「ネイチャーSBTs」土地ガイダンス(V2)ドラフト版の公開:更新点とTNFD、NPIとの関係性

  • 2026-02-20

1. はじめに

2022年の昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)において、2030年までに自然の劣化を食い止め、反転させ(ネイチャーポジティブ)、2050年に「自然と共生する世界」を実現することが、国際的に合意されました。このような背景の中、科学に基づく目標設定(Science Based Targets:SBT)は、気候変動対策としての枠組みから発展し、自然の保全を目指す「ネイチャーSBTs(SBTs for Nature)」へと広がっています。中でも、土地に焦点を当てた「土地ガイダンス(V2)」は、多様な生態系を守りつつ、持続可能な経済活動を促進する鍵となるツールです。このコラムでは、ネイチャーSBTsの全体像と2025年4月に更新された土地ガイダンスの詳細について解説します。

2. ネイチャーSBTsの全体像

ネイチャーSBTsは企業における目標設定プロセスについて、自然への影響を理解し(1.評価)、優先順位を付け(2.解釈と優先順位付け)、科学に基づく目標を設定し(3.測定、設定、開示)、行動・追跡する(4.行動、5.追跡)という5つのステップに分けてガイダンスを出し、企業の取り組みを支援しています(図表1)。

図表1:ネイチャーSBTsの目標設定ステップ

出典:Science Based Targets Network「ネイチャーSBTs企業マニュアル」

このうち、「3.測定、設定、開示」では、自然資本の領域別に淡水、土地、海洋、気候に関する目標設定・測定の手法を解説した技術ガイダンスを提供しており、企業は自社の事業が影響・依存する自然資本に関するガイダンスを参照し、目標を設定することが求められています。
※「気候」は、ネイチャーSBTsを実施する全ての企業がステップ1で評価を行う際に対象としており、気候が重要と判断された場合はSBTイニシアチブ(SBTi)の技術ガイダンスおよび温室効果ガス(GHG)プロトコルを参照して管理することが求められるため、ネイチャーSBTsの対象外である
※「生物多様性」は、1.評価と2.解釈と優先順位付けのガイダンスは出されているものの、3.測定、設定、開示以降のガイダンスは未公表である

4つの領域のうち、土地のガイダンスは、2024年7月に第1版(V1)が公表されていましたが、2025年4月に第2版(V2)のドラフト版が公表され、4月29日から5月27日まで、パブリックコンサルテーションを募集しました。パブリックコンサルテーションの結果を受け、V2の最終版は2026年に公表される予定です。土地ガイダンスのV2ドラフト版について、以下に解説します。

3. 土地ガイダンスの概要

  • 土地の目標設定の必要性・目的
    • 地球上の居住可能な土地の64%を占める作業地(農地等)における目標設定を促進し、企業の自発的な取り組みを後押しすることを目的として設計されています。
  • 目標の構成
    • 土地の目標は、V1同様にターゲット1~3で構成されています。以下に、各ターゲットの概要をまとめます。
      • ターゲット1:自然生態系の転換ゼロ(No Conversion of Natural Ecosystems)
        • 土地の変化に対処するため、目標年以降に発生する直接操業・上流の活動に関する全ての自然生態系の転換を排除し、2020年から目標年までに発生した自然生態系の転換を修復することを目標とします。
          ※目標年は、2025年から2030年までの間で、各自然地域の生態学的重要性、バリューチェーンのセグメント、調達するコモディティの種類に応じて設定される
      • ターゲット2:作業地(農地等)再生と復元(Working Land Regeneration and Restoration)
        • V1で「土地フットプリント削減目標(Land Footprint Reduction)」とされていたターゲット2は、V2で「作業地(農地等)再生と修復(Working Land Regeneration and Restoration)」と名称を変え、目標設定を行う企業の状況に応じて柔軟に指標を設定できるように、内容も大きく更新されました(詳細後述)。
        • ターゲット2では、直接操業および上流の活動に関連する土地面積を削減すること(Land Area)と、その土地の状態(土壌有機炭素、土壌侵食、土地の酸性化)を改善すること(Land Quality)を目標とします。
          ※Land QualityとLand Areaのそれぞれで、1つずつ目標設定が求められる
      • ターゲット3:ランドスケープエンゲージメント
        • ターゲット3では、企業の活動に関連するランドスケープレベルの再生・復元・変革を促進するため、自然を含む複数の利害関係者の影響と依存関係を特定・理解し、対象とするランドスケープの生態学的/社会的な状態を改善することを目標とします。

