【開催報告】

成功確率0.3%でも諦めない―新規事業開発をワークショップで終わらせないために。AIエージェント元年に見る事業開発の在り方

  • 2026-03-17

多くのCEOが「既存のビジネスモデルは10年続かない」と危惧する中、新規事業開発への期待は一段と高まっています。こうした企業の新規事業開発における推進プロセスで抱える悩みの解決に向けて、PwCコンサルティング合同会社は2026年2月3日に「成功確率0.3%でも諦めない―新規事業開発をワークショップで終わらせないために。AIエージェント元年に見る事業開発の在り方」というテーマでウェビナーを開催しました。本ウェビナーでは、AI技術を用いた未来シナリオの策定をはじめ、新規事業開発推進のための最新トレンドや、具体的なノウハウを紹介しました。

(左から)萩原 一樹、三山 功

セッション1:分かっていてもやりがち。新規事業開発の失敗パターン8選

セッション1では、PwCコンサルティング フロントオフィス&エクスペリエンス事業部のパートナー 萩原 一樹と、同ストラテジーコンサルティング事業部 Future Design Labのパートナー 三山 功が、新規事業開発の必要性とよくある失敗パターン8選を紹介しました。

まず両者は、本ウェビナーで新規事業開発に焦点を当てる理由を共有しました。

三山は、既存事業の延長線上では新規事業の種が生まれにくく、仮に生まれても大きく育たないケースが多いと指摘。その上で、Future Design Labでは既存事業の延長線を超えた未来を描き、大きなパラダイムシフトに備えて新規事業を仕掛ける議論が増えていると語りました。

萩原は、2000年以降Fortune Global 500企業の52%が倒産・買収・撤退を経験し、S&P 500企業の平均年齢も1980年の37年から現在は17年に短縮している事実を紹介(2023年PwC調査)。企業の栄枯盛衰のサイクルが極めて速くなり、既存のビジネスモデルが10年続かないと危惧するCEOはグローバルで約45%、日本では70%にのぼるとし、産業構造の価値変化と競争激化の中で、事業構造の変革が不可欠になっていると強調しました。

「事業構造を変革しなければ生き残りが難しい時代になってきています。産業構造の価値変化が起こり、競争環境が激化していく中、経営層は未来を読み解きながらリインベンションにチャレンジする必要があります」(萩原)

萩原は次に、不確実性の高い事業環境で存続し得るビジネスモデルを検討するには5~10年先を見据えた複数のシナリオを見極めることが重要だと説明。ビジネスモデル再発明のドライバーとして、ディスラプター(創造的破壊者)、産業構造の変化、イノベーション、市場の停滞・下降の4つを示しました。

とりわけ本ウェビナーでは、既存の市場や業界の常識にとらわれずビジネスモデルを根本から覆すディスラプターに注目し、そのメカニズムをローエンド型、新市場型に類型化して解説しました。

「顧客の期待値を超え過ぎたプロダクトが、より低価格を実現できた後発プレーヤーに市場を奪われる現象をローエンド型と呼びます。代表例には格安航空会社やオンライン銀行・証券の市場参入があります。一方の新市場型は、同業界であっても、従来の顧客の期待値とは別の期待値を顕在化させて新たな価値を提供するプレーヤーが市場を奪う現象です。モバイル配車サービスや、ポイント投資・自動運用などが同類型に属します」(萩原)

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 萩原 一樹

なお、PwCコンサルティングが2025年に実施した約1,000社を対象とする独自アンケートでは、約60%の企業が「新規事業への取り組みが拡大傾向にある」と回答する一方で、投資回収まで達したケースは約20%、主力事業化したケースは10%未満にとどまっています(図表1)。

図表1:(企業別)新規事業案件の推進度

この低い成功率の背景を探るべく、新規事業開発を推進する際のよくある失敗パターン8選として、以下をキーワードに紹介しました。

  1. 社内調整のハードルで挫折
  2. 顧客課題<自社都合
  3. 新規事業っぽい活動自体が目的
  4. とりあえずPoC(概念実証)
  5. 経営からの支援が途中で途切れる
  6. 兼業の中でモチベーションが継続しない
  7. ステークホルダーとの調整コストが高い
  8. 事業化したが放置気味

萩原は、全ての項目が現場で散見されるとし、中でも自社目線で新規事業を設計してしまう「顧客課題<自社都合」は多くの企業が陥りがちな失敗だと指摘しました。また新規事業に関しては社内も決して一枚岩ではないため、部門ごとの利害関係衝突や一部門の事情を優先し過ぎる失敗も起こり得るとしました。

