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経営・事業戦略の中核を担い、技術革新による変化が著しいIT・DX部門では、将来を見据えた動的な人材ポートフォリオの策定・運用の重要性が高まっています。
本稿では、その必要性と役割に焦点を当て、経営・事業戦略と現場の人材マネジメントをどう結び付け、戦略実行力を高めていくかを考えます。
日本企業を取り巻く経営環境は、デジタル技術の進化や市場競争の激化、労働人口の減少などを背景に、これまでにないスピードで変化しています。とりわけAIやクラウド、データ活用をはじめとした技術革新の影響を強く受けるIT・DX部門は、単なるシステム提供組織にとどまらず、経営・事業戦略の実現を支える中核的な存在として、その役割が大きく変化しています。
こうした環境下において、IT・DX部門には、経営・事業戦略と連動した形で、どのような人材が、どの程度、どのレベルで必要となるのかを明確にし、それを継続的に見直しながら実行していく「人材戦略」の高度化が強く求められています。
しかし実際には、経営・事業戦略と人材戦略を十分に連動させられている日本企業は多くありません。
PwCコンサルティングが実施した「HRデジタルトランスフォーメーションサーベイ2024」(図表1)によると、日本企業の多くが、戦略実現に必要な人材を十分に可視化・配置できていないという課題を抱えていることが明らかになっています。
図表1:人的資本経営における課題TOP10
出所:PwCコンサルティング合同会社(2024)『HRデジタルトランスフォーメーションサーベイ2024』.
この背景には、技術やビジネス環境の変化スピードに対して、人材に関する定義や管理の仕組みが追いついていないという構造的な問題があります。数年前に定義した職種やスキルが、現在の事業戦略や将来構想と乖離してしまっているケースも少なくありません。
このような状況下では、従来のように「幅広く対応できるゼネラリスト」を一律に育成するアプローチよりも、特定分野で高い専門性や強みを発揮できる人材も含め、将来の事業・IT戦略の実現に資する最適な人材構成、すなわち「人材ポートフォリオ」を明確に定義することが求められます。
さらに、人材ポートフォリオを一度策定して終わりではなく、経営・事業戦略や外部環境の変化に応じて、動的に見直し続けることが重要です。人材ポートフォリオを起点として、配置、採用、育成といった人材マネジメント施策へとつなげ、継続的に改善していくことで、戦略実行力の強化が期待されます。
実際、同サーベイにおける課題Top10の中には、人材ポートフォリオに関連する項目が複数ランクインしており、多くの企業がその重要性を認識していることがうかがえます。
一方で、人材の「量」と「質」の両面から人材ポートフォリオに取り組めている企業は一部にとどまっており(図表2)、日本企業における本格的な取り組みは、まさにこれからと言えるでしょう。
図表2:人材ポートフォリオマネジメントの実施状況
出所:PwCコンサルティング合同会社(2024)『HRデジタルトランスフォーメーションサーベイ2024』.