4. V2ドラフト版におけるV1からの主な更新点

V1からは、主に5つの点が更新されています。以下図表2より更新点について解説します。

図表2:V1からの更新点のまとめ

V1のターゲット
(2024年7月公開)

V2のターゲット
(開発中)

更新点の概要

ターゲット1
自然生態系の転換ゼロ

ターゲット1
自然生態系の転換ゼロ
(V1から軽微な更新)

  • ターゲットの主要な目的と方法はV1から変更されていません。
  • バリューチェーン全体で転換と森林伐採阻止を達成するために、目標日を設定する企業へのガイダンスと期待に最も注目すべき更新がなされました。2025年までに転換禁止を達成できない企業は、定義された期間内に遅れた目標日を設定してコミットすることができます(ただし、SBTNは2027年よりも前を推奨)。
  • 目標日までに転換禁止を達成するための進捗報告と開示に関する推奨事項についても、予備的なガイダンスが提供されています。推奨される修復要件が追加されました

ターゲット2
土地のフットプリント削減

ターゲット2
農地再生と復元
(V1からの大幅な更新)

  • ターゲット2は大幅に修正され、柔軟性と被覆について追加されました。現在は土地面積目標と土地の質目標から構成されています。
  • 土地面積目標の一環として、大規模な農業会社は土地のフットプリント削減目標または自然土地カバー目標、またはその両方を設定することができます。他の全ての会社は、自然地被覆目標を設定しなければなりません。
  • 土地の質目標については、企業は土壌有機炭素、土壌侵食、または地表酸性化の目標を優先して設定するか、土地の質の影響全体において目標を設定することができます。
  • 生態学的な閾値と土地環境評価係数(LEAFs)に関するデータを活用する方法が示されるとともに、ターゲット3におけるランドスケープエンゲージメントとの連携に関する拡張ガイダンスを含む、上流企業に対するオプションが更新されました。

ターゲット3
ランドスケープエンゲージメント

ターゲット3
ランドスケープエンゲージメント
(V1からの軽微な更新)

  • ターゲットの主要な目的と方法はV1から変更されていません。
  • ランドスケープやイニシアチブの選択基準の一部として、生態学的な閾値によって提供される情報を含めることを推奨する軽微な更新が行われました。他には、V1以降の更新を反映するために言語に対する軽微な更新が行われました。

この技術ガイダンスは、新しい「土地利用と環境への影響の会計ガイドライン(AGILE)」と併せて読むべきです。このガイドラインは、ベースラインとフットプリントを計算するための詳細な指針を提供します。

出典:Science Based Targets Network「TECHNICAL GUIDANCE Version 2 DRAFT FOR PUBLIC CONSULTATION(APRIL 2025)」

①【ターゲット2】Land Area(土地面積)にNatural Land Cover(自然地被覆)目標が追加

  • 農業に関係する企業(農産物を生産/調達している企業)は、「Target 2.1 Land Area(土地面積)」の目標として、Land Footprint ReductionとNatural Land Coverのどちらか、または両方を選択できるようになりました(図表3)(農業以外の企業は、Natural Land Coverのみ選択可能)。
  • 自然や生物多様性は人間の幸福と経済的繁栄に貢献していることから、ランドスケープレベルでの自然/半自然の土地の被覆量(1km2あたりの自然の土地の被覆率など)を用いて、各生産ユニットごとに目標を設定します。生産ユニットにおいて1km2あたりの自然土地被覆が25%未満の場合、自然/半自然土地被覆を25%以上に増やす目標を設定し、25%以上の場合、現状の自然/半自然土地被覆を維持、または向上させる目標を設定することが奨励されています。

