シリーズ:ファイナンス組織・人材

ファイナンス機能配置・組織体制の抜本的な見直し

  • 2026-05-07

はじめに

AIをはじめとするテクノロジーの革新は著しく、人では処理しきれない膨大な情報から傾向やパターンを見いだすことを可能にし、定型的なものだけでなく非定型なものまで、人に提案や示唆の提供を行うようになりました。これまで人手不足は避けられないとされていましたが、2026年1月に経済産業省が発表した「2040年における就業構造推計」によると、AI・ロボットなどの利活用やリスキリングなどにより、労働需要が縮小することも予測されています。

加えて非財務情報の開示拡大は、企業価値の源泉がもはや財務指標に限定されないことを明確に示すもので、ファイナンスにとって新たな貢献領域が生まれたことを意味します。

さらに、地政学リスクの高まりやインフレなど外部環境の不確実性が増す中で、これらがもたらす経営へのインパクトを適時に捉え、迅速に意思決定を行う必要性がこれまで以上に増大しており、経営のかじ取りはますます難しくなっています。

こうした複合的な変化の下、ファイナンス機能は従来の役割である「統制・コンプライアンスの順守や正確な会計処理」といった守りの機能を維持しつつも、これまで以上に事業の「価値創造」に貢献することが求められており、抜本的な改革が急務です。

本稿では、これからの経営に求められる姿を踏まえつつ、2040年に向けてファイナンス機能・組織をどのように変革すべきか、その変革をいかに現実の取り組みとして進めていくかを考察します。

1. 環境変化を踏まえたファイナンス機能への役割期待

1-1.「2040経営」の姿とは

2040年においては、経営の在り方そのものが大きな転換を迫られる状況が見込まれます。そうした中では、環境変化を前提とした新たな経営スタイルが必要になるでしょう。

そのスタイルとは、「企業価値の最大化」という明確な目的の下、①デジタル技術をフル活用することで企業内外の情報を常に取り込み、②捉えた変化を即座に経営判断へとつなげ、③事業の方向性や打ち手を柔軟に更新し続けることだと考えます。

この一連の判断と行動のサイクルを高速で回し、事業推進と価値創出を動的に進化させていくアプローチこそが、2040年の経営に求められる姿と言えるのではないでしょうか。(図表1)

図表1:2040経営の姿

1-2.「2040経営」におけるファイナンスの在り方とは

こうした2040年の経営スタイルではファイナンス機能も同様に、激変する環境に柔軟かつ即座に対応し、企業価値の向上や事業推進を図ることがより一層求められるでしょう。それに伴い、ファイナンス部門は次の三つの機能を担う存在へと変貌していくと考えられます(図表2)。

①企業価値ストーリーの翻訳・伝達・実現機能

ファイナンス機能は今まで、財務情報を軸に中期経営計画や資本政策の立案、予算編成といった形で、企業の価値や将来像を設計する役割を担ってきました。今後は、その設計にとどまらず財務情報と非財務情報を統合し、企業がどのような価値を生み、将来に向けてどのように成長していくのかを一貫した「企業価値ストーリー」として編み上げていく必要があります。そして、そのストーリーを伝えるストーリーテラーとして、投資家や社会などステークホルダーと対話をしながら理解と共感を得て、実行へとつなげていくことが求められるでしょう。

②意思決定の触媒・先導役(xP&A)

従来のFP&A(Financial Planning&Analysis:財務計画・分析)は、予算立案や業績分析を通した財務状況のプランニング・分析に主眼を置いてきました。今後、xP&A(Extended Planning & Analysis)へとその役割の範囲は大きく拡張し、製造や営業といった主活動から、人事・労務、研究開発などの支援活動に至るまで、バリューチェーン全体を視野に入れた統合的なプランニングと分析へと進化していくでしょう。非財務データも含め統合的に分析し、AIによる洞察を活用しながら事業や機能の判断をオンデマンドで支えることで、価値創出に向けたアクションをともに推進する「意思決定の触媒・先導役」としての役割を担うようになります。

③完全自動化による業務実行とAIガバナンス

請求書処理や記帳、決算レポーティングといった処理の多くは自動化されていくことが想定されます。その一方で、AIが生み出すアウトプットの信頼性を人が担保するため、アルゴリズムの妥当性検証や倫理的観点からの監督といった「AIガバナンス」の制度設計と運用が不可欠となります。ファイナンス機能には、AIを単に「使う」立場から、AIに対して適切にガバナンスを効かせ「統治する」役割が求められるようになるのです。

図表2:2040ファイナンスの在り方

1-3. ファイナンス機能・組織の変化

前節では、2040年に向けてファイナンスに求められる三つの機能を示しました。これらの機能はいずれもAIとの共生を前提とする点では共通していますが、AIが担う役割や人が関与すべき領域は、機能ごとに大きく異なります。

本節では、それらの機能をどのように組織として配置していくのか、AIが与える影響を交えながら説明します。

①コーポレートファイナンス

現在の先進企業においてコーポレートファイナンスは、グループ全体のファイナンス戦略の策定や、FP&Aの全体統括・調整を担う機能として位置づけられています。

2040年に向けて、このコーポレートファイナンス機能は役割を広げ、事業・機能を横断して企業全体の価値創出を見渡しながら、計画・分析・意思決定を先導する存在へ進化していくのではないでしょうか。さらに、AIの発展によりデータ活用が進むことで、単なる統括機能にとどまらず、全社の価値創造を描く「指揮者」としての役割を担うようになるでしょう。

②事業ファイナンス・FP&A

現在の事業ファイナンスおよびFP&Aは、事業分析や意思決定支援を通じて各事業の経営を下支えする役割を担っており、主として予算・業績管理や分析・報告を行い、経営判断に必要な情報を提供する機能として位置づけられてきました。

