2026年 Cyber IQ調査――デジタル分断とAIリスクに企業はどう向き合うか

中国拠点の脅威アクターによる日本を標的とした攻撃活動の変化

  • 2026-09-01

国家の関与が疑われるサイバー攻撃

サイバー空間における脅威アクターによる攻撃活動には、その脅威アクターの拠点が所在するとみられる国家の政治・外交・経済上の課題など、いわゆる地政学的環境との関連性が観測される場合があります。本章では、このような地政学的環境と脅威アクターの活動との関係性に着目した上で、日本と中国を取り巻く昨今の地政学的環境に連動して生じうる中国拠点の脅威アクターの攻撃活動の変化について、機密情報を狙ったサイバースパイ活動、重要インフラに対する長期潜伏や機能停止を企図した活動、世論分断やレピュテーション低下を目的とした影響工作という3つの観点から考察します。

なお、国家の関与が疑われるサイバー攻撃については、各国政府やセキュリティ機関が「パブリックアトリビューション」と呼ばれる形で特定の国家や組織との関連性を公表しており、こうした脅威アクターはしばしばState-Sponsored(国家支援型)アクターとも表現されます。以下の記載は、これらの公表情報やPwCによる分析を基礎としていますが、これらは技術的分析やインテリジェンス評価に基づくものであり、その性質上、一定の不確実性を伴う点、また、脅威アクターの活動と国家の意図を同一視することはできない点にも留意が必要です。

日本と中国を取り巻く地政学的環境

日本を標的とした中国拠点の脅威アクターによる今後の攻撃活動を考察する上では、脅威アクターの地政学的環境の観点において中国の国家戦略および近年の日中関係を理解する必要があります。本章では、前者については2026年から始動した「第15次五カ年計画」の内容を、後者については台湾情勢をめぐる日中関係を、それぞれファクトに基づいて整理します。

中国の国家戦略:第15次五カ年計画

中国共産党は、2026年3月上旬に開催された全国人民代表会で第15次五カ年計画(2026~2030年)を正式に公表しました。ここでは、第14次五カ年計画と比較した際の違いに着目し、中国の国家戦略にどのような変化が見られるかについて確認します(図表10)。

結論から述べると、両者における「新興産業」と「未来産業」の位置付けと扱い方にはっきりとした違いが見られます。まず第14次五カ年計画では、「戦略的新興産業」という1つの大きなカテゴリーが示されており、その中に次世代情報通信技術、バイオ技術、新エネルギー、新素材、ハイエンド設備、新エネルギー車(NEV)、グリーン環境保護、航空宇宙、海洋機器などが含まれています。また、未来産業に相当する分野も例示されていますが、これらはまとめて「戦略的新興産業」として扱われており、「未来産業」として切り出すような二段構えの整理は行われていません。

図表10:第14次五カ年計画と第15次五カ年計画の比較

第14次五カ年計画と第15次五カ年計画の比較 ,

出所:中華人民共和国国家発展改革委員会(NDRC)の情報を基にPwC作成

これに対して第15次五カ年計画では、戦略的新興産業を引き続き重視しつつも、第14次五カ年計画では未来産業が新興産業の一部であったのが、新計画ではそこから切り出されて並列に置かれている点が特徴的です。また、未来産業の具体性がより明確化されていることからも、第15次五カ年計画を通じて中国が今後重視する産業も確認することができます。具体的には、量子技術、バイオ、水素・核融合エネルギー、ブレインマシンインターフェイス(BMI)、エンボディドAI(身体性知能)、6G通信が挙げられています。

上記の産業政策に関する変化に加えて特筆すべきは、15次五カ年計画においては、「中国人民解放軍創立100周年の奮闘目標を期限どおりに達成し、国防・軍隊の現代化を質高く推進する」という目標が第15篇で明確に定められていることです。その上で、同篇では、戦略抑止力や無人・智能化(人工知能化)戦力、新領域戦力、先進装備の整備を進めるとともに、軍事理論、人材、組織、統治の近代化を図る方針を示しています。また、軍民融合を通じて民間先端技術や産業基盤を国防に取り込み、重要インフラへの国防要求の反映、国防動員、予備戦力、国境・海空防衛の強化、全民国防教育の推進も盛り込まれています。

