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2021-08-07
前編では、各国・団体のワクチン接種証明書導入事例を解説しました。改ざんリスク防止の観点からはデジタルの方が安全性が高いため、現状は紙とデジタルを併用することが望ましいといえるでしょう。また、個人情報の取り扱いに関する各国の政策や制度、方針によって、ワクチン接種証明書の用途や保持データは異なるため、まずは一律で用途を定めるとともに、今後の普及を見据えて統一した規格も設定する必要があるといえます。
| 紙よりもデジタルの方が偽造・改ざんリスクが低い |
| 各国の方針・性格によってパスポートの用途および保持データが異なる |
| 乱立した規格は統一する必要がある |
米国の「COVID-19 Vaccination Record Card」では、偽造した紙の証明書の売買が横行しました。紙の証明書は偽造や改ざんのリスクが高いといえます。一方、デジタルワクチンパスポートでは、ブロックチェーン技術を活用した証明書の開発を進めている例が多く見受けられます。とはいえ、全ての人がスマートフォンを持ち、自由にアプリを操れるわけではないため、当面は紙による証明書も並存させる必要があるでしょう。
ワクチン接種証明書は多様な使い方ができる可能性があり、国のポリシーによって現状の用途はさまざまです。
中国の「防疫健康コード国際版」は幅広いデータが含まれ、外部データ・システムとも連携しています。その用途は個人の渡航や入場制限などにとどまらず、国家が集団感染状況をリアルタイムで監視することが可能になっています。さらに、国家による個人の監視への利用も技術的には可能で、プライバシーの保護に懸念が生じています。
英国の王立学会で指摘されたように「他人にCOVID-19罹患歴を知られること」自体が差別を生むおそれがあり、ワクチンパスポートに掲載する情報データの選択には十分に注意を払う必要があります。
現在、各国や航空団体・民間企業がそれぞれ独自にデジタルワクチンパスポートを開発しており、規格が乱立している状況です。
従来「パスポート」とは、自国の国民が自由かつ安全に国境を越えることを保証するよう、他国に要請するためのものであり、寸法まで定められている世界的な統一規格(ICAO 9303)で運用されています。ワクチンパスポートも同様に、規格の統一(標準化)が必要と考えます。
日本では紙のワクチン接種証明書の発行が先行しています。現時点では、政府は渡航時の健康証明のみに用途を限定するのが現実的だといえるでしょう。政府は大まかな方針を示し、差別を助長しないよう配慮を促しつつ、その他の用途(民間施設の入場など)については民間の判断に委ね、接種率の向上や経済の活性化につながる証明書の用途を後押しすべきではないでしょうか。
今後、デジタルワクチンパスポートを導入する場合には、偽造防止のため、暗号化技術を組み込んだシステムによる構築が必須となります。また「パスポート」の本来の役割に鑑み、ゼロから独自に開発するのではなく、各国・団体は国際的に統一に向けた議論が必要であり、その議論の方向性を見定めながら開発していくことが望ましいといえます。
発行媒体は紙を主とし、QRコードを活用した既存のデジタル媒体利用を促すのが有効 |
望ましい用途を定めてから保持すべきデータを定義する |
デジタルワクチンパスポートは統一規格に準拠すべき |
ワクチンを接種した人のうち、医療従事者には「新型コロナワクチン接種記録書」、医療従事者以外の人には接種用クーポン券の台紙に付属している「新型コロナウイルスワクチン予防接種済証(臨時)」が配布されています。また、市町村が「ワクチン接種証明書」を、偽造を防止できる紙に印刷して発行しています。海外渡航時に必要なワクチン接種証明書の発行は無料で、英字が併記されています。今後、QRコードが印刷される見通しです。QRコードは、大容量のデータを小スペースで収納でき、汚れや破損に強い上、個人情報が人目に触れることがないのがメリットです。偽造防止技術を搭載することも考えられます。
ワクチン接種証明書発行の申し込みは郵送や自治体の窓口で受け付けています。担当者が申込書と各種提出書類を確認したうえ、VRS(ワクチン接種記録システム)を使って作成します。
接種したばかりの申請者に対しては、VRSでワクチン接種証明書を発行できないケースがあります。例えば、居住地とは異なる自治体でワクチンを接種した医療従事者の場合、VRSに情報が連携されるまで接種日から最長で3カ月かかります。このような申請者の証明書は、提出書類(本人確認書類や接種記録書など)を基に、ワクチン接種履歴を手入力して発行しています。
ワクチン接種履歴がVRSに記録されるまでタイムラグが生じる場合、公文書偽造のリスクがあります。つまり、申請者から提出された書類が万一、偽造されたものだったとしても、提出書類に不備がなければ、ワクチン接種証明書が発行されてしまうおそれがあります。公文書偽造は、国や行政に対する信頼の失墜につながります。ワクチン接種証明書の用途が広がった場合、偽造のリスクもさらに大きくなるでしょう。