IT・DX部門において動的な人材ポートフォリオを運用することは、経営・事業戦略と現場の人材マネジメント施策をつなぐ重要な基盤となります。
人材の量や質を共通の軸で整理・可視化することで、これまで部門やプロジェクト単位で個別に語られることが多かった人材課題を、組織全体として構造的に捉えることが可能となります。
従来、現場の各部門がそれぞれの経験や感覚に基づいて「不足している人材像」を認識するケースも少なくありませんでした。そのため、課題の背景や優先順位について十分な共通認識を持てないまま、個別最適の対応にとどまってしまうこともありました。
動的な人材ポートフォリオは、将来の事業・IT戦略を踏まえて定義した人材要件と、現状のスキル・人員構成との差分を継続的に把握することで、こうした属人的な議論を、データにもとづく対話へと転換する役割を果たします。
具体的には、必要となる人材の「量」と「質」を中長期の視点で整理することで、採用・育成・配置といった人材マネジメント施策について、「どの領域に、どのタイミングで、どのレベルの対応が求められるのか」を検討しやすくなります。これにより、人材施策の検討や意思決定を行う際の判断材料が明確になり、組織としての合意形成を支えることが期待されます。
また、動的な人材ポートフォリオを前提とした運用を行うことで、単年度・短期視点に偏りがちな人材施策を、中長期的な観点から見直すきっかけにもなります。技術進化や事業環境の変化を前提とし、人材構成を定期的に見直す仕組みを組み込むことで、過去に定義した職種やスキルに過度に依存することなく、環境変化に対応しやすいIT・DX部門のあり方を検討することが可能となります。
さらに、人材ポートフォリオを共通認識とすることで、経営層、人事部門、IT・DX部門の間における人材に関する対話の質も高まります。人材に関する議論が抽象論にとどまらず、将来像やデータを踏まえて行われることで、部門間の認識のずれを抑え、組織全体としての意思決定を支える基盤として機能します。
このように、動的な人材ポートフォリオの運用は、単なる人材管理の高度化にとどまらず、IT・DX部門が経営・事業戦略の実現を支援するための重要な取り組みの一つと言えるでしょう。
図表3:IT・DX部門における人材ポートフォリオ運用の効果
人材ポートフォリオを策定することで、企業は将来必要となる人材の構成を明確にし、現状とのギャップを可視化することが可能となります。その結果、採用や育成といった人材マネジメント施策を、より戦略的かつ効率的に実行することができます。
一方で、設計を誤ると、運用負荷が過度に高まり、形骸化してしまうケースも少なくありません。特に変化の激しいIT領域では、職種やスキル要件が実態と乖離しやすく、現場で使われなくなってしまうリスクが高まります。
ここでは、IT・DX部門で人材ポートフォリオを策定・運用する際に、特に重要となる4つのポイントをご紹介します。
IT人材の職種やスキルについては、経済産業省・IPAが定義する「ITスキル標準(ITSS)」や「デジタルスキル標準(DSS)」など、さまざまな定義が公開されています。これらを活用することで、定義作業自体は比較的効率的に進めることが可能です。
しかし、中長期的な運用を前提とした「動的な」人材ポートフォリオを策定する場合、定義を過度に細分化しすぎると、更新や集計の負荷が高まり、結果として形骸化する恐れがあります。人材戦略上の意思決定に活用することを目的とし、自社にとって最適な粒度を見極めることが重要です。
事業環境や技術の進化に伴い、組織構造や役割が大きく変化することは珍しくありません。そのため、現時点の組織に最適化しすぎた人材ポートフォリオではなく、将来の変化を前提とした汎用性の高い設計とすることが求められます。
時間をかけて精緻に作り込むよりも、環境変化に応じて柔軟に見直せる余地を残すことが、結果として持続的な運用につながります。
人材の「数」は比較的容易に把握できますが、「質」を把握するためには、スキルアセスメントなどの仕組みが不可欠です。策定段階で、人材の質をどのように測定するかを明確にしておかなければ、ポートフォリオ上で定義した要件を適切に評価できません。
人材ポートフォリオと併せて、測定手法やツールの検討を進めることが重要です。
人材ポートフォリオの策定にあたっては、今後予定している業務に必要な人員数を推定するボトムアップのアプローチも有効ですが、それだけに依存すると、経営・事業戦略や技術変化を十分に反映できない可能性があります。必ずトップダウンの視点を取り入れ、経営・事業戦略との整合性を確認しながら策定することが重要です。
IT・DX部門において動的な人材ポートフォリオを実現するためには、部門内だけで完結する取り組みでは不十分です。経営層、人事部門、事業部門など、社内の多様なステークホルダーとの連携が不可欠となります。
PwCコンサルティングでは、IT・DX領域だけでなく、戦略、人事、業界に関する幅広い知見を活かし、経営・事業戦略と連動したIT・DX部門のあるべき姿の検討から、人材ポートフォリオの設計・運用、人材マネジメント施策の実行までをワンストップで支援しています(図表4)。
図表4:IT・DX部門での人材ポートフォリオ策定・運用の流れ
戦略・組織・人材を分断せず、一体として設計・実行することで、単なる人材ポートフォリオの「策定支援」にとどまることなく、実際の現場で活用され、経営・事業戦略の実行力向上につながることが期待されます。
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