昨今では、サイバー攻撃によって基幹システムが停止し、事業継続に大きな影響を受けた日本企業の事例が多く見られます。今後も、ビジネスに多大な影響を及ぼすサイバー攻撃は継続すると予想されるため、日本企業にとっては入念な対策が欠かせません。PwCのサイバー脅威インテリジェンスチームは、今後の動向として、「正規アカウントの悪用(アイデンティティに対する脅威)」「正規ツールの悪用(環境寄生型攻撃:LotL攻撃)」「AIを用いたソーシャルエンジニアリング」に注視する必要があると分析しています。これらは正規の操作を装った攻撃であるため、従来の検知ソリューションでは把握しづらいという特徴があります。脅威アクターが、どのような背景や目的で攻撃手法を変えてきているのか、その動向を見ていきましょう(図表4)。
図表4:主な脅威アクターの動向
出所:PwCサイバー脅威インテリジェンスチーム作成
このように、今後のサイバー攻撃は、正規アカウントの悪用(アイデンティティに対する脅威)、APT攻撃やLotL攻撃による潜伏活動、AIを用いた高度なソーシャルエンジニアリングなどの攻撃が多用され、従来のセキュリティ対策では検知が難しい巧妙なサイバー攻撃が増加すると予測されます。この傾向に対して、日本企業は十分な準備ができているでしょうか。PwC Japanグループは、日本企業のサイバーセキュリティの意思決定や企画に携わる300人を対象に調査(以降、本調査)を実施し、各企業の実態を分析しました。
企業を狙ったサイバー攻撃は、メール経由でのスピアフィッシング、VPN製品などのインターネットに露出しているアタックサーフェスに対する脆弱性攻撃が主流でした。こうした傾向は依然として存在するものの、昨今は「アイデンティティ」を狙った攻撃へのシフトが徐々に進行しています。つまり、ユーザーIDやパスワードといった認証情報に加え、デジタルアイデンティティ情報を悪用し、システムへの不正アクセスや個人情報の窃取を狙うサイバー攻撃が増えることが予想されます。
実際のインシデント事例としては、多要素認証を例外的に無効化した委託先社員の正規アカウントや、闇サイトで販売されていた認証情報が悪用され、初期侵入を許したケースがありました。攻撃手法も多様化しており、以下のような巧妙な手口が確認されています(図表5)。
図表5:主なアイデンティティに対する攻撃手法
出所:公開情報を基にPwC作成
攻撃の矛先が「アイデンティティ」へシフトしているにもかかわらず、本調査では、いまだに多要素認証・多段階認証を導入していない企業が一定数あることが分かりました。多要素認証・多段階認証の導入状況では36.7%が未導入であり(図表6の左側)、組織外ネットワークからのアクセスに対する条件付きアクセスやリスクベース認証の実施状況は50.2%が未実施でした(図表6の右側)。
図表6:認証システムの導入状況
出所:PwC「2026年 Cyber IQ調査」
LotL攻撃は、異常な振る舞いを検知することが極めて困難です。標準コマンドなどの企業内に必ず存在する機能を悪用するため、業務の一環として行われた操作なのか、サイバー攻撃なのかを判別することが難しいからです。Bitdefender Labsの2025年の調査によると、重大インシデントの84%でLotL攻撃が行われており、これは脅威アクターが常套手段としてLotL攻撃を用いていることを示しています※1。
生成AIによって自然な日本語のフィッシングメールや巧妙な偽画像・偽動画が量産される中、従業員やヘルプデスク担当者を標的としたソーシャルエンジニアリングが確認されています。特にITヘルプデスクは、顧客や従業員からの依頼に基づき、パスワードリセットやアカウントのロック解除など、特権的な操作を行う権限を持つため、攻撃者にとって非常に魅力的な標的となります。攻撃者が一度ここを突破すれば、基幹システムへのアクセスも可能になり、ビジネスに甚大な被害をもたらす恐れがあります。
本調査では、ITヘルプデスクを内製している日本企業の61.4%が、サイバー攻撃を想定したテストを「実施していない」と回答しました(図表7)。これは、外部委託している企業(14.2%)と比較して著しく高い水準です。外部委託している企業は、委託先との契約の中でサイバー攻撃テストを含むセキュリティ対策を要件として求めますが、内製化している企業は身内への信頼感から、攻撃を受けるリスクへの感度が低くなっていると考えられます。
図表7:ITヘルプデスクでのサイバー攻撃テスト実施状況
出所:PwC「2026年 Cyber IQ調査」
このように、攻撃者が巧妙な攻撃に重点を置くことで、従来のセキュリティ対策では検知が難しいサイバー攻撃がさらに増加すると予測されます。検知困難なサイバー攻撃に対処するための銀の弾丸と言えるセキュリティソリューションは存在しないため、直近で発生したサイバー攻撃の文脈(コンテキスト)を可視化・形式知化することが重要です。つまり、最新の攻撃事例を分析し、攻撃者が「どの局面で何を判断し、なぜその手法を選択したのか」という意思決定プロセスを組織の知識として蓄積・共有し、組織のセキュリティ対策を継続的に進化させることが必要となります。
