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2022年の昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)において、2030年までに自然の劣化を食い止め、反転させ(ネイチャーポジティブ)、2050年に「自然と共生する世界」を実現することが、国際的に合意されました。このような背景の中、科学に基づく目標設定(Science Based Targets:SBT)は、気候変動対策としての枠組みから発展し、自然の保全を目指す「ネイチャーSBTs(SBTs for Nature)」へと広がっています。中でも、土地に焦点を当てた「土地ガイダンス(V2)」は、多様な生態系を守りつつ、持続可能な経済活動を促進する鍵となるツールです。このコラムでは、ネイチャーSBTsの全体像と2025年4月に更新された土地ガイダンスの詳細について解説します。
ネイチャーSBTsは企業における目標設定プロセスについて、自然への影響を理解し(1.評価)、優先順位を付け(2.解釈と優先順位付け)、科学に基づく目標を設定し(3.測定、設定、開示)、行動・追跡する(4.行動、5.追跡)という5つのステップに分けてガイダンスを出し、企業の取り組みを支援しています(図表1)。
図表1:ネイチャーSBTsの目標設定ステップ
出典:Science Based Targets Network「ネイチャーSBTs企業マニュアル」
このうち、「3.測定、設定、開示」では、自然資本の領域別に淡水、土地、海洋、気候に関する目標設定・測定の手法を解説した技術ガイダンスを提供しており、企業は自社の事業が影響・依存する自然資本に関するガイダンスを参照し、目標を設定することが求められています。
※「気候」は、ネイチャーSBTsを実施する全ての企業がステップ1で評価を行う際に対象としており、気候が重要と判断された場合はSBTイニシアチブ(SBTi)の技術ガイダンスおよび温室効果ガス(GHG)プロトコルを参照して管理することが求められるため、ネイチャーSBTsの対象外である
※「生物多様性」は、1.評価と2.解釈と優先順位付けのガイダンスは出されているものの、3.測定、設定、開示以降のガイダンスは未公表である
4つの領域のうち、土地のガイダンスは、2024年7月に第1版(V1)が公表されていましたが、2025年4月に第2版(V2)のドラフト版が公表され、4月29日から5月27日まで、パブリックコンサルテーションを募集しました。パブリックコンサルテーションの結果を受け、V2の最終版は2026年に公表される予定です。土地ガイダンスのV2ドラフト版について、以下に解説します。
V1からは、主に5つの点が更新されています。以下図表2より更新点について解説します。
図表2:V1からの更新点のまとめ
出典:Science Based Targets Network「TECHNICAL GUIDANCE Version 2 DRAFT FOR PUBLIC CONSULTATION(APRIL 2025)」
図表3:V2での新規追加カテゴリ
出典:Science Based Targets Network「Land Version 2 Public Consultation:Summary」
V2では、「Target 2.2 Land Quality(土壌の質)」が新設され、「土壌有機炭素」「土壌侵食」「土壌の酸性化」の3つの観点から、企業の活動に関連する少なくとも1つの目標設定が求められるようになりました(※)。これは、土地のフットプリント削減や集約化による取り組みにより、長期的に生態系の機能と回復力を損なわないようにするための安全策(Safeguard)として機能すること(つまり、フットプリント削減や集約化が土壌の質を劣化させる結果になっていないことを確認すること)を目的としています。
※目標の設定は少なくとも1つが求められているが、ベースラインの把握は3つの観点全てで行うことが推奨されている
ベースラインの測定方法としては、活動評価アプローチ、または代替アプローチの方法が想定されており、企業はデータの可用性などを踏まえていずれかを選択します。
図表4:土地の質を計算するためのデータ要件
データ |
単位 |
空間データの必要性 |
関連する土地の質カテゴリ |
各生産ユニットの位置(国、自治体、生態地域) |
- |
推奨 |
|
各生産ユニットでの土地利用の種類と強度 |
- |
- |
|
各生産ユニットでの土地利用タイプごとの土地フットプリント |
ヘクタール |
- |
|
| 各年における場所ごとの特定の土地利用タイプの期間 | 年 |
- |
|
各生産ユニットごとにアンモニア(NH3)、窒素酸化物(NOx)、および二酸化硫黄 (SO2)の排出量を計算するための活動データ(例:エネルギー使用量) |
キログラム |
推奨 |
|
出典:Science Based Targets Network「TECHNICAL GUIDANCE Version 2 DRAFT FOR PUBLIC CONSULTATION(APRIL 2025)」
上記アプローチにて算出したベースラインは、「Thresholds(土地の生態学的閾値)」を踏まえて、対象の生態地域の閾値から10%の範囲で目標設定を行うことが求められています。Thresholds(土地の生態学的閾値)については、以下で詳述します。
ネイチャーSBTsと並行して自然資本の定量化、目標設定、開示の手法を検討しているイニシアチブがTNFD(Taskforce on Nature-Related Financial Disclosures)とNPI(Nature Positive Initiative)です。
TNFDは、開示項目のうち「指標と目標」においてネイチャーSBTsの手法を活用することを推奨しているため、ネイチャーSBTsのガイダンスで示される方法論に則って実施した結果を、TNFDのフレームワークに沿って開示することが可能です。両者は、今後もナレッジパートナーとして技術的な協力と交流を通じて連携を取っていくことを示しており、相互補完的な関係性は今後も続くものと考えられます。
NPIが2025年に発表した「自然の状態指標(State of Nature)」のドラフト版のうち、「種個体群の豊富さ(Species Population Abundance)(IND7)」は、ネイチャーSBTs(Land)の「Target 3 ランドスケープエンゲージメント」の指標の一つとして採用されています。そのため、NPIの指標を参照して測定し、ネイチャーSBTsのガイダンスに基づいて目標を設定することも可能です。
本コラムでは、ネイチャーSBTsの土地ガイダンスV2の更新点について解説しました。V2では、ターゲット2の改定によって企業に選択肢が増えたこと、また、自然生態系の転換ゼロの目標日についても、2025年までに達成が困難な企業はそれ以降の目標日の設定が可能になったことにより、企業が目標設定に取り組みやすくなりました。
グローバルに点在する調達地を特定しながらその土地の状態を定量化し、目標を設定することは簡単ではありません。そこで、自社の現在地と到達地、そしてそこにたどり着くまでのロードマップを描くための手法として、ネイチャーSBTsのガイダンスを活用することは効果的です。本稿が2050年にネイチャーポジティブを達成するという国際目標の達成に向けた一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
PwC Japanグループでは、TNFDをはじめとする自然資本に係る最新の国際動向を踏まえた企業の自然資本および生物多様性に係る影響や依存度の評価や、情報開示の準備対応、さらにはネイチャーポジティブ戦略の策定から実行までを一貫して支援しています。詳しくはネイチャーポジティブ経営支援(自然資本・生物多様性への対応)をご覧ください。
※本稿は、SBTN日本地域コーディネーター(CDP Worldwide-Japan)監修の下作成されました。
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