日本のプラットフォームビジネスの成長戦略

第3回 エコシステム型プラットフォーマーの戦略

  • 2026-02-18

1. 経済圏型プラットフォーマーとの差別化と競争優位性構築の必要性

日本国内のプラットフォーマーの多くは、厳しい競争環境の中で独自のポジションを築くために、自社のプラットフォームを核にエコシステムを構築する形のビジネス戦略を推進しています。第1回コラム(日本のプラットフォームビジネスの成長戦略 第1回 国内プラットフォーマーの重要課題と分類)でも紹介したとおり、本コラムシリーズではこれらのプラットフォーマーを「エコシステム型プラットフォーマー」と位置づけています。エコシステム型プラットフォーマーは、プラットフォームのユーザーとの共存共栄により、強力なエコシステムの構築を目指しています。その成功のため、プラットフォームにはユーザーの価値創出を支援する仕組みが備わっており、同時にプラットフォームの求心力が維持されることが求められます。

第1回コラムで定義した国内プラットフォーマーの分類に基づくと、エコシステム型プラットフォーマーとしては、リクルートおよびIndeed Japan(HR・住まい・結婚・自動車・美容・飲食・旅行・教育などの領域におけるマッチングプラットフォームやサービス提供者の生産性向上ソリューション)、マイナビ(HRサービス、ライフスタイルサービス)、サイバーエージェント(コンテンツプラットフォーム、インターネット広告プラットフォーム)、GMOインターネット(業務効率化ソリューション、オンラインマーケットプレイス)、USEN(音楽配信事業、業務効率化ソリューション)、アイスタイル(美容領域のメディア・実店舗・ECが連携するプラットフォーム)などが挙げられます。各社の主なサービスは図表1をご参照ください。

エコシステム型プラットフォーマーは通常、特定の事業領域に限定したサービスを提供しています。しかしその事業領域に経済圏型プラットフォーマーが参入してきた場合、競争の激化は避けられず、その対策として経済圏型プラットフォーマーとの差別化戦略や、エコシステム型プラットフォーマーとして独自の価値を提供するための戦略が不可欠となります。なお、経済圏型プラットフォーマーについては第2回コラムでその特徴や今後の成長戦略等を説明しています(日本のプラットフォームビジネスの成長戦略 第2回 経済圏型プラットフォーマーの戦略)。

図表1:エコシステム型プラットフォーマーの主要サービス(例)

3. 国内で構築したプラットフォームモデルの海外展開

多くのプラットフォーマーや高品質なサービスの登場により国内市場が成熟している現在においては、海外展開は新たな成長の鍵となります。限られた国内需要に依存するリスクを減らし、グローバルなビジネスモデルを持つことは、次なる競争優位を生み出します。以下では、国内プラットフォーマーの海外展開戦略について、グローバルプラットフォーマーの海外展開戦略と比較しながら考察します。

グローバルプラットフォーマーの戦略事例

グローバルで共通のプラットフォームビジネスを提供し、ユーザーとの間で巨大な規模のネットワークを生み出すようなグローバルプラットフォーマーの海外展開の成功を支えるのは、グローバル戦略とローカライズ戦略の組み合わせによる、いわゆるグローカル戦略です。これはプロダクト(ブランド、UI/UX、アルゴリズムなど)をグローバルで統一的に展開する一方で、それを各国や地域に浸透させる段階では、各国固有の取引慣行、インフラの状況、法制度などでローカライズさせるものです。

具体的には、コンテンツ配信プラットフォームが配信基盤やUIをグローバル共通で展開する一方、現地通信会社とのバンドル契約を通じて視聴者を拡大している事例や、検索エンジンを提供するプラットフォームのアルゴリズムといった検索の技術基盤はグローバル共通である一方、現地のインフラ状況によって低帯域用のアプリを展開している事例があります。

グローバルプラットフォーマーはこうしたグローカル戦略によってグローバルでのシェアを獲得し、競争優位性を確保するだけでなく、さらにこれらから得られる膨大な収益とユーザーデータによりさらなるプロダクトの開発・改良を行うというグローバル規模での自己強化の成長ループを通じて、同業他社に対する構造的な競争優位性を確保しています。

ただし、この戦略が成功する背景には、プロダクト開発の初期において巨額の研究開発費などの資本投下を行い、グローバルに展開していく段階で投資コストを回収するビジネスモデルが必要となるため、相応の資本力が必要とされます。したがって、国内プラットフォーマーが同じ戦略を取ることは困難だと推察されるため、国内プラットフォーマーならではの海外展開戦略を検討する必要があります。

