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2021-06-08
PwC Japanグループは2021年4月9日、定期的に開催している社内イベント「New Ventures Cafe」の拡大版として、東日本大震災から10年の節目を迎えた東北の復興をテーマに「New Ventures Cafe~未来を創る東北発のソーシャルイノベーション」と題し、2部構成のトークセッションをオンラインで実施しました。イベントには350名以上の登録があり、多くの社員が視聴しました。そのイベントの様子を前編後編に分けてお届けします。
PwCグローバルネットワークは、東日本大震災の発生した2011年に「日本復興タスクフォース」を立ち上げました。2013年にはPwCコンサルティング内に「東北イノベーション推進室」を設置し、PwC Japanグループ全体で東北の復興支援に取り組んでいます。イベントでは、復興支援にあたり官民のキーパーソンをゲストとしてお迎えして、東北の復興を振り返り、将来を展望しました。
第1部では「10年で変化した現地のニーズと企業支援のあり方」をテーマにセッションを行いました。復興への歩みを確かなものにし、地域の持続可能性を高めていくためには、地域の産業の担い手である事業者が活力を取り戻すことが欠かせません。しかし、「被災」から「復旧」、さらに「復興」へとステージが移行するにつれ、新たな課題が生じ、顕在化します。岩手県沿岸広域振興局局長の森達也氏と、仙台市の職員として復興に取り組んだ東北福祉大学准教授の品田誠司氏をゲストに迎え、産業活性化の課題と、「もっとよくする」ための手がかりとなる事柄の共有を図りました。
最初に、岩手県沿岸広域振興局局長の森達也氏に話を伺いました。岩手県沿岸部は、リアス式海岸という地形の特性上、浜辺の少ない限られた平地に事業所が集積したため、震災の津波によって住宅や工場などの建築物、ライフライン施設、社会基盤施設の被害率が47%に達しました。その壊滅的ともいえる被害から立ち直り、インフラ整備や事業所の再建などを進めてきましたが、いざ事業を再開しようと思っても、事業者が製品やサービスのマーケットに再参入を果たすのは容易ではなかったそうです。「復旧までに時間がかかったため、再建した事業所の製品やサービスが再び流通に入り込む余地がほぼ残されていなかったのです。地元の事業者が集まって活路を見いだしていく取り組みが続きました。この段階でPwCさんに将来の事業を見据えた資金繰りの検討などについてご支援いただきました。大変感謝しています。この模索は今も続いています」(森氏)
岩手県沿岸部の産業が再建・再開のフェーズを抜け、事業の継続・発展への手ごたえを得ていくためには、今後、何が求められるのでしょうか。森氏は、事業者のマインドセットを変えていく取り組みが欠かせないと考えています。「目の前の顧客に求められたものを、まじめに作るという意識の経営者が多いのがこの地域の特徴です。それ自体、悪いことではありませんが、社会経済の動きや市場の動きをとらえたうえで、自分たちの強みを生かして積極的な経営をしようという視点がもっと必要だと感じます。例えば、事業を再開したが、今一つ調子が上がらず、その原因が分からないという事業者がいます。PwCさんには今後も、そのような事業者に対して、気づきを与えていただきたいと思います」(森氏)
岩手県沿岸部では、全国の地方都市に共通する人口減少という構造的な課題が震災によってより顕在化しており、その人口は震災前に比べて16%も減少しています。その減少幅は内陸部の2倍だといいます。
「地元の産業を振興し、永遠に続くふるさとを残すためには、行政が担っているインフラの整備だけではなく、多くの事業者がビジョンを持った経営を行うことが重要です。それに地域の方々が共感して地元に残るという循環を作っていきたいと思います」(森氏)
このプレゼンテーションを受けて、被災地支援のリーダーであるPwCコンサルティングの野口功一は「市場の動きと企業の強み・弱みを見極めたうえで、事業の方向性を見いだすことは、プロフェッショナルサービスの領域です。今後も、私たちが貢献できる分野は多く、腕の見せどころだと考えています」とコメントしました。
次にお話を伺ったのは、2021年3月まで仙台市経済局の職員として食料調達や支援物資のロジスティックスなどを担当していた、東北福祉大学准教授の品田誠司氏です。
品田氏は、「森さんがご指摘の三陸の課題は、ほぼそのまま、宮城県や仙台市にも当てはまります」としたうえで、「宮城県や仙台市では、震災をきっかけに前向きな変化が起きています」と明かします。
最も顕著な変化は、アントレプレナーの出現であり、スタートアップ企業が宮城県や仙台市では多く立ち上がっているといいます。「阪神・淡路大震災がNPO元年だったとすれば、東日本大震災はスタートアップ元年だったといえるかもしれません。スタートアップ以外でも、震災後に新事業に取り組んだり、新製品を開発したりするなど、積極的にビジネスを拡大している元気な企業が宮城県には多くあります」(品田氏)
