シリーズ:ネイチャーポジティブに関する政策動向

第2回:ランドスケープアプローチによる企業価値と地域の価値の向上

  • 2026-02-06

「必要なのは美しいストーリーとしたたかさです。したたかさとはお金です」

これは10数年前、自然と共生する地域社会づくりを先進的に進めていた自治体の首長に、筆者が取り組みの秘訣を伺った時にいただいた言葉です。
ランドスケープアプローチがより多くの成果を生むためには、社会的価値(美しいストーリー)と経済的価値(したたかさ)を同時に動かす「設計」が要となります。
しかし企業からは、次のような声が聞こえてきます。

「このアプローチの重要性は分かるが、自社事業とどう結び付くかが曖昧」
「地域と連携と言われても、誰に何をどう相談すればよいか分からない」
「社内意思決定に耐える経済合理性まで設計しきれない」

本稿では、環境省が2025年7月に策定した「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」(以下、NP経済移行戦略ロードマップ)の視点1に掲げられたランドスケープアプローチの施策を俯瞰し、企業が「美しいストーリー」と「したたかさ」を併せ持ち動き出すための実務ポイントを解説します。

1. NP経済移行戦略ロードマップでのランドスケープアプローチ関連施策の動向

NP経済移行戦略ロードマップでは、ランドスケープアプローチを次のように定義しています。

「一定の地域や空間において、主に土地・空間計画をベースに、多様な人間活動と自然環境を総合的に取扱い、課題解決を導き出す手法」

例えば、流域全体での水源保全を目的に企業・自治体・森林組合が協働し、企業の操業安定と地域の森林管理による森林の公益機能の発揮を同時に実現する取り組みが考えられます。こうした地域スケールで自然資本と複数主体の価値を結び付ける点がランドスケープアプローチの特徴です。

NP経済移行戦略ロードマップでは、3つの視点のうち、視点1「ランドスケープアプローチの観点から地域の自然資本を活かしたNPな地域づくりを実現~企業価値と地域の価値を併せて向上、地域活性化に繋げる」にランドスケープアプローチが位置付けられています。

NP経済移行戦略ロードマップの視点1に紐付く施策としては、生物多様性見える化マップの機能拡充などの基盤的な取り組み、ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォームなどの検討・連携機会の提供、ランドスケープアプローチ事例創出などの先行モデル・成功事例の創出支援の3つに分類できると私たちは考えます(図表1)。

図表1:NP経済移行戦略ロードマップの視点1

国はバックアップ体制を急速に充実させているとともに、企業や自治体が参加した成功事例を渇望しており、プレーヤー(企業・自治体など)からの提案を強く望んでいることがうかがえます。プレーヤーにとっては、国から必要な支援を得たり、必要な支援を提案する好機であると言えます。

2. 企業・自治体が取るべき行動

2.1 多様なステークホルダーにとっての価値のイメージ

ランドスケープアプローチに基づく社会的価値と経済的価値の両立におけるメリットを、ステークホルダーごとに可視化した一例を図表2に示します。

図表2:ランドスケープアプローチに基づく社会的価値・経済的価値の両立

このようにさまざまなステークホルダーの取り組みを社会的価値×経済的価値によりつなげることで、企業には「レピュテーションと新規事業」、行政には「地域活性化/政策実現」、地域団体には「なりわいの向上」といったように、それぞれが取り組む意義が明確になっていきます。NP経済移行戦略ロードマップが描く「取り組みが評価されて好循環が生まれる絵姿」を、自社×地域版のストーリーとして組み立てることが重要です。

2.2 具体的アクションのステップ

ランドスケープアプローチによる具体的な取り組みの進め方は、どのステークホルダーが起点となるか、あるいは地域や事業内容によっても異なります。ここでは、企業が起点となる場合のステップの一例を示します。

