PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

長期的な検証に向けた論点整理 市場機能よりも重要な物価・賃金の解凍(2023年4月)

  • 2023-04-28

1.日本銀行は1990年代後半以降の金融政策についての長期的な検証を実施

日本銀行の植田総裁は、4月10日の就任記者会見において、10年間続けてきた大規模な金融緩和について、毎回の会合とは別に包括的な点検・検証を実施するかとの質問に対して、金融緩和が20年以上続いている点を踏まえて、総合的に評価する点検や検証について前向きな発言をした。日本銀行は、4月27-28日の金融政策決定会合において、この検証の実施を決定した。発表文では、日本経済が「デフレに陥った1990年代後半以降、25年という長きにわたって、「物価の安定」の実現が課題となってきた。その間、様々な金融緩和策が実施されてきた。こうした金融緩和策は、わが国の経済・物価・金融の幅広い分野と、相互に関連し、影響を及ぼしてきた。このことを踏まえ、金融政策運営について、1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うこととした」としている。日本銀行は、2016年9月に総括的検証、2021年3月に点検(「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」)で金融政策の効果を検証しているが、いずれも2013年4月の異次元緩和以降の期間を対象としたものであった。これまでの検証・点検にない長期的な期間を対象とするものとなるため、ここでは以下「長期検証」と呼ぶことにしたい(図表1)。

今後、日本経済が持続的・安定的な成長を遂げるために、どういった点に注目すべきであろうか。筆者はこれまでのレポートにおいて、日本経済は1990年代後半以降の金融緩和不足によって総需要不足となり、賃金や物価が上昇しない凍結経済となったとの見方を示してきた。1990年代後半以降の「長期検証」の対象期間は、この期間と概ね重なる。2013年以降の異次元緩和・2016年9月以降のイールドカーブコントロール(YCC)によって、30年ぶりに賃金・物価が上昇に転じ、税収はバブル期並みを上回る水準にまで回復するなど目覚ましい成果を挙げている。一方で、金融市場参加者や一部の報道の中には、2013年以降の金融緩和によって金融市場の機能が低下している、低金利によって財政規律が低下している、との指摘も多い。どのような政策が望ましいとされるかは、長期検証の結果、今後の経済・物価動向の先行きの見通しによって変化しよう。しかし、金融市場参加者の中には検証結果や経済・物価動向およびその見通しを待たずして、金融市場の機能や財政規律の低下を懸念して金融緩和の縮小方向に向かうべきだとの見方が多い。本稿では、1999年2月のゼロ金利政策導入以降の金融政策、経済・物価動向について振り返り、今後の日本経済にとって望ましい政策を検討したい。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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