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近年、通信事業者は、「新たな情報ハイウェイ」を積極的に整備してきました。それはモバイル向けの5G、家庭・事業向けの光ファイバー回線といったインフラです。日々、数十億ものユーザーが高精細な動画を視聴し、リアルタイムでデータをやり取りし、自動車や工場をネットワークに接続し、AIサービスを利用しています。しかし、こうした利用が急増しているにもかかわらず、収益はそれに見合うほど伸びない傾向が長期的に続いています。
PwCの「グローバル・テレコム・アウトルック 2025–2029」によると、世界の通信サービスの売上高は、2024年の約1兆1,500億米ドルから2029年には約1兆3,200億米ドルへ増加する見込みです。これは年平均成長率(CAGR)で約2.8%となり、堅調ではあるものの、際立って高いとは言えない水準にとどまっています。
世界の通信サービス サービス別収益(10億米ドル)
注: 小数点以下を四捨五入しているため、各項目の数値を加算したものが合計値と一致しない場合がある
出所:PwC「グローバル・テレコム・アウトルック 2025–2029」、Omdia
売上見通しが厳しい背景には、消費者の支払い意欲が横ばいから低下傾向にあることが挙げられます。モバイルのARPUの世界平均は、2024年の6.32米ドルから2029年には6.20米ドルへと減少すると予測されています。収益成長の鈍化とARPUの低下が同時に進行しているのは構造的な変化であり、従来の利益モデルの見直しが迫られています。
デジタル領域で驚異的なスピードで成長を遂げている分野が、AIとデータセンターです。ハイパースケーラーや投資家は大規模なコンピュートクラスターの構築を競っており、そのためには大容量・低遅延かつ信頼性の高い相互接続が不可欠です。バックホール(大容量中継回線)やデータセンター間接続への投資が遅れた場合、AI関連の通信は、通信事業者が構築したネットワークを迂回する形で処理されることになります。その結果、AI経済の拡大によって生じる収益機会は、通信事業者が関与しない領域で完結してしまう恐れがあります。通信事業者は、低下しつつある既存事業の利益率を守るか、AIインフラを自社の中核とし、事業上の位置付けを再構築するかの選択を迫られています。
通信事業者は、接続とコンピューティングのバリューチェーンにおける自社のポジションを維持しつつ、より高い価値の創出を目指しています。分断の進むグローバル環境で成功するには、業界構造を根本から変えつつある、次の5つの力を踏まえる必要があります。
ネットワーク高度化の主流は光ファイバーであり、固定無線アクセス(FWA)は4G/5Gの余剰容量を活用してブロードバンド接続を提供する橋渡し的な役割と位置付けられます。5G FWAの狙いは単なる速度向上を超えた収益化にあり、個人向けにはマネージドWi-Fi、セキュリティやスマートホーム、法人向けにはSD-WANやセキュアアクセスサービスエッジ(SASE)、エッジセキュリティといったソリューション活用が想定されます。
DSLやケーブルが衰退する一方、5Gと光ファイバーが急速に台頭しています。シンガポール、中国、フランス、日本、アラブ首長国連邦、スイスなどでは、5〜10Gbps環境への移行が着実に進んでいます。
5G SA(スタンドアロン)の展開は慎重に進められ、ネットワークスライシングやキャンパスネットワークなどの投資回収が見込める用途に的が絞られています。設備投資と規制環境の整合の両面が影響し、各国・地域における通信事業者の投資戦略が見て取れます。一部の市場では、大規模な5G基地局の整備や5G-Advancedの試験運用、広範囲での5G SA展開が進んでいます。
売上高に対する設備投資額の割合が低下している一方、既存の借入の金利(資本コスト)が増加しているため、財務健全性の確保が求められます。そのため、特に設備保有の観点から対策が必要になります。具体的には、タワーカンパニー(鉄塔事業会社)の活用、中立型光ファイバー、インフラシェアリング、卸売モデルの導入、資産分離といった方法です。
IoTの価値成長の大部分は、アプリケーション・イネーブルメント・プラットフォーム(AEP)に帰属しています。PwCのデータでは、AEP市場は2024〜2029年にCAGR約31%で成長し、2029年には約2,500億米ドルに達する見込みです。通信事業者の取り組みは、利益率の低いコネクティビティから、AEP主軸のソリューションやスマートシティ・自動車などの分野へとシフトしています。
今後5年間で、設備投資サイクルが2通りに乖離していく見込みです。情報通信業界の設備投資は5Gと光ファイバー網の整備を経て縮小傾向にあります。一方、AIインフラへの投資は複数年にわたるスーパーサイクルへと加速し、データセンターや電力消費量の多いAIクラスターなどに資本が流入しています。
一見すると、この乖離はコンピューティングとコネクティビティの分離を露呈しかねません。しかし、地政学的な分断やデジタル主権強化の潮流を重ねると、既存の通信事業者にとって1世代に1度ともいえる好機が浮かび上がります。これまで制約と見なされてきた地域ごとの事業免許や規制要因が、今や強力な資産へと転換しつつあります。通信事業者は、グローバルプラットフォームが容易に複製できない国内の「メガスケーラー」としての役割を切り開くことが可能です。
