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シリーズ「これからの病院経営を考える」、前回の第31回では、2026年度診療報酬改定を踏まえ、急性期医療、包括期医療が入院料や加算の観点でどのように変化するか整理しました。
今回の改定では、急性期入院医療の評価体系に大きな変化が生じています。新設された急性期病院一般入院基本料は、急性期病院A一般入院料(以下、「急性期病院A」と言います)および「急性期病院B一般入院料(以下、「急性期病院B」と言います)」の2区分です。
従来、特定機能病院を除く入院基本料で最も点数が高かった急性期一般入院料1(以下、「急性期一般1」と言います)に対して、急性期病院AおよびB(看護・多職種協働加算を取得した場合)はそれを上回る点数となっています。加えて、これまで急性期の高度な実績を持つ病院のみが算定可能であった急性期充実体制加算と総合入院体制加算を統合して新設された「急性期総合体制加算」は、急性期病院AまたはBのみが届出可能となるなど、大きな変化が生まれています。
本稿では、そうした変化を踏まえ、実際に全国の病院はどのような選択をする必要があるのか、病院類型ごとに考えていきます。
2026年度(令和8年度)の改定では急性期医療の評価体系が大きな転換期を迎えます。ポイントは、「急性期一般入院料1」の再編と、新設される「急性期病院入院基本料」、それらと連動する「急性期総合体制加算」の導入です。病院経営への影響が大きいため、ここでは現在の病院の位置付けに応じた変更点と検討すべき事項について、3つのケースで考えていきます。
まず、ICU(集中治療室)などの高度な治療環境を備え、急性期病棟を主軸とする地域の中核病院が今後どのような変化を迫られるかみていきます。前提は、重症患者を24時間体制で受け入れ、専門的な治療を完遂できる体制を持っていることですが、自院が地域の医療提供体制においてどのような責任を担うのか、その立ち位置を明確にする必要があると考えられます。
今回の改定で、評価の焦点は「看護配置」から、実際の「診療実績・総合的な診療機能」へとシフトします。要件化されるのが、救急搬送の年間受け入れ実績や全身麻酔手術の件数といった数値指標に加え、維持が難しいとされる小児・周産期など、幅広い総合的な診療機能の保持です。これにより、特化型ではない「総合力」のある病院がより高く評価される仕組みへと厳格化されます。
高度急性期医療や小児・周産期などの総合的な医療を提供する「急性期拠点病院」としての地位を確立するために、以下の具体的なアクションが求められると想定されます。
地域で主導し、地域医療構想に基づいた他院との機能分担を行う必要があります。その中で例えば、自院は高度手術や三次救急に特化し、比較的安定した症例は連携病院へ迅速に逆紹介し、地域全体での連携を推進していくことなどが考えられます。地域の中の「急性期拠点病院」として、重症患者を自院へ集約化させるためのネットワーク構築が、運営の核となります。
「急性期入院料A」や「急性期総合体制加算」を取得することは、地域に対する強力なメッセージになります。自院が紹介受診重点医療機関として、地域全体の救急・高度医療の「司令塔」であることを対外的に発信し、連携先クリニックからの信頼(紹介率)を揺るぎないものにすることや、地域のほかの包括期・回復期病院との連携が、持続可能な症例確保に直結していくと考えられます。
次に、現在「急性期一般入院料1〜2」を届け出ている中規模病院、または地域包括ケア病棟などを併設するケアミックス病院への影響と戦略について考えます。
今回の改定でも、重症度、医療・看護必要度の要件の厳格化は継続されますが、一方で救急搬送の受け入れ実績が高い病院を評価する方向性がより鮮明になります。具体的には、これまでにもあった「処置の内容」だけでなく、救急車で運ばれてくる高齢者らへの対応が正当に評価されるよう、内科系処置の点数配分について見直しが盛り込まれました。その結果、中規模のケアミックス病院にとっては、従来の急性期病棟(7対1/10対1)をなんとしても維持するのか、あるいは高齢者救急の受け皿としての「地域包括医療病棟」へ機能をシフトするのか、重い選択になり得ます。
どのシナリオを選ぶかで、人員配置から設備投資、地域への広報戦略まで大きく変わります。
今回の改定では看護必要度の項目見直しにより、単純な処置よりも緊急搬送後の内科的初期対応などが高く評価される見込みとなります。基準値自体は上昇しますが、救急応需を増やし、A項目の配点が見直されることから、中医協(中央社会保険医療協議会)における従来の議論を踏まえると、難易度は実質的に変わらないことが想定されます。ICUからの早期退出フローの構築など、運営方法や体制を最適化することで「急性期一般1・2」を維持するか、または急性期病院Bの届出を目指すことが選択肢となります。
