PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

国内消費の低迷、輸出減少懸念を払拭する財政拡大が必要(2025年5月)

  • 2025-06-13

I.2025年5月のまとめ:国内消費の低迷、輸出減少懸念を払拭する財政拡大が必要

日本経済の足元の動向を確認していこう。まず国内消費をみると、3月の家計調査において、実質消費支出が前年比+2.1%、前月比+0.4%となり、2月から拡大した。実質可処分所得(勤労者世帯)は前年比-2.5%と、3か月連続で減少し、かつ減少幅も拡大している。一方、4月の商業動態統計では、名目の小売業販売額は前年比+3.3%、前月比+0.5%となった。また、実質化した小売業販売額はここ数か月横ばいでの推移となっている。次に設備投資動向をみておこう。3月の機械受注統計は、「船舶・電力を除く民需」(コア受注)は前月比+13.0%と2か月連続で増加した。水準としては、2008年1月のリーマンショック前以来の水準に到達した。3月の外需は同-13.1となり、4か月ぶりに減少した。次に4月の鉱工業生産は、前月比-0.9%と3か月ぶりに減少した。生産用機械工業、自動車工業で減産となった一方、電子部品・デバイス工業、電気・情報通信機械工業で増産となった。生産予測調査に基づくと、5月は前月比+9.0%、過去の傾向から補正した試算値は同+5.2%と増産が見込まれている。生産用機械工業、電気・情報通信機械工業、輸送機械工業での増産が見込まれている。次に対外関係に目を向けると、4月の貿易収支では、名目輸出金額は前年比+2.0%となり、7か月連続で増加した。輸出数量は、前年比+0.5%と2か月ぶりに増加した。地域別にみると、米国向けが11か月ぶりに増加に転じていた。程度は大きくないものの、米国での関税引き上げ前に駆け込みでの輸出増加となった。米国向け輸出は5月以降減少に転じる公算が大きい。

以上を踏まえ、景気動向を確認しておこう。3月の景気動向指数における一致指数は116.0となった。2月から1.3ポイント低下して4か月ぶりに悪化した。物価面をみると、4月の企業物価指数では、国内企業物価指数が前月比+0.2%(前年比+4.0%)となった。伸びはやや鈍化している。輸出物価指数は円ベースで前月比-2.1%(前年比-4.2%)、契約通貨ベースで同-0.3%、輸入物価指数は円ベースで前月比-2.9%(前年比-7.2%)、契約通貨ベースで同-0.6%となった。4月の全国消費者物価は、総合で前年比+3.6%となった。また、生鮮除く総合で同+3.5%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合で同+3.0%となり、わずかに伸びを強めている。エネルギーの伸びが強まっている。また、食料については、生鮮野菜、肉類を中心にやや伸びが弱まったものの、魚介類や米を中心とした穀類の価格上昇が強まっており、全体としては前年比+6.5%と高めの伸びを維持している。こうした価格上昇が引き続き、家計消費の重しとなっている一方、食料(酒類除く)及びエネルギー除く総合(欧米型コア指数)は同+1.6%と、2%を下回って推移している。

名目賃金上昇を超える食料品やエネルギー価格上昇により、実質消費が低迷している。財政政策による家計支援が議論されている。名目成長率の高まり、税収の伸びを踏まえると、財政政策による家計支援によって、需要拡大を起点とした物価上昇、賃金上昇を実現することが重要であろう。持続的な需要拡大が見込めれば、企業も設備投資を拡大させ、将来的な生産性の向上にも寄与しよう。

II.Daily Macro Economic Insights

1.家計調査(2025年3月)-3月家計消費は2月からやや拡大-
実質消費は前月比+0.4%と引き続き増加、実質可処分所得は減少が続く

総務省から2025年3月の家計調査が公表された。実質消費支出が前年比+2.1%、前月比では+0.4%、名目消費支出が前年比+6.4%、前月比で+0.8%となり、2月から拡大した。実質消費の変化に寄与した品目の内訳をみると、授業料等の教育、電気代や上下水道料などの光熱・水道、教養娯楽が大きく増加した。他方で、保健医療、洋服、シャツ・セーター類などの被服及び履物、設備修繕などの住居の支出は減少している。実質可処分所得(勤労者世帯)の動きをみると、3月は前年比-2.5%と1月、2月に続き減少した。勤労者世帯の可処分所得は名目で前年比+1.6%、実質で同-2.5%となり、物価上昇による実質ベースの所得押し下げ効果は-4.1%である。名目実収入は前年比+2.1%と2024年2月以降13か月連続で増加した。実質実収入は前年比-2.0%となった。名目ベースの収入の伸びが物価上昇率を下回る状況が続いており、結果として実質所得の減少が続いている。

総務省による、SNAベースの家計最終支出に相当する3月の実質消費支出総額(CTIマクロ)は104.8(2020年=100)となり、2月から0.1%増加した。実質消費支出総額の動きを概観すると、2024年4月から9月までは緩やかな拡大基調にあったが、10月以降は緩やかな拡大の動きが止まり概ね横ばいで推移している。水準でみると、2023年のピーク(3月)はわずかに上回ったものの、消費税増税を行う以前の2019年8月(105.8)の水準を上回るにはまだまだ時間がかかる模様だ。実質可処分所得の前年比は3か月連続の実質減少となり、今年に入り実質可処分所得の伸びの減速が目立つ。政府は様々な形で手取り所得を増やす方策を行う必要性が引き続き増していると言えよう。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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薗田 直孝

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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片岡 剛士

チーフエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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