企業価値向上を見据えた未財務資本と企業価値との架け橋

  • 2026-10-01

企業価値の最大化に資するサステナビリティ開示の歩き方とは

前回2月号では、サステナビリティ経営を企業価値向上に結びつけるための核心として「未財務要素の定量化」を取り上げ、その重要性と実践の方向性を、幾多ある定量化モデルから1つを例に、先行事例の取り組みを交えて解説した。未財務情報の開示義務化の流れは、単なる情報公開に留まらず、企業の中長期的な利益成長や事業リスク低減に資する活動を投資家が評価する時代の到来を意味している。幾多の定量化モデルから自社にとって最適なモデルの組み合わせを選択することには深い議論を要するが、財務指標があくまでも結果であり、「価値創造の源泉」は「氷山モデル」における水面下の未財務要素にあることを踏まえると、これらを定量化し、説明性を担保することは、サステナビリティ経営の成否を分ける分水嶺であることに議論の余地はないだろう。

そこで、本稿では、8月号、11月号および2月号に続く「サステナビリティ開示の歩き方第4弾」として、2月号で解説した「未財務要素の定量化」に関する先行事例の取り組みについて、より具体的に他社がどのような施策を実施しているのかを、先進的な取り組みのモデルケースを用いて紹介したい。この際、「脱・人事のための人的資本経営」「未財務要素を用いた投資管理」という2種類のキーワードで事例を読み解き、読者が具体的なアクションに着手可能な状態に至ることを目指して解説する。

未財務資本と企業価値を連動させる「定量化」

本誌の読者にとっては、サステナビリティを企業価値向上に繋げる上で、財務要素(経済的価値)だけでなく、未財務要素(社会的価値)の貢献が不可欠であることは自明であろう。11月号および2月号で「氷山モデル」を用いて解説したとおり、企業価値の向上は、企業価値の構成要素のうち「事業戦略」や資本政策などの「財務戦略」、収益性、効率性、投資・配当、資金調達などの「それらに付随する財務的成果」のみで実現されるものではない。これは、財務指標群が「結果として可視化される指標」に過ぎず、「企業価値を向上させるために必要な活動」には、単に「これらの指標を改善する活動」だけではなく、その背景にある「多様な戦略要素に関わる活動」が不可欠だからである。言い換えれば、「環境への取り組みや人的資本への投資、ガバナンス体制の有効性」を筆頭とした未財務領域への取り組みは、企業の中長期的な利益成長および事業リスク低減に貢献し得る、ということだ。2027年から時価総額に応じて段階的にサステナビリティ開示が「任意開示」から「法令開示」に変化している背景には、これらの認識が関係しているともいえるだろう。

図表1:企業価値の構成要素全体像(氷山モデル)

企業価値の構成要素全体像 (氷山モデル)

では、企業の各部門の課題意識はどうだろうか。

PwC Japanグループ(以下、PwC Japan)が2026年2月に公表した「持続的な成長と企業価値向上に向けたCFO意識調査2025年版」の結果では、国内上場企業を中心とした141社のCFO(最高財務責任者)もしくはCFOに準ずる職責者に「自社の成長に向けた無形資産への投資において主にどのような課題を認識しているか」を問うたところ、52%が「標準化された公式なレビュープロセスが存在しない」、50%が「投資効果の測定ができない」と回答している。つまり、経営企画・財務部門目線では、未財務資本の戦略効果を測定する共通言語がないために、未財務戦略に対するフォローが不足、要するに戦略への組み込みや投資判断に至っていない点を課題認識していることが読み取れる。

図表2:経営企画・財務部門の無形資産投資に対する課題意識

経営企画・財務部門の無形資産投資に対する課題意識 ,

また、人事部門でも同様の課題を認識していることが、PwCコンサルティング合同会社が2025年2月に実施した調査「国内企業における人的資本情報開示の最新トレンド」(対象:2024年12月時点で日経225を構成する国内企業225社)からも現れている。同調査では、人的資本情報開示の成熟度について、「人事施策と事業戦略・財務指標との連動性」「人的資本の価値を高めるアクションへの言及の十分性」の2つの軸を用いた4つの分類で構成するPwCコンサルティング独自のフレームワークに基づき測定している。

