足元の中国経済は、長引く不動産不況に加え、雇用不安もあり個人消費の勢いも乏しい状況下、根強い生産意欲の下で鉱工業生産が堅調に拡大するとともに、外需の伸びに下支えされた展開が続いている。今後も中国国内で力強い生産活動が持続した場合、需給ギャップがさらに拡大し、中国国内でさばき切れない在庫が安値で海外諸国に流出する「デフレの輸出」をすることとなり、海外諸国との貿易摩擦といった問題も懸念される。
こうしたなか、先般米国が中国製EVや太陽光パネルなどの品目に対して輸入関税率引き上げの措置を打ち出したほか、欧州委員会でも新エネルギー分野で保護主義的な動きが顕在化してきており、今後の動向が注目されている。以下では、欧米やASEAN各国による対中貿易に対するスタンスを踏まえつつ、特に中国製EVの輸入を取り巻く欧米ほか世界各国の対応からうかがえる今後の展望について筆者の見解を述べていく。
足元の中国経済は、長引く不動産不況に加え、雇用不安もあり個人消費の勢いも乏しい状況下、根強い生産意欲の下で鉱工業生産が堅調に拡大するとともに、外需の伸びに下支えされた展開が続いている。この背景としては、中国国内では自動車や鉄鋼など多くの産業分野で「過剰生産能力」を抱え供給過剰の状態が続いているなか、政府当局が目指している経済成長率「5%前後」の目標を達成するため生産活動が活発化していることが挙げられるだろう。その一方で、中国国内の消費が盛り上がりに欠けていることから、外需へ活路を見出す動きが活発化している。今後も中国国内で力強い生産活動が持続した場合、需給ギャップがさらに拡大し、中国国内でさばき切れない在庫が安値で海外諸国に流出する「デフレの輸出」をすることとなり、海外諸国との貿易摩擦といった問題も懸念される。
こうした供給過剰の問題を克服するためには、中国政府当局には中国国内の需要不足の状況から脱却すべく内需喚起のための政策が求められるところであるが、これまでを振り返ると、習近平政権が標榜する「新質生産力1」(新しい質の生産力)というキーワードの下、さらなる生産能力の拡大に向かって進んでいるようにみられる。すなわち、先般の全人代(全国人民代表大会、国会に相当)で発表された「政府活動報告2」においてもイノベーション重視の姿勢が鮮明に打ち出されているなか、「新三様」といわれる品目(電気自動車(EV)、太陽光パネル、リチウムイオン電池)の生産が急速に拡大している。その一方で、中国国内では長引く不動産不況と需要不足に直面し、消費が伸び悩み企業各社の間で競争が激しくなっていることから、海外市場に活路を見出すべく輸出ドライブがかかっており、足元では「新三様」が中国の輸出の牽引役となっている。もっとも、詳細は後述するが、こうして急拡大する新エネルギー関連製品の輸出に対して、欧米諸国からは市場を歪めるダンピング(不当廉売)が指摘されており、各国・地域間で打ち出される措置や方針が注目されている。
1 習近平国家主席が2023年9月に黒竜江省を視察した際に初めて言及した言葉。習氏は「科学技術の技術革新(イノベーション)資源を統合し、戦略的新興産業と未来産業の発展を牽引して『新質生産力』の形成を加速する」と述べている。従来型の経済成長方式から脱却し、科学技術の技術革新の主導の下、ハイテク、高効率かつ高品質といった特徴を有する先進的な生産力のことを指す。
2 中国の全人代で発表された「政府活動報告」については、PwC Intelligenceのレポート「全人代後の中国経済の行方-「政府活動報告」からみる「5%成長」の実現可能性」(https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/intelligence/monthly-economist-report/monthly-economist-report202403.html)を参照のこと。
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