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厚生労働省が2025年11月に公表した医療経済実態調査によると全国の一般病院の7割が2024年度赤字に陥っており、全国の病院は正念場を迎えています。特に急性期医療を担う病院は、高額な医療機器への投資や材料費に対する物価高騰の影響に加えて、人材確保のための賃上げ圧力により、これまでの経営努力だけでは埋めきれないコスト増にさらされており、非常に厳しい状況にあると言えます。こうした状況下で行われる2026年度(令和8年度)診療報酬改定では、人件費・物価高騰への対応が注目されていましたが、それらへの対応にとどまらず、病院の今後の在り方や役割を根本的に見直すことが求められることとなりそうです。
今回の改定で特に注目される点は、急性期医療の定義を根本から問い直す「急性期病院一般入院基本料」の新設と、それに伴う包括期入院料の多様化です。従来の「病棟における人員配置」による評価から、救急や手術の実績と総合的な診療機能といった「病院の機能」による評価へと舵が切られることで、急性期病院の集約化と、高齢化に伴いますます求められている包括期へのシフトがより顕著になることが想定されます。本稿では、多様化する急性期・包括期医療の新たな枠組みについて整理します。
今回の改定による最大の目玉の一つは、急性期医療の評価軸の見直しです。これにより「病棟の人員配置」から「病院の実績と機能」が求められる形へ、さらに大きくシフトすると考えられます。急性期医療に関連する見直しについて、以下の項目ごとに解説します。
これまで急性期病院で算定されていた急性期一般入院料に加えて、新たに「急性期病院一般入院基本料」が新設されます。急性期病院一般入院基本料はさらに「急性期病院A一般入院料(以下、「急性期病院A」と言います)」および「急性期病院B一般入院料(以下、「急性期病院B」と言います)」の2つに分類されます(図表1)。
従来、特定機能病院を除く入院基本料で最も点数が高かった急性期一般入院料1(以下、「急性期一般1」と言います)に対して、急性期病院Aはそれを上回る点数が示されました。また、これまで急性期の高度な実績を持つ病院のみが算定可能であった急性期充実体制加算と総合入院体制加算を統合して新設された「急性期総合体制加算」は急性期病院AおよびBのみ届出可能となっています。
新設される急性期病院AおよびBの最大の特徴は、従来の急性期充実体制加算で評価されてきた高度な実績や、総合入院体制加算で評価されてきた総合的な診療機能を持つ病院を対象としている点であり、従来の病棟単位の評価ではなく、病院単位の診療実績を重視します。これまでは特定の病棟に基準以上の看護師を配置し、一定の重症度を満たせば高い点数を算定できました。しかし、今後は病院全体の救急車受け入れ実績や手術件数、他職種協働の体制が厳格に問われます。
従来の急性期一般1と、新設される急性期病院Aを比較すると、そのハードルの高さが際立ちます。急性期病院Aの算定には、高度な救急医療体制や救急車の受け入れ台数、全身麻酔手術件数の実績などが直接的な要件として組み込まれています。
さらに注目すべきは、小児医療や周産期医療といった、採算がとりづらいものの地域に不可欠である「総合的診療機能」が評価の柱となる点です。これにより、「単一疾患に特化した効率重視の病院」ではなく、「地域最後の砦として幅広い急性期需要に応える病院」が、より高く評価される仕組みになります。
そして、経営戦略上非常に大きなインパクトを与えるのが、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟とのケアミックスに対する厳しい制限です。これまでの急性期一般1では、病床稼働率や施設基準を維持するため、地域包括ケア病棟とのケアミックス運用が有効な経営手段でした。しかし、急性期病院Aを目指す以上、そうした「院内での受け皿」による調整は許されず、高い回転率と救急応需だけで勝負することが求められます。この制限によって、病院は「純粋な急性期として生き残るか、それとも急性期の基準を下げケアミックスとするか、包括期へ完全に舵を切るか」という選択を迫られることになると想定されます。
