欧米など一部で揺り戻しの動きがみられるものの、SSBJ基準に基づく有価証券報告書での情報開示が義務化されるなど、サステナビリティを重視するという大きなトレンドは変わりがありません。サステナビリティを単なるCSRの一環として捉えるケースは減少しつつある一方で、自社の戦略やビジネスモデルを踏まえ、積極的に価値創造に結び付けようと多くの日本企業が模索しています。
本稿では、企業の価値創造に影響を与える5つのサステナビリティ要因を特定したうえで、CFOやCOOがどの時間軸で何をすべきかについて提言しています。サステナビリティを通じて新たなビジネスチャンスを獲得し、企業価値経営を目指す日本企業にとって大きなヒントになりうると考えています。
※本コンテンツは、PwC Global『The sustainability factor: Mastering new drivers of value creation』を翻訳したものにPwC日本独自の内容を追加したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
企業は、成長を加速させコストを削減する方法を常に模索しています。不確実な時代においては、支えとなるアイデアをリーダーは必要とするため、その重要性はさらに高まります。だからこそ、先見性のある経営者は、AIや地政学と同じように、気候変動に起因する機会およびリスクを真剣に見極めているのです。サステナビリティ課題の財務的影響を掘り下げていくと、自社がどれだけの価値を得ることができるのか、その価値をどう実現するかが見えてきます。
どの企業にも、価値創造能力に影響を与える独自のサステナビリティ要素があります。どの要素が最も重要かを判断するには、慎重な検討が必要です。しかし、これは数カ月を要するものではありません。私たちが何百もの企業と協業した経験から、リーダー達は、バリュー・アット・リスク(リスクに晒されている資産)、規制、エネルギー戦略、サプライチェーン、税額控除と優遇措置という5つの相互に関連するトピックを考慮することで十分な機会を見出していることが明らかになっています。
重要なのは、これら5つのトピックは価値創造の推進力であり、意思決定プロセスに多くのデータを組み込むことで経営層が管理可能なものであるということです。技術の進歩により、AIアシスタントや使い勝手の良いリスクモデルなど、洞察を生み出す優れたツールが登場しています。また、報告要求事項により、多くの企業がサステナビリティ関連のデータを拡充せざるを得なくなっており、その結果、経営者は新たな情報を活用できるようになりました。
これら全てが、行動を起こす強力な根拠となります。以下では、ビジネス価値を推進するサステナビリティ要素について説明し、CFOやCOOがこれらの要素を意思決定に組み込む方法を紹介します。
サステナビリティ課題への実務的なアプローチは、現在どのような価値が存在しているかを理解するだけでなく、価値がどこへ、なぜ流れているのかを理解することから始まります。気候変動と、それに対応するための政府や企業の取り組みは、膨大なビジネス価値を動かし始めています。例えば、クリーンエネルギーのインフラを構築し、低炭素社会に向けてビジネスモデルを再構築するために、何兆米ドルもの資金が投じられていることを考えてみてください。また、災害への備えと復旧に向けて、何兆米ドルもの資金が投入されていることも考えてみてください。
こうした価値の流れは財務的影響をもたらすものであり、経営層はその影響の大きさを把握する必要があります。規制当局や投資家も、財務的影響とそれを管理する計画について企業が開示することを期待しています。
価値創造の推進力となりうる要因の多さに、最初は圧倒されるかもしれません。しかし、私たちは、クライアントとの協業を通じて、多くの企業に機会およびリスクをもたらす、密接に関連する5つの事項を特定しました。
多くの企業が、相互に関連する5つのサステナビリティトピックから重要な機会およびリスクを見出すことになるでしょう。
それぞれのサステナビリティトピックをクリックすると、ビジネスに与える影響についての説明が表示されます。
気候変動が企業にとってどのような意味を持つかを評価する際、リーダーは、エネルギー転換に注目しがちです。気候変動によって悪化する暴風雨、熱波、洪水、山火事などの気象ハザードがもたらす脅威に十分な注意を払うことはあまりありません。気象リスクは、企業にとって、差し迫った広範囲に及ぶリスクであり、また増大し続けています。そのため、競合他社が対策を講じる前に、事業活動のレジリエンス、特にサプライチェーンのレジリエンスを高めることで、企業は優位性を得ることができます。
