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金融サービス(FS)セクターでは、戦略的な市場優位性を得るための競争が、合併・買収(M&A)を促す状況が続いています。2021年上半期のディールは、テクノロジーとイノベーションを狙いとする案件が中心となりました。銀行、保険会社、資産運用会社が、コスト構造の最適化、トップラインの伸びの改善、効率性と利益率の強化を目指しており、これを背景に今後数カ月間、買収と事業売却の増勢が強まると予想します。そのため、ディールメーカーの戦略的根拠として変革が最前面に打ち出されています。
長引く低金利に撃たれ、規制当局から圧力を受ける一方、プラットフォーマー、フィンテック、継続的なデジタル化によるディスラプション(破壊的な変革)にもさらされ、FSセクターは、こうした課題に対応するためには、自らが進化する必要があります。今後も引き続き、戦略的パートナーシップの構築と経営統合が、M&Aディールの重要な一角を占めていくこととなるでしょう。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の支援プログラムが終了し、銀行のローンポートフォリオや保険会社のクローズドブロック(新規引受を停止した保険商品の契約ブロック)への影響が顕在化するにつれ、今後数カ月間はディストレストM&Aのディールも引き続き予想されます。
従来の経済危機と大きく異なる点は、強力な買い手として、プライベート・エクイティ(PE)投資家やM&Aによる回復期の投資を狙った金融サービス関連企業を含む市場関係者が存在していることです。この結果、現在のディール環境においては、国内外の合併、買収、事業売却の機会が数多くみられるようになりました。
「プライベート・エクイティの待機資金と、回復期の成長フェーズへの投資参加意欲が、マルチプルと取得価格をさらに押し上げています。その結果、多くの金融サービス企業が、変革に向けた事業売却を活発化させていくと予想されます。」
今後6~12カ月間は、以下の領域でM&Aが活発になることが予想されます。
2021年下半期には、ポートフォリオの見直しが、M&Aディールの重要なドライバーになると予想されます。この流れは、今年上半期から続いているもので、大手金融サービス企業は売却対象とする不採算事業やノンコア事業の特定を進めています。
金融サービスセクターにおけるM&Aのディールフローの著しい増加が、2020年第3四半期に始まり、2021年上半期まで続きました。世界のどの地域でもディールは高水準で推移しています。こうしたM&A活況の理由として、COVID-19のパンデミックのために先送りされていた案件が現在M&A市場に出てきていることや、景気回復に対する楽観的な見方が広がっていることが挙げられます。2021年上半期には、PEファンドが関与する案件数が増加し、ディール件数全体の36%を占めるに至り、長期平均の25%に比べて著しく増加しています。
ディール規模が最も大きいのは米州です。その主因はいくつかのメガディール(発表されたディール金額が50億米ドル以上の案件)が実行されたことであり、特にリース、地方銀行、フィンテック、保険といったセクターが中心です。注目すべき点は、2021年上半期に発表されたメガディールのうち4件がSPACが関与した案件であり、金融サービス業界でこうした買収ストラクチャーがいかに重要になっているかが浮き彫りになりました。デジタル/テクノロジー関連のターゲットをめぐり、企業、PEファンド、SPAC間の競争が激化していることも、ディール金額増加の一因です。
消費者の期待とオペレーションの複雑さが高まる中、業界内のどのセクターにも、デジタル化の加速が減速する兆候は見られません。金融サービスセクターの企業は、データの活用やオペレーション効率の向上、トランザクションの処理スピードの向上を目的として、M&Aに目を向けているため、この分野のディールとパートナーシップは増加する可能性が高まっています。増大しているサイバーセキュリティの問題に対し、より強力なソリューションの導入へも向かっていくでしょう。
特に銀行セクターでは、バックオフィスをコストセンターからプロフィットセンターに転換することが、デジタルトランスフォーメーションの一つの重要な側面となっています。テクノロジーによるソリューションは、PEファンドや大手テクノロジー企業といった外部の投資家にとって、新たな機会を切り開くものとなるでしょう。フィンテック企業や非金融サービス企業がもたらすディスラプションに対し、マーケットポジションを確保するための企業戦略においても、テクノロジーが中心的な要素となっています。
企業が自社ビジネスモデルにシームレスに金融サービスを統合するというエンベディッドファイナンスが台頭しており、この波は今後も強まっていくと見込まれます。Apple、Google、Amazonといった巨大ハイテク企業が、金融分野へのサービス提供体制の拡充を推進している中、金融サービス企業は、ディールやスタートアップの買収を通じて自社の機能を構築する方向へ目を向けていくこととなるでしょう。
従来型の金融サービス事業者がフィンテック企業と競争する必要性もM&Aのドライバーになると予想されます。フィンテック企業のビジネスモデルは、特に銀行のバリューチェーンの中で収益性の高い部分で、従来型の金融サービス事業者と同じ規制の適用を受けない可能性があります。
