AIへの期待を、エンドツーエンドの抜本的な業務変革へつなげる

オペレーションのデジタルトレンド調査 2026

メインビジュアル
  • 2026-08-06
89%

オペレーション担当リーダーのうち、テクノロジー投資が期待どおりの成果につながっていないと回答した割合

87%

データ品質の低さが、デジタル施策による価値創出を妨げていると回答した割合

94%

より水平的でネットワーク化された運営体制へ移行する可能性が高いと回答した割合

テクノロジー投資、AI導入の成果、そして企業経営における測定可能なイノベーションを巡っては、期待と実行の間に大きなギャップがあります。米国企業のオペレーションおよびサプライチェーン担当リーダー767名を対象としたPwCの「オペレーションのデジタルトレンド調査2026」では、85%が自社のデジタルトランスフォーメーションは多くの競合他社を上回っていると回答しました。一方で、89%はテクノロジー投資が期待どおりの成果につながっていないと回答しています。

加えて、オペレーション改革の前進を阻む重要な課題も明らかになっています。

  • 回答者の5分の4以上(83%)が、AIエージェントと自動化が従来の機能別サイロの解体を加速させると回答しています。しかし、AI戦略を全事業部門にわたって完全に組み込んでいる企業は27%にすぎず、オペレーションにおけるエンドツーエンドの全プロセス実行をAIエージェントに任せることに抵抗がないとする企業も37%にとどまっています。
  • データ基盤は強化されつつあるものの、データの品質と信頼性が大幅に改善したと報告する企業はわずか30%で、87%はデータ品質の低さがデジタル施策での価値創出に向けた進捗を妨げてきたと回答しています。
  • ほぼ全ての企業がオペレーションの再編を目指していますが、サイロ化または部分的に統合された運営体制を持つ企業の94%がより水平的でネットワーク化されたモデルへの移行を期待している一方で、現時点でそのような体制で運営している企業は41%にとどまっています。

これらの課題は現実的で広い範囲にわたり存在しているものの、一部の企業はその克服方法を見出しつつあるようです。調査データをさらに詳しく分析すると、AIの全面的な組み込み、データ基盤の刷新、そして運営モデルの再構築を同時並行で成し遂げたと回答する一握りの先進企業が存在します。こうした企業は競合他社を大きく上回る成果を上げています。

上記の課題は、成果が伴っていない組織に対する行動指針を改めて示しています。競争優位性は、孤立したパイロット施策や段階的なアップグレードからではなく、断片的な進捗から脱却し、大胆かつ統合的な改革へ移行することによってもたらされるのです。

全社的なAI戦略は前進しているが、まだ完全にはスケールしていない​

全社的なAI戦略は前進しているが、 まだ完全にはスケールしていない​

統合的なデジタル能力を構築し、より大きな価値を生み出す

多くの企業において、AIへの取り組みは依然として近視眼的なものにとどまっています。オペレーションのデジタル化は本来、事業戦略と一体的に進められるべきものですが、調査回答者の多くは、全社横断的に取り組むのではなく、課題を個別に対処するアプローチをとっています。

当然ながら、72%がオペレーションの自動化をAI投資の重点項目トップ3に挙げています。一方で、その他の重要な施策はそれほど優先されていません。デジタル投資のROIを評価する際の成果として、ソリューションの拡張性とエンドツーエンドの能力をトップ3に挙げた企業は30%にとどまります。また、デジタルオペレーションやサプライチェーン技術への投資における内製か購入か(build vs. buy)の判断に影響を与える要因として、企業の複雑性の低減をトップ3に挙げた企業はわずか24%です。

これらの数字は、PwCの年次調査で繰り返し明らかになってきた、懸念すべき結果を裏付けています。昨年同様、回答者の89%が、テクノロジー投資が期待された成果を十分にもたらさなかった理由を少なくとも1つ挙げており、さらに大多数が2つまたは3つの理由を挙げています。最も多く挙げられたのは統合の複雑さであり、次いでデータの問題、そしてユーザーの定着に関する課題が続きます。これは、PwCが多くのクライアントで目にしている状況を裏付けるものです。すなわち、システム、プラットフォーム、データを連携させることが、依然としてオペレーションにおけるデジタル価値の実現を阻む大きな障壁となっているのです。

さまざまな問題が、企業がオペレーションテクノロジー投資から期待成果を得ることを妨げている​

業界:全ての業界

全ての 業界​

業界:産業機械・製造業

全ての 業界​

業界:消費財

Consumer markets

業界:テクノロジー・通信

Tech, media and telecom

業界:エネルギー

Energy, utilities and resources

業界:製薬・ライフサイエンス

Pharma and life sciences

業界:金融サービス

Financial services

業界:保険

I nsurance

業界:ヘルスケア

Health industries

しかしながら、適切に進めれば、AIは競争条件を均等化する存在になり得ますし、またそうあるべきです。圧倒的多数の回答者が、新興のAIおよびクラウド技術によって、デジタル成熟度がどのレベルにある組織であっても、業界リーダーを一足飛びに追い越すことが可能になる(91%)こと、そして手頃な価格のクラウドおよびAI対応データツールが、中小企業がデジタル先進企業と肩を並べることを後押しする(93%)ことに、同意または強く同意しています。これは、より大規模で歴史のある企業に警鐘を鳴らすものです。規模やインフラといった従来の優位性は、もはや、より新たに登場した俊敏なデジタル対応企業から自社を守ってくれるとは限らないのです。イノベーションへの本気の取り組みを伴わずに、ただ技術に資金を投じるだけでは通用しません。

