AIドリブンハードウェアコラム

前編:AIの飛躍が新しい機器を必要とする理由

  • 2025-11-14

AIドリブンのハードウェアが仕事の未来をどのように再定義しているのか、そしてなぜ人間には傍観している時間の余裕がないのかを探っていきます。

AIの飛躍が新しい機器を必要とする理由

昨今の見出しの多くは、次世代言語モデルや日常的なアプリ用のAIアドオンなど、データセンターのブームとソフトウェアのイノベーションに焦点を当てていますが、1つの重要な要素が見落とされています。それは、ハードウェアです。Phi-3-miniやGPT o1-miniのようなローコンピューティングモデルのおかげで変革が起こりはじめ、AIコンピューティングが行われる場面におけるパラダイムが変わりつつあります。同時に、AIと人間のハイブリッドチームの普及が、仕事そのものの性質、業績を測定する方法、アジリティとイノベーションのために従来のスケーリング手段を超えて人間が歩みを進める方法のパラダイムを変えつつあるのです。

先進的な企業は、現代における仕事の進め方を管理するため、AIファーストなエコシステムを構築しています。PwCのクラウドとAIに関するビジネス調査2024によると、業績の良い企業の63%がAIを活用するために技術予算を増やしていました。AIが日々のワークロードに定着するにつれて、生産性を向上させ、データを安全に保つために必要なコンピューティングを提供するハードウェアソリューションに対する需要が高まります。ニューラル・プロセッシング・ユニット(NPU)を搭載したAI PCなどのハードウェアの主要なイノベーションは、前例のないデバイス上のAI機能を生み出し、ユーザーの働き方を変革するだけでなく、デバイス上のコンピューティング能力を向上させ、クラウドプロバイダーへの依存を軽減させています。急速な技術変化とグローバル市場の変化の中で成長を目指す企業にとって、AIドリブンなハードウェアのエコシステムを活用することは、市場をリードし、競争力を維持するための投資であり、重要な要素となります。

急速に変化する状況では、迅速な対応が求められます。アーリーアダプターはすでにAIソフトウェアとAIハードウェアの恩恵を享受していますが、多くの企業は様子見を続けています。しかし、これは間違っています。その理由を説明しましょう。

  • クラウドコンピューティングのコストが増大する中、大手企業はクラウドのコストを抑えながらイノベーションを推進することから、AI PCに目を向けることが可能です。需要に追いつくために、大手企業の63%は年間のクラウド予算を6%以上増やす計画を立てており、これはインフレ率を上回る増額率になります。同時に、組織のデータとデータセンターの容量との間に64ゼタバイトの不均衡が生じると予測されていることから、企業はコンピューティングを実行する場所の見直しを迫られています。大手のハイパースケーラーは集中型データセンターの拡大に多額の投資をしており、その多くは高性能なコンピューティングにNVIDIAチップを使用しています。他方で一般的な企業にはAIワークロードをローカライズするという大きな機会があります。これは、エッジに格納されているデータや、セキュリティ、コンプライアンス、レイテンシー(遅延時間)に関する問題から、クラウド処理に適さないデータに特に関連しています。NPUを搭載したPCに投資することで、このギャップを埋めることができ、一元化されたクラウドサービスへの依存と関連コストを削減しながら、AIのユースケースを実現できます。
  • データ主権、ユーザーのプライバシー、オンラインの安全性に対する世界的な関心の高まりから、AI PCは責任あるイノベーションの強力な選択肢になっています。世界中の政府は、データの転送、保存、処理に関する規制を強化しています。EUのGDPRからアジアなどのデータローカリゼーションの義務化に至るまで、あらゆる規制環境がデバイス上でのコンピューティングに対する需要を促しています。NPUを搭載したPCは、機微なデータや機密データをローカル処理できるため、国境を越えたデータ転送に伴うリスクを低減することができます。現在、商用のAIデバイスが「コンフィデンシャルコンピューティング」というトレンドをけん引していますが、この技術が成熟し、広範に採用されるようになると、規制が生まれる可能性が高くなります。例えば、機微な情報を扱うシステムに関する規制では現在、多要素認証(MFA)を義務付けています。コンフィデンシャルコンピューティングが軌道に乗れば、AI搭載PCは企業にとってさらに価値が高まるかもしれません。
  • 広く使用されているソフトウェアのサポート終了が近づくにつれて、多くの組織がサイバーセキュリティのリスクの増大に直面する可能性があります。Windows 10やUbuntu 20.04 LTSなどの一般的なオペレーティングシステムは2025年にサポートが終了し、セキュリティアップデートやバグ修正、テクニカルサポートが受けられなくなります。ユーザーは、セキュリティ上の脆弱性の軽減、データの保護、そして次世代アプリケーションとの互換性を実現するために、ソフトウェアとハードウェアを今すぐアップグレードすべきです。
  • オフィスワーカーは、効率と作業の全体的な進め方を向上させることができるAI搭載ツールの利用への期待を高めています。PwCのLeadership Agendaによると、生成AIを日常的に使用している人の80%超が自分の仕事に満足しており、使用していない人が満足している割合である60%とは対照的です。これらのオフィスワーカーはAIを、スキル開発、創造性、そしてより質の高いアウトプットを促進するものとして捉えています。AIツールやAI PCの導入が遅れている雇用主は、生産性の向上を逃しているだけでなく、優れた人材の獲得や維持という課題に直面している可能性があります。AIエージェントのようなツールを利用する組織は、従業員が人間の創意工夫とAIの分析能力とを組み合わせて新たなレベルのイノベーションを生み出し、拡張知能の時代の到来を告げることができるようになるでしょう。
  • ソフトウェア開発者は、デバイス上のAIコンピューティングを使用して、次世代の「キラーアプリ」をリリースする準備をしています。NPUによるデバイス上のAIの処理能力は、「Adobe Suite」、「Blender」などのクリエイティブなアプリケーションや、「Microsoft Teams」、「Zoom」などのリモートワークのツールにおいて活用されています。ただ、これらは始まりに過ぎません。ソフトウェア開発者は、NPUの能力をさらに活用して、業界全体で新しいレベルのパフォーマンスと機能を実現しています。
  • 従来の企業の購入サイクルは3~5年でした。間違ったデバイスを選んでしまうと、何年も後れを取ることになり、長期的には支出が増えます。企業向けテクノロジーの購入者にとって、総所有コストは重要な要素です。古いハードウェアはメンテナンスとサポートのコストが高くなり、クラウドベースのAIタスクに依存するとさらにコストがかかります。NPUを搭載したAI PCは、データのセキュリティとプライバシーの利点が加わった、コスト効率の高い代替手段になります。