また今回新設される看護・他職種協働加算も重要な要素です。この加算は急性期病院Bと急性期一般4を対象としていると考えられています。この2つの入院料はベースの看護配置が10対1ですが、看護師またはコメディカル(療法士、管理栄養士、臨床検査技師)で7対1相当にすることで急性期病院BはA相当に、急性期一般4は1相当の点数になります。ただし、新規届出にあたっては400床未満であること、2病棟以上の届出にあたってはハイケアユニット等の集中治療室を持たないことが条件となる点に留意が必要です。
改定の趣旨としては大学病院や三次救急病院など、新たな地域医療構想において「急性期拠点機能」を担う病院を急性期病院Aとして明確化し、限られた高度急性期の医療資源をそこへ集中的に投入することがあります。この再編により、地域内での「高度急性期」と「一般急性期」、または「包括期」の役割分担が加速し、実態として急性期機能が低い病院は、後述する「地域包括医療病棟」や「地域包括ケア病棟」など、包括期への転換を迫られることになると想定されます。
図表1:入院料比較表
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これまで、高度な体制を評価するものとして「急性期充実体制加算」と「総合入院体制加算」の2つが併存していました。しかし、要件が複雑で重複も多かったことから、これらを一本化し、新たに「急性期総合体制加算」が創設されます。
新加算は、病院単位の実績(救急・手術)や専門医の配置、医療安全の取り組みなどに応じた「加算1〜5」による多段階評価となります。
重要なのは、各ランクにおける算定要件です。最高位の「加算1」から「加算4」までは、急性期病院Aの届出が必須となります。つまり、急性期病院Aという高いハードルを越えられない限り、収益性の高い上位加算の獲得ルートは完全に遮断されることになります。
一方で「加算5」については、急性期病院AまたはBのいずれかを選択していることが条件です。急性期病院Bは入院料こそ従来の急性期一般1を下回っていますが、「加算5」を取得した場合、急性期一般1と同等の点数となり、かつ急性期一般1の7対1に対して、10対1の看護配置が可能となっています。
この加算体系は単なる点数の上乗せではなく、その病院が地域において「高度急性期の中核」であるか否かを判別する基準となる可能性があります。地域で高度急性期医療を担う病院の経営には、急性期病院Aの入院料を確保するだけでなく、どのランクの加算を維持できるかが、将来の収益安定性とブランド価値を大きく左右します。
図表2:急性期総合体制加算への統合
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重症度・看護必要度についても見直しが行われます。
令和6年度の診療報酬改定により重症度・看護必要度の基準が見直されたことで、手術や処置を伴う患者が少ない病院では必要度を満たしづらくなっていました。今回の見直しでは、高齢者の急性増悪や肺炎、心不全など、外科手術を伴わないものの手厚い看護とリハビリ、迅速な救急対応を要する「内科系疾患」への評価が強化されます。また、病床数あたりの救急搬送患者の受け入れ件数に応じて施設基準を緩和する措置も追加されます。これらは今後増加する高齢者救急患者への医学的管理をより正当に評価することで、地域全体の救急応需能力を高める狙いがあります。
評価を厳格化する一方で、現場の負担軽減も図られます。特に、手間のかかる「B項目(日常生活機能)」の測定頻度軽減は単なるコストカットではなく、看護師が「記録」よりもむしろ「患者ケア」に集中できる環境を整えるための現実的な緩和策と言えます。
2024年度改定で新たに示された「地域包括医療病棟」は、救急搬送される高齢者に対し、急性期治療とリハビリテーション、栄養管理を包括的に提供する病棟として誕生しました。2026年度改定では、この病棟がより現場の実態に即し、かつ機能的に運用されるよう、大幅な更新が図られます。
これまでの地域包括医療病棟は単一の評価体系でしたが、2026年度からは「細分化」が行われます。この細分化の特徴は、まず「急性期一般病棟を併設しているか否か」で、病院としての基本区分が2つに分かれる点です。具体的には、急性期病棟を持たない「包括期医療に特化した病院」が、より高い評価である「地域包括医療病棟入院料1」を算定できる枠組みとなります。これは、ケアミックス病院から包括期病院へのシフトを後押しし、地域において高齢者救急を中心とする包括期医療を担う病院を、より手厚く評価する意図と考えられます。
