中国の気候変動対策の最前線(前編)

政府・企業・市民一体型の取り組みの意義とは

  • 2026-04-21

世界最大のCO₂排出国である中国は、気候変動問題を考える上での最重要プレーヤーです。近年では再生可能エネルギー(再エネ)電力の導入を急速に進め、経済成長とともに増加してきたCO₂排出量が減少に転じるなど、世界全体の注目を集めています。

こうした中国における温室効果ガス(GHG)削減やエネルギー転換の考察には、背景にあるマクロ経済や産業構造、社会の変化も踏まえた統合的な理解が不可欠です。一方、気候変動を巡る国内外の議論では、中国の専門的知見やその有識者が不在のまま議論が進められるケースも少なくありません。そこで今回の統合知対談では、中国のエネルギー政策と産業動向を研究する日本総合研究所の王 婷氏を迎え、PwC Intelligenceシニアエコノミストの薗田 直孝とともに中国の気候変動対策について議論しました。前編では中国の現状と政策方針を考察します。モデレーターはPwC Intelligenceシニアマネージャーの相川 高信が務めました。

(左から)相川 高信、王 婷氏、薗田 直孝

(左から)相川 高信、王 婷氏、薗田 直孝

参加者

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト
王 婷氏

PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアエコノミスト
薗田 直孝

PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー
相川 高信

※法人名・役職などは対談当時のものです。

量的拡大を超えた安定成長への道筋と気候変動対策の位置付け

相川:
今回のテーマは「中国の気候変動対策」です。世界の気候変動問題を考える上で、中国は極めて重要な位置を占めています。2001年のWTO加盟以降、中国は急速な経済発展を遂げ、2024年時点では全世界のCO₂排出量のおよそ3割を占める最大の排出国になりました。一方で、最近ではこうした傾向に変化が見られ、特に2025年にはコロナ禍を除き、中国のCO₂排出量が初めて減少に転じたと報じられています。

背景にはいくつかの要因があり、その一つが再エネ産業の急速な成長です。2010年代以降、特に太陽光や風力が伸び、2024年の再エネ比率は33.7%まで上昇。2025年には石炭火力の発電量が減少したとも報じられています。世界における存在感も増しており、2024年までの世界の累積再エネ発電容量において、中国は太陽光の44.7%、風力の42.6%を占めました。

さらに太陽光パネルのサプライチェーンでは製造の各段階で70%以上のシェアを持ち、次世代エネルギーとして注目される水素製造に用いられるアルカリ型水電解装置でも高いシェアを占めています。

今回の統合知対談ではこうした中国の気候変動対策の最前線を追うとともに、日中協力の可能性についても議論を進めます。

ゲストには中国のエネルギー政策と産業動向を研究されている日本総合研究所の王さんをお招きし、PwCからは中国経済を担当する薗田と、気候変動分野を担当する私(相川)がモデレーターを務めます。

はじめに薗田さん、中国経済の現状と今後の展望を踏まえ、中国にとっての気候変動対策の意義をどのように捉えているか、ご意見をお聞かせください。

PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー 相川 高信

薗田:
建国から70年以上の歴史を刻んできた中国ですが、中でも大きな節目となったのが2001年のWTO(世界貿易機関)への加盟です。以来、非常に早いペースで経済成長を続け、その過程では量的拡大が前面に出ていた側面もあったと考えられます。

一方、足元では長引く不動産不況や経済成長の減速、雇用不安といった多くの課題に直面しており、今後は量的拡大を超えた「質」重視による安定的な成長をいかに実現するかが重要です。気候変動対策はそのエンジンとなるものであり、政府により着実に推進が図られています。

経済成長の中で培われた暮らしの豊かさと国民の意識の変化

相川:
続いて、王さんは中国の気候変動対策をどのようにご覧になっていますか。政府、企業、市民の各ステークホルダーの視点を踏まえてお聞かせください。

王氏:
中国の気候変動対策の特徴は、政府、企業、市民が一体となって取り組んでいる点にあります。政府は旗振り役として明確な戦略と方向性を掲げ、国全体をリードしています。背景には、エネルギー多消費、環境公害、異常気象といった課題解決に加え、グリーンテクノロジーの開発や産業育成、さらには国際的なプレゼンス向上といった狙いがあります。