サイバー攻撃の文脈を可視化・形式知化するための手法の1つに、「Attack Flow」の活用があります。Attack Flowとは、過去に発生した、あるいは今後想定されるサイバー攻撃について、攻撃者がどのような目的を持ち、どのような戦術・技術・手順(TTPs:Tactics, Techniques, and Procedures)を、どのような順番で実行し、攻撃が失敗した際にどのように行動を変えるかをフローチャート形式で描き出すツールです。MITRE ATT&CKは「どのTTPsが使われたか」をカタログやリストで示しますが、攻撃者の思考や判断の流れまでは把握できませんでした。一方、Attack Flowは「攻撃者の意思決定プロセスや攻撃の流れ」を可視化・形式知化することができます(図表8)。
図表8:Attack Flowによる攻撃プロセスの可視化の例
出所:Attack Flow公開情報よりPwC作成
Attack Flowを活用することで、「なぜ攻撃者はこのサーバーに侵入した後、このツールを実行したのか」「次に狙われる可能性が最も高い資産は何か」といった問いに、根拠となる事例をベースに答えることが可能になります。攻撃者の意思を可視化・形式知化することで、攻撃を予測し先手を打つ「プロアクティブ」なサイバーセキュリティへの転換につなげられます(図表9)。
Attack Flowによって可視化された攻撃の文脈は、既存のセキュリティソリューションの能力向上に役立ちます。攻撃文脈を基にしたセキュリティ対策例を3つ挙げます。
図表9:Attack Flowを基にしたセキュリティ対策例
出所:Attack Flow公開情報よりPwC作成
このように、従来のセキュリティ対策では検知が難しいサイバー攻撃に対処するためには、最新の攻撃事例をAttack Flowを用いて分析し、得られた知見を組織の知識として蓄積・共有した上で、組織のセキュリティ対策を継続的に進化させることが重要です。そのためには、3カ月に一度のペースでレビューを実施し、自組織の対策が最新の攻撃に対して有効か、検知が難しい攻撃に対応できているか、過去に見逃された潜伏がないかを継続的に確認することが求められます。こうした取り組みを通じて、組織としての知見を深め、セキュリティ対策を継続的に高度化していくことが必要となります。
※1 「Bitdefender 2025 Cybersecurity Assessment Report」、Bitdefender、2025年
https://www.bitdefender.com/en-us/business/campaign/2025-cybersecurity-assessment
日本企業がDXを推進し、ビジネスを持続的に成長させていくためには、デジタル時代において必要とされる信頼、すなわち「デジタルトラスト」の構築が求められています。PwCは、サイバーセキュリティ、プライバシー、データの安全性、信頼性などさまざまな観点から、クライアントのデジタルトラスト構築を支援します。
PwCは、企業のITシステム、OTシステム、IoTの領域におけるサイバーセキュリティ対策を支援します。高度なサイバー攻撃の検知、インシデントが発生した際の迅速な事故対応や被害の最小化、再発防止から対策の抜本的見直しまでさまざまなアプローチを通じ、最適なサイバーセキュリティ対策を実行します。
PwCは、実在する攻撃者の戦術やテクニック、手順を想定した攻撃をクライアント企業に対して実際に行い、脆弱性の洗い出しやレジリエンス能力の評価を実施します。
PwCは、クライアントのプライバシーに関する課題の解決を、総合的に支援します。世界各国のプライバシー関連法令のモニタリングを通じて、クライアントのビジネスに合わせて対応すべきプライバシー規制とのギャップ調査や、対応計画の立案と実行をサポート。さらにはグローバルスタンダードや業界の最新動向を踏まえて、プライバシーに配慮し...
© 2004 - 2026 PwC. All rights reserved. PwC refers to the PwC network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further details. This website contains content generated by or created with the assistance of AI. 当サイト上の記事やコラムで述べている内容はPwC Japanグループ、PwCグローバルネットワークやそのメンバーファームを代表する見解ではありません。