図表3:V2での新規追加カテゴリ

出典:Science Based Targets Network「Land Version 2 Public Consultation:Summary」

②【ターゲット2】Land Qualityが追加され、長期的な生態系の機能と回復力を担保する目標設定が可能に

V2では、「Target 2.2 Land Quality(土壌の質)」が新設され、「土壌有機炭素」「土壌侵食」「土壌の酸性化」の3つの観点から、企業の活動に関連する少なくとも1つの目標設定が求められるようになりました(※)。これは、土地のフットプリント削減や集約化による取り組みにより、長期的に生態系の機能と回復力を損なわないようにするための安全策(Safeguard)として機能すること(つまり、フットプリント削減や集約化が土壌の質を劣化させる結果になっていないことを確認すること)を目的としています。
※目標の設定は少なくとも1つが求められているが、ベースラインの把握は3つの観点全てで行うことが推奨されている

ベースラインの測定方法としては、活動評価アプローチ、または代替アプローチの方法が想定されており、企業はデータの可用性などを踏まえていずれかを選択します。

  • 活動評価アプローチ:企業の土地利用データに土地環境評価係数(Land Environmental Assessment Factors:LEAF)を用いて、土壌有機炭素(SOC)のレベルや土壌浸食率、酸性化度を算出します。必要な土地利用データは図表4のとおりです。

図表4:土地の質を計算するためのデータ要件

データ

単位

空間データの必要性

関連する土地の質カテゴリ

各生産ユニットの位置(国、自治体、生態地域)

推奨

  • SOC
  • 土壌侵食
  • 地表酸性化

各生産ユニットでの土地利用の種類と強度

  • SOC
  • 土壌侵食

各生産ユニットでの土地利用タイプごとの土地フットプリント

ヘクタール

  • SOC
  • 土壌侵食
  • 地表酸性化
各年における場所ごとの特定の土地利用タイプの期間

  • SOC
  • 土壌侵食

各生産ユニットごとにアンモニア(NH3)、窒素酸化物(NOx)、および二酸化硫黄 (SO2)の排出量を計算するための活動データ(例:エネルギー使用量)

キログラム

推奨

  • 地表酸性化

出典:Science Based Targets Network「TECHNICAL GUIDANCE Version 2 DRAFT FOR PUBLIC CONSULTATION(APRIL 2025)」

  • 代替アプローチ:GHGプロトコルLSRG(※)等のガイダンスや論文における手法を用いて、モデルベースやリモートセンシングベース、測定ベースにより算出します(土壌有機炭素と土壌侵食のみ)。
    ※GHG Protocol Land Sector and Removals Guidance:土地セクター(農業、林業、土地利用の変化など)と、DAC(直接空気回収)などの技術的炭素除去活動に関連する排出量と除去量の算定・報告ガイダンス

上記アプローチにて算出したベースラインは、「Thresholds(土地の生態学的閾値)」を踏まえて、対象の生態地域の閾値から10%の範囲で目標設定を行うことが求められています。Thresholds(土地の生態学的閾値)については、以下で詳述します。

③【ターゲット2】Thresholds(土地の生態学的閾値)の考え方が導入され、事業地の生態系の制約への理解が深まるように

  • Thresholds(土地の生態学的閾値)は、さらなる生態系の劣化と損失を回避し、システムが安定した状態に戻るために必要な復元行動の量を地域ごとに定義したもので、V2では800以上の生態地域にわたる場所に基づく閾値が導入されました。企業が運営する、もしくは原料を調達する地域においてその閾値を超える場合は、大きな安定性の喪失と正常な機能が危険にさらされる可能性があると考えられます。
  • 目標設定を行う企業は、この考え方を「Target 2.2 Land Quality(土壌の質)」の土壌有機炭素、土壌侵食、土壌の酸性化の各カテゴリにおいて用い、対象の生態地域の閾値から10%の範囲で目標設定を行うことが求められています。

