{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
2022-07-15
連載「生物多様性とネイチャーポジティブ」では、自然への影響や生物多様性に関する機会・リスクのほか、ネイチャーポジティブに挑戦している事例を業界ごとに紹介しています。第6回は、不動産・建設業界に焦点を当てます。
不動産・建設業界は土地や海域の利用に際して土地を改変することから、生物多様性に大きな影響を与えている業界の1つであると言えます。
「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム」(IPBES)が発行している「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」(2019年)によると、生物多様性の喪失に関わる直接的な要因は、主に「土地・海域利用」「直接採取」「気候変動」「汚染」「外来種」とされています。
不動産・建設業界は「土地・海域利用」において、道路・建造物の建築、都市開発、海域の埋め立て開発、材料調達に伴う鉱山採掘によって自然・生物多様性に大きな影響を与えています。
また、「直接採取」では木材をはじめとする建築資材の過剰採取により自然・生物多様性に大きな影響を与えています。「気候変動」の観点では、建設資材の調達、建設と物流に伴う温室効果ガス(GHG)の直接排出のほか、森林伐採により間接的に排出量の増加に影響を与えていると言われています。
2020年に発行された「The Biodiversity Imperative for Business」によると、2050年までに住宅やインフラなどのために必要となる土地面積は世界全体で1億ヘクタール(日本の国土全体の3倍程度)とされており、現在の方法で開発が進むと、生物多様性に対して大きな負荷がかかることが分かります。
出典:IPBES,2019.“Global Assessment Report on Biodiversity and Ecosystem Services”などを基にPwC作成
https://ipbes.net/sites/default/files/ipbes_7_10_add.1_en_1.pdf
(2022年4月12日閲覧)
続いて、本連載の第2回で紹介したTNFDの枠組みに基づいて、不動産・建設業界のリスクを見ていきましょう(図表2参照)。
出典:TNFD, 2022.「The TNFD Nature-related Risk & Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v.0.1 Release」などを基にPwC作成
https://tnfd.global/wp-content/uploads/2022/03/TNFD-beta-v0.1-full-PDF-revised.pdf(2022年4月12日閲覧)
まず、「急性リスク」と「慢性リスク」の2つから構成される「物理リスク」についてです。「急性リスク」としては、土地開発の影響で生態系機能が劣化することで、水害や土砂災害などの自然災害が発生しやすくなり、結果的に開発地やその周辺が被害を受けることが挙げられます。2005年に米国南東部に甚大な被害を及ぼしたハリケーンカトリーナでは、被害地域沿岸の湿地を開発していたことが原因となり、洪水緩和の機能が喪失され、被害がより拡大したと指摘されています。「慢性リスク」としては、周辺の生態系に不動産価値を見出している場合、生物多様性や自然が失われていくことで、不動産の価値が低下することが挙げられます。これら「物理リスク」に対しては、不動産・建設業界において早急に対応することが求められています。
一方で「移行リスク」を見てみると、「法規制リスク」として、生物多様性の喪失により、不動産・建設業界が開発を行う場所や方法についての規制が強化されるということが挙げられます。英国では宅地開発や商業施設を開発する際、開発前と比べて生物多様性を開発後に最低でも10%改善することが義務化されています。この例が示すように、日本においても将来同様の制度が導入される可能性があり、このようなリスクに対応していくことも必要となるでしょう。なお、「物理リスク」で顕在化した環境への影響が法規制の対象になること(「法規制リスク」)や、周辺住民や世間における評判につながる(「評判リスク」)こともあり、「物理リスク」と「移行リスク」は密接に関連していると言えます。また、「物理リスク」や「移行リスク」の集積によって、今後、業界全体に影響を及ぼす「システミックリスク」が顕在化する可能性も考えられます。
前述したリスクに対して、原料調達、物流、設計・施工・使用、解体といったライフサイクルと、SBTs for Natureで提唱されているAR3Tフレームワーク(回避、軽減、回復再生、変革)を踏まえて、不動産・建設業界の企業が取るべき戦略や、取り組むべき施策の概要を整理しました。