行動を起こす:技術や能力を個別に捉える発想から脱し、統合を軸に考え、個別最適のソリューションよりも拡張可能な機能を優先しましょう。統合のシンプルさを「あれば望ましいもの」とするのではなく、取締役会レベルのKPIに据えるべきです。AIを業務プロセス全体にわたって連携させることができなければ、それはイノベーションや変革ではなく、単に複雑性を積み重ねているにすぎません。

完璧なデータがなくてもオペレーション上の価値を構築する

オペレーションおよびサプライチェーンにおいてデータを活用するための基盤は改善しつつあるものの、多くの企業は依然として発展途上にあります。全回答者のうち、デジタル施策を拡大する前にクリーンで構造化されたデータ基盤を整備していると回答したのは約半数(51%)にすぎず、一方で60%が、データ品質の低さがそうした施策の価値創出に何らかの影響を及ぼしたと述べています。

こうした問題が生じている一方で、大多数は過去2~3年でデータの品質と信頼性が改善したと回答しています。しかし、その改善はわずかなものにとどまるとする回答が58%を占め、大幅に改善したと回答したのは30%にすぎません。もっとも、後者の数字は一部の回答者ではより高くなっており、自律型エージェントの導入や拡大にあたって重大な障壁がないと報告した企業の半数以上、ならびにAIが全事業部門にわたって完全に組み込まれていると回答した企業で高くなっています。

エージェント導入とAI統合のリーダー企業は、データの品質と信頼性の改善をより多く実感している​

エージェント導入とAI統合のリーダー企業は、 データの品質と信頼性の改善をより多く実感している​

本調査はまた、完璧なデータが必要かどうかという点についても問いを投げかけています。大多数の回答者が、包括的なデータよりも実用に足るデータ(actionable data)の方が重要であること(89%)、そしてデータが完璧でない場合でも意思決定を行うことに抵抗を感じなくなったこと(84%)に同意しています。さらに、73%が、価値を生み出すうえでデータは完璧である必要はないと同意しています。

これらの数字は、よくあるパラドックスを浮き彫りにしています。多くのリーダーが、デジタル施策を開始するうえでデータは完璧である必要はないと述べる一方で、その多くが、データ品質の低さが成果を損なう可能性があることも認めているのです。一部の企業は、変革と並行して反復的かつ的を絞った形でデータ品質を改善することで、この難しいバランスを取りながら成功を収めています。

行動を起こす:データ品質の低さはしばしば言い訳に使われますが、AIはそのギャップを埋める助けとなり得ます。特に、人間のように推論し、利用可能なデータを用いてより迅速な意思決定を行える自律型エージェントを通じて、それが可能になります。試行を促しながら変革を可能にするアプローチを定め、AIを規律あるガバナンスおよび反復的なデータクレンジングと組み合わせることが重要です。競争優位性は、完璧さを待つことからではなく、今手元にあるデータを活用し、それを継続的に改善していくことから生まれるのです。

チェーンが異なれば、デジタル戦略も異なる

本調査はまた、以前から見られる傾向も明らかにしています。つまり、デジタル施策とその効果は業界によって異なり、ときには大きな差があるということです。これは、オペレーションの根本的な違いを考えれば理にかなっています。製品集約型および資産集約型のビジネスは、通常、原材料や製品を動かすサプライチェーンを通じて競争します。一方、サービス集約型のビジネスは、フロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスにわたって人材、プロセス、そしてデジタルによる提供を統括するサービスチェーンを通じて競争します。

それぞれが、リスクパターン、変革の阻害要因、そして業績向上のための梃(レバー)に対する微妙な違いに対応した、異なる戦略を必要とします。例えば、サービスチェーンの回答者は、自律型エージェントの導入や拡大を遅らせる重大な要因はないと報告する傾向が高い一方で、サプライチェーンの回答者では、必要なスキルや人材が不足していると回答する割合がより高くなっています。さらに、サービスチェーンの回答者は、自社がデジタル能力をエンドツーエンドで統合していると回答する傾向が高くなっています。

エンドツーエンドのデジタル統合において、サービスチェーン企業がサプライチェーン企業をリードしている​

エンドツーエンドのデジタル統合において、 サービスチェーン企業がサプライチェーン企業をリードしている​

こうした違いは、業界特有の知見をデジタルトランスフォーメーションの取り組みと組み合わせることがいかに重要であるかを示しています。製造業では、オペレーションの自動化は物理的なプロセスを指す場合がありますが、サービス業では、保険金請求処理やリスク評価といったデジタルワークフローを指す場合があります。

AI時代のオペレーティングモデルの再考

「サイロ」は、多くの企業のオペレーションにおいて忌み嫌われる言葉となっており、その解体は数多くのデジタル施策を推進する原動力となっています。調査回答者の5分の4以上(83%)が、AIと自動化が従来の機能別サイロの解体を加速させると回答しています。しかし、本調査では同時に、水平的でネットワーク化された組織モデルを実現するうえでの複数の障壁も明らかになりました。