④【ターゲット1】目標日(No Conversion target date)の設定条件が追加され、2025年までに達成できない企業は目標の変更をすることが可能に

  • ネイチャーSBTsの目標は、企業がEUDR(欧州森林破壊規制)に準拠し、2025年までにEUDRを超える努力をし、2027年および2030年までにその努力を整合させることを目標としています。一方で、2025年の目標日に向けて、自然生態系の転換と森林破壊の排除において世界的に進展が十分ではないことを認識していることから、目標日の設定・進捗に関する指針・要件がV2で更新されました。
  • ただし、V2のドラフト版への意見収集の結果、正式版において変更される可能性があるため、ガイダンス本文を参照ください。

⑤【ターゲット1~3】「土地利用と環境への影響に関する測定ガイドライン(Accounting Guidelines for Impacts on Land-use and the Environment:AGILE)」が新たに公表され、企業活動が土地に与える影響の測定方法のガイドラインとして活用可能に

  • 企業が事業地における土地への影響の重要な要素を理解し、目標設定のベースライン策定とフットプリントの測定を行うためのガイドラインとして、本編と併せて新たに公開されました。
  • AGILEは、ターゲット1~3の全てのカテゴリにおけるデータ要件や詳細な測定方法を示しており、企業が測定と目標を行うにあたり参照することが推奨されています。

5. TNFD/NPIとの関係性

ネイチャーSBTsと並行して自然資本の定量化、目標設定、開示の手法を検討しているイニシアチブがTNFD(Taskforce on Nature-Related Financial Disclosures)とNPI(Nature Positive Initiative)です。

TNFDは、開示項目のうち「指標と目標」においてネイチャーSBTsの手法を活用することを推奨しているため、ネイチャーSBTsのガイダンスで示される方法論に則って実施した結果を、TNFDのフレームワークに沿って開示することが可能です。両者は、今後もナレッジパートナーとして技術的な協力と交流を通じて連携を取っていくことを示しており、相互補完的な関係性は今後も続くものと考えられます。

NPIが2025年に発表した「自然の状態指標(State of Nature)」のドラフト版のうち、「種個体群の豊富さ(Species Population Abundance)(IND7)」は、ネイチャーSBTs(Land)の「Target 3 ランドスケープエンゲージメント」の指標の一つとして採用されています。そのため、NPIの指標を参照して測定し、ネイチャーSBTsのガイダンスに基づいて目標を設定することも可能です。

6. おわりに

本コラムでは、ネイチャーSBTsの土地ガイダンスV2の更新点について解説しました。V2では、ターゲット2の改定によって企業に選択肢が増えたこと、また、自然生態系の転換ゼロの目標日についても、2025年までに達成が困難な企業はそれ以降の目標日の設定が可能になったことにより、企業が目標設定に取り組みやすくなりました。

グローバルに点在する調達地を特定しながらその土地の状態を定量化し、目標を設定することは簡単ではありません。そこで、自社の現在地と到達地、そしてそこにたどり着くまでのロードマップを描くための手法として、ネイチャーSBTsのガイダンスを活用することは効果的です。本稿が2050年にネイチャーポジティブを達成するという国際目標の達成に向けた一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。

PwC Japanグループでは、TNFDをはじめとする自然資本に係る最新の国際動向を踏まえた企業の自然資本および生物多様性に係る影響や依存度の評価や、情報開示の準備対応、さらにはネイチャーポジティブ戦略の策定から実行までを一貫して支援しています。詳しくはネイチャーポジティブ経営支援(自然資本・生物多様性への対応)をご覧ください。

※本稿は、SBTN日本地域コーディネーター(CDP Worldwide-Japan)監修の下作成されました。

執筆者

小峯 慎司

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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中尾 圭志

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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金子 泉

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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