さらに、低金利や規制、高いオペレーティングコストに依存するビジネスモデルが収益性に影響を与えていることを背景に、リテール銀行の間で業界内の経営統合や協働の増加が続くと予想されます。
金融サービス業では、ESGの基準がリスク管理と価値創出の在り方を再定義する状況が続くでしょう。サステナビリティ関連の金融サービス案件は、ESG資産とノウハウを獲得したいという買い手の願望を反映しています。こうした中、国・地域を越えて規制が強化され、投資家はESG基準を満たせる投資機会を求めているため、M&A案件においてはESG報告の明確性や資質の重要性が高まっていくと思われます。
現在の変革において金融サービスセクターをリードしているのは、アセット/ウェルスマネジメント(AWM)です。AWMでは、サステナブルな投資対象に対する消費者の投資意欲が事業戦略、評判、パフォーマンスに大きな影響を及ぼしています。ESG基準に準拠しない商品はリスクウェイトが高まる可能性があり、保険セクターは独自のサステナブルな変革を推進しているため、これから数カ月のうちに、ESGが業界のディールの側面全体に波紋を広げていくと予想されます。
2021年下半期にどれほどのディストレスト資産が表面化するかはまだ分かりませんが、政府の支援策が解除され、パンデミックの影響が顕在化するに伴い、銀行や保険会社などの金融サービス業者は一定の市場ボラティリティに直面すると予想されます。
銀行に関しては、不良債権の増加が予想されます。そのため、特定分野に特化した投資家からの強い需要もあることから、ディストレストM&Aやポートフォリオディールが活発化する可能性があります。金融サービス事業者側には、こうした資産の売却により自己資本比率の最適化を図るという狙いもあります。
金融サービス事業者がオペレーションを国内中核市場に集中させる方向に踏み出す一方、今後数カ月間で、非中核・不採算事業の売却や、生保事業のランオフプラットフォーム(新規引受を終了している事業)の確立に関係するディールも増加すると予想されます。
世界的なパンデミックによる市場の混乱にもかかわらず、アセット/ウェルスマネジメントは今年上半期を通じて極めて好調でした。2020年には世界の顧客の富は約258兆米ドルをつけ、私たちの推定では、2025年にはさらに成長し、318兆米ドルに達すると予想されます。
「アセットマネージャーは常にスケールを求めています。この傾向は新しいものではありませんが、目標値が高まっており、その基準(10年前であれば、運用資産残高5,000億米ドルの達成)は現在では2倍の1兆米ドル近くとなっています」
パンデミック初期段階で市場が混乱した当時、経済の落ち込みは世界中の銀行の存続にかかわる影響を及ぼしかねない様相でしたが、その後は、商業銀行、資本市場関係者ともに、驚くべき状況の反転がありました。
特に米国と、より最近では欧州で、銀行株指数が回復しています。これまでは成長見通しや規制資本の懸念からディールが躊躇されていましたが、信頼が高まり、適用されるバリュエーションが上昇したことで、ディールに新たな弾みがついています。
世界の保険市場は、記録的水準の潤沢な資本があり、保険会社・販売会社に対する投資家の関心が続いていることから、特に米国市場のM&Aディールは活発です。
年末が近づき、政府支援策が終了すると、顧客や実体経済への投資が流動性の問題に直面し、ディストレストM&Aのディールが増加する可能性があります。銀行の分野では、一部のサブセクターで資産の質と不良債権の問題が浮上し始め、それに関連したM&Aの機会が生じるとは予想します。保険の分野では、クローズド・ブロック(新規販売はされていないが保険料収入が発生している契約)と生保のランオフ事業(新規引受を終了している事業)に関連した案件が予想されます。
一方、潤沢な資本を背景に、金融サービス分野の一部ではディールのペースが上がっています。極めて細分化された業界の統合を進める案件が依然としてディールの大部分を占めていますが、特にフィンテック、インシュアテック、レグテックといったサブセクターで新たなビジネスモデルが出現しています。これらは、投資家にとって極めて魅力的な機会になりつつあり、投資家は、案件を成功させるために価値創出という考え方を持つ必要があるでしょう。
データについて
M&A動向に関する当社の見解は、業界が認める情報源から得られたデータに基づいています。特に本稿で取り上げたディール金額とディール件数は、Refinitivが2021年6月30日時点で提供し、2021年7月5日時点でアクセスした公式発表に基づいており、うわさと取り下げられたディールを除外しています。さらに補足情報として、Dealogicと当社の独自調査からの情報も加えています。本稿は、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータを含んでいます。かかる被使用許諾データのすべての権利はDealogicが留保しています。PwCの産業マッピングと一致させるため、原情報に特定の調整を加えています。当社ではメガディールの定義を、ディール金額が50億米ドルを超えるディールとしています。
※本コンテンツは、PwCグローバルが2021年7月に公開した「Global M&A Trends in Financial Services: 2021 Mid-year Update」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。