水平的な組織構造の構築には複数の障壁が存在する​

業界:全ての業界

全ての 業界​

業界:産業機械・製造業

全ての 業界​

業界:消費財

Consumer markets

業界:テクノロジー・通信

Tech, media and telecom

業界:エネルギー

Energy, utilities and resources

業界:製薬・ライフサイエンス

Pharma and life sciences

業界:金融サービス

Financial services

業界:保険

I nsurance

業界:ヘルスケア

Health industries

こうした障壁が、現時点で協働的な水平型構造で運営していると回答した企業がわずか41%にとどまる理由なのかもしれません。組織構造は、デジタル投資の成否に大きな影響をもたらします。水平的なモデルを採用している企業では、スピード、正確性、可視性、そして協働の面での業績が著しく向上しています。

水平型オペレーティングモデルを持つ企業は、デジタル統合で先行し、データにAIを活用している​

水平型オペレーティングモデルを持つ企業は、 デジタル統合で先行し、データにAIを活用している​

行動を起こす:AIは、組織が意図的に設計するかどうかにかかわらず、新たなオペレーティング構造を生み出す原動力となります。AIの展開と並行して自社のオペレーティングモデルを見直し、再構築するとともに、サイロ単位の業績ではなく、部門横断的な成果が評価されるように仕組みを整える必要があります。人間と機械の協働は自然発生的に生まれるものではないため、テクノロジーを活用したより付加価値の高い役割に向けたスキル向上(リスキリング)は、もはや選択肢ではなく必須事項となっています。

オペレーションパフォーマンスの再定義をリードする先進企業群

PwCが調査した767名のオペレーションおよびサプライチェーンの責任者のうち、ごく一握りの集団がパフォーマンスの常識を塗り替えつつあるようです。次の4つの重要分野全てで成功を収めていると回答したのは、わずか4%にとどまります。(1)AIが全社規模で完全に組み込まれていること、(2)自律型エージェントのスケーリングに大きな障壁がないこと、(3)協働的かつ水平的な運営体制が築かれていること、(4)テクノロジー投資が期待どおりの成果を完全に上げていること、の4点です。

彼らの秘訣は何でしょうか。先進企業には、他社をリードするさまざまな共通点があります。

  • セグメントを横断してテクノロジーを連携させている:リーダー企業の87%が、デジタル機能をエンドツーエンドで統合済だと回答しています。これにより、テクノロジーが機能別サイロにとどまるのではなく、社内チーム・サプライヤー・顧客にまたがる業務フロー全体で機能するようになっています。
  • テクノロジー施策から全社的なインパクトを得ている:73%が、デジタル投資から組織全体に及ぶ広範囲でのインパクトを実現しています。
  • イノベーションに本腰を入れている:74%が、研究開発(R&D)にAIネイティブまたはエージェント型のプラットフォームを導入しています。
  • 測定指標を軽視しない:83%が、最近のデジタル投資について、オペレーション面と財務面の両方のインパクトを測定しています。
  • データの健全性を高めている:63%が、過去2〜3年でデータ全体の品質と信頼性が大幅に向上したと回答しています。

AI・オペレーティングモデル・テクノロジー投資のリーダー企業が、他社をいかに引き離しているか​

AI・オペレーティングモデル・テクノロジー投資のリーダー企業が、 他社をいかに引き離しているか​

多くの組織がいまだAI成熟度の初期段階にとどまっているのとは異なり、これらの企業は周辺領域での試行でとどまってはいません。中核業務にAIを組み込んでいるのです。AI、データ、そしてオペレーティングモデルの変革を全社的な方針として一体的に推進することで、彼らはデジタル化に向けた構想を、測定可能かつスケーラブルな競争優位へと転換しています。一方、その他の企業は断片的な進展に甘んじているのが実情です。

業界別の調査インサイト

消費財では、トレンド発生から店頭完売までの距離が縮まりつつあり、本調査からも、同業界のリーダーたちがそのことを認識している様子がうかがえます。消費財企業の回答者の4分の3(75%)が、オペレーションの自動化をAI投資の優先課題トップ3に挙げており、74%が意思決定の高度化を挙げています。

これらは抽象的な目標ではありません。消費財企業の65%が、需要計画・予測と、調達・購買の両分野で、すでにAIエージェントを導入しています。同業界が狙いを定めているのは、「適切な製品を、適切な場所に、適切なタイミングで」届けられるかどうかを左右する機能なのです。これはすなわち、変動するシグナルのなかでも需要計画の精度と信頼性を高めると同時に、支出の可視性向上と効率的な資材管理を通じて調達・購買を強化することを意味します。

その適用範囲は急速に拡大しています。消費財企業の回答者の35%がデジタル機能をエンドツーエンドで統合済だと回答し、64%が自動化によって意思決定におけるリアルタイムデータへの依存度が高まったと答えています。さらに62%が、自動化により人間と機械が協働する新たなハイブリッド型業務フローが生まれたと報告しています。これらの変化が組み合わさることで、より迅速かつ精緻なコスト・サービス上の意思決定、例外ベースでの人間の判断介入を通じたチャネルの複雑性のより良い管理、そしてスケーラビリティの向上が可能になります。最終的には、機会を逃す前に需要に応え、製品を届けられるようになるのです。