通信事業者が注力できる領域として、①AI時代に対応した法人・卸向けコネクティビティ、②国内アクセス基盤としてのコンシューマー・中小企業向け統合ブロードバンド、③ソブリンクラウドや信頼性の高いエッジ環境、④地上系と非地上系を組み合わせたレジリエンスレイヤーの4つが挙げられます。
特に重要なのは、法人向け事業の売上が見込める「AI隣接型」分野への資本配分のシフトと、関税に対応できるソブリンサプライチェーンの構築です。また、通信事業者は意思決定の遅延や過度なリスク回避を是正し、スピードを優位性に転換すべきです。注力領域を絞り込みつつ顧客への近接性を高める「ピュアトーン」型アプローチも有効な選択肢となります。
価値の所在が変化する中、多くの通信事業者は、よりシンプルで集中した「ピュアトーン型」の事業体へと自らを変革しつつあります。これは事業を性質ごとに切り分け、損益(P&L)の透明性と事業の経済性を開示し、専門性を高めるアプローチです。通信事業者のピュアトーン型ビジネスモデルの基本形として、以下の4つのケースが検討できます。
ターゲット型インフラ会社(InfraCo/NetCo):近接性と卸売需要が確かな分野に資本を集中させます。DC間・DC内の接続基盤を所有することで、長期契約に裏付けられた成長性の高い卸売事業を取り込みます。
法人/公共部門向けソリューション会社(SolutionCo):アクセスよりも成果を重視し、マネージドコネクティビティ、SD-WAN/セキュアアクセス(SASE)、ゼロトラストセキュリティなどをSLA(サービスレベル合意)に基づいてパッケージ提供します。プライベート5Gやエッジコンピューティングへも領域を広げ、低遅延が求められる用途に対応します。
個人顧客向け直接サービス会社(ServeCo):ARPU維持と顧客生涯価値(LTV)の向上を重視し、光ファイバーとモバイルの融合、プレミアムWi-Fi、セキュリティ、エンターテイメントなどのデジタルサービスを付加して差別化します。
プラットフォーム会社(PlatformCo/BrokerCo):顧客が既に利用するサービスを集約し、調達・ガバナンスを簡素化する中立的なマーケットプレイスとして機能します。
ピュアトーン型への転換において、M&Aなどの取引は重要な手段となります。固定ネットワーク分離、ポートフォリオ合理化、鉄塔事業の収益化などが具体例として挙げられます。再構築された事業の運営を成功させるには、責任あるリーダーシップと明確なミッションに基づく自律性、サプライチェーンとデータ/AI主権を考慮したレジリエンスとソブリン対応、AIネイティブなオペレーション(「TelcOS」)の3点が重要になります。
緩やかな売上成長とサービスのコモディティ化が影響し、通信事業者の差別化・キャッシュ創出力・コスト構造への圧力は強まっています。PwCの第28回世界CEO意識調査では、通信業界のCEOの55%が「現在のビジネスのやり方を変えなかった場合、10年を超えて自社が経済的に存続できない」と回答しており、世界平均(42%)を大きく上回っています。
これらの課題に対する解決策が、AIネイティブな通信事業基盤の構築です。先進的な経営陣は、すでにAIエージェントを活用してコスト削減、効率化、顧客・従業員体験の改善、レガシー刷新を同時に進めています。こうした要素が統合されて形成されるのが、AIネイティブな通信事業モデル「TelcOS」です。TelcOSにおいてAIは、新たな需要を創出するドライバーであると同時に、その需要を管理し充足する手段にもなり、その効果はネットワークの計画・運用から営業、セキュリティに至るまで、バリューチェーン全体に及びます。
TelcOSの運用は、適切なデータとプラットフォーム基盤に大きく依存します。基盤構築には①統合・標準化されたデータ環境への刷新、②マイクロサービスへの移行、③特定ベンダーに依存しないエージェント型ワークフローの構築という3つのステップが重要です。
もはやTelcOSは「あれば望ましいもの」ではなく、利益率を確保し、AIによるトラフィック増加を吸収し、差別化した顧客体験を創出するための手段そのものです。問われているのは「AIネイティブになれるか」ではなく、「いかに迅速にパイロット段階から新たな事業基盤へ進化させられるか」であり、その歩みを始めるべき時は今なのです。
※53の国と地域における固定通信、モバイル、設備投資、IoTセグメントのより詳細なデータと解説を参照するには、「グローバル・テレコム・アウトルック 2025–2029」をご購読ください。
※本コンテンツは、『Perspectives from the Global Telecom Outlook, 2025–2029』を元に抄訳したものです。英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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