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中国の気候変動対策の最前線について、日本総合研究所の王婷氏をゲストに迎えた対談の後編です。2001年のWTO加盟以降、急速な経済成長を遂げてきた中国。世界最大のCO₂排出国である一方、近年では再生可能エネルギー(再エネ)導入を加速し、政府・企業・市民が一体となり気候変動対策を推し進めています。
前編では、中国の現状と政策方針にフォーカスしました。後編では、中国の強みである技術力とその活用、気候変動対策における日中協力の可能性とビジネス機会について考えます。前編に続き、王 婷氏とPwC Intelligenceシニアエコノミストの薗田 直孝が議論を進めます。モデレーターはPwC Intelligenceシニアマネージャーの相川 高信が務めました。
(左から)相川 高信、王 婷氏、薗田 直孝
参加者
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト
王 婷氏
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアエコノミスト
薗田 直孝
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー
相川 高信
※法人名・役職などは対談当時のものです。
相川:
前編では、中国における気候変動対策の意義と政策方針について考えてきました。後編では、気候変動対策における中国の強みと課題、そして日中協力の可能性を探っていきます。
中国が製造業に強みを持つことは前編でも触れましたが、その強みを生かして政府は中長期的な経済成長と気候変動対策を加速させようとしています。
他方、私が注目しているのが電気自動車(EV)を巡る動きです。2026~2030年までの5年間の政策の大方針となる第15次五カ年計画では、過去3回の「戦略的新興産業」に含まれていたEVが除外されました。薗田さん、これについて政府にはどのような狙いがあると考えられるでしょうか。
薗田:
非常に興味深い論点です。ご指摘のとおり、戦略的新興産業からのEV除外は世界的にも注目されているポイントです。エンジン車からEVへのシフトが進む中、中国は世界のデファクトスタンダードを確立すべくEV先進国としてプレゼンスを高めてきました。次に考え得るのが、EVをつくることに集中するのではなく、それを都市インフラとして活用し、人々の幸せを具現化するというアプローチです。中国はより高い視座から、EVにとどまらず、これからの社会に求められるモビリティのありようを見つめているのではないかと考えます。
相川:
製品レベルでの優位性を超え、都市全体のシステムとして活用していくということでしょうか。
薗田:
そのとおりです。EVを生産し世界各国に輸出するフェーズから、EVを組み込んだ新たな都市のあり方を提示する時代へと移行していくかもしれません。中国は私たちが見ている世界よりも一歩、二歩先の未来を見据えてすでに動き出している可能性があります。
王氏:
薗田さんのご指摘はごもっともです。第15次五カ年計画では、「融合」が一つのキーワードとなります。エネルギー分野においては脱炭素、太陽光、EVといったパーツをどのように組み合わせ、効率的で安定したエネルギーシステムとして構築するかが重要なテーマとなっています。
ここで技術の融合の観点から重要なファクターとして「水素」が挙げられます。2020年に制定された「エネルギー法」において、中国では初めて水素がエネルギーとして定義されました。再エネを中心としたエネルギーシステムの構築において、水素は再エネの不安定性を補完する手段として重要な役目を担うためです。
また、2020年には「水素エネルギー産業発展中長期計画(2021~2035年)」が発表され、本格的な研究・実証が始まりました。その後わずか数年間で技術開発が進み、現在ではすでに水素サプライチェーンが構築されています。
中国の製造業の強みはスピードアップやコストダウンを図りながら技術を高めていく点です。水素分野においても、再エネを使ってグリーン水素製造を行う、アルカリ型水電解装置や燃料電池システムの価格は、日本や欧米の3分の1程度に抑えられており、大幅なコストダウンを実現しています。
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト 王 婷氏
相川:
続けて王さんに伺いたいのが中国で普及している「個人カーボンアカウント」です。どのような仕組みなのか、日本や他国での実現可能性はあるのか、考えをお聞かせください。
王氏:
個人カーボンアカウントは、消費者の脱炭素行動を促すためのツールです。ブロックチェーンやAIなどの技術を使って個人の消費データを収集し、消費ごとのCO₂排出量を可視化・定量化します。銀行口座のように、グリーンな製品を購入したり脱炭素化につながる行動をしたりすることで削減されたCO₂排出量を「資産」として蓄積し、特典交換や取引を行うことができます。
政府や企業はこの仕組みを活用したインセンティブを設計することが可能であり、特に企業にとってはデータから消費者ニーズを分析できるメリットがあります。個人カーボンアカウントは、中国において消費者の脱炭素を推進する上で極めて重要なインフラとなっています。
相川:
日本の気候変動対策は消費者に対する啓発的な取り組みが多く、その先の具体的な行動につながりにくいことが課題と言えます。個人カーボンアカウントのような分かりやすい仕組みが日本でも実装された場合、どのような展開になるのか非常に興味深いですね。
相川:
ここまで中国のテクノロジーの進展について議論を深めてきましたが、一方で中国が抱える課題についても深掘りしたいと思います。薗田さんはどのようにお考えでしょうか。
薗田:
課題については2つのレイヤーで考える必要があります。まず足元では、長引く不動産不況に雇用不安が加わり、結果として中国は需要不足という問題に直面しています。健全な実需に基づいた経済成長のストーリーを描きにくい状況にあると言えます。