この優位性は、回避コストを通じて巨大なビジネス価値をもたらす可能性があります。ある報告書によると、米国における気候災害に関連する支出(保険料、停電、復旧費用、保険でカバーされない損害)は、直近12カ月間で合計約1兆米ドルに達しています。2024年後半には、干ばつと高温による影響を受けるという懸念から、アラビカコーヒーとカカオの価格が過去最高値を記録し、食品飲料企業とその顧客は圧迫感を味わいました。
また、大気中に既に存在する過剰な炭素が物理的リスクを高めるため、近い将来、レジリエンスプレミアムは上昇する可能性が高いです。学術研究に基づくPwCの経済モデルによれば、気候変動による損害が原因で、2035年の世界経済は、気候変動がないと仮定した場合に比べて約7%縮小する可能性があります。経済的損失は企業の収益や企業価値の低下につながりますが、リスクに先手を打つ企業は、これには該当しません。
あるグローバルテクノロジー企業は、気候ハザードへのエクスポージャーを評価した結果、重大かつ増大し続ける財務リスクを特定しました。試算によると、もし2020年に被った洪水が2025年に発生していたとしたら、同社の保険金支払対象の損害額は最大で50%増加していた可能性があります。リーダーは現地の管理者に対して適応策を推奨しており、その多くは既に実施されているか、計画段階にあります。また、サプライチェーンの事業継続対策として、主要部品を複数のベンダーから調達可能とするように製品を設計するなど、さまざまな施策を行っています。
工場、設備、生産システムを供給するある企業では、今後5年間で気候ハザードによる資産の損傷や事業の中断により、一部の拠点で年間7,500万ユーロ(8,780万米ドル)の損失が発生する可能性があることが判明しました。主に洪水、海面上昇、熱帯低気圧によって引き起こされるこれらの損失は、その後もさらに増加する見込みです。この評価結果を受け、経営者は適応計画をアップデートし、拠点選定時には気候リスクの評価も考慮するようになりました。
サステナビリティをめぐる政治的論争はあるものの、多くの政府がクリーンで資源効率の高い、回復力ある経済成長を促進するための法律や規則を制定しています。これらの規制の多くは、企業の業績や貿易環境に直接的な影響を与えています。
重要な規制のひとつは、企業に対してサステナビリティ関連のリスクおよび機会、財務的影響、管理計画を開示することを求めています。EU、オーストラリア、シンガポールなどの法域で制定された法令により、多くの企業のリーダーシップチームは、これまで実施したことのない財務的マテリアリティ評価やその他の分析を求められるようになります。その結果として開示される情報は、経営層や投資家に新たなデータを提供し、ビジネス上の意思決定を行う際に活用できるでしょう。
政府はまた、企業に対してエネルギーの保全、廃棄物の防止、資源の再利用、汚染を抑制するためのコンプライアンス要件と金銭的罰則を設けています。例えばEUの炭素国境調整(CBAM)は、特定の輸入品に課される排出課徴金を5倍に増加させる可能性があります。これによりサプライチェーンや輸出市場が混乱する恐れがあります。
ある消費財メーカーは、パッケージの生産ラインを設置した直後に、主要な材料が2年以内に使用禁止になることを知りました。この規制により、同社は投資を減損するか、生産ラインの用途変更に追加費用を投じる必要が生じました。これを契機に、経営陣は、パッケージの構成や使用する材料、事業活動の環境フットプリントに関する意思決定に規制要因を組み込むことを決断しました。
急成長中のある食品企業では、サステナビリティ報告のプロセスを完了した後に、収集したデータからさらなる価値を引き出す方法を管理者は模索しました。データを慎重に分析したことで、廃棄物と電力消費の削減を通じて運営コストを低減できる機会があることが明らかになりました。
また、別の消費財メーカーでは、ラベル表示がサステナビリティ規制で定められた製品要件に違反していたという理由で、特定の商品の輸入が国境で差し止められました。このインシデントにより、経営者は、多くの企業が直面する問題に気づきました。それは、各部門の専門家が規制について知らされていなかったり、コンプライアンスの確保に協力するよう相談がされていなかったりする問題です。これに対応するため、経営者は、ワークショップを開催し、部門横断的な委員会を設置して対策を調整しました。さらに、新規制に関する情報を集約し、平易な言葉に整理して、ユーザーが自身の業務に関連する規制を特定できるよう支援するデジタルダッシュボードも構築しました。