戦略上の注目点は、「急性期一般1・2」では地域包括ケア病棟および地域包括医療病棟の併設に関する制限はありませんが、「急性期病院B」では地域包括ケア病棟との併設は可能である一方で、地域包括医療病棟との併設ができないという点です。すでに地域包括医療病棟を届け出ている、または地域包括医療病棟の届出を検討している場合には注意が必要となります。
急性期病院Bの届出を行う場合、次に検討すべきは急性期総合体制加算5の取得です。特筆すべき点として、実績要件が要求される急性期総合体制加算のうち、急性期Bでも取得可能な急性期総合体制加算5については、症例数を積み重ねにくい地域への配慮として、「二次医療圏において救急搬送受け入れ件数が最も多い」といった実績の絶対数ではなく、地域貢献度による緩和措置が設けられている点です。これにより、人口が減少している地域であったとしても、地域医療の最後のとりでとして機能している病院が適切に評価される構造になっています。
人口が減少している地域における配慮は、人員配置基準の面にも読み取ることができます。急性期病院Bでは、必要となる看護必要度の基準が高くなる一方、看護配置基準は10対1が基準になります。マンパワーの不足が懸念されますが、これに対する救済策として、「看護・多職種協働加算」を活用することができます。これは看護職員に加え、リハビリ職、管理栄養士、臨床検査技師を病棟に配置することで、多職種チームの合算で「7対1相当」の体制を補完することを評価するものであり、看護師の確保が難しい地域において重症患者の対応を可能にする狙いがあります。
既存の急性期病棟をスリム化して維持しつつ、一部の病棟を高齢者救急の受け皿である「地域包括医療病棟」へ転換し、病棟間で「重症急性期」と「高齢者救急」の機能を明確に分化させる戦略です。
このシナリオを選択する場合、病院全体の入院基本料の枠組みに注意が必要です。地域包括医療病棟を届け出る病院は、新設される「急性期病院A・B」を算定することはできず、従来の「一般病棟入院基本料」(急性期一般1〜など)を維持しながら運用することになります。つまり、病院全体を「高度急性期・実績特化型」へ振り切るのではなく、あくまで地域の実情に合わせた「ケアミックス」を続ける道を選ぶことになります。
目指すべき姿としては、脳・心臓・がんなどの高度急性期機能と、地域ニーズの高い高齢者救急、両方の機能を併せ持つ柔軟な病院モデルの確立です。地域のあらゆる急性期需要を自院で選別・対応できる強みを最大化します。急性期一般および地域包括医療病棟は、在宅復帰率の分子に回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハと言います)への転棟が算入可能であるため、回リハを併設する病院にとって、シームレスな転棟を運用していく選択肢となります。
地域に急性期を担う拠点病院が他にある場合、急性期医療を拠点病院へ集約する流れを踏まえくみ、自院は急性期から包括期へ路線を変更するという選択肢を検討する必要が現実味を帯びます。このパターンでは、「地域包括医療病棟入院料1」や「包括期充実体制加算」による単価の底上げを収益の柱とし、病院全体を包括期機能へ大きく転換する戦略が論点になります。これらは急性期病棟を持たないことが施設基準で求められるため、自ずと包括期の入院料のみにシフトすることを意味します。
目指すべき姿は、高齢者救急の応需体制は維持しつつ、急性期治療から在宅復帰までをワンストップで支える「地域包括ケアの真の受け皿」になることです。
図表1:3つのシナリオ
区分 |
パターンA:急性期維持型 |
パターンB:ケアミックス型 |
パターンC:包括期型 |
主となる入院料 |
急性期一般1・2または急性期病院B |
一般病棟入院基本料または地域包括医療病棟 |
地域包括医療病棟など |
併設可能な病棟 |
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影響度の高い加算・運営方法 |
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戦略のポイント |
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どのパターンを選ぶかは、病院経営者の意向や過去の実績に基づく主観ではなく、「地域医療における自院のポジション」を冷静に判断することが重要です。具体的には、次の3点で分析します。
①DPCデータ/看護必要度データを参照し、現在の症例数で新しい施設基準を満たせるのか
②地域の高齢化率と疾病構造を踏まえ、今後10年で手術症例・高齢者搬送はどう変化するのか
③競合状況を適切に把握し、近隣の急性期拠点病院・包括期病院と機能が重複していないか
なお、地域包括ケア病棟はいずれのパターンにも併設可能であり、病床稼働率と在宅復帰率を調整する「経営のバランサー」として、引き続き極めて重要な役割を担うことになります。
最後に、すでに急性期から包括期への移行が進み、大半の病棟が包括期にシフトしていることで、DPC症例数の維持が困難となる病院のケースを考えていきます。