しかし、アジリティ(俊敏性)の実現は容易ではありません。59%が、テクノロジー投資が期待どおりの成果を完全には上げていない最大の理由としてシステム統合の複雑さを挙げ、47%がユーザー定着を挙げています。自動化が進むにつれて人間の役割を定義することが難しくなり、変化する消費者行動やエージェント型コマースへの適応を迫る圧力が高まっています。成功には、より計画的な構築(強固なデータ基盤の整備、再設計された業務フロー、人とシステムの連携強化)が求められます。そして、市場が外部に求める俊敏性に見合う柔軟性を、組織内部にも備える必要があります。

59%

の消費財のリーダーが、テクノロジー投資が期待どおりの成果を完全には上げていない最大の理由としてシステム統合の複雑さを挙げており、調査対象である全業界のなかで最も高い割合でした。

デジタルトランスフォーメーションが世界のオペレーションの在り方を変え続けるなか、エネルギー企業は自社のデジタル能力に対する自信を深めつつある一方で、依然として重要分野にはなお課題が残ると認識しています。エネルギー業界の回答者のほぼ全員(97%)が全社的なAI戦略を実行中だと回答しているものの、AIが事業部門全体に完全に組み込まれていると答えたのは30%にとどまります。現時点では、AI活用ツールは、需要計画・予測(66%)や調達・購買(64%)をはじめとするサプライチェーンの中核業務への適用が広がっています。

エネルギー業界のリーダーは、デジタル投資のインパクト測定も重視しています。エネルギー業界の回答者のほぼ全員(98%)が、自社がこれらの投資の事業インパクトを正式に測定していると回答しています。しかしながら、価値実現に向けた大きな障壁は依然として残っています。デジタル施策が期待を下回る理由として最も挙げられたのは、システム統合の複雑さ(52%)とデータに関する課題(51%)であり、37%がデータ品質の低さによって期待した価値を実現できなかったと答えています。

外部からの圧力もまた、オペレーション上の優先課題を形づくっています。規制や政策の不安定性は、レジリエンスと事業継続性(56%)に最も多く影響を及ぼす他、貿易コンプライアンス(47%)にも影響し、これらが上位3分野に入っています。一方で、自動化はエネルギー業界のオペレーション人材のあり方を変えつつあり、意思決定におけるリアルタイムデータへの依存度を高め(69%)、従業員をより付加価値の高い分析業務へとシフトさせています(66%)。

88%

のエネルギー業界の回答者が、自社がデジタルトランスフォーメーションにおいて大半の競合他社より先行していると回答しています。

多くの銀行、資本市場関連企業、資産運用・ウェルネスマネジメント会社にとって、テクノロジーをめぐる議論は実証・試行段階から実行段階へと移行しており、AI投資を拡大させ、ビジネスモデルの再設計、そして測定可能な成果を迅速に生み出すことへの圧力が高まっています。これは、従来の金融サービス事業間の境界が曖昧になり、競争が激化するなかで起きている動きです。

このような環境のなか、金融サービス企業のデジタル施策は、重要分野において他業界を上回るペースで進んでいることが本調査で明らかになりました。金融サービス業界の回答者のうち80%(調査対象の全業界で最も高い割合)が、自社がAI導入を全社規模で拡大させている、もしくはAIを事業部門全体に完全に組み込み済だと回答しています。さらに54%が、オペレーションにおいてデジタル機能をエンドツーエンドで統合済だと答えており、これも他業界を大きく引き離してトップとなっています。

こうした取り組みは、すでに成果を生み始めている可能性があります。金融サービス業界回答者の44%が、自律型エージェントの導入・拡大を鈍化させる重大な要因はないと答えており、これは全業界のなかでも際立っています。30%を超える業界は他に1つしかなく、また金融サービス業界は、オペレーション技術への投資が期待どおりの成果を上げたと回答する点でも先頭を走っています。金融サービス業界の経営層はさらに、協働的かつ水平型のオペレーション体制をすでに備えている割合が最も高く(54%)、今後2〜3年でそうした体制へ移行する可能性も非常に高い(79%)と報告しています。

80%

の金融サービス業界のオペレーション責任者が、自社がAI導入を全社規模で拡大させている、もしくはAIを事業部門全体に完全に組み込み済だと回答しています。

かつては他業界と比べてAIエージェントの導入が遅れていたヘルスケア分野ですが、AIに対する自信を急速に高めつつあります。現在、ヘルスケア業界のオペレーションおよびサプライチェーン責任者の93%が、AIエージェントと自動化が従来の機能別サイロの解体を加速させるという見解に「同意する」または「強く同意する」と回答しています。これは全業界のリーダー全体の83%を上回る水準です。さらに65%が、チームやシステムをまたいで業務の優先順位付けやルーティング(振り分け)をAIエージェントに任せることに抵抗がないと答えており、これにより複雑なサプライチェーンのサイロが解消され、保険請求(クレーム)や顧客対応の業務フローにおける問題解決が迅速化されます。