政府の政策と市場原理が世界のエネルギーシステムを急速に変化させており、これにより従来からのビジネス慣行は混乱し、産業構造が再定義されています。データセンターの電力需要増などを背景に、エネルギー需要は増加の一途をたどっています。こうした需要の拡大と再生可能エネルギーの不均等な拡大が相まって、エネルギー供給は企業にとって不安定なものとなっており、価格変動リスクが生じています。
しかしながら、エネルギーとデジタル技術のイノベーションにより、企業は自ら発電を行い需要を最適化することで、エネルギー自立を達成するといった有益な動きも見られています。世界経済フォーラムとPwCの共同調査によれば、この技術により年間2兆米ドルのエネルギーコスト削減が実現可能です。既にこの機会を捉え始めた企業も存在し、供給の安定化、価格変動の回避、コスト削減、収益向上を実現しようとしています。
さらに、企業はエネルギーのイノベーションを活用して自社のあり方を再構築しています。Associated British Ports(ABP)の例を紹介します。同社は21の拠点を持ち、英国の海上貿易の4分の1を扱う企業です。それだけでなく、ABPは、クリーンエネルギー発電事業者に対する不動産賃貸も行っています。自社の敷地内で再生可能エネルギーを生産し、テナントへの販売も行っています。さらに、水素などの顧客が必要とするエネルギーソリューションに取り組むスタートアップ企業向けのアクセラレーターも運営しています。
あるグローバル食品飲料企業は、エネルギー集約型の建物システムや車両をアップグレードし、敷地内に太陽光発電を導入し、蓄電池システムを活用して送電網の電力フローを調整し、その他のエネルギー需要を管理することで、現在のエネルギーコストの約60%(年間約3億米ドル)を回収することを可能としました。
東南アジアのある企業では、約2,000の拠点においてエネルギー効率を向上させ、太陽光パネル、蓄電池、電気自動車の充電設備を導入することで、エネルギー関連のEBITDAを約80%増加させることが可能なことが判明しました。
物理リスク、規制、エネルギー問題は、企業の経済活動全体に影響を及ぼします。つまり、各企業のサプライヤーにも影響が及ぶのです。多くのCOOがこのプレッシャーを認識しており、PwCの調査対象者の40%超が、今後1~2年以内に深刻な混乱やサステナビリティ関連のコンプライアンス要件が自社のサプライチェーンに大きな影響を与えると予想しています。
注意深いCOOであっても、一部の法令により課される義務の広範さに驚かされることがあります。例えば、EUの「コーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)」および「欧州森林破壊防止規則(EUDR)」では、大企業は自社ならびに子会社およびビジネスパートナーの事業活動における環境への悪影響を特定し、防止し、軽減する義務を負います。CSDDDのコンプライアンス違反に対する罰則は、年間売上高の最大5%の罰金に加えて公的契約から除外されるなど、厳しいものとなる可能性があります。
気象リスクとエネルギーコストも注視する必要があります。半導体サプライチェーンの気象リスクに関するPwCの調査では、リスクの大きい銅の供給に依存するチップ製造の割合が、現在の7%から2035年には約3分の1にまで上昇する可能性があることが分かり、脅威が増大していることが明らかになりました。
英国のある食品小売業者を対象とした最近の調査では、サプライチェーンの透明性を高め、消費期限が近い商品を割引するダイナミックプライシング(動的価格設定)を導入した場合、売上高が2~5%増加する可能性が示されました。また、食品廃棄物の削減(小売段階では最大75%、生産・加工段階では25%)や輸送・在庫コストの最適化により、利益率の向上も期待できます。
ある多国籍小売企業は、アジアからの輸入品がドイツのサプライチェーンデューディリジェンス法(LkSG、現在は廃止)に準拠しない場合、最大15億ユーロ(18億米ドル)の罰金を支払う可能性があると試算しました。リスク軽減のため、同社は既存のプロセスと法的要件のギャップを特定し、サプライヤー向けガイドラインを策定し、サプライチェーン管理プログラムに新たなプロセスを追加しました。
サステナビリティに関連する多くの機会およびリスクに直面する企業は、成長とレジリエンスを促進する投資を行う必要があります。こうした状況においては、税額控除と優遇措置を把握しておくことが役立ちます。中国、EU、インド、米国は、この10年間でクリーンエネルギー支援に数兆米ドルを投じると予想されています。こうした支出は既に新技術のコスト削減や資本プロジェクトのリスク低減に貢献しています。このような資金源を活用する企業は、コスト面での優位性を獲得し、イノベーションを加速させることが可能です。
