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PwCが見据える生成AI×SAPの将来像とは?
日本企業が業務、IT部門それぞれで抱える課題に応えていくには生成AIの活用が有効になってきます。生成AIをどのように活用すればいいのか、PwCの考える生成AI活用戦略について、生成AI×SAPによるデジタルトランスフォーメーションを推進するET-ESのディレクター伊東 智が語ります。
2024-03-04
DXに取り組んでいるものの、「思うような成果を挙げられていない」と感じるビジネスパーソンは少なくないのではないか。本連載では全9回にわたって、PwCコンサルティングが取り組んだ過去の事例を基に、DXを成功させるためのポイントを解説していく。紹介する事例はいずれも難易度の高い策を講じた訳ではなく、原点に立ち返り、基本に忠実に取り組んだものばかりである。例えば、利用者目線でサービスを再考することや、外部業者に委託していた作業を一部でも自社の社員で内製化することなどだ。明日から取り組める施策も少なくなく、視点ややり方を少し変えることで、現在直面している壁を突破できる可能性がある。本連載が読者の企業におけるDXを加速させるために、少しでもお役に立てば幸いである。
経済産業省が「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」を2018年に発表してから約5年半が経過したが、日本のDXは順調に進んでいるのであろうか。2023年11月末にスイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2023」1によると、日本は64カ国中32位となり、調査が開始された2017年以降で最低の順位に沈んでしまった。調査結果を詳細に見ると、指標の1つである「企業の俊敏性(Agility of companies)」と「ビッグデータとアナリティクスの活用(Use of big data and analytics)」は、残念ながら最下位の64位という結果であった。
IMDの調査は行政サービスやブローバンドの普及状況なども含めた国レベルの評価である。これに対し、企業レベルの取り組みに焦点を絞っているPwCの「DX意識調査―ITモダナイゼーション編―」22023年の調査結果においては、明るい兆しが見えた。
同調査では、ITの俊敏性や弾力性の向上に寄与するとみられる「アジャイル開発手法の展開状況」「パブリッククラウドの活用状況」「マイクロサービス、コンテナ、サーバーレスなどのクラウドネイティブ技術の活用状況」に着目し、3つを全面的に採用している組織を「先進」、一部本番で活用している組織を「準先進」、これらに該当しない組織を「その他」と定義して、調査・分析を行った。
その結果、「先進」と認定された企業は前回調査と比べて1ポイント増の8%にとどまったものの、「準先進」は24ポイント増の53%と大幅に増加したのだ。日本でもITモダナイゼーションが本格的に動き始めたことを確認できたと言えよう(図1)。
ここでいう「ITモダナイゼーション」について、PwCは「ITシステムの構造を変革することに加えて、企業における組織やプロセス、人材なども視野に入れ、あるべき姿を包括的に模索する抜本的な変革」と定義している。今回「準先進」が躍進した要因としては、アジャイル開発手法の適用(アジャイル化)が27ポイント、クラウドネイティブ技術の活用(クラウドネイティブ化)を進める企業が29ポイントと、大幅に増加したことが挙げられる。時代とともにアジャイル開発への関心が高まり、多くの企業で本格的な活用が始まった模様だ。
同調査の結果のうち、アジャイル開発を本番で活用した際に効果が出た領域の上位項目を見ると、「利用者視点でのサービス・プロダクト開発」が最も多く、「不要な開発の削減」と「継続的な機能改善の実現」が続いた。
また、「ビジネス部門と開発部門が一体となったプロジェクト推進」も注目すべきポイントだろう。本来プロジェクトは、顧客や従業員などの利用者目線で実施されるものであり、そのためにはビジネス部門とIT部門が一体となって取り組む必要がある。ところが実態を見てみると、納期とコストに追われるIT部門にとって利用者の利便性の優先順位は下がり、業務部門もIT部門に要件を伝えた後は任せっぱなしになるケースは少なくないようだ。
このような状況も、アジャイル開発を適用することで多少は解消が見込める。これらの効果を実感できたことにより、アジャイル開発の有用性が認識され、普及に拍車がかかったものと見られる。
また、デジタル人材の育成状況に関する項目において、「期待以上の成果が出ている」と回答した割合について、「先進」とそれ以外の間で大きな差が出ており、その差が前回調査より広がっている点にも着目したい。
「先進」を詳細に分析してみると、システム開発やアジャイル開発において自社社員が担当している領域が、「準先進」「その他」に比べて圧倒的に多いことが分かった。内製化が進んでいることが、人材育成の差につながったと推察できる(図2)。
スキル育成においては座学の講習なども大切だが、やはり実際の経験を積むことが重要だと思われる。システム開発の内製化は一朝一夕にできるものではなく、全てを内製化することも現実的ではないが、時間がかかるからこそ可能な範囲で早期に着手することが重要だ。
そもそもDXとは何であろうか。2010年以降、デジタル技術を活用し、瞬く間に大企業へと成長したデジタルジャイアントを研究してみると、まず顧客に選ばれることを最重要テーマとしてきたことが分かる。ビジネス部門とIT部門が一体になり、データに基づいて顧客体験価値を向上させるための仮説検証を重ね、現在の地位を築いてきたのだ。これらを踏まえると、DXとは「顧客や従業員からのフィードバックを起点に、デジタル技術を活用し、その内容を速やかに自社および関連会社のサービスや業務に反映できるように変革すること」と言えそうだ。
そのためには、恐らく2つの視点が必要となる。1つは「デジタル技術を活用した新たなビジネスや業務の創出し、“やることを変えること”」。もう1つは「市場の変化に速やかに対応し、利用者に継続的に価値を提供できるように“やり方を変えること”」だ。前者が重要であることに異論の余地はないが、後者も同様に重要だと言えよう。市場の変化に対応し続けるためには、高速に仮説検証を実施する必要がある。それを可能としたのが、アジャイル開発の適用やクラウドネイティブ技術の活用、自社人材でのシステム開発である。
デジタルジャイアントは、従来の企業のやり方にとらわれず、デジタル時代に適したやり方を実践している。そしてこれらの取り組みに、企業がDX推進において直面する壁を突破するヒントが隠されていると考えられる。そこで、本連載は“やり方を変える”ことに着目していきたい。具体的なテーマとして、「新規ビジネスサービス立上げの壁」「システム開発の高速化を阻む壁」「DX推進を妨げる組織の壁」「DX人材育成を阻む壁」の乗り越え方について解説していく予定だ。
次回は、先述のIMDのデジタル競争力ランキングで最下位となってしまった「データ活用」に着目する。社内における「データ活用を阻む壁」を突破するために、どのようにやり方を変えるべきなのか解説していく。「せっかく全社データ基盤を構築したのに利用率が上がらず、データ活用が進んでいない」といった課題を抱える方は、ぜひ参考にしていただきたい。
1 IMD World Digital Competitiveness Ranking : https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness-ranking/
2 PwC 2023年DX意識調査 - ITモダナイゼーション編 - :
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/it-modernization-survey2023.html
※本記事は2024年2月13日にZDNET Japanに掲載されたものです。
※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
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