相川:
企業や消費者の視点ではいかがでしょうか。

王氏:
企業にとっては「コスト増」が最大の関心事です。すでに国際的なサプライチェーンに組み込まれている企業や上場企業は社会責任として積極的に取り組んでいますが、その他の多くの企業は、CO₂排出規制や省エネ目標といった政府が課すルールに対応しなければならず、操業停止や罰金を徴収されるリスクもあるため、受け身で取り組んでいるのが実情です。

消費者に関しては非常に意識が高く、「2025年中国持続可能消費報告書」では、調査対象の75%がグリーン低炭素消費を実践しているとの調査結果がありました。この背景には、洪水や干ばつなど異常気象への危機感や、脱炭素化を推進する製品の購買や行動に対し、政府と企業がインセンティブを与える仕組みがあることが影響しています。

相川:
国全体で気候変動対策への関心を高めるシステムがうまく回っている印象を受けますが、薗田さんはこうした中国社会の動きをどう見ていますか。

薗田:
量的拡大を追求する中で経済成長し、人々が裕福になってきた今、「より豊かで充実した生活を送りたい」「幸せに暮らしたい」といった価値観が広がり、それが気候変動対策にもプラスの影響をもたらしているのではないかとみています。

相川:
これまで気候変動対策は欧米を参考にすることが多かったですが、中国のように政府・企業・市民が一体で推進するモデルから日本が学べることは多くありそうですね。

2030年までの大方針「第15次五カ年計画」に見る中国の本気度

相川:
2026年3月、日本の国会に相当する中国の全国人民代表大会において「第15次五カ年計画(2026~2030年)」が承認されました。今後5年間の経済、社会政策の指針となる重要なものですが、この計画における気候変動対策はどのように位置づけられているのでしょうか。

薗田:
2026年の「政府活動報告」で示された重点活動任務として「内需拡大」が最も重視されています。足元の経済環境が非常に厳しい中、内需主導を堅持し、強力な国内市場を構築することが強く打ち出されています。

PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアエコノミスト 薗田 直孝

薗田:
同時に「グリーン転換」についても政府の本気度がうかがえます。省エネやCO₂排出削減の下、全面的なグリーン化の推進を加速させることが明文化されており、今後の経済発展の前提として位置づけられていると考えます。

また、政府活動報告では「新興産業」と「未来産業」の育成についても言及されています。新興産業としては、新エネルギーや新素材、航空宇宙、ドローンなどを活用した「低空経済」があり、未来産業には、量子技術やバイオ製造、水素・核融合、ブレイン・マシン・インターフェース(脳と機械を直接つないで信号をやり取りする技術)、エンボディドAI(人型ロボットなど)、6G通信などがあります。

このようにテクノロジーを追求し、新たな産業の育成と高度化を図りながら社会をより良く変えていくという方針が打ち出されています。補助金制度や人材、設備面でのサポートを通じて、政府当局が本気の支援を行うことで可能性が広がっていくと考えます。

エネルギー強国の建設へ。目指すは効率的かつ安定的な再エネシステムの構築

相川:
王さんは第15次五カ年計画のどのような点に注目していますか。

王氏:
ポイントは大きく3つあります。1つ目がエネルギー消費量ではなく「CO₂排出量」を基準とした管理への転換が示されている点です。従来は企業経営や製品、プロジェクトの評価軸がエネルギー消費量だったのに対し、今後は全面的にCO₂排出量により判断されることになります。

相川:
COP30に先立ち、2025年9月に開催された国連気候サミットにおいて、習近平国家主席は2035年までに温室効果ガス排出量をピーク時より7〜10%削減する新たな目標を発表しました。王さんが言及された「排出量を管理する」という考え方につながるものですが、直接的にCO₂排出量が問われる社会へ移行していくことは、非常に大きな変化だと感じています。