加えて、58%が、あらかじめ定義されたルールとリアルタイムデータを用いてオペレーション上の意思決定をAIに任せることに抵抗がないと回答しています。また53%が、自律型AIエージェントのメリットがオペレーションのセキュリティ上のリスクを上回るという見解に強く同意しています。

AIは、受注処理や配送追跡といった業務をよりスムーズにするために、精度、トラッキング、処理速度を向上させています。ヘルスケア業界の経営層の半数以上が、AI支援による業務フローのおかげで処理速度が向上した(53%)、意思決定の質と一貫性が改善した(57%)と報告しています。

今後を見据えると、ヘルスケア業界のデジタルトランスフォーメーションは、テクノロジーそのものを目的とするのではなく、ケアをよりスマートに、より迅速に、より人間中心へと再定義するためにAIを取り入れていく方向に向かっています。

53%

のヘルスケア業界のオペレーション責任者が、自律型AIエージェントのメリットがオペレーションのセキュリティにもたらすリスクを上回るという見解に強く同意しており、これは全回答者の38%を上回っています。

産業機械・製造業はオペレーションのデジタル化が引き続き進んでいるものの、本調査が示唆するのは、次なる課題は全社規模での展開にあるということです。産業機械・製造業のリーダーの10人に9人(90%)が、自社で全社的なAI戦略を実行中だと回答していますが、その戦略が事業部門全体に完全に組み込まれていると答えたのはわずか20%です。これは、多くの企業がAI活用の初期段階にある可能性を示唆しています。

価値の獲得状況には依然としてばらつきがあります。最近のデジタル投資が組織全体に広範囲なインパクトをもたらしたと答えたのはわずか27%で、89%は投資が期待どおりの成果を完全には上げていない理由を少なくとも1つ挙げています。最も多かったのはシステム統合の複雑さ(55%)とユーザー定着に関する課題(51%)でした。多くの場合、ハードルとなるのは特定のユースケースで価値を実証することではなく、ソリューションを統合し、定着を推進することで全社的なインパクトを引き出すことなのです。

産業機械・製造業のオペレーション責任者は、テクノロジーと業務の再設計を組み合わせることで、全社展開とのギャップを埋めようとしているようです。自動化はすでに業務の進め方を変えつつあり、65%が人間と機械が協働する新たなハイブリッド型業務フローを報告しています。これは、定着が進むまでの間における現実的な近代化の手段と言えます。半数をやや上回る企業(54%)が、AI支援による業務フローによって処理速度がこれまでに向上したと挙げており、デジタルを日々の業務遂行に組み込むことで全社展開が実現されつつあることを裏付けています。

65%

の産業財業界のオペレーション責任者が、自動化によって人間と機械が協働する新たなハイブリッド型業務フローが生まれたと回答しています。

これまで多くの保険会社に見られてきた慎重な姿勢とは対照的に、生命保険および損害保険業界の回答者は、デジタルトランスフォーメーションの効果に強い期待を示すとともに、自社変革の進捗に対する自信を示しています。大多数(88%)は、AIおよびクラウドベースのテクノロジーが、デジタル成熟度のどの段階にある組織であっても業界リーダーを一気に飛び越えることを可能にし、競争条件を平等化したという見解に同意しています。また同じ割合(88%)の回答者が、手頃な価格のクラウドベースおよびAI活用のデータツールによって、中小企業がデジタル分野のリーダー企業と肩を並べられるようになったと考えています。これは、従来、オペレーション変革を漸進的なプロセスとみなしてきた業界が、進化するテクノロジーがいかに迅速な変革を促進し得るかを認識し始めていることを示唆しています。

さらに、一般的なイメージに反して、多くの保険会社は自社をテクノロジーの後発組とはみなしていません。5社のうち4社(80%)が、デジタルトランスフォーメーションにおいて大半の競合他社に先行していると回答しています。とはいえ、この回答は(非常に前向きではあるものの)調査対象となった8業界のなかで最も低い水準で並んでいます。総じて、保険会社の間ではデジタルトランスフォーメーションが成果につながり得るという自信が高まっていますが、改善の余地が十分にあるという健全な認識も併せ持っているといえます。

80%

の保険業界のオペレーション責任者が、デジタルトランスフォーメーションにおいて大半の競合他社に先行していると回答しています。

製薬・ライフサイエンス業界のサプライチェーンは複雑です。グローバルな貿易上の課題、地政学的緊張、変動する薬価などの影響を受けます。製薬・ライフサイエンス業界のリーダーの半数以上(59%)が、規制や政策の不安定性によって最も影響を受ける事業領域のトップ3にサプライチェーン物流を挙げています。それでもなお、AIはこの業界において変革をもたらす力として台頭しつつあり、ワークフローや意思決定プロセスを近代化しています。製薬・ライフサイエンス業界のオペレーションおよびサプライチェーン責任者の大多数(72%)が、AIによる自動化が意思決定におけるリアルタイムデータへの依存度の高まりを促していると回答しています(全業界平均は53%)。さらに、製薬・ライフサイエンス業界の経営層の73%が、自動化によって従業員が分析業務や監督業務へとシフトし、定型業務から付加価値の高い分析やリーダーシップへと焦点が移っていると報告しています(全回答者では50%)。