台湾情勢をめぐる日中関係の緊迫化

2025年11月、高市首相が台湾有事をめぐって「存立危機事態」に言及したことを契機として、日中関係は短期間で急速に緊迫化しました。この答弁を受け、中国側は「重大な内政干渉」に当たるとする声明を発表し、外交・経済・軍事分野における多面的な対応へと発展しました。中国は日本大使の呼び出しや国連事務総長宛ての書簡送付に加え、台湾周辺での大規模軍事演習「正義使命2025」を実施し、台湾海峡での軍事的プレゼンスを対外的に示しました。さらに、尖閣諸島周辺における中国海警局の船の継続的な航行、東シナ海の中間線付近でのガス田掘削など、東シナ海における緊張を高める活動も確認されています。経済・人的交流の分野でも、日本に対するレアアースの輸出管理の強化や日本産水産物の輸入停止が報じられた他、中国人の対日渡航を控えるよう呼びかける動きや日中交流行事の中止も相次ぎ、日中間の経済活動や人的交流の停滞が一時懸念されました(図表11)。このような事態は、日中間の相互不信が、特定の発言や政策動向を契機として顕在化し得ることを示唆しています。また、中国側の対応は外交・軍事・経済・文化の各分野にわたり、複合的かつ段階的に圧力を強める傾向が鮮明になりました。

図表11:台湾情勢を巡る日中関係の現状

台湾情勢を巡る日中関係の現状 ,

出所:PwC作成

中国拠点の脅威アクターによる日本を標的とした攻撃活動の変化

前述のとおり、日中関係の緊張は、中国側の外交・軍事・経済にまたがる圧力行使と、日本側の対中依存低減・安全保障見直しを同時に進めています。このことは、中国拠点の脅威アクターにとって「日本からどのような情報・機能・世論を狙うか」という優先順位に変化をもたらし得るとPwCは分析しています。本レポートでは、特に以下の3つの視点(図表12)で、同国が関与する脅威アクターの攻撃活動がどのように展開されるかについて考察しました。

図表12:中国拠点の脅威アクターによる日本を標的とした攻撃活動で想定される変化

中国拠点の脅威アクターによる日本を標的とした攻撃活動で想定される変化 ,

出所:PwC作成

日本の官公庁や民間組織の機密情報を標的とするサイバースパイ活動の活発化

サイバースパイ活動の現状

中国を拠点とする複数の脅威アクターが日本の組織に対してサイバースパイ活動を継続的に行っていることが報告されています。例えば、日本の警察庁や外国の政府機関によってパブリックアトリビューションの対象になったグループとして、図表13の4組が挙げられます。

とりわけRed Apollo(APT10)のサブグループとされるMirrorFaceは、2025年初めに日本国内で広く報道されました。警察庁および国家サイバー統括室(NCO)によれば、2019年から2024年にかけて、日本国内の組織、事業者、個人に対して複数の攻撃キャンペーンを展開していました。当該アクターは主に日本の安全保障や先端技術に係る情報窃取を目的としていると分析されています。報告された攻撃キャンペーンでは、日本のシンクタンク、政府、マスコミ、半導体、製造、情報通信、学術、航空宇宙分野の組織や個人が標的となりました。また、過去にはインドや台湾の組織も標的に含まれていました。LODEINFOなどのマルウェアを含むファイルまたはダウンロードリンク付きの標的型メールでは、「日米同盟」「台湾海峡」「ロシア・ウクライナ戦争」「取材のご依頼」などの標題を用いて標的の関心を引く試みが見られます。また、VPN機器におけるリモートコード実行の脆弱性を悪用して標的の環境に侵入した他、コードエディターを悪用してマルウェアを実行した事例も確認されています。

図表13:過去に日本も標的とした中国を拠点とする国家支援型アクター

過去に日本も標的とした中国を拠点とする国家支援型アクター ,

出所:警察庁の資料などを基にPwC作成

考察と示唆

過去のRed Apolloの攻撃キャンペーンでは、日米同盟や台湾海峡といったアジア太平洋地域における安全保障問題がおとり文書のテーマとして使用され、半導体や航空宇宙分野を攻撃対象にするなど、日本を取り巻く安全保障環境や中国にとって戦略的に重要な産業がサイバー攻撃の手段または標的選定と密接に関係していることがうかがえます。