不動産・建設業界において、生態系への直接的な影響が最も見えやすい工程の1つが設計・施工・使用と解体ですが、その他の工程においても対応する必要があります。ここでは、工程別に主な影響と具体的な取り組みの例をまとめています(図表3参照)。
まず、原料調達の工程においては、
など、持続可能に原料調達のためにも環境への配慮は重要であり、調達先の企業と一緒に取り組んでいく必要があります。
また、設計・施工・使用の工程では、
など、環境と事業活動を共生させていく工夫が多く見られます。
解体の工程では、
など、廃棄物の削減やリサイクルに向けた取り組みが、メーカーなどと協力しながら進められています。
*解説:「自然のさまざまな機能を活用するグリーンインフラ」
グリーンインフラとは、社会資本整備や土地利用などのハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある都市・地域づくりを進める取り組みを指します。
グリーンインフラには多様なタイプが存在します。例えば、アスファルト舗装を雨水の浸透する植生(花壇や芝)に変更することで洪水を緩和したり(雨庭:レインガーデン)、木陰を生み出すことでヒートアイランド現象を抑制したりする比較的小規模なものから、未利用地や耕作放棄地を遊水地化し、生物多様性の回復を行いながら地域の防災機能を高める、といったランドスケープレベルの大規模なものまで含まれます。
グリーンインフラの特徴は、生み出される価値の多様性にあります。例えば、都市部に小規模な緑地を再生したとすると、それによってもたらされる価値は、ヒートアイランド対策、雨水流出の抑制、景観の改善、憩いの場の提供、GHG吸収源の提供など、多岐にわたります。適切な設計によって、これらの価値創出を高めることができれば、グリーンインフラの導入・管理に要するコストを上回る価値を生み出すことも可能です。
また、こうした生物多様性に配慮した建物は、ABINCなどの認証を取得することも可能であり、2019年の段階で76件の事業所がABINC認証を取得しています。
国土交通省においても、令和元年に「グリーンインフラ推進戦略」を策定し、グリーンインフラの社会実装を進めています。
出典:各社資料を基にPwC作成
これまで紹介してきた取り組みのほか、関連するものとして、生物多様性オフセット・バンキングの仕組みも注目されています。「生物多様性オフセット」とは、開発に伴う生物多様性への悪影響を周辺エリアの自然再生などにより相殺するもので、「生物多様性バンキング」とは、あらかじめ実施した生態系保全・再生に「クレジット」を付与し、そのクレジットを購入することで生物多様性への悪影響を相殺したとみなすシステムです。この仕組みを活用することで、ライフサイクルにおいて残存する生物多様性への影響を、ノーネットロス・ネットゲイン(ネイチャーポジティブ)にすることが可能になります。
「2.不動産・建設業界の自然関連リスク」において、英国では生物多様性の状態を改善させる「生物多様性ネットゲイン」を求めることがEnvironment Actによって明文化されていることを紹介しました。この結果、2023年からは多くの開発事業がこの規則に則り、敷地内での自然再生や、周辺エリアでの「生物多様性オフセット」を実施し、さらには「生物多様性バンキング」の仕組みを活用することで、生物多様性の回復に取り組むことになります。この制度は世界的な目標としての「ネイチャーポジティブ」を目指す潮流に沿うものであり、今後同様のルールが他の国にも広まっていく可能性があります。
また、日本では環境省主導の下で、2030年までに世界の陸域の30%と海域の30%の保全を目指す企業・自治体・団体による有志連合「30by30アライアンス」が2022年4月に発足しました。これに伴い、企業が管理する緑地や海域などに自然環境を保全する地域を認定する「民間と連携した自然環境保全(OECM)」の活動が動き出しています。
不動産・建設業界においては、計画段階でいかに自然資本を考慮するか、生物多様性に配慮したビジネスモデルをどのように構想するかが重要となります。
また、地域開発におけるスマートシティや地域のデジタル化への関心が高まっていることから、地域の情報に生物多様性に関する情報を付加することで、地域の住民にとっても価値があるエリアの創出につながり、より魅力的な開発につながっていくものと考えられます。
PwCでは、不動産・建設業界の企業が生物多様性に配慮した施策を行うための支援のほか、スマート林業などに向けたビジネスモデルの支援も、ソリューションとして提供しています。
詳しくは生物多様性に関する経営支援サービスページや、不動産事業向けコンサルティングサービス、テクノロジーアドバイザリーサービスをご覧ください。
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}