「PoCを行いさえすれば検証が済むという誤解や、新規事業自体が目的化するケースもありがちです。またゼロからイチを生んだはよいが、スケールせずに放置気味という失敗も多くの企業に共通しています」(萩原)

非連続で不確実性が高く、変化の度合いが大きなイノベーションに取り組むことが多い三山は、「経営からの支援が途中で途切れる」「兼業の中でモチベーションが継続しない」などの失敗について特に注目しているとしました。これらは、いわゆるイノベーションガバナンスと関連した領域です。

「新しいことを生み出す際には、能力や勢いに加えて特有のガバナンスが必須となります。例えば、同領域のイシューの一つに資源配分があります。本業に近い領域、近接領域、そして新規事業や非連続性が高い領域のイノベーションにおける資源配分は、一般的に6対3対1だとされています。しかし、多くの企業においては資源配分のコンセンサスが取れていないため、経営が苦しくなると明日の飯の種にならない非連続性が高い領域に対する投資をすぐにカットしてしまう傾向があります。新しいものを生み出し切るためには、ガバナンスをしっかり構築した上で営みを始めることがとても大事です」(三山)

セッション2:失敗から学ぶ、ワークショップを「付箋アイデア」で終わらせないための取り組み

セッション2では新規事業開発の推進アプローチ例を紹介しました(図表2)。まず萩原が「未来創造・予測」について説明しました。

図表2:新規事業開発の推進アプローチ

「未来創造・予測」は、ディスラプターやイノベーション要素を含め、将来的に産業価値がどう変化していくかアイディエーションと推察を重ねる段階です。

仮に良いアイデアが生まれても、新規事業が具体化していかなければ意味がありません。またアイデアを妄信して力技で事業を進めると、経営全般にリスクが生じます。萩原は、新規事業開発を次のようなサイクルで推進すべきだと指摘しました。

  • 市場環境・顧客の分析
  • ポートフォリオ設計
  • オーガニック/インオーガニック戦略
  • ビジネスモデル設計
  • オペレーション設計
  • プロダクト開発・運営
  • 組織・人材設計

「アイディエーションの後は、市場環境や顧客分析などの検証フェーズとなります。一般的な外部環境であるマーケットの状況や内部環境、自社と競合の分析、顧客需要などをさまざまな角度から検証する段階です。次に事業変革の方向性設定や、既存事業との関係性・シナジー分析を含めたポートフォリオ設計および再定義があります。またアイデアを実現するためには、ケイパビリティが欠かせません。それを育成するのか、M&Aによって獲得するかなどの戦略を構築するフェーズも必要になるでしょう。その後、ビジネスモデルの設計やオペレーション設計、プロダクトの開発・運営、組織・人材設計などのプロセスで進めていくことになります」(萩原)

萩原は新規事業開発の推進アプローチのプロセスの中でも、未来創造・予測や市場環境・顧客の分析、ポートフォリオ設計が特に失敗に陥りやすいと指摘しました。

事業創造を行う上でのアイディエーションにはさまざまな方法論がありますが、ビジネスモデルそのものの変革は難易度も高く、まず何がビジネスモデルの再発明に当たるのか、関係者でしっかり理解してからスタートすることが重要です。また未来シナリオを複数予測し、それらを活用しながら自社のミッションステートメントとロードマップを策定していく流れが、「未来創造・予測」およびアイディエーションの基本となります。

三山は、未来シナリオの作成や想定した未来とのギャップの洗い出し、ギャップ解消のためのイノベーションポートフォリオの設計は非常に難易度が高く、人の手だけでゼロから用意するにはおおよそ3~6カ月を要すると説明しました。

そのリードタイムを短縮するため、Future Design Labでは2025年夏から未来シナリオ策定にAIエージェントを活用するプロジェクトを開始しました。現在は11のエージェントを同時に稼働させることで、未来シナリオの初期仮説を数分から十数分でアウトプットできるようになっています。

「新規事業を検討するにあたり、試行回数を増やして議論やアイデアの質を高めるという意味で、近い将来AIエージェント活用は必須要件になるでしょう。PwCコンサルティングではすでに、未来シナリオの策定プロセスにおいてAIに重きを置きはじめています。今後はプロダクトのフィードバックとブラッシュアップにおいてもAI活用を進め、フルスタック性の高いデザイナーなどと組み合わせて高速でイノベーションを生み出していく計画です」(三山)