図表3:人的資本開示の成熟度を示す4分類

人的資本開示の成熟度を示す4分類 ,

図表4:国内企業の人的資本開示成熟度

国内企業の人的資本開示成熟度 ,

2017年には、「義務対応型もしくは開示なし」が35.6%、「施策紹介型」が54.4%だったのに対して、2021年には、「人材版伊藤レポート」が2020年に公開されたことなどによる関心の高まりを受け開示の幅と深さが拡大し、「施策紹介型」が74.4%に増加した。さらに、2024年には、企業価値向上や事業戦略と人的資本の連動に取り組んでいることを示す「統合型」が2021年の17.8%から、53.8%に増加している。人的資本への取り組みと事業戦略との関係を明示し、人的資本の拡充に向けた取り組みや関連データを広く・深く開示している「統合型」の割合は、2021年まで約4分の3を占めていた「施策紹介型」からの遷移が進み、大幅に増加しているのだ。この背景には、2023年に有価証券報告書における人的資本の開示が義務化されたことなどが影響していると考えられる。ここから、国内企業の開示のステージ・課題が「開示の幅と深さの拡大」から「企業価値・事業戦略と人的資本の連動」に移行していることがうかがえる。

反面、依然として「施策紹介型」に位置する企業も41.8%を占めており、「未財務資本の戦略効果を測定する共通言語がない」ことで、人的資本経営が企業価値向上と連動しない「人事のための人的資本経営」に留まっていることも足許の課題といえる。如何に「統合型」に遷移するかが、人的資本経営を推進する上での主たる課題認識である、ともいえよう。

また、2025年3月11日に年金積立金管理運用独立行政法人が公表した『GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」』によれば、国内企業の開示に対して、投資家は、「自社の競争優位性および資本がどのように価値創造プロセスに貢献するかを定量的に示すべき」や「事業との関連性を説明し、なぜ未財務を開示する要請が投資家からあるのかを考えるべき」という声を挙げている。さらに、PwCコンサルティングが投資家にヒアリングした内容では、「企業価値に繋げるための目標値を設定し、目標達成を通じて自社の組織や組織文化をどのように変えるかを語るべき」という声が出ている。これらのことからも、未財務資本に対して、「価値創出・事業との繋がり」を強化することが本質的なサステナビリティ経営の実現には不可欠であるといえる。

2026年1月に内閣官房、金融庁、経済産業省が「投資家の期待に応えるための人的資本開示」と題して、「経営戦略の実現・財務指標との繋がり」へのフォーカスを目的に「人的資本可視化指針」の改訂に着手し、2026年3月23日に改訂結果が公表されたことも、人事部門目線では、「人事のための人的資本経営」ではなく、経営戦略と人材戦略を連動させて、企業価値に対する定量的な繋がりを示した「脱・人事のための人的資本経営」の必要性が高まっている証左だと読み取れよう。

このように、経営企画・財務部門においても、人事部門においても、「未財務資本の戦略効果を測定する共通言語」としての「定量化」の重要性は高まっている。これこそが、前回2月号において、『企業価値向上を見据えた「未財務価値の定量化」のすゝめ』と題して、先行企業が初手として採用している「未財務価値の定量化」に焦点を当て先行事例を解説した所以である。

人的資本と企業価値を連動させた「脱・人事のための人的資本経営」

では、これらの背景を踏まえて、先行企業ではより具体的にどのような取り組みに着手しているのだろうか。本稿では複数の実践例をもとに構成したモデルケースに基づき、実務上の知見を2例を用いて紹介する。

中計策定時期だったA社は、中期経営計画の骨子に財務資本だけでなく未財務資本を加えるべく、「未財務資本の強化」を試みていたが、経営企画部門と人事部門では「企業価値との繋がり」と「部門間連携」「データに基づく効果検証」に関する課題を抱えていた。

