世界初のAI包括的ルール「広島AIプロセス」関連文書の解説

広島AIプロセスの概要

広島AIプロセスとは、G7の関係閣僚が中心となり、AIの活用や開発、規制に関する国際的なルール作りを推進するために、2023年5月のG7広島サミットで立ち上がった議論の枠組みです。AIは、創造性や革新性を高める可能性がある一方で、事実と異なる情報の流布や著作権侵害などのリスクも伴うため、その安全性や信頼性を確保するためのガバナンスが求められています。特に生成AIは経済および社会に対する影響力が大きく、G7が一致して切迫感をもって対応すべき課題としています。

そして2023年12月、G7は広島AIプロセスの成果として、以下の文書を策定しました^*2。

1. 広島AIプロセス包括的政策枠組み（Framework）
2. 全てのAI関係者向けの広島プロセス国際指針（Principle）
3. 高度なAIシステムを開発する組織向けの国際行動規範（Code of Conduct）

これらの文書の中には「枠組み（Framework）」があり、下位文書として開発者から利用者まで全てのAI関係者が守るべき責務の概要を示した「指針（Principle）」と、開発者向けに責務をより具体化した「規範（Code of Conduct）^*3」が存在します。また、補完文書としてOECDレポート「G7 Hiroshima Process on Generative Artificial Intelligence（AI）^*4」と、18カ国で合意した「セキュアAIシステム開発ガイドライン^*5」があります。

①広島AIプロセス包括的政策枠組み（Framework）

「広島AIプロセス包括的政策枠組み」は、安全、安心で信頼できるAIを世界に普及させることを目的として策定されました。この枠組みには以下の4つの要素が含まれます。

1. OECDレポートをG7の共通理解として位置づけること
2. 「全てのAI関係者向けの広島プロセス国際指針」を全AI関係者に適用すること
3. 「高度なAIシステムを開発する組織向けの国際行動規範」をAI開発企業に適用すること
4. 今後創設されるGPAI^*6東京センターが支援するプロジェクトをはじめ、AIプロジェクトに関して相互に協力すること

②全てのAI関係者向けの広島プロセス国際指針（Principle）

「全てのAI関係者向けの国際指針」は、一般的な利用者と開発企業の両方を対象とした指針です。当初は開発企業だけを対象に11項目が定められていましたが、利用者に情報共有を求める要件が追加され、最終的には全12項目が示されました。

1. 市場投入にリスクを特定し適切な措置を講じる
2. 市場投入後に脆弱性対策や悪用対策を実施する
3. 利用制約を公表して透明性を確保する
4. 情報共有とインシデント報告
5. 組織のAIガバナンスやリスク管理
6. 物理、サイバー、内部脅威への対策
7. 電子透かしなどの信頼性のあるコンテンツ認証
8. リスクに対する研究と軽減策への投資
9. 社会課題を解決できるAI開発を優先する
10. 国際的な技術規格の開発を推進
11. 個人情報と知的財産の保護
12. 新たなリスクや脆弱性に関する情報共有（AI利用者向け）

③高度なAIシステムを開発する組織向けの国際行動規範（Code of Conduct）

「高度なAIシステムを開発する組織向けの国際行動規範」は、AIを活用した画期的なビジネスを展開しようとする組織に向けた手引きです。AI開発企業を対象とした11項目に対して、詳細な対策例が記載されています。

日本企業への示唆

今後のAIに関する法規制がより一層整備されることを見越し、AIを活用してビジネスを展開する日本のAI開発企業は、以下の対策を検討することが推奨されます。

• 市場投入前の事前審査対応
  • 米国、EU、中国では、AI開発企業に対して、市場投入前にAIシステムを政府機関に届ける制度を整備しつつあります。届出の内容としては、ガバナンス体制、リスク管理、テスト結果などが検討されています。海外でビジネス展開を検討している日本のAI開発企業は、展開先の規制動向をモニタリングし、どのような審査基準が設けられるかを注視する必要があります。
• リスク管理体制の構築
  • 市場投入前のリスクアセスメントに加え、市場投入後のリスク管理体制の構築が求められます。例えば、脆弱性対策や悪用対策に継続的に対応するための運用体制を構築し、利用者からの通報窓口の設置などを検討する必要があります。AIのリスク管理手法については、米国商務省の国立標準技術研究所（NIST）の「AIリスクマネジメントフレームワーク^*9」が組織の成熟度を把握する上で有益です。
• 電子透かしなどの発信者特定情報の付与
  • コンテンツがAIシステムで作成されたかどうかを利用者が判断できるようにするため、電子透かしなどの発信者特定情報の検討が進んでいます。例えば、オリジネータープロファイル（OP）技術を活用し、発信者の実在性と信頼性を確認できる情報をコンテンツに付与することで、ブラウザでの認証アイコンで表示する仕組みの実証実験が行われています^*10。

このように、国際的なAI法規制動向を把握するためには「広島AIプロセス」に関連する文書が非常に参考になります。日本国内においても、今後AI法規制の策定や施行が検討されていますが、これらの文書がベースになります。AIシステムに関する審査制度や認証制度が強化された場合、企業は多大なリソースを投資して対応しなければなりません。そのために、今後のAIの法規制整備を見越した対応が必要です。