好成績を達成するには、慎重な意思決定と計画の策定が必要です。

こうした新しいグローバルなトレンドは、組織がAI対応ハードウェアを採用する緊急性が急速に高まっていることを浮き彫りにしています。ただし、これらのメリットを大規模に実現するには、課題があります。

一般的な障害と、それらを克服する方法を解説します。

  • どの従業員がAIから最も恩恵を受けるのかを理解することが、移行の第一歩になります。ビジネスにおけるそれぞれの役割に応じた方法でAIの恩恵を受けることを考えます。例えば、最前線の営業チームはAIを活用した「次善の策」であるレコメンデーションを利用できます。また、バックオフィスであるデータアナリストはエッジモデルを使って分析結果を迅速に導き出すことができます。さらに、開発者はレイテンシーが低いプログラミングアシスタントをデバイス上で直接実行することで生産性を飛躍的に向上させることができます。セキュリティが厳しい場所やオフグリッドの場所で業務を行っている人でも、デバイス上のAIワークロードの恩恵を受けることができ、その可能性がいかに幅広いかが浮き彫りになっています。
  • 相互運用できるハードウェアソリューションを特定することが重要です。IT部門は、現在のソフトウェアスタックを評価し、革新的な技術との統合方法を検討する必要があります。進化するハードウェア環境は、WindowsとmacOSにおける次世代のパフォーマンスとエネルギー効率をもたらしており、x86とARMの両方のアーキテクチャが新しい可能性を提供しています。アプリケーションの相互運用性を評価する必要がある場合もありますが、ソフトウェアの最適化とエミュレーションの継続的な進歩により、クロスプラットフォームサポートという選択肢も持てるようになりました。さまざまな種類のデバイスを利用できるため、組織は、移行をスムーズに管理しながら、ニーズに最適な技術を選択できます。
  • 真の機会はプラグ・アンド・プレイを超えるものです。NPUを搭載したAI PCのようなAI対応ハードウェアは、ある程度の生産性とパフォーマンスの向上をもたらしますが、真の価値が解き放たれるかどうかは、広範な導入の有無と企業の変革にかかっています。PwCのクラウドとAIに関するビジネス調査2024で強調されているように、技術予算の増加を背景に、急速に進化するクラウド技術へと投資することと、自社のデバイスおよびハードウェアで安定した基盤を確立することのバランスを取ることをお勧めします。バランスを取ることで、ツールとワークフローを構築するために必要となる信頼性の高い環境をもたらし、企業がAIの可能性を最大限に活用できるようになります。

インフラストラクチャの更新とAIによるワークフローの再構築に投資するような意欲のある企業は、生産性と効率の著しい向上を実現できますが、それは意識的にアプローチしている場合に限られるのです。

本コンテンツは、PwC米国のKim David Greenwood、Joseph Voyles、Ryan Pennock、Malik Abbasi、Jared Pansonが執筆した『Why AI’s Leap Calls for New Gear』を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

瀬川 友史

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

茂又 弘訓

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