図表5:事例企業A社における課題認識

事例企業A社における課題認識 ,

A社の経営企画部門では、PwC Japanが実施したCFO意識調査での結果と同様に、企業価値向上における未財務戦略の位置付けが不明瞭であり、未財務戦略と全社戦略の連動を説明できていないことに課題を感じていた。結果として、未財務投資に対する回収見込みを算段できずに、未財務投資を「コスト」として捉えざるを得ない状況に陥っていた。未財務要素の取り組みは「コスト先行」となる傾向がある故、定量的な証明なきままに活動状況を開示するだけでは、投資家は活動を「コスト要因」としてネガティブに評価する可能性すら生じ得るが、まさにこの点を課題認識していた、といえる。

また、人事部門では、人的資本インパクトパス自体は従前から検討していたものの、インパクトパスの終着地たる「目的変数」が「企業価値」ではなかったため、人事部門に閉じた検討になっており、人事部門での検討成果が事業部門の問題解決に十分に貢献しているといえる状態には至っていなかった。加えて、経営層や他部門、投資家から「何を実現するための人事施策か」と問われた際に明確な回答を用意できていない状態にあったことからも、まさに「人的資本経営」が「人事のための人的資本経営」に留まっていた。

これらの状況に対して、A社の経営企画部門では、PwC Japanが実施した前述のCFO意識調査の結果をアクション検討のヒントとして活用している。同調査では、「企業価値向上に向けて効果的に無形資産への投資を行うにあたり、今後取り組む予定、または、取り組む必要があると思うものはどれですか」という問いに対して、CFOもしくは経営企画・財務部門が、「無形資産投資」に向けて、企業価値との連携の可視化や投資効果の測定手法の確立を進めており、「価値向上にどう繋げるか」という取り組みを加速させている姿が示されている。

図表6:経営企画・財務部門の無形資産投資に対する対応の方向性

経営企画・財務部門の無形資産投資に対する対応の方向性 ,

また、人事部門では、先行企業の取り組みをアクション検討のヒントとして活用している。前述の調査では、「統合型」が増加傾向にあることが明らかになったが、その内実には大きな濃淡があり、「統合型」に分類された企業のうち、人的資本の注力テーマから企業価値・財務指標・事業戦略に至る経路まで明示できている「パス明示型」は、わずか5.8%に留まっている。残る企業の多くは、人的資本テーマとアウトカムは並べているものの、両者を繋ぐ因果の構造までは示しきれていない。そこで、人的資本投資・施策から企業価値までの経路を開示し、人的資本の注力テーマとそれによる人的資本の変化とアウトカム(企業価値/財務指標/事業戦略)への影響関係を明示(何を意図した取り組みかを明示)することで、連動性の可視化を試みる企業が登場しつつあることに着目している。

図表7:人的資本と企業価値の連動性を明示している企業割合

人的資本と企業価値の連動性を明示している企業割合 ,


これらのヒントを活用して、A社では、「人的資本に閉じない、企業価値・未来志向の人的資本インパクトパス」の作成に着手し、「データによる繋がりの検証を活用すれば企業価値と連動した人的資本経営に至り得る」と考え、「脱・人事のための人的資本経営」を標榜したアクションに着手した。その結果、「企業価値向上のために重要な人的資本」や中長期戦略をもとに自社が目指す「人的資本の状態」を定義し、企業価値に与えるインパクトまでを経営企画部門とともに未来志向で可視化することに成功している。

 

図表8:企業価値・未来志向の人的資本インパクトパス

企業価値・未来志向の人的資本インパクトパス ,

図表9:「脱・人事のための人的資本経営」の実践例

「脱・人事のための人的資本経営」の実践例 ,

この過程では、2月号で解説した「投資家視点」に基づく定量化モデルを採用し、企業価値を評価する投資家の手法・データを用いて、自社の人的資本戦略に対して、企業価値に影響を与え得る人的資本関連のテーマを定量的に洗い出している。特に、人的資本関連項目を含むどのような未財務項目が企業価値に影響を与え得るかを検証する過程では、各未財務項目が、「企業価値にどの程度影響するか」という定量評価の要因分析と、それらを競合他社と比較することで、「企業価値のための人的資本経営」で考慮すべき重要項目を導出している。

さらに、各未財務項目を改善した場合の「株価上昇の期待効果」まで測定し、コーポレートガバナンス、人材獲得とリテンションといった各項目の改善による期待効果、つまりは人的資本経営のROIの「R」(リターン)を定量的に特定することで、経営企画部やサステナビリティ推進部、総務部といった関連部門を巻き込む説得力を獲得している。