王氏:
おっしゃるとおりです。2つ目のポイントは「エネルギー強国の建設」が打ち出されている点です。2025年時点で中国の電力消費は10兆kWhを超え、そのうち3分の1が再エネによる発電となっています。

これまでは再エネの出力抑制や効率的な運用について課題がありましたが、再エネを中心としたエネルギーシステムを構築する基盤技術が全てそろった今、エネルギー強国への道筋が見え始めています。第15次五カ年計画ではこれらを統合し、さらに新たな技術の導入を通じて効率的かつ安定的な再エネを中心とするシステムを構築していくことが大きなテーマとなります。

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト 王 婷氏

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト 王 婷氏

相川:
再エネの出力抑制は日本でも課題となっています。これまでは特に再エネ導入率の高い西日本で多く発生していましたが、2026年に入って首都圏でも初めて再エネ発電の出力制御が行われました。これは太陽光や風力発電の稼働を一時的に止めるものですが、再エネ導入が進む一方で、それを電力システムにどう統合し、余剰電力を有効活用するかは、日本にとっても重要なテーマであり、中国のナレッジを参考にできるのではと感じています。

王氏:
第15次五カ年計画の3つ目の注目ポイントは、市場メカニズムを活用した気候変動対策の推進です。従来、中国政府は脱炭素や省エネを推進する上で行政的な手段を使っていましたが、今後は排出量取引市場や電力市場といった市場メカニズムが中心となる枠組みへ転換を図るとみています。これにより、環境価値市場が拡大していくことが期待されます。

相川:
日本でも2026年4月から排出量取引制度「GX-ETS」が本格的に始まります。この制度では、年間の直接CO₂排出量が10万トンを超える企業に対して参加が義務付けられており、約300~400社で国内排出量の60%がカバーされる見込みです。日本と中国でパラレルに取り組みが進んでいますが、日本が参考にすべき点はあるのでしょうか。

王氏:
国によって制度設計が違うため一律に中国の取り組みを日本に持ち込むのは難しいですが、政府がぶれずにリードするといった強い姿勢には学ぶ点が多いと感じています。また、規制や政策、補助金などを組み合わせてマーケットを創出し、需要を喚起するという点においても中国は非常に長けていると感じます。

一方、再エネ導入は企業にとって大きなチャレンジですが、中国の企業は大量に実証を重ね、その中で技術を磨き、実験から産業化へと歩みを進めています。そうした企業努力のあり方は日本企業にとっても大いに参考になるでしょう。

相川:
政府の明確な方針と戦略があるからこそ、企業も大量にチャレンジできる環境が生まれているのですね。日本は今、再エネ導入についてさまざまな課題に直面し、正念場を迎えています。中国の取り組みを見てうまく取り入れていく必要があると感じています。

加えて、先ほど薗田さんが言及した新興産業や未来産業の文脈からも、中国の新たなテクノロジーや産業育成に対する前向きな姿勢がうかがえますね。

薗田:
まさにそうですね。第15次五カ年計画を分析していく中で、キーワードである「科学技術の自立自強」「強国」を実現するために産業政策を推進していく強い意志が伝わってきます。中国ならではのものづくりの強みを生かし、第2次産業をけん引役として中長期的な経済成長を図りながら、気候変動対策にも本気で取り組む姿勢があると考えます。

王さんがおっしゃったように、粘り強く実験と実証を重ねて社会実装していく強さが中国にはあります。今後どれだけのスピードで描いた未来像が具現化されていくのか引き続き注目していきたいと思います。

相川:
ありがとうございます。前編では、中国における気候変動対策の意義と、第15次五カ年計画の注目ポイントについて議論を深めることができました。後編では、気候変動対策における中国の技術の強さと日中協力の可能性を探っていきたいと思います。

主要メンバー

薗田 直孝

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

Email

相川 高信

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

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