一方、構造的な部分では、人口減少と少子高齢化という根深い問題があります。いずれも想定以上に早いペースで進行しており、政府当局も大きな危機感を抱いているはずです。加えて、現地を訪れて実感した点として触れておきたいのが「内巻」というキーワードです。2025年に複数回中国を訪れた際、多くの人がこの言葉を口にしていました。
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアエコノミスト 薗田 直孝
相川:
「内巻」とはどのようなことを指すのでしょうか。
薗田:
限られた資源や機会を巡って過酷な競争が生じ、そこに参加する企業や個人が消耗してしまう状況を指します。
日本では新たなビジネスチャンスが生まれても、少し距離を取って動向を冷静に見る傾向がうかがえますが、中国ではこうしたチャンスに多くのプレーヤーが参入し、一気に市場が過熱します。その結果、価格競争が激化し、市場全体の持続性に影響を及ぼすため、「内巻」は深刻な問題と言えます。ここ最近政府当局はこうした傾向を解決するため、「反内巻」に向けた政策を打ち出したりしていますが、中国に根深く定着しており、克服するのは容易でないとみられます。
王氏:
この問題について政府は、価格競争から価値競争へシフトすることの重要性を強調しています。企業も自社の価値をいかに高めるかに注力しており、サプライチェーンの中でより上流に行く努力をするなど新たな動きが見られています。
一例を挙げると、海外進出においても、従来のように製品単体を輸出するのではなく、サプライチェーン全体を展開し、インフラ構築や新たな産業の共創に携わるケースが増えてきています。このようにして企業価値を高め、競争力を強化することこそが「内巻」への有効な対応策だと考えられます。
相川:
中国の技術がインフラとして輸出され、各国で活用されることは気候変動対策を世界全体で推し進める上でも重要なポイントになるのではないでしょうか。EVに関しては欧米を中心に高い関税を課す動きがありましたが、2026年に入ってからカナダやEUでも関税見直しの方針が表明されるなど、風向きが変わりつつあります。
気候変動対策に向けては「脱炭素経済圏」と呼べるような国際協調あるいは経済連携のレイヤーが姿を現しつつあるというのが私の見立てです。国際関係が複雑化する中で利害が一致しない局面もありますが、各国の動きを注意深く見ていく必要がありそうです。
相川:
最後に気候変動対策における日中協力の可能性を考えたいと思います。日中関係が安定しているとは言い難い状況ではありますが、地理的にも文化的にも近く、共通点の多い両国には多様な協力の可能性があると感じています。王さんはこの点についてどのようにお考えでしょうか。
王氏:
まず前提として気候変動対策は一国で完結できるものではなく、国際協力が不可欠です。気候変動対策において中国のプレゼンスが高まる一方で、米国のパリ協定からの離脱があり、国際的な枠組みをどこまで広げていけるかは不確実です。そうした中、中国は国内施策を推進すると同時に、欧州との連携や途上国へのインフラ投資を通じて国際協力を強化しています。
日中関係は緊張が続いていますが、日本はこうした中国の脱炭素分野の取り組み動向にしっかりと目を向け、民間レベルでできる取り組みを進めていくことが重要だと考えます。
相川:
王さんは、日本企業が中国企業のエコシステムに参加する可能性もあるとお考えのようですが、具体的にどのような業界や分野をイメージされていますか。
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー 相川 高信
王氏:
再エネ、EV、電池分野ではすでに多くの日本企業が現地で活動していますが、今後さらに新規事業開発や技術開発での連携を強化すべきだと考えています。
薗田:
中国が直面している少子高齢化、人口減少、不動産不況といった社会課題は、日本でもよく耳にするキーワードです。日本と中国のマーケットの類似性に焦点を当てれば、連携のヒントが見えてくるかもしれません。
また、中国市場を長く見続けている中で実感するのが、中国はEUとアフリカを合わせたような多様な顔を持つマーケットであるということです。大きな国の中には地域や文化、産業の特性が幅広く存在しており、ひとくくりに語れない要素を多く含んでいます。中国全体の方向性を大きく捉えて見極めていくことも大切ですが、これと同時に中国の中のどの地域の、どの分野にいかにフォーカスすれば日本の技術や知見を生かせるのか、具体的なストーリーを描いてみることが重要だと考えています。
相川:
気候変動対策をはじめ、日本と中国にはさまざまな連携可能性がありそうです。気候変動をテーマに、日本企業が中国でビジネスを発展させるために何が必要か、お二人のお考えをお聞かせください。
薗田:
百聞は一見に如かず、まずは現地に足を運ぶことです。中国は多様な顔を持つマーケットであると表現しましたが、地域や都市、あるいは訪れるタイミングによって全然違う顔が見えるのが中国の面白いところです。現地を訪れ、現地の人の話を聞いて初めて、日本が中国とともに成長し発展していく道筋が見えてくると考えています。
王氏:
同感です。中国は非常に変化の激しい国ですから、自分の目で見てその変化を感じることが中国ビジネスを真に理解するための重要なポイントだと思っています。
薗田:
本当の姿が見えてこそ、その先のビジネスの成功につながるはずです。今後も中国経済の動きを見るとともに、現地での情報収集を続けていきたいと思います。
相川:
お二人が中国の現地に行くことの重要性を強調されたことがとても印象的です。今回の統合知対談では中国の気候変動対策の最前線、そして国際協調や日中協力のあり方など、多岐にわたるテーマについて議論を深める機会となりました。ありがとうございました。
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