このようなサイバースパイ活動は、日中間の外交的対立が先鋭化している現状においては、より活発化していく可能性は十分に想定されます。第15次五カ年計画で言及されている新興産業や新たに設けられた未来産業は日本が強みとする技術とも関連している上、両国が協力と同時に相互の自立や優位確保を志向する局面に入っていることを踏まえると、これら重点分野における技術・知財を狙うサイバースパイ活動は、今後も継続・強化されると見込まれます。さらに、中国側のレアアース輸出規制と日本側の代替調達・技術自立といった「対応策」も、交渉・産業競争力の確保という観点から、中国拠点の脅威アクターによって標的にされる可能性があります。日本の官民組織は、自らが保有する情報のうち、地政学的文脈で価値を持つ部分(安全保障政策、先端技術、対中依存脱却戦略など)を特定し、重点的に保護する必要があります。

日本の重要インフラにおける長期潜伏または機能停止を企図した活動の増加

中国拠点の脅威アクターによる重要インフラへの攻撃事例

2023年、米国CISAなどは、中国拠点の脅威アクターRed Dev 49(別名:Volt Typhoon)が、米中間の重大な危機や軍事衝突の際に米国の重要インフラに破壊的なサイバー攻撃を行うために事前に侵入している(=Pre-Positioning)と警告しています。Red Dev 49は重要インフラを標的にLotL攻撃を多用することで知られ、侵入後はマニュアル操作で永続的にアクセスを維持し、5年以上にわたって検知されることなく潜伏していた例も見つかっています。攻撃対象は主に通信、エネルギー、交通、上下水道セクターで、OT資産へのアクセスと重要インフラの停止を狙っています。

日本国内では2024年、JPCERTコーディネーションセンターが、日本の組織を狙ってRed Dev 49と多くの共通点がある攻撃キャンペーンOperation Blotlessについて注意喚起を発出しました。

考察と示唆

このような重要インフラを標的とした長期的な潜伏活動は、前章で述べた日中関係の緊張状態に連動して活発化する可能性があることはもとより、潜伏や機密情報の窃取にとどまらず、実際の機能停止にまで踏み込むことも想定されます。

軍事的な側面での重要インフラに対するサイバー攻撃の効果は既に近年の事例で実証されています。ウクライナの電力施設を標的としたサイバー攻撃では、2015年12月にBlackEnergy 3とKillDiskが、2016年12月にIndustroyer(CRASHOVERRIDE)がそれぞれ用いられ、大規模停電が引き起こされました。

こうしたサイバー攻撃と物理的な軍事作戦を組み合わせた手法の効果が、過去の実際の戦争で実証されていることから、地政学的緊張が高まる局面では、関係国の重要インフラに対するサイバー攻撃のリスクも連動して上昇すると評価すべきです。

過去の国際事例を踏まえれば、こうした攻撃が社会・経済の混乱をもたらし得ることを前提に、インフラ事業者は備えを強化する必要があります。日本においても、電力・通信・交通・上下水道などの重要インフラが、地政学的な緊張に伴いサイバー攻撃の標的となるリスクは高まっており、日本のインフラ事業者にはこうしたリスクを想定した長期潜伏型攻撃への監視・検知体制の整備が求められます。

日本国内の世論分断または日本の国際的信用の低下を目的とした影響工作の増加

影響工作の実態と日本関連の事例

機密情報の窃取や重要インフラの機能停止を目的としたサイバー攻撃に引き続き警戒すべき一方で、日本国内の世論を分断することや、国際社会において外交的に優位な立場を得るために日本のレピュテーションを低下させることなどを意図した影響工作としての脅威アクターの活動にも注意を払う必要があります。

このような影響工作に関与していると言われる中国拠点の脅威アクターとして、PwCはRed Loke(別名:DRAGONBRIDGE、Spamouflage Dragon、Storm-1376)を追跡しています。同グループは、さまざまなソーシャルメディア上で偽情報を拡散しているとされています。一部の公開調査では、Red Lokeの活動が特定の国家機関と関連している可能性が指摘されていますが、その全容は依然として不明な点が多く残されています。