図表10:「投資家視点」に基づく定量化モデル

「投資家視点」に基づく定量化モデル ,

これらによって、A社では、企業価値への影響度を定量的に分析した結果を踏まえた人的資本インパクトパスを策定し、企業価値向上・経営戦略を実現するための人的資本の姿を定義し、人的資本施策の整理を実現している。加えて、人的資本インパクトパスに指標を設定したことで、人事施策の効果を定量的に測定できるようになり、データに基づく効果検証環境の整備を実現している。また、定量化を通じて「データで語ること」が実現されたため、データに基づいて「機能しているパス(自社の強み)」と「繋がりが確認されなかったパス(伸びしろ・強化ポイント)」が明確になり、人的資本経営における施策検討に迫力が増す結果に至っている。

A社では次なる一手にも着手している。これまでに解説した経営企画部門と人事部門による人的資本を題材にした取り組みを昇華させ、人的資本や人事部門の取り組みのみならず、未財務資本全体の高度化の取り組みとして、さまざまな部門に展開しているのだ。全社的に、「未財務戦略と企業価値が連動した状態」の創出へと取り組みを進展させており、「脱・人事のための人的資本経営」から端を発して、様々な未財務資本と企業価値との「架け橋」を実現している。

図表11:A社における「未財務戦略」と「企業価値」の連動の方向性

A社における「未財務戦略」と「企業価値」の連動の方向性 ,

未財務資本と企業価値を連動させた「投資管理」

1つ目のモデルケースでは「脱・人事のための人的資本経営」をキーワードに、経営企画部門と人事部門が協働して未財務資本と企業価値を結んだケースを紹介したが、「定量化」を通じた取り組みは人事部門だけに留まらない。

例えば、経営企画部門と事業部門が協働して未財務要素と企業価値との繋がりを可視化したB社ではどのような施策を実施したのだろうか。B社では、前述のA社同様に、幾多ある定量化モデルのうち、「投資家視点」に基づく定量化モデルを採用し、統計的推定から投資家が注目する未財務属性の感応度を特定し、期待利益成長率に影響を与え得る未財務属性が何か、を把握している。B社では、企業価値をPBRで捉え、PBRを「稼ぐチカラ」であるROEとPERに分解した上で、PERを構成する、株主資本コストと期待利益成長率のそれぞれに対して、未財務要素がどの程度、企業価値に影響を与えるか、を分析している。この考え方は、11月号で紹介した「投資家視点での未財務価値の定量化の実践例」に類似している。その中で、B社では、未財務属性のうち、「水直接利用及び購入量」が、最も期待利益成長率に影響を与えることを認識した。B社における「水直接利用及び購入量」とは、事業側で把握している数値であり、事業部門が管理している未財務情報の1つである当該属性が企業価値に影響を与えることが見出された。

図表12:B社における期待利益成長率に対する属性別感応度

B社における期待利益成長率に対する属性別感応度 ,

また、投資家が注目する未財務属性に対して、自社の現在位置を競合相手と横比較することで、「優位点」と「劣位点」に基づく改善機会を特定している。この考え方も、11月号で紹介した「投資家視点での未財務価値の定量化の実践例」に類似している。「どの未財務要素が企業価値に影響を与えるか」という感応度の把握に留まらず、その感応度を踏まえて、自社の企業価値を構成する期待利益成長率に与える未財務属性の影響度を要素分解した上で、他社との比較の中で自社の優位点と劣位点を特定しているのである。これによって、何を改善すれば良いのか、どの領域に投資すれば良いのか、を明らかにしている。

そこで、B社では、創出されたキャッシュをどの領域に投資するか、という議論において、従前の事業投資、事業運営資金もしくは株主還元やキャピタルバッファに加えて、未財務投資という領域を設けている。さらに経営企画部門が各事業に対して、事業戦略と前述の未財務属性の感応度が事業にどのように関わるか、を踏まえて投資計画に反映するプロセス・仕組みを構築している。未財務属性を事業に対する投資判断基準に組み込んだ事例といえるだろう。