あるグローバルなセメントメーカーは、約15億米ドルの資本コストを投じて、排出量を大幅に削減することによる工場の近代化を検討していました。その一環として、燃料資源の転換や、二酸化炭素回収・貯留(CCS)が計画されていました。政府の優遇措置や資金援助の有無によりコストシナリオを比較した結果、想定するプロジェクト費用の半分を優遇措置で賄えることが判明しました。
ある多国籍貯蔵タンク企業は、世界有数の港湾の一つにおいて、水素の輸送・貯蔵インフラを開発するという意欲的な計画を策定しました。3億ユーロ(3億5,000万米ドル)超の投資を必要とするこのプロジェクトは、当初、水素需要と技術開発に関する不確実性から、説得力に欠けるように思われました。しかし、設備投資額の約3分の1に相当する政府補助金を得たことで、同社とそのビジネスパートナーは、プロジェクト遂行可能な水準にまで、リスクと収益性のプロファイルを改善することができました。
ビジネス上の意思決定にサステナビリティ要素を組み込むことで創造される価値は極めて大きく、CFOやCOOは、ステークホルダーに対する責任として、直ちに取り組みを開始する必要があります。その取り組みの中には、急速に進められ短期間で利益をもたらすものもあれば、より長い時間を要するものもあります。以下では、成功しているCFOやCOOが1カ月、1四半期、1年という時間軸で達成してきた実績に基づき、取り組みを開始する方法についてのアイデアをいくつか紹介します。
1カ月:
マテリアリティのマッピング。最初に、CFOは自社のサステナビリティ関連のリスクおよび機会を特定し、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の項目と関連付ける必要があります。これにより作成されるマテリアリティマップは、CFOだけでなく、自身の責任領域に関連する考慮事項は何かを把握する必要がある他の役員の指針ともなります。
徹底的なマテリアリティ評価には時間がかかりますし、ビジネス環境の変化を反映するためのアップデートも必要となります。しかし、CFOは、通常1~2週間でサステナビリティ要素の価値を評価しているM&A実務者が用いるデューディリジェンス手法を活用することで、マテリアリティ評価の優れた初稿を作成することができます。このアプローチでは、入手可能な企業データを収集し、業界ベンチマークで補完し、セクター特化型のマテリアリティフレームワークに情報をプロットします。
1四半期:
戦略のストレステスト。CFOは強固なビジネスモデルの構築において不可欠な役割を担っており、資本配分に関する意思決定に財務データと非財務データを組み合わせて活用しています。しかし、私たちが把握している限りでは、気候政策、エネルギー移行、異常気象といった異なるシナリオ下で財務予測のストレステストを実施しているCFOはほとんどいません。ただし、金融セクターは、この点において例外です。欧州中央銀行は数年前から大手銀行に気候ストレステストの実施を義務付けており、米連邦準備制度も2024年に6つの金融機関でパイロットプログラムを実施しました。大手金融機関はもちろん、中規模金融機関においても、気候リスクチームを設置し、融資・保険契約・投資案件の審査を行っています。
こうしたストレステストの手法は、全てのCFOがCEOや取締役会に対して的確な戦略的ガイダンスを提供する上で役に立つでしょう。例えば、あるグローバルエネルギー企業は、石炭発電から再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、天然ガスへのシフトについて投資家からの質問を受けて初めて、最初のストレステストを実施しました。分析の結果、同社がポートフォリオを再構築すれば、やがて炭素価格による財務リスクへのエクスポージャーは限定的なものとなり、暴風雨、洪水、山火事などの物理的ハザードへのエクスポージャーも減少することが示されました。また、同社の全事業部門において強い成長の可能性が示唆されました。
1年:
データスタックの構築。サステナビリティを意思決定に組み込むためには、企業のスピード感に合ったペースでデータを提供できる技術システムが必要です。CFOとCIOは、こうしたシステム構築において当然ながら協力関係にあります。両者が協力することで、必要なデータは何かを明確にし、企業システムが適切な機能を果たしているかを確認できます。また、サステナビリティ関連のデータガバナンスが十分であるかも確認が必要です。具体的には、データの完全性と正確性を確認するための内部統制を設計し、技術システムに統制を組み込むとともに、データを監視するスタッフを訓練することが必要です。