今後は、この事業ファイナンスも大きく進化し、事業と一体となって意思決定から実行までをけん引するxP&Aへと高度化していくでしょう。

非財務データを含む多様な情報を統合的に扱い、AIによる洞察を活用しながら、事業の選択と集中、資源配分、実行のスピードと質を高めていく。事業ファイナンスは、コーポレートファイナンスと現場(事業・機能)の双方と連携しながら、価値創出を現場にもたらす存在になっていくと考えられます。

③会計処理業務や高度専門業務を担う組織

現在、伝票計上などの定型的・反復的な会計処理業務や税務対応・トレジャリーなどの高度専門業務は、GBS(Global Business Services)やSSC(Shared Service Center)、BPO(Business Process Outsourcing)、CoE(Center of Excellence)といった集約組織によって効率化されています。

2040年を見据えると、これらの組織もまた大きく姿を変えていきます。定型業務はさらなる自動化が進み、同時に高度専門領域においてもAIの活用が当たり前になるでしょう。こういった組織は、単なる業務集約拠点ではなく、AIを前提とした「AI業務センター」へと進化していくと考えられます。

少数の人員が保証・監督を担うのみとなり、大半の処理はAIにより自律的に実行される世界が現実のものとなるでしょう。その結果、ファイナンス人材はより付加価値の高い領域へと再配置され、前述のコーポレートファイナンスや事業ファイナンスの高度化を支えていくことになるでしょう(図表3)。

図表3:2040ファイナンス機能・組織への変化

2. ファイナンス機能・組織の刷新のためのステップ

もっとも、このような姿に一気に到達することは現実的ではありません。多くの企業では、AIをはじめとするデジタル技術やデータ基盤が十分に整備されているとは言えず、また、既存業務を遂行しながら変革を進めざるを得ないという現状があります。こうした中で重要なのは、現実に即した形で段階的に取り組みを進めていくことです。本章では、変革を絵に描いた餅で終わらせないための現実的な2段階のプロセスと、その中で実行すべき具体的な施策を説明します。

ステップ1:取り組みのための基礎を固める

最初のステップは、将来のファイナンス像(Finance Target Operating Model)を描くことと、その実現に向けた「余力」を意図的に創出することの2点です。

①将来ファイナンス像の設計

全てのスタートはゴールとなる将来のファイナンス像を描くことです。その際、ファイナンス部門だけで閉じた議論にせず、経営、事業、他機能も巻き込みながらファイナンスの構成要素(ビジョン、ガバナンスモデル、運用モデル、人材モデル、組織カルチャー)を包括的に検討することが重要です。また、足元の課題解決と両立する形で将来像を描くとよいでしょう。

②必要な余力の創出

同時に欠かせないのが、変革を進めるための「余力」を生み出すことです。トップダウンで業務やルールを見直し、廃止できるものは廃止をしたり、外部委託したりすることが欠かせません。また、基幹システム刷新のような大規模プロジェクトを待つのではなく、既存の周辺システムやRPA(Robotic Process Automation)などを活用して短期間で効果の出る自動化に早期に着手し、変革の原動力となる余力を創出していきましょう。

ステップ2:過渡期における取り組みを実行する

次に問われるのは「その姿へどう近づくか」です。

過渡期においては、全てを一律に変えようとするのではなく、効果が期待できるものから優先順位を決めて、段階的な取り組みを行うことが肝要です。

以下、AIの活用が当たり前となる時代に備えた4つの代表的な取り組み事項を紹介します。

①AIの補完を前提としたプロセス・データ標準化

AI活用や自動化のためにプロセスやデータの標準化は必要ですが、従来のように全てを画一的に標準化しようとすると膨大な時間とコストを要します。AIが台頭するこの時代では、AIの補完を前提とし、承認経路やデータ項目など、クリティカルな部分に絞って標準化を進めることをお勧めします。

②AI活用に備えた品質の高いデータの整備

AI活用やxP&Aの実現には品質の高いデータが不可欠です。新たなデータ基盤の構築を待つのではなく、既存システムを活用しながら、経営や事業にとって本当に必要なデータをいち早く収集・活用していくことが重要となります。

③AI業務センターの実現に向けたGBS/SSC/BPO/CoE機能集約と自動化

来たるAI業務センターの実現に備え、さらなる機能集約と自動化範囲の拡大を進めましょう。先進企業では集約業務範囲をフロント業務まで拡大し、ファイナンス業務の大半を集約することに成功しました。併せて、全社横断的な組織が自動化の旗振り役となることで、AIの活用を推進する取り組みを実施しています。

④ファイナンス機能変革に向けた人材のリスキリング

変革の成否を最終的に決めるのは「人材」です。AIが発展する時代において、求められる人材モデルは既に大きく変わっており、会計基準・税法といった専門知識だけでなく、人の意思を理解し、AIによる分析を活用して判断を行うことができるスキル、AIではできない感情を理解し、経営や事業を指揮していくスキルなどが不可欠となっています。人の育成は時間を要するため、これらのスキルセットを持つ人材の採用・育成を早期に実施することが極めて重要です。

おわりに

本稿では、ファイナンスに求められる機能・組織の在り方の変化、その変革を進める上でのポイントを見てきました。不確実性の高まりが指摘されて久しい中、生成AIの台頭は、もはや変革を先送りできない「待ったなし」の状況を生み出しています。しかし、見方を変えれば、変革によって飛躍的な成長を遂げる好機でもあると考えています。企業のファイナンス部門がこの変革の波に乗り、従来の機能に加え、企業価値創造の中核を担う存在へと生まれ変わる一助となれば幸いです。

執筆者

長崎 諭

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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髙木 幹朗

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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石﨑 美穂

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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