中国では2025年3月5日〜3月11日の7日間、第14期全国人民代表大会第3回会議(以下、全人代)が開催された。足元の中国経済は長引く不動産不況に加え、雇用不安もあり個人消費は勢いに乏しく、外需の伸びに牽引されているが、今後は米トランプ政権による対中関税引き上げの影響などから先行き不安もあるなか、李強首相による「政府活動報告」で示された経済成長率の目標は、前年から据え置きとなる「+5.0%前後」とする旨が発表された。政府当局としては、今後も厳しい経済環境が続くことを踏まえつつ、より積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策の下で、景気動向に応じて追加的な施策の打ち出しも含めて柔軟な対応を重ねていく方向にあるとみられる。「政府活動報告」では、足元の景気減速や根強いデフレ圧力といった実態を踏まえ、昨年を上回る水準となる積極的な財政出動のほか、物価目標見直しなどが示されており、政府当局が打ち出す追加政策も含めた今後の動向が注目される。以下では、今般の「政府活動報告」で示された主要なポイントを踏まえつつ、2025年の中国経済の展望について筆者の見解を述べていく。
李強首相による「政府活動報告」で示された政府の主要目標の中で、最も注目されていた2025年の実質GDP成長率の目標は、2023年から3年連続で据え置きとなる「+5.0%前後」とされた(図表1)。2025年は第14次五か年計画の最終年となる節目の年であり、産業の高度化を含めた「新質生産力の向上」に注力し、質量ともに強固な経済および産業基盤の構築を目指す方針である。李強首相は、「足元の国際情勢は変化が加速し、外部環境はさらに複雑化し厳しくなっている」との認識を示すとともに、トランプ政権下の米国を踏まえて「一国主義と保護主義が激化している」と指摘している。また、国内については「有効需要が不足し、特に消費が不振」であることを認識しつつ、「雇用の安定、リスクの防止、民生の改善」を考慮して経済成長の目標を定めたものとしている。
ここで足元の中国経済の動向をみると、2024年の実質GDP成長率は前年比+5.0%となり、政府当局の目標を達成した。しかし、これは昨年9月以降、政府当局が相次いで打ち出した景気刺激策が奏功したほか、トランプ米大統領による対中関税引き上げの方針を受けて昨年後半から活発化していた駆け込み輸出の動きに支えられたもので、足元の中国経済は外需依存を強めている状況にある。今後についても、人口減少や少子高齢化といった構造的な問題を抱えつつ、国内では相変わらず長引く不動産不況に加え、雇用不安もあり個人消費は勢いに乏しい。さらには、欧米諸国ほか主要貿易相手国・地域では中国の過剰生産に端を発する貿易摩擦の問題に加え、欧米ほか主要貿易相手国・地域では対中スタンスを厳格化する動きもあり、外需環境も楽観しがたい状況にある。こうしたなか、建国100周年となる2049年に世界をリードする大国になるとの長期展望の下、2035年までにGDPを2020年の2倍とするとの中国政府当局の目標に鑑みれば、この達成には年平均4.7%程度の成長率の実現が必要となる。ただし、今後は人口減少や少子高齢化、経済の成熟化が進展するなかで中長期的な経済成長のペースが鈍化することも踏まえると、「2035年までにGDPを2020年の2倍とする」との目標を変更しない限り、「+5.0%前後」の経済成長を目指し続ける必要がある。こうした状況から、2025年においても引き続き「+5.0%前後」の経済成長を目指す方針としたものと考えられる。ここで、2025年の財政赤字額(5.66兆元)および対GDP比(4.0%)を基に2025年の名目GDPを試算すると141.5兆元(2024年:134.9兆元)となり、名目GDP成長率は前年比+4.9%となる。ただし、2023年以降はGDPデフレーターがマイナスで推移(2023年:-0.5%、2024%:-0.7%)しているうえ、詳細は後述するが、中国は足元で根強いデフレ圧力に直面している。さらに、上述のような厳しい経済環境に直面していることを踏まえると、2025年にも「+5.0%前後」の経済成長を実現することは決して容易ではなく、より積極的な財政・金融政策のほか、大規模な景気刺激策や不動産不況を克服するための抜本的な政策が期待される。
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