ある製薬会社の状況はその典型的な例でした。同社では、サステナビリティ関連のデータの収集、計算、結果出力を手作業で行っていました。業績ダッシュボードはサイロ化されていることが多く、企業全体を俯瞰できる経営層向けの視点を提供していませんでした。一連のステークホルダー向けワークショップを経て、CFOは、ビジネスに必要なデータ要件を明確にし、ガバナンス基準を定義し、統制プロセスを確立しました。その後、社内の技術を活用してデータの収集・分析を自動化し、報告をスピードアップしました。排出量データの年次報告から月次報告への飛躍的移行を含め、著しい改善が期待されています。
1カ月:
物理リスクの精査。COOの最初のステップは、事業リスクの全体像を把握することです。そうしなければ、機会を追求するどころか、混乱に巻き込まれる可能性があります。リスクを特定する作業は、多くのオペレーションチームにとって相当な負担になるでしょう。CEOに対するPwCの調査によると、気候リスクを財務計画に組み込み、物理的資産や労働力を気候の脅威から保護する計画を開始または完了している企業は半数に満たない状況です。
幸いなことに、多くの組織が、リスクを評価し、サイバー攻撃や健康危機などの事象に備えるための全社的な事業継続プログラムを有しています。COOが主要拠点の気象リスクへのエクスポージャーと脆弱性を理解し、そしてリスクにさらされているビジネス価値を理解すれば、気候リスクに対応するために事業継続対策を拡充することが可能となります。
1四半期:
エネルギー戦略の策定。化学メーカーや鉄鋼メーカーなど、エネルギー集約型の事業を展開する組織の中には、コスト削減を意識して、かねてよりエネルギー効率の向上に取り組んできたところもあります。現在では、より多くの組織がコスト削減のみならず、エネルギー需要を自ら管理することで価値を創出しています。機会は企業の事業活動やサプライチェーン全体に広がっている可能性があるため、COOは、この取り組みを主導するのに最も適した立場にあります。
最大の利益を実現する鍵は、大きな視野を持つことです。あらゆる資産をエネルギー価値の源泉として捉えることで機会が見出せます。例えば、工場設備のような明らかな資産もあれば、太陽光パネルを設置して静かに電力を生み出せる屋根や農地など、一見して分かりにくい資産もあります。機会を特定した後は、個別の取り組みを断片的に進めるのではなく、需要サイドの補完的な取り組みをポートフォリオとしてまとめることで、企業はより大きな価値を創造できます。例えば、エネルギーセンサーや制御装置を取り付ける場合、電力価格の変動に連動してエネルギー消費を調整する機能を追加することで、より大きな効果を得られます。
1年:
サプライチェーンの見直し。多くのCOOにとって、2025年の関税をめぐる混乱は、サプライチェーンにおける製品および材料、ベンダー、立地を見直す契機となりました。貿易の動向をきっかけに、サプライヤーネットワークには目に見えないリスクと機会が蓄積し得ることを再認識し、貿易政策以外の要素にも目を向けることを選択した企業もあります。これは、厳しい気象条件や規制上の制裁によって失われる可能性のある価値を考慮すると、全てのCOOに推奨したい取り組みです。調達プログラムを新たに検討することで、使用済み材料から「循環型」製品を製造する可能性など、投入コストの削減と収益成長の促進につながる機会も明らかになるかもしれません。
その他の有効な取り組みとしては、調達要件の見直しや、サプライヤーと協働してビジネス価値を生み出す事項に取り組むことが挙げられます。ある多国籍製薬会社が特に注目していたのは、サプライチェーンにおける熱利用の問題でした。これは膨大なエネルギー消費と排出を引き起こしていました。エンジニアリングやサプライチェーンの専門家の支援を得て、同社は、熱利用が多い場所を突き止め、代替プロセスや技術を特定し、同社とそのサプライヤーに最大の効果をもたらす熱削減の機会をマッピングしました。分析の結果、2030年までに熱関連排出量を40~70%削減できる可能性が示され、同社はその後、サプライヤーと協力して改善に取り組んでいます。
気候変動に伴う物理リスク、公共政策、業界のシフトは、ビジネス価値に影響を及ぼすものであり、上位の経営層の注目に値するものです。これらの考慮事項を経営プロセスに組み込むリーダーは、競合他社がリスクに苦しむ中、自社を優位な立場に置くことができます。より優れたツールとデータが利用できる今こそ、企業が積極的に価値創造へと明確にシフトすべき時です。