萩原は、未来シナリオ策定におけるAI活用事例を踏まえた上で、新規事業開発の失敗を回避する方法について言及しました。

「AIを活用することでアイディエーションの時間が短縮されると、実装までの時間も早まる傾向があります。例えば、アイデアをベースに、消費者に対するアンケートや需要調査が完了した段階ですぐに実装をスタートしてしまうケースです。あるいは、一定程度の構想策定を行いすぐに要件定義に入ることもあります」(萩原)

一方で萩原は、PoCさえ実施すればアイデアを検証できるという考えは誤解であるとして、PoCはあくまで実現性を局所的に確認する手段に過ぎず、ニーズや事業性の検証ときめ細やかな答え合わせが必要になると言います。その上で、アイデア構想から実装に移る前に、MVP(Minimum Viable Product)を用いた検証フェーズを必ず挟むべきであると強調しました。そして「ニーズの検証」「実現性の検証」「事業性の検証」に分けて論点を整理し、新たなビジネスを成功に導くための15の論点を紹介しました(図表3)。

図表3:新たなビジネスを成功に導くための15の論点

新たな事業を成功に導くためには、事業のミッションや目的をしっかりと描くことや、消費者のペインポイントを事前に調べることが重要となります。また自社が新規事業に取り組む理由についても、明確な答えが必要です。

「競争環境の中で、いかにして自社の差別化要素を訴求していけるかも見極めるべきです。また、新たな価値を実現するためのパートナーやエコシステムの把握、法規制などアイデアを実現する上でのリスク調査、推進体制やガバナンスの状況確認、投資対効果や持続可能性・サステナビリティの検討など、多様な観点から議論を行う必要があります。15項目の論点に関する答え合わせも、AIを活用することで迅速に進めていくことができます。論点を議論せず実装に走るのではなく、しっかりと取り組みの中に入れていただきたいと思います」(萩原)

萩原はさらに、15の論点を検証した上で対応が不十分な場合に試行錯誤を繰り返すことが大事だと言及する一方、どうしてもダメな場合には早期に見切りをつけることも重要だと話しました。

「進みすぎて後戻りできない状態に陥るよりは、しっかり検証し一度立ち止まることが大事です。また技術的な要素であれば、それら情報をしっかりとデータベースに蓄積しておくことで、定期的にポートフォリオの見直しや新しいアイディエーションに活用できます。仮に現在の技術や市場環境では実現が難しかったとしても、将来的な構造変化に対応する種になり得るでしょう。またこれらデータをAIツールに取り込むことで、答え合わせがより迅速になっていきます」(萩原)

セッション3:PwCの取り組み事例

セッション3では、PwCコンサルティングによる新規事業開発支援の事例として、電力業界における未来シナリオ策定と新規事業のスケール支援、メディア・製造業分野でのアイディエーションおよびロードマップ策定支援、食品業界でのアイデア実現に向けた検証支援など、複数のプロジェクト事例を取り上げました。

またPwCコンサルティングはこうした取り組みの中で、アセスメントやスキーム構築・ルールメイク、ブランドロゴやプロトタイプ作成などを通じてクライアントの新規事業立ち上げを支援するとともに、近年は調査や初期の仮説策定にAIを活用し、アイデアのブラッシュアップや社内議論の活性化を図っています。

萩原は最後にMVPの重要性に再度触れ、ゼロからイチを生み出した後に、10~100に成長させていく営みが大事だと話しました。また単に新しいビジネスを始めるのではなく、個々の事業のつながりを意識しシナジーを生み出していくことが望ましく、そのためにはデータをしっかり統合していく必要性があると強調しました。

三山は、人間の意思決定、行動、理解が新規事業のボトルネックになりかねない時代において、イノベーションの生み出し方やプロセスは再考される必要があるとして自身の考えを述べました。

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 三山 功

「AIを使えば膨大な数のシミュレーションが可能となり、その時間も短縮できます。高速でアイデアやプロトタイプが生み出せてしまうからこそ、その中から何を選ぶべきか人間の審美眼が問われるはずです。またアイデアを最終プロダクトの品質まで高めていく際には、人間力そのものが求められる気がします。人間の良いところとAIの良いところを両取りして、いかに最速で素晴らしい品質の新規事業やイノベーションを生み出せるか。私たち自身がその観点を突き詰め、クライアントに新しい提案をしていくべきだと感じています」(三山)

技術の進展に伴い、コンサルタントによる支援の在り方も絶えず変化しています。PwCコンサルティングはこれからもオファリングの精度向上に努め、新規事業開発に関するクライアントの課題解決を継続的に支援します。

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主要メンバー

萩原 一樹

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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三山 功

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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