わずか数年で業界地図が塗り替わる時代、既存の成功体験が転じて成長の足かせとなることも珍しくありません。不確実性が高まる経営環境下で企業の持続的成長を実現するためには、単なる既存事業の拡張だけでなく、自社の次なる事業構造を主体的に設計・構築できるかどうかが極めて重要な経営課題となります。
新規事業の構想に際しては、「どのような切り口を起点に検討を開始するのか」という視座の設定が、事業全体の方向性や成功確率に大きな影響を及ぼします。すなわち、既存事業の効率化・拡張を出発点とするのか、あるいは従来とは異なる全く新しい領域への参入を志向するのか、その判断が今後の企業成長における分水嶺となります。
多様な切り口の中、近年特に注目を集めているのが、既存事業への技術導入にとどまらず、事業そのものの在り方や産業構造を抜本的に変革し得る「エマージングテック」を基軸とした新規事業開発アプローチです。
エマージングテックとは、将来の事業競争力を根本的に左右する先端技術群を指します。その対象範囲は短期的な社会実装が可能なテクノロジーから、現時点では実現時期が不透明な中長期の技術テーマまで多岐にわたり、AI(人工知能)、量子コンピューティング、ブロックチェーンなどが代表例です。これらの技術は、もはや導入すべきテクノロジーとしての位置付けを超え、企業の事業構造や産業構造そのものを変革する、企業の成長戦略や事業構想の起点として捉えるべき段階に入っています。
このような背景を踏まえ、私たちはエマージングテックを事業へのインパクトが現れる時間軸に沿って、以下の三層構造で体系的に整理しています(図表1)。
図表1:PwCが定義するエマージングテックリスト
企業がエマージングテックを戦略的に活用する際には、単に技術の先進性や話題性に着目するのではなく、「いつ」「どのような形で」自社の事業成長や競争優位性に寄与し得るかという事業貢献のタイミング軸で優先順位を定義する視点が重要です。さらに重要な視点として、技術を統合化して、ビジネス視点で実装を進めることがあります。エマージングテックを短期に投入しつつ、技術の進展を待って代替していくということもあれば、一時的に「枯れた」技術を活用して、その先にある技術を統合しながら進める、という方法もあります。また、スピードを重視するか、インパクトを重視するかについても、企業が重点を置くポイントによってその選択は異なります。こうした点を包括的に検討することで限られた経営資源を最大限に活用し、持続的な成長機会の獲得を実現することが可能となります。
企業が持続的な成長を目指すには、社会課題を起点に新たな価値を創出する力が必要です。技術導入にとどまらず、いかにして技術を媒介に社会的価値を実現するか、あるいは、社会、産業の変革の中で技術をどう生かすかという本質的な問いへの再設計が求められています。
例えば、ディスラプションが進む産業領域では、スタートアップ企業が先進技術で市場を変革しています。大企業も自社の資産・データ・ブランドなどを新しい技術で再編しており、新たな産業ポジションの確立に向けた取り組みが目立っています。ここでは、企業あるいは産業ごとの時間軸の違いも意識しておくことが必要です。
企業がエマージングテックを戦略的なツールとして最大限に活用するためには、目的や意図を明確にした上で、以下の3点を重視しなければなりません。
特に、ゼロベースで新規事業を構想するフェーズにおいては、エマージングテックが事業ドメインの再定義に向けた起点となります。また、既存事業を発展させる場合も、先端技術を媒介として市場領域を拡張する第二の成長エンジンとして戦略的に活用することが可能です(図表2)。
図表2:エマージングテックを活用した新規事業のケース
テクノロジーの進化スピードはかつてないほど加速しており、「先端」と評価される技術が数年後には急速に陳腐化し、全く異なるかたちで社会に実装されている事例も珍しくありません。
製造業がAI・IoTを活用しデータ提供事業へとビジネスモデルを転換した事例や、通信事業者がブロックチェーンを基盤に分散型プラットフォーム運営へと進化するケースなど、異業種間での飛躍的な成長・変革も現実のものとなりつつあります。
エマージングテックを活用した新規事業開発では、技術の導入だけでなく、将来の社会構造や市場の変容を予測・逆算して事業仮説を構築する「未来志向の設計思想」が不可欠です。従来の事業計画に加えて未来予測と未来設計を持ち、技術の短期的な実装と長期的なビジネスインパクトの両面を把握した上で自社が取るべき戦略を明確にすることで、新たな市場や領域への展開も可能になります(図表3)。
図表3:エマージングテックを活用する際の要件
これからの新規事業開発においては、「どの技術を導入するか」ではなく、「技術を活用していかに新たな市場や産業構造を創出するか」という視点が問われます。エマージングテックを未来志向の事業構想と結び付けることができれば、企業は既存事業の枠組みを超え、業界をリードする新たな産業の創造主体となるポテンシャルを獲得できるでしょう。
変化を受動的に捉えるのではなく、変化そのものを捉え、未来を設計・主導していく。
企業がその戦略的意思決定を、経営として明確に持ち得るかどうかが、次の10年の持続的成長と競争優位性を左右するのではないでしょうか。
日本では、既存事業の成長に停滞感を抱く企業が、新たな柱となる事業の姿を模索しています。PwCは「新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025」を実施し、日本企業における新規事業の取り組み動向や課題、成功企業から学ぶべき方策を明らかにしました。
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