さらに、それぞれの区分内において、患者単位での「入院経路」や「手術・処置の実績」によって入院料が細分化される点は極めて重要です。「救急車での搬入か」「手術を伴う入院か」といった個別の実績がダイレクトに点数に反映される仕組みとなり、同じ病棟内であっても患者ごとに算定する入院料が異なるという、これまでにない複雑な運用が求められます。必要な検査などが入院前に行われ、入院期間において投入する包括範囲の医療資源が比較的少ない予定手術患者の点数はほぼ据え置きである一方で、入院後に検査などが必要である他、管理が難しい救急搬送患者の点数が手厚くなっています。積極的に救急車を受け入れる病院が評価されることから、病院経営側は単に「効率的に病棟を埋める」だけでなく、いかに救急車を受け入れ、地域医療に貢献するか、という視点が重要となります。
新たな区分設定の鍵となるのは、急性期病院一般入院基本料(急性期病院A・B)、一般病棟入院基本料(急性期1-6、地域一般1-3)算定病棟が院内にないことと、救急受け入れ実績の密度です。急性期医療から徐々に包括期医療にシフトしていったケアミックス病院が、包括期医療に専念することを後押しするだけでなく、急性期・包括期問わず救急搬送の受け入れ実績が高い病院や、重症度の高い高齢者を多く引き受ける病院をより手厚く評価する仕組みへと再編されます。
地域包括医療病棟については、2024年度の新設の際、厳格な施設基準(休日を含むリハビリ実施や退院時のADL悪化率、入院初日の自立度など)により、届出可能な病院が限定されていましたが、高齢患者の割合などに応じた緩和措置が講じられています(図表3)。これは、地方の中小規模病院や、急性期病棟を持たない病院であっても、「高齢者救急の受け皿」として参入しやすくするためと考えられます。特に、夜間の救急受け入れ体制や、入退院支援部門の強化を条件に、一部のハードルを下げることで、地域全体で「高齢者救急難民」を出さない体制構築が求められていると言えるでしょう。
図表3:地域包括医療病棟の施設基準
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単に入院料を細分化するだけでなく、質の高いケアを提供する病院には新設の「包括期充実体制加算」が付与されます。
この加算の最大の特徴は、前述の地域包括医療病棟入院料1と同じく、急性期病院一般入院基本料および急性期一般病棟入院基本料を算定する病棟を持たない病院であっても、高品質な包括的ケアを提供していれば手厚く評価するという点にあります。
地域包括医療病棟入院料1と併せて、これまで急性期から地域包括ケアや地域包括医療などの包括期ケアミックスに移行してきた病院が、包括期に特化することを後押しする改定と考えられます。
これにより、高度急性期病院から「早期に患者を引き受ける」能力、あるいは自宅や施設から「直接救急を受け入れる」能力を持つ病院が、その専門性の高さに応じた正当な報酬を得られるようになります。
高度急性期病院が「手術や高度治療」に特化する一方で、この加算を算定する包括期病棟は「治し、支える医療」を担う、地域医療構想におけるもう一つの主役となります。特に、急性期病棟を持たない病院にとっては、この加算の取得こそが地域における「高齢者救急の拠点」としてのポジションを確立する鍵となることでしょう。
ここまで、診療報酬変化による変更点やその背景についてまとめてきました。次回は、今回の改定を踏まえ、全国の病院は実際にどのような選択をする必要があるのか、病院類型ごとに取りまとめていきます。
厚生労働省 「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 議事次第 資料」
厚生労働省 「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 議事次第 個別項目について」
厚生労働省 「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 医科診療報酬点数表」
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