図表13:B社における未財務投資を加えた投資管理モデル

B社における未財務投資を加えた投資管理モデル ,

図表14:B社における未財務属性と財務属性の散布図

B社における未財務属性と財務属性の散布図 ,

さらに、B社では、「水直接利用及び購入量の原単位(m³/$M)」が企業価値に影響を与えることを感応度分析から認識し、「水直接利用及び購入量の原単位(m³/$M)」が増えれば増えるほど、企業価値にはネガティブな影響が出ることを把握したため、事業が有する製品セグメントごとに売上高増減率と、水直接利用及び購入量の増減率との散布図を管理し、投資管理に活用し始めている。

例えば、図表14中A領域、「売上高増減率」が「水直接利用及び購入量増減率」を上回っている場合、これは、売上高が増える速度に対して、水直接利用及び購入量を抑え込めていることを意味するため、ポジティブに認識し、投資を拡大し得る領域として投資管理にポジティブ係数を付与している。

反面、図表14中B領域、「売上高増減率」が「水直接利用及び購入量増減率」を下回っている場合、これは、売上高が増える速度に対して、水直接利用及び購入量がそれを凌駕していることを意味するため、ネガティブ事案として事業投資を縮小するか、水利用量の増加係数を逓減するための技術開発を要請する領域として扱っている。

さらに図表14中C領域、「売上高増減率」が減少にもかかわらず、「水直接利用及び購入量増減率」が増加している場合、極めてネガティブな影響を与え得るため、早急なテコ入れを要する領域との位置付けで投資抑制対象として扱っている。

このように、企業価値への繋がりが証明された未財務要素のデータと、財務のデータを組み合わせることで、また、それをデータとして活用し、評価プロセスに組み込むことで、B社では、財務と未財務を統合した投資管理、投資計画業務の高度化を実現している。前述のA社とは異なる視点で、未財務要素の「定量化」結果を、企業価値向上の源泉となり得る「投資配分・キャッシュアロケーションを求める活動」に活用している事例といえるだろう。

未財務要素と企業価値との架け橋

本稿では、サステナビリティ経営を企業価値向上に結びつけるための核心として2月号に引き続き「未財務要素の定量化」を取り上げ、その重要性と実践例を「人的資本経営」と「未財務投資管理」を例に踏み込んで解説してきた。開示義務化の流れは、単なる情報公開に留まらず、企業の中長期的な利益成長や事業リスク低減に資する活動を投資家が評価する時代の到来を意味している。サステナビリティ経営の本質が「価値創造の連鎖を見極めて、企業価値を最大化すること」ならば、財務・未財務を統合した経営管理とは、「中長期的に何を目指して」「どの無形資産を強化するために」「どれだけ投資するのかを管理する」活動に他ならない。言い換えれば、これらは「環境への取り組みや人的資本への投資、ガバナンス体制の有効性」を企業価値へと繋ぐ「架け橋」を構築する活動と言えるのではないか、と筆者は考えている。

本稿で紹介した先進的な取り組みのモデルケースは、A社は「人的資本」、B社は「投資評価」に着眼しており、着眼点は異なっているが、いずれも「定量化モデルを用いて未財務要素が企業価値に与える影響を特定」した上で、「未財務要素と企業価値との連動性を可視化」することに取り組んでいる。企業価値向上という目的は共通であっても、その実現に至る道筋は企業ごとに異なる。企業価値という「同じ山」を目指していても、事業特性や戦略、置かれた環境によって、選ぶべき登山道には選択肢があることが2つの事例からも明らかだろう。未財務情報は、兎角「測定し難いもの」である。反面、「測定できないものは管理できない、管理できないものは改善できない」の原則に基づけば、未財務資本が企業価値に影響が生じ得る、という証左がある限り、未財務領域を測定し、これらのデータを活用して、企業価値と連動する活動に繋げることは、サステナビリティ経営の歩き方としては避けては通れない。8月号から続く過去3回の連載寄稿の内容を土台に、本稿が、読者が持続可能な未来に向けた新たな価値創出に踏み出し、「価値創造経営実現」を進めるうえでの具体的な一歩目の糧になれば幸いである。

執筆者

小林 たくみ

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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