事業の再開や復興に道半ばの産業や企業に目を転じると、補助金投入の副作用とでもいうべき問題が存在しているようです。「例えば、復興のための補助金を事業者が得たものの、設備や技術がオーバースペックになって生産が設備に追いついていなかったり、新技術を使いこなせていなかったりするケースがあります。人手不足や後継者の問題から震災前に潮時だと考えていた企業もありましたが、そのような事業者にも補助金が交付され、企業の寿命が延びました。ただ、震災前から直面していた課題は解決されていないままです」と品田氏は指摘します。
品田氏は東日本大震災から今日までを「問題があり続けた10年でした」と振り返ります。だからこそ、課題解決の事例や知見が蓄積されているとも説き、PwCへの期待をこのように語ります。「避難所のマネジメントや物資の分配システムなど、被災地で生まれた成功事例をストックし、一般化することで、他の自治体や地域に展開できる製品やサービス、ノウハウとなるはずです。これこそ、PwCさんの知見が生きる分野なのではないでしょうか」(品田氏)
ディスカッションには、東北に足を運び、東日本大震災からの復興に関わってきたPwC のメンバーたちも参加しました。PwC Japanグループは2014年9月、それまで続けていた復興支援活動に組織としてより深くコミットするため、岩手県沿岸広域振興局とアライアンスを締結し、被災企業への経営指導支援を強化しました。
その一環として2015年に岩手県沿岸部各所で「なんでも会計相談」を実施したPwCあらた有限責任監査法人の梅木典子は、「心がけたのは、『押しつけ』にならないこと」と振り返ります。どのような困りごとがあるのか、何を相談したいのか、まずは、事業者の話を丁寧に聞くことを心がけたといい、「それを受けて、私たちが具体的にやったのは、本当に小さな、シンプルなことです」と梅木は話します。
例えば、日々の売り上げや費用を管理して月次決算ができるExcelシートを作り、事業者が自分で入力できるようにしたといい、これにより、先月もうかった、あるいは費用がかかりすぎたということがすぐに分かるようになったそうです。梅木は公認会計士であり、より高度で複雑なシステムの提示にも対応できるスキルを備えていますが、現地の事業者が本当に困っていたのは、日々の商売を回すための仕組みづくりでした。その解決策を提示することこそが、梅木のいう「押しつけにならない」支援です。「シンプルなものばかりでしたが、事業者の皆さんはものすごく喜んでくださいました」(梅木)
この活動を通じて梅木が感じたのは、「岩手県沿岸広域振興局や事業者の皆さんの温かさ」だったそうです。「専門性を現地の支援に生かすことができ、それを心から感謝されて感激しました。一緒に現地に入ったメンバーともども、岩手の大ファンになりました」と梅木は話します。「こういう活動は、続けることに意味があると思っています。被災地の方々から『もう支援はいりません』といわれるまで継続するつもりです」(梅木)
梅木らの会計チームに続いて2016年から現地に入り、本格的な活動に乗り出したのが、税務チームです。PwC税理士法人の高野公人はそれ以来、現地事業者への税務支援活動を続けています。「県が主催する事業者向けの説明会で税務セミナーを実施したり、個別の税務相談を受けたりしています。毎年の税務申告はもちろん、事業承継に伴う相談などにも対応しています。最も多いのは消費税関連の相談です」(高野)
消費税については、2019年10月に軽減税率が導入され、個別の税務相談のほか、価格表示やレジの対応などの実務をアドバイスする機会も多かったといいます。税務申告の際には、課税事業者の選択や簡易課税の選択といった判断をする必要があります。こうした事項について、一つひとつ、丁寧にサポートをしていきました。
地元事業者とのやりとりを振り返り、高野は「税務専門家としての知識がこのような形で役に立つことを実感しました」と語りました。さらに、相談を受け続ける中で、意外な気づきを得ることもあったようです。
「現地にも地元の税理士がいますので、あるとき、事業者に、『地場の税理士の方が質問をしやすいのではないですか』と尋ねたことがあります。すると、返ってきた言葉は、『地元の税理士さんは関係が近すぎて、財布の中身も見えてしまうような気がして』というものでした」(高野)
地域のコミュニティで生活をする人々には、会計情報以外にも、同じ街で暮らす人には知られたくない事柄があります。その地域にとって第三者的な立場の方が話しやすい事柄、相談しやすいことがあり、そこにも、自分たちが支援に取り組む意義があると感じたそうです。
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