PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

中東の地政学リスク拡大による各国経済への影響(2026年4月)

  • 2026-04-08

足元での中東における地政学リスクの高まりを受けて、同地域の航空機や船舶の交通量が激減し、エネルギーや原材料の輸送が遅延することで原油やLNGなどのエネルギー価格が急騰しており、これによるインフレが懸念されている。しかし、資源価格上昇は、輸入価格上昇には直結するものの、財政・金融政策が引き締め的であり、賃上げの要求が物価上昇を大きく上回ることがなければ、国内の消費者物価の上昇への波及は弱いと言われる。このため、各国の経済・物価に加えて、財政・金融政策、賃上げの動向をみていくことが重要である。

1. 物流・サプライチェーンへの影響

まず、中東での地政学リスクの高まりが、世界の物流網とサプライチェーンに混乱を生じさせている点を確認しておこう。2023年10月以降、コンテナ輸送を支える紅海―スエズ運河航路は地政学リスクの高まりを受けて通航が大幅に制限され、船舶は喜望峰へと迂回している。加えて、エネルギー資源輸送を支えるホルムズ海峡の通航を相次いで見合わせていることで、中東を起点に2つの大きなサプライチェーンが機能不全に陥ることとなった。

(1)コンテナ貨物輸送への影響

2023年10月以降、紅海とその周辺海域の地政学リスクが大きく上昇した。そのため、同年12月には主要な海運企業の多くが紅海での通航を停止し、大きく迂回して喜望峰を経由する航路に切り替えている(図表1)。紅海からスエズ運河を通る航路は、世界のコンテナ船の3割が通航し、年間約22,000隻以上の船舶が通航する物流の要衝であった。2023年12月中旬からの半月で紅海を通航する船舶は前年比41%減となり、2年半が経過した現在も紅海―スエズ運河航路に船舶は戻っていない。欧州から東アジアを目指した場合、喜望峰航路は紅海―スエズ運河航路よりも片道約6,000~6,500km長くなり、大型コンテナ船の平均的な速度(約16.4ノット)換算で10日程度航行期間が延びることになる。航行距離と期間の増加に伴う燃料コスト・人件費の増加に加え、地政学リスクの上昇に伴う船舶保険料の高騰で、輸送コストが押し上げられた状態が続いている。

(2)原油のサプライチェーンへの影響

2026年2月28日以降、地政学リスクの高まりを受けて大手海運各社はホルムズ海峡の通航を停止した。これに伴い、ホルムズ海峡を通航する船舶の数は3月以降激減している(図表2)。そうした船舶の中で多くを占めるのが原油を輸送するタンカーである。ホルムズ海峡を通過するタンカーによって運ばれる原油の8割以上は日本を含むアジアに向けたものである。日本は原油輸入の95%を中東諸国に依存しており、そのうちの約8割がホルムズ海峡を通航する石油タンカーによって運ばれている。日本は石油サプライチェーンの途絶リスクに備え、国家備蓄、民間備蓄、サウジアラビアやUAEとの協力による産油国共同備蓄を通じて合計で約250日分を国内に備蓄している。

(3)液化天然ガス(LNG)サプライチェーンへの影響

日本は年間6,500万トンのLNGを輸入しているが、そのうち中東からの輸入は1割程度である。さらにLNG輸送船がホルムズ海峡を通過するカタールとUAEからの輸入分は、全体の6%程度となっている。主要な調達先は比較的情勢の安定した豪州や東南アジアの国々であることから、中東での混乱が日本のLNG調達に短期的に及ぼす影響は限られるだろう。しかしLNGは-162℃の極低温状態で輸送・貯蔵されるため長期の備蓄が難しく、国内の備蓄は3週間分の約370トンと決して多くはない。中長期的には、中東の混乱の中で世界最大規模のLNG生産施設の稼働が停止したことによりLNGの供給不足が懸念される。生産再開までに数か月単位の時間を要した場合、世界的な需給の逼迫から価格が上昇する可能性がある。そうした場合には、日本でも電力価格などに影響が生じることになるだろう。

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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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南 大祐

シニアマネージャー, PwC Japan合同会社

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榎本 浩司

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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