国内プラットフォーマーの海外展開戦略

国内プラットフォーマーが描くべき海外展開戦略は、展開エリアの特性に適したサービス×ビジネスモデルの組み合わせを見つけ出すことです。例えば、コンテンツ市場の伸張が期待されるエリアに向けて、生活必需性の高い通信などのサービスに初期投資が小さい日本のコンテンツサービスを掛け合わせて展開する、などが考えられます。この戦略の実現に向けては、展開エリアの取引慣行、文化・風俗、固有事情を徹底的に調査し深く理解することが不可欠です。

展開エリアの環境分析により、現地にはどのようなビジネスがあり、どこが競合となり得るかを明らかにした上で、自社の勝ち筋・優位性を見出すことが重要です。ホワイトスペースがある場合は、まずは日本国内で提供済みのサービスをその領域に展開させることを考えます。

その次に日本で培った自社の優位性を生かし、現地の既存サービスと接続する形で入り込むことを考えます。例えば、現地企業と提携し、現地サービスの「補完サービス」となるような機能提供・データ連携などに特化して入り込みます。補完サービスを通じて現地のビジネスモデルや顧客動向などを深く学習しながら、補完サービスを複数サービスの接合点となる「ハブサービス」に成長させ、最終的には日本国内で展開するビジネスモデルの展開を目指していきます。

展開エリアの環境に合わせて、国内展開済のサービスや資源を活用する一方で、国内展開時とは異なるアプローチ、マネタイズ手法等を適用する戦略シナリオを検討することが重要です。

なお、補完サービス、ハブサービスそれぞれの定義と配置戦略については第2回コラムをご参照ください。

また、海外展開を考える場合、サービス単発で展開するのではなく、最終的には日本国内の事業と連携し、より大きいシナジーを生む戦略シナリオを考えることも大切です。現地のマーケティングは日本国内のマーケティングと連携が可能か、相互送客があり得るか、バリューチェーンを共有できるか、など接続のあり方を模索する必要があります。

  • 経済圏型プラットフォーマーの場合、一つのビジネスを単独で展開するだけではなく、国内で完成させた経済圏ビジネスモデルを複数展開する方法も考えられます。その際は、第2回コラムで説明した「立体」と「構造体」のモデルに基づいて、海外の「構造体」の中でいかに「立体」を配置し連携させて新たな価値を創出していくべきか、展開エリアの分析を基にした配置戦略を考える必要があります。なお、「立体」とはユーザー、取引・情報、プラットフォームの3要素を備えた個々のプラットフォームビジネスを指します。「構造体」とは複数の「立体」の統合により構成される経済圏を指しますが、顧客必需性、顧客解像度、顧客単価の3軸を意識しながら「立体」を配置することで、強固な経済圏を構築することが可能となります(図表3:第2回コラムより再掲)。

図表3:経済圏ビジネスにおける「立体」と「構造体」モデル

ただし、展開エリアの競争環境を踏まえると、国内と同じ仕組みをそのまま持ち込むのは現実的ではない場合があります。加えてEC、金融、決済、物流を経済圏一体で輸出するには莫大な投資が必要となり、リスクが大きくなります。そのような場合、まずはいずれかの領域に絞りエコシステム型として入り込み、展開エリアに対する理解を深めながら徐々に経済圏を構築する拡大戦略も有効です。
また、海外企業のビジネスモデルを「構造体」として整理した上で、その「構造体」に対して自社が持つ機能やデータ等の提供を通じて入り込みを狙う配置戦略も考えられます。海外の検索サービスが国内の検索サービス運営企業に自社の検索エンジンを提供した例では、日本の検索市場へ急速に浸透することに成功するとともに、日本国内の検索傾向やユーザーデータを蓄積することで新たなビジネス創出にも展開していきました。この例は、自社が持つ機能・優位性を提供することで海外企業の「構造体」に接続することで、自社ビジネスのさらなる成長へつなげていくことが可能であると示しています。