製薬・ライフサイエンス業界の経営層の間では、AIの能力に対する信頼が高まっています。57%が、異常を検知し是正措置を発動する役割をAIエージェントに任せることに抵抗がないと回答しています。これは供給途絶や品質問題を早期に食い止めるうえで極めて重要です。さらに68%が、AIが確率ベースの分析を用いて業務の優先順位付けを行うことに前向きであり、これにより需要計画やリスク評価が強化されるとみています。

今後を見据えると、56%が、AIがオーケストレーション(統括)やガバナンスといった能力ベースの役割を重視するようにオペレーティングモデルを再構築すると予想しています。製薬・ライフサイエンス企業は単に変化に適応するにとどまらず、適応型でAIによって生成・高度化されるオペレーティングシステムを原動力として、製薬サプライチェーンの未来を塗り替え得るデジタルイノベーションを加速させているのです。

73%

の製薬・ライフサイエンス業界の経営層が、自動化によって従業員がより付加価値の高い分析業務や監督業務へとシフトしたと回答しています。

テクノロジー・通信企業のオペレーションおよびサプライチェーン責任者の間では、焦点が「インサイト(洞察)」から「インパクト(成果)」へと移っています。すなわち、AIを大規模に活用することで、測定可能な財務成果の創出に貢献できるのか、という問いです。テクノロジー・通信業界の回答者の94%が自社でAIを導入済みだと回答し、そのうち40%が全社規模で拡大させている一方で、この戦略が事業部門全体に完全に組み込まれていると答えたのはわずか21%にとどまります。これは、AIがまだ日常的なオペレーションに一貫して統合されておらず、コスト・サービス・生産性における持続的な改善をもたらすには至っていないことを示唆しています。大半の企業にとって、AIは中核プロセスを稼働させるというよりも、依然としてパイロット(試験的取り組み)に集中しているのが実情です。

テクノロジー・通信業界のリーダーは、業務の進め方を再設計しながら、実行力を強化しています。最初の手段となるのが自動化であり、半数(51%)が、オフショアリングへの依存度の低下を、業務の在り方を変えている要因の一つとして挙げています。これは、自動化や「デジタルワーカー」の活用拡大を反映したものです。この変化は、特にメモリ不足や先端プロセスノードの生産能力制約がハードウェアのサプライチェーンを圧迫するなかで、オペレーションを安定させ、手作業を削減し、需要の変動を管理するのに役立っています。同時に、企業はプラットフォームベースのオペレーティングモデルへと移行しつつあります。テクノロジー・通信業界は主要業界をリードしており、89%がAIエージェント、データエコシステム、インテリジェントオートメーションといった対外的なデジタル機能を立ち上げています。このうち29%は、これらの機能をサプライヤーやパートナーにまで拡張し、制約のある供給ネットワーク全体での計画、アロケーション、調整を改善しています。

初期の成果はおおむね良好です。58%が、最近のデジタル投資が財務的・戦略的成果を含む複数の領域でインパクトをもたらしたと回答しています。しかし、実行状況には依然としてばらつきがあります。ROIを阻む最大の障壁はデータの品質とアクセス性であり、次いでレガシーシステムとの統合、ユーザーの定着が続きます。34%がAIエージェントにエンドツーエンドのプロセスを任せることに抵抗がないと答える一方で、33%がスキル不足によって拡大が鈍化していると回答しています。

89%

のテクノロジー・通信業界のオペレーション責任者が、サプライヤー・パートナー・顧客とのやり取り全体にわたって、対外利用向けのデジタル機能を展開していると回答しています。

行動を起こすべき時は、すでに来ている

とはいえ、今からでも遅くはありません。現時点で全社的に大きなインパクトを実現できている企業はごく一部に過ぎませんが、ほぼ全ての企業がデジタルオペレーションへの道のりのいずれかの段階にあります。以下に、実証や試行の段階から全社規模での変革へと歩みを進めるための方法を示します。

