行出身者など、多様な専門性を持ったプロフェッショナルの方々と協業できたことも非常に有意義な経験でした。
川村:
PwCでキャリアを積むメリットについてはどうお考えでしょうか。
滝川:
PwCでは基礎的な能力はもちろん、マネジメント能力、利害関係者の調整能力など幅広いスキルを身に付けることができ、自分が思った以上にキャリアの選択肢を大きく広げることができます。自分に合ったキャリアプランを描けることは、PwCでキャリアを積む大きなメリットではないでしょうか。
森:
PwCに対するイメージや期待していることを教えてください。
滝川:
PwCはスタッフからパートナーまで職位に関係なく、高いプロ意識を持っていて、互いにその意識を尊重する環境や文化があることが魅力だと思います。それがきっと、高い専門性をベースにした信頼という価値につながっているのだと思います。
各領域でトランスフォーメーションが進むことと並行して、地政学リスクが顕在化することでマクロ環境の変化スピードは日ごとに加速しています。私たちも含め企業は、そんな新たな状況に対応し、事業成長を実現するという課題を共有しています。PwCにはクライアントが大きな問題や重要な社会的課題に直面した時にスピード感を持って対応できるよう、日常的にクライアントに寄り添い、組織的にも個人的にも、いつでも相談できる関係性を構築していってほしいと期待しています。
川村:
卒業生や現役メンバーにはどのような印象をお持ちですか。現在もつながりはあるのでしょうか。
滝川:
PwCには優秀な人材が多く、卒業生もいろいろな業界で活躍している印象があります。一緒に働き、同じ時代を過ごしたメンバーは当然ですが、同じ環境で育ったということもあり、PwC出身だと聞くだけで心理面や知識面で親近感を覚えます。一緒に仕事する側でも、逆に相手側であっても、共通言語で会話することができ、オンオフ問わずつながることができる方々です。近年、コーポレート部門の仕事に就いたということもあり、同じような立場にある元同僚、元上司と情報交換させてもらう機会も増えています。
森:
同期で入社した身として当時が思い浮かぶようであり、また滝川さんの現在のお話に刺激を受けました。最後にマーキュリアホールディングスにおける今後の展望、またPwCの卒業生や関係者にメッセージがあればお聞かせください。
滝川:
日本の産業構造を改革する投資会社というミッション実現を目指し、自社を継続的にしっかりと成長させていきたいです。私自身、コーポレート部門のリーダーとして企業価値を高めることに尽力し、全てのステークホルダーの幸せの総量を最大化できるよう邁進していきます。近年では東証市場区分の再編もあり、当社はプライム市場を選択しました。また2025年中期経営計画を掲げていますが、それらを通過点としながらより中長期的な成長を実現していきたいです。
20年前に入社した際、このような形で対談の機会を得ることができるとは想像もできませんでした。事業会社、アドバイザーと互いに立場は異なりますが、社会的な課題に対応していくというパーパスは共通しています。同じ目標に向かってつながり、一緒に世の中をより良くしていきましょう。
川村:
心強いメッセージに鼓舞される思いです。本日はありがとうございました。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 森 隼人
滝川 祐介
マーキュリアホールディングス:執行役員/経営管理統括/事業企画統括
マーキュリアインベストメント:執行役員/経営管理部長/事業企画部長
第一勧業銀行を経て、PwCアドバイザリー合同会社に入社。PwCでは、10年以上にわたりプライベート・エクイティ・ファンドや、事業会社がM&Aを行う際の財務デューデリジェンス/バリュエーション/事業再生などの財務アドバイザリーサービスを提供。PwC在職中に金融機関へ2年間出向し、国内外の中堅中小企業に対する投資業務を経験。2014年よりマーキュリアホールディングスに参画し、組織体制の構築、事業計画の策定、連結決算体制の構築、資本政策の立案などのコーポレート業務に従事。公認会計士。
川村 健
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
国内外の卸売、小売、情報産業などの各業界における会計監査業務を経て、大手証券会社にて全国の未上場企業に対する上場準備、事業承継および事業再編支援業務に従事。現在、総合商社を含む事業会社やプライベート・エクイティがM&Aを実行する際のストラクチャリング、財務デューデリジェンス、価値分析、交渉支援、その他ディール遂行上のエグゼキューションアドバイザリー業務を専門的に提供している。公認会計士。
森 隼人
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
主にバリュエーション業務および財務モデリング業務に従事。バリュエーション業務においては、事業価値評価、株式価値評価、株式交換・合併比率などの統合比率の算定のほか、フェアネスオピニオン、さらには各国会計基準に基づくパーチェス・プライス・アロケーション、減損会計のための評価などのサービスを約20年にわたり提供している。また、M&A目的に加えて、事業ならびに投資の経済性分析などを目的とした財務モデリング業務についても専門的な支援を提供している。直近では、ESG関連アドバイザリー業務の提供も実施し、特にESGデューデリジェンス業務の推進に従事している。公認会計士。