代表的な例として、2024年の台湾総統選挙では、与党・民主進歩党(DPP)の政治家をおとしめるための情報操作や、虚偽の汚職疑惑を流すことで選挙に影響を及ぼそうとした事案が挙げられます。また、フィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領への支持を弱めることを目的に、ディープフェイク動画を拡散した事案も報告されています。さらに、2022年の米国中間選挙では、国内の分断をあおり、有権者の投票意欲をそぐことを狙って活動した他、2024年の米大統領選挙も標的としていたとされています。

Red Lokeは、キャンペーンの実行にあたって多様な手口やツールを用いています。AI生成の画像や動画の活用、正規のソーシャルメディアアカウントになりすます行為、ニュース記事を盗用・改変して虚偽のストーリーとして流す行為などです。SNSプラットフォームが、主な発信・拡散の場となっています。また、現地の一般市民やインフルエンサーを装う架空の人物アカウントを大量に作成し、メッセージにもっともらしさや信頼性があるように見せかけるのも特徴です。具体的な例としては、政治家に対する偽造文書や根拠のない告発を大量に投稿してSNSを埋め尽くしたり、豪州・カナダ・米国のレアアース関連企業を標的にして評判を落とし、市場での立場を弱めようとしたりしているとされています。ただし、こうした広範な活動にもかかわらず、一般ユーザーからの実際の反応は限定的であり、多くのエンゲージメントは同一ネットワーク内の別の偽アカウント同士によるものとみられています。

日本に関連するものとしては、福島での原発処理水放出による環境破壊を非難する記事が2023年後半に生成されています。また、2025年11月下旬、Red Lokeと関係があるとされるブロガーが、高市首相による安全保障・防衛政策、核政策(非核三原則の見直し)を批判する内容を投稿していました。元米海軍関係者を名乗るこのブロガーは、日本の近年の安全保障政策を戦前の軍国主義やファシズムの再来と捉え、表向きは礼儀正しく平和的に見える日本社会の裏に、反米感情や十分に清算されていない戦争意識が潜んでいると主張していました。その上で、高市首相による台湾有事への軍事関与を示唆する発言や、防衛費の増額、非核三原則の見直しをめぐる議論を、東アジアの緊張を高める危険な動きだと批判しています。また、被爆者や一部の政治家がこうした動きに反対していることにも触れ、日本は過去の戦争犯罪を真剣に反省し、再び世界を不安定化させる軍事路線に進むべきではないといった内容を投稿しました。

考察と示唆

今後も日本では、安全保障・核・対中・対台湾政策をめぐる議論が続くと見込まれます。その中で、Red Lokeのようなアクターが特定の政治家や政策を標的にしたナラティブを大量に流し、世論分断や政府不信を増幅させるリスクは高いと考えられます。

処理水やレアアース企業に対する情報攻撃に見られるように、特定産業・企業を狙ったレピュテーション攻撃は、国際市場における信頼や取引関係にも影響し得ます。AI・ディープフェイクの活用により偽情報の見分けが難しくなる中、政府・企業・メディアには、自国・自組織をめぐるオンラインナラティブの常時モニタリング、偽情報の早期検知とファクトチェック、一貫した説明、SNSプラットフォームとの連携といった体制整備が求められます。

まとめ

中国拠点の脅威アクターによるサイバースパイ活動は、安全保障や先端技術などを重視する傾向を強めており、地政学的な色彩を帯びつつあることから、日本側の制裁対応や代替調達といった政策・戦略情報も今後は攻撃対象になるおそれがあります。さらに、重要インフラへのPre-Positioningは、有事の際に電力・通信・交通などを実際に停止させる攻撃へと発展する可能性も否定できません。影響工作についても、国内世論や国際社会における日本の評判を揺さぶる手段として高度化していくと見込まれます(図表14)。

図表14:中国拠点の脅威アクターによる複合的なサイバー攻撃

中国拠点の脅威アクターによる複合的なサイバー攻撃 ,

出所:PwC作成

これらのサイバー上の脅威は、地政学的な緊張と相まって複合的に顕在化する可能性があり、包括的な備えが求められます。日本の官民組織は、個別のサイバー対策にとどまらず、国家レベルの戦略の中で自らの役割と備えを再定義することは、今後の重要な課題となるでしょう。

主要メンバー

林 和洋

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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綾部 泰二

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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村上 純一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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佐高 迅

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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