  • 全社的なインパクトを反映するよう、価値の測定方法を見直す。
    コスト指標だけ、あるいはオペレーション指標だけを用いると、AIの真の価値を過小評価してしまいます。財務指標とオペレーション指標の両方を、成長、レジリエンス、カスタマーエクスペリエンスといった戦略的優先課題に結びつけ、統合的なパフォーマンス管理と、より規律ある資本配分へと移行しましょう。
  • 統制を効かせながら実験を可能にするオペレーティングモデルを設計する。
    モデルの利用、データへのアクセス、リスク管理について明確なガードレール(指針・制約)を設けつつ、部門横断的なチームがAIのユースケースを迅速にテストしスケールできるようにします。意思決定権限、説明責任、監督体制をあらかじめ定義しておくことで、断片化を生むことなく、実験を通じて価値を生み出せるようになります。
  • 業界の専門知識と顧客インサイトを組み合わせ、セグメントを統合する。
    AIの価値を引き出すには、全社にわたって知見を結びつける必要があります。サプライチェーン、オペレーション、顧客対応部門、データチームの各ドメインエキスパートを集め、エンドツーエンドのプロセスにわたる具体的な課題の解決にあたりましょう。これにより、AIソリューションを単なる技術的能力にとどめず、実際のオペレーション上の文脈や顧客にとっての成果に根ざしたものにできます。
  • システム、データ、AIを一体としてオーケストレーション(統括)する。
    統合をバックエンドのIT課題として扱うのをやめ、中核的な事業上の優先課題へと格上げしましょう。エンドツーエンドの業務フローを軸にアーキテクチャを再設計し、統合レイヤーやプラットフォームを介してAI、データ、中核システムを接続することで、先進企業の仲間入りを果たしましょう。
  • AIのパイロットから全社的な本格稼働へと移行する。
    パイロットプログラムや個別の局所的な解決策では、インパクトを拡大させることはなかなか実現できません。AIを意思決定ポイント全体に組み込める、全社的に重要なプロセスをいくつか特定し、明確なオーナーシップと予算を確保してスケールさせることにコミットしましょう。そうすることで、AIを実験から「パフォーマンスの原動力」へと転換できます。
  • データの規律をもって「完璧より前進」を実践する。
    完璧なデータがなくても前進することはできますが、データを改善するための体系的なアプローチは持っておくべきです。利用可能なデータを使って優先度の高いAIのユースケースを立ち上げると同時に、AIを活用したデータガバナンス、クレンジング、拡充を並行して展開しましょう。データ品質の改善を、変革を遅らせる前提条件としてではなく、変革に組み込まれた継続的な能力として捉えましょう。
  • 自社のエコシステムが混乱に耐えうるかをストレステストする。
    テクノロジー、経済、地政学などの混乱がもたらす影響と機会を絶えず評価しましょう。これには、外部プラットフォームへの依存を減らす能力を社内で構築できる可能性も含まれます。シナリオプランニングを進化させ、新たに生まれる機会を活かし、新たな脅威に先んじるために、どこで内製し、協業し、投資すべきかを見極めましょう。

オペレーションにおける野心と実行のギャップは依然として大きく、多くの企業にとってそれを埋めることは難しいものです。しかし、AI、データ、オペレーティングモデルの変革を、同時に、かつ断固として統合する企業は、単にオペレーションパフォーマンスを改善するだけにとどまりません。それを再定義することができるのです。

本調査について

PwCの「オペレーションのデジタルトレンド調査2026(2026 Digital Trends in Operations Survey)」では、2026年1月から2月にかけて、767名のオペレーション担当役員およびサプライチェーン担当責任者を対象に調査を実施しました。このオンライン調査の回答者には、米国に拠点を置き年間売上高1億米ドル以上の組織における、CxOレベルの経営幹部、上級管理職、部門長(ディレクター)、マネージャーが含まれます。回答者は、オペレーションおよびサプライチェーン、または調達オペレーションに関する事業上の意思決定について、単独で責任を負っているか、もしくはそれらの意思決定について他者と影響力を分担している人物です。調査対象の業界は、消費財(13%)、エネルギー・公益事業・資源(16%)、金融サービス(5%)、ヘルスケア(11%)、産業機械・製造業(18%)、保険(5%)、製薬・ライフサイエンス(11%)、テクノロジー・通信(16%)です。

日本版刊行にあたって――統合を待たず、意思決定をつなぐ

「個別技術の導入」から「業務・組織の再設計」へ

2025年版と2026年版の調査を通じて明らかになったのは、オペレーションのデジタル化の焦点が「個別技術の導入」から「業務・組織の再設計」へと大きくシフトしている点です。2025年版では、貿易政策の変化や地政学リスク、コスト上昇を背景に、サプライチェーンの柔軟性やシナリオプランニングの高度化が主要テーマとして掲げられていました。企業は混乱への対応に追われつつも、AIを需要予測や調達、物流などを横断的に支える手段として活用し始め、短期対応から中長期変革へ移行する入口に立っていました。

2026年版では、その流れがさらに進み、AI・データ・オペレーティングモデルを「一体として機能させること」が成果創出の分岐点として示されています。しかし同時に、テクノロジー投資が期待どおりの成果につながっていないという認識は依然として高く、統合の複雑さやデータ品質が主要な障壁として残っています。

「統合」を誤解しない――完璧なデータより、使えるデータ

ここで重要なのは、この「統合」という概念を誤解しないことです。多くの日本企業では、システムやデータが部門ごとに分断され、コードやマスタの統一も不十分です。この状況に対して「まず全体を標準化・統合してからAI活用に進むべき」と考えると、変革は事実上スタートできません。調査でも示されているとおり、価値創出において重要なのは「完璧なデータ」ではなく「意思決定に使えるデータ」であり、不完全な状態でも活用しながら改善を進めるアプローチが現実解と言えるでしょう。

ただし、ここで一つだけ見落としてはならない論点があります。物理的なデータ統合やマスタの一本化は急がなくて良いですが、データが指し示す「意味」だけは揃えておく必要がある、という点です。例えば同じ「在庫」というデータ項目でも、あるシステムでは物理在庫を、別のシステムでは引当可能在庫(出荷に充てられる在庫)を、さらに別のシステムでは未出荷分を含む見かけの在庫を指していることは珍しくありません。データ項目名やデータそのものは据え置きのままでも構いませんが、AIやAIエージェントが業務やシステムをまたいで判断する際に、これらを同一の概念とみなしてしまえば、誰も気づかないまま誤った判断が下されてしまいます。従来はこうした差異を現場の担当者が暗黙知で読み替えて補正していましたが、連携や自動化が進むとその「人間による補正」が外れます。だからこそ、物理的な統合に先んじて、意思決定に用いる主要な概念の「意味の定義」を関係者間で揃えておくことが、つなぎ目の信頼性を担保する前提となるのです。