ステップ1:自社のリスク・機会から有効性を確認する

直面する課題
  • ランドスケープアプローチをすることが目的化してしまい、重要なリスクや課題の解決につながらない
ステップの内容
  • 自社にとって重要なリスクや機会(例:サプライチェーンの自然資本依存、災害リスク、ブランド価値向上)に対し、ランドスケープアプローチが有効かを検討
    • 地域のステークホルダーとの連携が事業継続性や新規事業創出に寄与する場合は、ランドスケープアプローチに有効性があると考えられます
    • ランドスケープアプローチに沿って検討することは、対応策の検討の幅を広げ、自社単独の施策よりも効果的な解決策を創出する機会となります
       

ステップ2:地域の自然資本と社会課題を知る(美しいストーリーの構築)

直面する課題
  • 地域側からは地域の価値が見えにくく、地域外の主体側からは地域が抱える真の社会課題の相場観がつかみにくいことで、双方が共感できるストーリーを描けない
ステップの内容
  • 生物多様性見える化マップなどで保護地域・自然共生サイト・重要生態系を客観的に把握し、自社・自地域の重要な自然資本を特定
  • 行政ヒアリングや地域ワークショップなどの対面の場を設定し、ディスカッションを重ねることで社会課題(人口減少、観光低迷、災害リスクなど)を重要度とともに特定
  • 自然資本と社会課題双方の視点で、取り組み全体の社会的価値を具体化(共感を呼ぶストーリーを描く)
     

ステップ3:経済的価値の発現経路を描く(したたかさの設計)

直面する課題
  • ステークホルダーが多様になるほど、「誰にどのようなメリットがあるか」が不明確になり、参画の動機付けや社内の意思決定が進みにくい
ステップの内容
  • 必要なステークホルダー(金融機関、地域団体、行政、研究機関など)を特定
  • 各ステークホルダーにとっての経済的価値の発現経路を可視化
     

ステップ4:連携の場に持ち込む

直面する課題
  • 誰から優先的にアプローチすべきか、どの場を活用してプロジェクトを提案すべきかが分からず、連携の初動が止まってしまう
ステップの内容
  • 重要なステークホルダーが特定されている場合
    各ステークホルダーへの効果的なアプローチ方法とステークホルダーの優先度を精査の上、参画を呼びかけ
  • 幅広く協力事業者を募る場合
    ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォーム交流会などのネットワーキングの場でプロジェクトを提案し、参画を呼びかけ
     

ステップ5:取り組みの実施と改善・拡張

直面する課題
  • 成果が定性的にとどまり、社内や外部ステークホルダーに価値が十分に伝わらない
  • 改善の着眼点が曖昧になる
ステップの内容
  • 社会的価値と経済的価値の指標を設定の上、効果測定しやすい範囲で実証し、成果を見える化
  • ステークホルダー間で成果を振り返り、取り組みの設計を修正
  • 対象エリア、ステークホルダー、テーマを拡張
     

このように、常にステークホルダーの立場に立ち、社会的価値と経済的価値の両方が満たされているかを意識することが重要です。

どの地域にも、描ける社会的価値(自然再生、文化・教育、レジリエンス向上など)と、経済的価値(売上増加・新規事業創出・観光振興・関係人口増加など)が存在します。地域差が大きいからこそ、「相手の評価軸」を理解し、双方が利する設計とすることが、ランドスケープアプローチの成否を分けます。

3. まとめ

政府はランドスケープアプローチによる企業価値と地域価値向上の成功事例創出を強く望んでおり、政府によるバックアップがあるうちに民間で自走できる仕組みを構築することが重要です。企業・自治体は美しいストーリーとしたたかさを兼ね備えた設計を行い、多様な主体の便益を束ねて「社会的価値×経済的価値」の両輪を実現することで、単独では難しかった、あるいは発想できなかった成果を得ることができます。

PwC Japanグループでは、ランドスケープアプローチを含む、ネイチャーポジティブに資するソリューションのご支援を提供しています。地域の自然資本診断、価値のロジックモデル設計、行政や地域との連携支援まで、「美しいストーリー」と「したたかさ」の両立をワンストップで伴走します。お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

執筆者

横田 智広

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

Email

小峯 慎司

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

水﨑 進介

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

中尾 圭志

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