従来の診療報酬体系では、急性期一般入院料(7対1/10対1)を算定する病棟を維持することが病院のステータスであり収益の柱でもありました。しかし、今回の改定で新設される「地域包括医療病棟入院料1」と「包括期充実体制加算」の登場により、急性期病棟を持たず、包括期へ特化することのメリットが大きくなります。
特筆すべきは、包括期充実体制加算の算定要件として、一般病棟入院基本料を届け出ていないことが明記された点です。これにより、一部急性期病棟を維持するよりも、全病棟を包括期(地域包括医療病棟や、地域包括ケア病棟)へ完全に寄せることで、加算によって病院全体の収益単価を底上げできるという逆転の構造が生じます。
DPC症例数の確保に苦慮しながら病床管理を続けている病院にとって、今回の改定は「攻めの撤退」を選択するための後押しになると考えられます。「急性期病棟を持たないこと」が、地域における役割を明確にし、かつ経営的なメリットを最大化させます。新しいルールを活かし、リハビリや高齢者救急にリソースを集中させることは、人口減少社会において具体的かつ持続可能な病院モデルの一つとなり得るのではないでしょうか。
入院料の届出変更に当たり、地域需要への対応、すなわち高齢者救急やポストアキュートの受け入れ、クリニック・介護施設との連携を主軸とした包括期病院としての経営戦略へ移行する必要があります。機能転換を見据えた、早期の病院の「あり方」の再構築と、地域への周知および認知を得ることが不可欠です。
入院料の届け出を急性期から包括期へと変更することは「機能の低下」ではなく、地域需要に合わせて自院の役割を最適化する「リ・ブランディング」と捉えることが重要です。機能転換は下記観点を踏まえ、整理するのが良いと考えられます。
地域包括医療病棟への転換において、鍵となるのは救急応需の実績です。今回の改定では、地域包括医療病棟の入院料が入院経路と手術の有無に応じて細分化され、救急搬送患者の入院料に高い点数が設定されています。受け入れを断らない救急の体制構築は、施設基準の順守にとどまらず、ダイレクトに病院経営へのインセンティブとして現れます。自宅や介護施設からの救急患者を24時間体制で例外なく受け入れる地域のセーフティネットとしての機能を強化することが、地域における存在価値となります。
ポストアキュート機能の強化は、自院の病床稼働率を安定させるだけでなく、地域の急性期拠点病院にとっても大きなメリットとなります。今回の改定で急性期病院A・Bを目指す地域の拠点病院は、平均在院日数の短縮や診療実績の維持(手術件数など)のため、いかに早く、信頼できる後方病院へ逆紹介できるかという動機付けが強まります。自院が「ポストアキュート」機能としての質を磨くことは、拠点病院にとっての最高のパートナーになることを意味し、地域における重要な役割を果たすことになります。
「包括期充実体制加算」の算定を見据え、病棟配属の管理栄養士やリハビリ職、薬剤師によるチーム医療を現場に浸透させます。これまでは治療することをゴールとしていましたが、これからは早期の在宅復帰が病院のゴールになります。入院当日からリハビリや栄養に介入し、口腔ケアを徹底すること、これを病院の職員一人ひとりが自身のミッションとして誇りをもって語れるように組織文化を再定義することが重要なポイントと考えられます。
機能転換を成功させるための最大のポイントは、「当院の存在意義をリブランディングすることへの早期決断」と「リブランディングした姿を、誰の目からも分かるように丁寧に周知すること」です。決断が遅れることで、経営への影響も大きくなる可能性があります。消極的な理由から急性期医療を扱わなくなったのではなく、「地域包括医療のプロフェッショナルへ進化した病院」として、近隣のクリニックや介護施設、そして何より自院の職員に対して、新たな病院の「あり方」を明確に示し、丁寧に周知することで、強みを最大限に生かした姿に生まれ変わることができます。
本稿では2026年度(令和8年度)診療報酬改定を踏まえ、急性期と包括期の入院医療に関する選択肢について考察をしてきました。診療報酬改定が病院経営に与える影響は大きい一方、適切な選択のためには、地域での立ち位置、患者像、運営体制、周辺環境、将来の人口・ニーズ、などさまざまな要素を踏まえた判断が不可欠です。
2026年度(令和8年度)改定は、変化を恐れず自院を最適化した病院にこそ追い風になり得ます。今後の方向性について検討される際には、ぜひご相談ください。
厚生労働省 「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 議事次第 資料」
厚生労働省 「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 議事次第 個別項目について」
厚生労働省 「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 医科診療報酬点数表」
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