ただし、「動きながら進める」ことは「無秩序に乱立させる」ことではありません。データへのアクセス範囲やAIモデルの利用ルールといった最低限のガードレール(統制の枠組み)を先に定めたうえで、その範囲内で各プロセスの接続を進めることが、後の手戻りや属人化、セキュリティ上のリスクを防ぎます。統制と俊敏性は対立するものではなく、むしろ統制の枠組みがあるからこそ、現場は安心して素早く試せるのです。

「全社横断の完全統合」からではなく、「意思決定の分断」から始める

オペレーティングモデルについても同様です。全社横断の完全統合モデルを最初から設計・実装しようとすると、多くの場合は組織変更や権限調整で停滞します。むしろ現実的な踏み出し方は、特定の業務プロセスにおける意思決定の分断に着目し、それをつなぐ形で変革を開始することです。

この「意思決定の分断」は、現場では日常的な"痛み"として現れています。例えば「営業の販売見込みが更新されても、調達計画に反映されるまで数日かかる」「拠点間の在庫融通の判断が、会議を待たなければ進まない」といった、つなぎ目で生じる遅延や手戻り、在庫の偏りです。需要計画と調達、在庫配置と販売計画といった、部門間のつながりが弱く意思決定が遅延している領域を特定し、その一連のプロセス単位でデータとAIを組み込むといった「部分的な接続」を積み上げていくことが、結果として全体最適につながります。

競争軸は「連携」へ、その先に「自律化」へ

今後のサプライチェーンの競争軸は、「コスト」や「効率」だけではなく、「予測」「連携」「自律化」の能力へと移行するでしょう。変動する需要と供給を前提とし、それを先読みし、部門や企業をまたいで意思決定をつなぎ、実行までスムーズに回す力が重要になります。AIエージェントや自動化は、この連携を支える中核技術となりますが、多くの企業では依然として個別最適の域を出ていません。

ここで踏まえるべきは順序です。AIにオペレーションを委ねる「自律化」は目指すべき到達点ですが、その前提として「分断された意思決定をつなぐ=連携」、そして前章で述べた「概念の意味の統一」が成立している必要があります。連携や意味の統一が未成熟なまま自律化だけを急いでも、誤った判断を高速に拡散させるだけになりかねません。まずは部門間・企業間の連携と、判断に用いる概念の意味のすり合わせを確立し、その実績の上に段階的に自律化を広げていく。この順序を踏むことが、結果的に最短の道筋となります。

人の役割は「処理する人」から「つなぎ目を設計する人」へ

連携や自律化が進むと、人の役割も変わります。AIエージェントや自動化が定型的な調整・処理業務を担うようになると、人に求められるのは「処理する力」ではなく、「例外を見極めて判断する力」「部門や企業をまたぐつなぎ目を設計する力」、そして「データや業務の"意味"をすり合わせ、共通の前提を定義する力」へと移っていきます。これは本調査でも、自動化によって従業員がより付加価値の高い分析・監督業務へシフトしているという形で繰り返し示されています。

テクノロジーの導入と同じ重みで、この役割転換を前提とした人材育成・評価のあり方を見直すことが求められるのです。とりわけ、部門間の調整を担ってきた管理層にとって、これは役割の喪失ではなく、より上流の「設計・判断」へと軸足を移す機会となります。

日本企業への示唆

日本企業にとっての示唆は明確です。

  • 第一に、AI活用を業務単位ではなく「意思決定の流れ単位」で捉え直すこと。どの部門間で、どんな判断が、なぜ遅れているのかを起点に考える。
  • 第二に、データ統合を前提条件とせず、現存する複数システムを横断して意思決定を高度化する仕組みを、最低限のガードレールのもとで段階的に構築すること。その際、物理的なデータ統合は急がなくても、判断に用いる概念の「意味」だけは揃えておく。
  • 第三に、組織についても従来の部門最適を前提とした運営から、プロセス単位で責任を持つ形へ徐々に移行し、あわせて人の役割を「処理」から「判断・設計」へとシフトさせていくこと。

完成度ではなく、改善し続ける速度が競争力になる時代へ

競争優位はもはや「何を導入しているか」ではなく、「分断された状態のままでも意思決定をつなぎ、改善し続けられるか」によって決まります。全てが整ってから動く企業と、制約の中で動きながら進化する企業の差は、今後急速に拡大していくことが濃厚です。

不確実性が常態化する時代においては、完成度を待つことではなく、不完全な状態から学習し、改善し続ける速度こそが競争力となります。そしてその差が、サプライチェーン全体のパフォーマンスを決定づけることになるのです。

※本コンテンツは、PwC米国が2026年4月に公開した「PwC’s 2026 Digital Trends in Operations Survey」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

藤倉 麻実子

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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田中 大海

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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増田 潤一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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川﨑 寿一

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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