  • エコシステム型プラットフォーマーの場合、特定領域における深い経験知やデータを保有しているため、展開エリアにおいても国内の知見を生かしながら、現地企業と組んでエコシステムを広げていくアプローチが有効です。専門性の高いノウハウやデータに基づくプラットフォームビジネスは、同じ水準で他国に展開されていない場合も多く、展開エリアによっては競争優位性を確保することも可能です。
    また、エコシステム型プラットフォーマーは特定領域に限定したサービス展開であるため、小さく動きやすいという点で海外展開が行いやすいという特徴があります。例えば、現地の市場調査においては領域を絞って調査できるため、テスト範囲を明確にして初期投資を抑えつつサービス展開ができることや、API連携や共同サービスとして現地の大手プラットフォームに組み込む方法も考えられます。自社でフルスケールの投資をするのではなく、既存の現地の有力プラットフォームに機能の一部として提供することで、リスクや資本負担を抑えつつ展開できるようなメリットもあります。
    ただし、この場合も経済圏型プラットフォーマーと同様に、展開エリアの特性を徹底的に調査した上で適切なサービス×ビジネスモデルの組み合わせを見つけ出す必要があることには変わりはありません。また、協業に頼る場合であっても、戦略の不一致や契約変更により提携が解消されるリスクがあるため、十分な事前設計や協業先に依存しすぎない体制づくりが必要です。

以上のように、国内プラットフォーマーの海外展開戦略においては、まず展開エリアに対する徹底的な環境分析および競合調査を行い、将来的に成長余地がある事業領域はどこか、競合サービスはどのように展開しているかを分析します。市場成長率が高く競合による占有率が低いホワイトスペースがある場合は、日本国内で提供済のサービスをその領域に展開させることを考えます。
(本コラムでは複数のサービスで構成されるエコシステムをまとめて他の地域に展開する戦略を、「コンパウンド・エコシステム戦略」と呼称します。)

ホワイトスペースがない寡占状態もしくは強力な競合サービスが乱立している成長型レッドオーシャンにおいては、日本国内の提供済サービスをそのまま展開することが難しい可能性が高いです。その場合は、日本国内で培った自社の知見や優位性を活かしながら現地企業と接続する方法を検討します。例えば、現地企業の既存サービスへ「補完サービス」となるような機能提供・データ連携を行い、補完サービスを通じて現地のビジネスモデルや顧客動向などを深く学習しながら、補完サービスを複数サービスの接合点となる「ハブサービス」に成長させます。補完サービスやハブサービスを通じて得た海外市場に対する知見・データ等を踏まえて、日本国内展開済サービスの勝ち筋を見出し、必要に応じて現地向けにローカライズを行いながら再度海外市場展開を目指すことも考慮に入れる必要があります。

最終的には、自社の海外展開サービスと日本国内で展開するサービスとの連動戦略を模索します(図表4)。第1回コラムの説明の通り、プラットフォームビジネスでは参加するユーザーの増加に応じてプラットフォームの価値が高まるネットワーク効果が働きます。このネットワーク効果が働くことで、プラットフォームビジネスは規模の経済が働き、ユーザーの獲得も加速度的に進むという特性を持っています。そのため、海外展開サービスと日本国内サービスの連動は、ネットワーク効果を高め、海外・国内における他社サービスとの差別化を図るうえで有効な戦略となります。

図表4:国内プラットフォーマーの海外展開戦略

最後に、海外戦略の検討においては、現地に適したマネタイズ戦略の検討も必要です。日本国内における課金モデルが必ずしも現地で適用できるとは限らないため、現地の環境や自社サービスの展開フェーズを踏まえて、日本国内とは課金タイミングを変えるなど、柔軟な対応が求められます。例えば、複数のサービスをバンドル型で提供し、無料と有料を組み合わせて展開する戦略も考えられます。無料サービスで顧客のエンゲージメントを高めながら、特別なコンテンツやプレミアム機能などを有料サービスとして展開するマネタイズが考えられます。また一定期間は無料で展開し、十分に顧客シェアを獲得した段階で有料に切り替えることも有効な戦略です。

以上、第3回ではエコシステム型プラットフォーマーが経済圏型プラットフォーマーに対する競争優位性を高める上で必要な差別化戦略について説明しました。また国内プラットフォーマーにおける海外展開戦略について、グローバルプラットフォーマーの戦略との比較を交え考察しました。

第4回は、過去3回のコラムで説明した戦略を実現する上で、プラットフォーマーに求められる能力は何か、複雑化する市場環境を生き抜くために必要なケイパビリティについてお伝えします。

執筆者

松岡 英自

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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土岐 正二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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水上 啓

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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柳川 素子

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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諸橋 佑介

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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