また、QRコードの印刷が検討されていますが、運用初期のものには印刷されていないため、他国のデジタルワクチンパスポートを利用できず、渡航時の手続きを簡素化できない可能性があります。
加えて、1年以上も自由な移動が制限されてきたため、ワクチン接種証明書の提示を条件とする渡航許可が開始されると、その直後は発行申請が殺到し、発行までに長い時間がかかることが想定されます。
偽造・不正入手のリスクを防ぎ、住民の利便性を高めるためには、デジタルのワクチン接種証明書(デジタルパスポート)が必要となります。一方でワクチン接種証明書をデジタルのみにすると、インターネットにアクセスできない住民への発行が困難になります。そのため、紙との併用は必須といえます。その際は、QRコード等の偽造防止技術が鍵となります。
また、VRSへの情報連携にタイムラグが生じる問題を解決するには、リアルタイム、あるいは数日以内に接種履歴を登録できるシステムの構築が必要となります。
自治体はすでにコロナワクチン関連の対応に追われているため、ワクチン接種証明書の申請は電子化し、書類審査も自動化するのが望ましいでしょう。
政府は当面、ワクチン接種証明書は海外渡航の可否判定のために発行する予定です。
ワクチン接種証明書(紙・デジタル)のデータの取り扱いには注意が必要です。多くのデータを保持すれば、それだけリスクが高まります。特に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患歴を保持する場合、不当な差別を招くリスクを踏まえ、方法を検討しなければなりません。
仮に、ワクチン接種証明書の用途をイベント会場の入退場や各種キャンペーンなどに広げた場合には、差別や不平等・不公平を生むおそれがあります。一方で、事業主は、従業員や消費者の安全を守るためにワクチン接種証明書を利用したいと考える可能性があります。政府には何かしらの方針を示すことが求められます。
政府は、ワクチン接種証明書の用途を明確にする必要があります。用途を「ワクチンを接種したことの証明」に限る場合は、最小限の個人情報と接種履歴情報のみで事足ります。一方、用途を「施設などの入場時の審査」に広げる場合は、特定の人が不当な扱いを受けないよう配慮が必要になります。具体的には、何らかの理由があってワクチン接種を受けていない人はPCR検査結果情報、すでに免疫を獲得している人は抗体検査結果情報で代替できるようにするといった方法が考えられます。
COVID-19罹患歴は情報自体が差別を助長する恐れがあるため、政府のデジタルワクチンパスポートで保持すべきかどうかは慎重な判断が必要です。用途を渡航可否の判定に限る場合は、罹患歴の保持は不要といえます。
ただし、政府はワクチン接種証明書の用途を詳細に指定しすぎないほうがよいでしょう。「望ましくない用途」を明確にし、民間事業者に活用を促すことが適切だと考えられます。すでに一部の民間企業(百貨店や宿泊施設など)では、接種者を優遇する割引キャンペーンを行っています。今後、接種率が停滞する場合には、民間の取り組みによる接種率の向上効果を検証することも有効でしょう。
政府は、各国のデジタルワクチンパスポートの導入状況を調査している段階です。
現在のところ、各国で多くのデジタルワクチンパスポートが乱立し、出入国手続きが簡素化されていません。この理由の一つは、デジタルワクチンパスポートが標準化されておらず、それぞれの互換性がないため、各国の空港が異なるデジタルワクチンパスポートに対応できないことです。
また、各国が独自に各ワクチン接種の有効性・信頼性の裏付けを行っており、国によっては一部のワクチンの有効性を認めていないため、接種ワクチンによってはデジタルワクチンパスポートが利用できない場合あります。例えば、EUはあるワクチンの有効性を承認していないにもかかわらず、一部の国では未承認ワクチンの接種を進めており、当該国民はEU Digital COVID Certificateを利用しても安全性が証明できないという事態が生じています。
加えて、新たな日本独自のデジタルワクチンパスポートをゼロから開発・構築するとなると、多大な開発費用が必要となることも課題です。
こうした状況においては、技術的に互換性のあるデジタルワクチンパスポートを構築することが求められます。日本独自のデジタルワクチンパスポートを開発しない場合は、紙の証明書に印刷されている個人情報とワクチン情報が正しく紐づいていることを認証するシステムが必要になります。現状は、紙のワクチン接種証明書にQRコードなどを印刷し、他国や団体のデジタルワクチンパスポートを利用できるようにするのが望ましいといえます。
日本のデジタルワクチンパスポート開発の是非については、費用や技術面の課題、実現するまでの時期を勘案して判断するべきでしょう。
こうした課題を検討した上で、利便性と安全性、公平性を担保したワクチン接種証明の仕組みを構築することが、今後の経済効果やより安心できる社会環境をもたらすのではないでしょうか。
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