第4回 製造業に今こそ求められるスマート化/データ利活用

2021-05-25

COVID-19感染拡大により製造業のIT投資が加速

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックはさまざまな業種・業態に影響を及ぼしました。国内製造業も例外ではなく、各国の需要減が生産調整を引き起こし、大きな打撃を被っています。

世界規模で不確実性が高まる昨今、日本国内のものづくりにおいては製造業就業者や製造業に関する事業所数に減少傾向が見られます。コロナ禍以前から製造業におけるデジタル化・データ利活用ならびに、それによる「自動化/省人化」を求める企業は少なくありませんでしたが、COVID-19により、感染防止対策として「非接触」のニーズが高まってきており、製造業のスマート化/IT化は今後、ますます加速すると考えられます。

図表1のとおり、世界における生産システムや製造・搬送装置の市場規模は、2021年から2025年にかけて約17.3%の年平均成長率が見込まれています。また、国内市場においてもIT投資を増やしている企業が多く見られ、2020年度の企業の同投資の計画額は前年度比15.8%増と大幅に上がる見通しです*1。加えて、製造業に至っては前年度比20.3%増と過去最高となる見込みであり、このうち工場向けIT投資も増加すると予想されるなど、今後も投資は加速されると考えられます。

図表1 生産システムや製造・搬送装置の世界市場規模の予測

製造関連機器のネットワークへの接続(IoT:Internet of Things)、製造現場における通信の高速化(5G)、高度な仮想現実(VR:Virtual Reality)による業務サポート、無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)や自律型ロボットなどによる製造工程の自動化/省人化、デジタル空間での製造シミュレーションによるマネジメントの高度化(デジタルツイン:現実世界の物理的な製品やシステムで発生していることをサイバー空間<デジタル>で再現すること)……。製造現場において、こうしたさまざまな技術への投資ならびに活用が進むことで、非接触を前提に省人化ならびに完全自動化された工場が、徐々に実現されることになるでしょう。

自社を超えた「つながる」製造業に進化できるか

一方、市場に目を向けると、独自性・多様性のある商品の訴求力の高まりや即日納品など、消費者ニーズは多様化・高度化しています。こうした傾向は、オーダーメイドの製品作りを行うマスカスタマイゼーションへの対応の必要性が高まってきているとも捉えられます。製造業においては、COVID-19をはじめとする感染症対策をも含めた製造工程のデジタル化と、より正確に需要を捉えた上でのQCD(Quality, Cost, Delivery)の高度化の必要性が高まっています。

消費者ニーズの変化を瞬時に捉え、個々に最適化された製品を生み出すために、サプライチェーンならびにエンジニアリングチェーンを個別にデジタル化させるのではなく、ものづくりに関連する情報を横断的に分析して両者をシームレスに「つなげる」ための仕組み作りが必要となります。製造現場においても単なる自動化や省人化を求める設備投資ではなく、つなぎ合わせた情報をもとに需要データから供給量までを人工知能(AI)で導出し、製造内容に応じてフレキシブルな製造ラインの組み換えをAIが推奨するといった、自律化・高度化した製造現場が求められます。

図表2の左のような垂直統合型のものづくりでは、こうした対応は難しいと言えるでしょう。いかに水平分業で、かつさまざまな企業と柔軟につながることができるか、COVID-19を契機にした感染防止対策や非接触/自動化の取り組みを推進しながら情報の流通を活性化させられるか、他社との協業による企業間シナジーを創出し「競争」から「共創」へとシフトできるか……。製造業は、今まで以上にチャレンジングな状況に直面することが予想されます。まさしく、日本のものづくり企業の真価が問われていると言えるでしょう。

図表2 ものづくりにおけるバリューチェーンの進化のイメージ

*1:日本経済新聞社, 2020年. 「デジタル投資15.8%増 20年度、コロナ下でDX加速 日経設備投資調査」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62482780Z00C20A8SHA000/

執筆者

石川 慶紀

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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