不動産と生物多様性に関するグローバルの動向――自然との関係性を読み解く:日本の事例研究

自然との関係性を読み解く:日本の事例研究
  • 2025-10-17

この度、PwCのグローバルでの調査「不動産と生物多様性:重要なつながり」から得られた重要なインサイトと自然との関係性を読み解く日本の好事例を合わせて、「不動産と生物多様性に関するグローバルの動向――自然との関係性を読み解く:日本の事例研究」を作成しました。

PwCの調査では、生物多様性と建築環境の密接な関係を明らかにし、レジリエンスと資産価値を高めるための強固な枠組みの必要性を提起。進化する規制を踏まえ、ESG開示や都市開発に生物多様性・自然資本の視点を組み込む重要性、各市場の多様な戦略を通じた気候レジリエンス向上と長期的リターンの確保、業界横断の対話・協業の必要性を示しています。事例研究では、日本の不動産企業がバリューチェーン全体で自然への影響・依存を可視化し、戦略意思決定に反映する実践を紹介。自然関連リスクと機会を整理・定量化し、持続可能な施策の優先順位づけと実装を加速することを目的とした取り組みの要点を示しています。

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本ページでは、上述のグローバルレポートのうち、日本の不動産関連企業の実践例を紹介します。バリューチェーン全体で自然への影響と依存を可視化し、その知見を経営や投資の意思決定に反映しています。自然関連のリスクと機会を体系的に整理・定量化し、資本配分と施策の優先順位を明確にして実行につなげることを目的とした取り組みです。

自然との関わり:戦略的統合へ向けて

本企業は、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が推奨する「LEAPアプローチ」を採用し、段階的に自然との関係性を特定・評価しました。

Locate(発見)

事業が生態系と交差する地点を洗い出し、リスク/機会が顕在化しやすい接点を明確化。
Evaluate(診断) 優先領域を深掘りし、生態系の重要度や水リスク、地域との関係性を踏まえた質的評価を実施。
Assess(評価) 財務的影響も含めた定量評価で、リスク・機会の重要度や時間軸(急性・慢性)を判定。
Prepare(準備) 評価結果を基に、拠点別・テーマ別の行動計画に落とし込み、実装ロードマップを策定。

この一連のプロセスにより、自然への影響・依存の全体像をつかみつつ、意思決定と実行の両面で一貫性を確保しました。

事業領域ごとの分析拠点の割り当て

バリューチェーン全体を俯瞰し、以下の活動を対象に分析拠点を体系的に設定しました。

  • 原材料の調達から製品提供までの流れ
  • 居住空間・生活環境の創出
  • 自然環境の保全・再生
  • 建築・開発プロジェクト
  • 資源活用や環境負荷低減

領域横断での拠点割り当てにより、環境負荷・依存のホットスポットを可視化し、部門間での対策連携や責任ある環境管理の基盤を整備しました。

優先エリアの特定とインパクト評価:Locate(発見)とEvaluate(診断)

地理情報システム(GIS)などのツールで、事業拠点の地理条件、生態系の健全性・重要度、生物多様性、水リスク、地域社会との関係を総合評価。30カ所以上を戦略的に重要な拠点として抽出し、「生態学的感受性×財務的影響度」で分類しました。特に、自然資源の管理や環境負荷低減に関わる複数の海外拠点が優先対象として特定されました。資源の調達・加工、空間創出、環境整備、開発、循環型の取り組みなどで、生息地の分断、汚染、災害リスク、資源枯渇といった課題が確認された一方、持続可能な設計・管理手法の導入や地域協働による価値創出など、プラスの影響も明らかになりました。これにより、環境配慮と事業性を両立させる意思決定の土台が整いました。

自然関連のリスクと機会の評価:Assess(評価)

TNFDの整理に沿って、リスクを物理的(急性・慢性)、移行、システミックに分類。優先度の高い項目については、社内外データを統合し、規制・市場シナリオを仮定して2030年までの財務影響を定量化しました。
再生可能エネルギー分野では木質資源の競争で燃料コストが上昇し、調達多様化や代替資源、長期契約の活用が重要に。製造・建設分野では激甚災害に備え、立地段階の自然災害評価とBCP(事業継続計画)の整備が有効です。一方、スマート林業(リモートセンシング・衛星活用)による森林健全性の可視化・提供、工場や建設での資源効率向上や再利用材の活用、生物多様性クレジットのパイロット、自然共生型住宅の開発など、有望な機会が顕在化。環境認証住宅への支払い意欲の高まりは収益性向上に寄与し、自治体との連携によるPES(生態系サービスへの支払い)制度の構築は、自然資本を生かした新たな価値創出につながります。総じて、定性・定量の統合評価は、生態系の持続可能性と事業レジリエンスの密接な関係を示し、リスク低減と機会創出の両立を後押しします。

戦略的な道筋:企業価値の構築:Prepare(準備)

持続可能性と企業価値を同時に高めるには、生態系目標を経営の中核へ統合し、脱炭素と生態系保全を両輪で進めることが鍵になります。森林関連産業では、敏感な生態系に配慮した管理手法への見直しが求められる一方、スマート林業の提供、PES、生物多様性クレジットなど新たな収益機会が拡大。木材産業では洪水による販売影響や復旧コスト増が懸念される半面、新製品開発による成長余地があります。建設分野では気候リスクで保険料が上昇する一方、自然共生型住宅の開発が有望です。再エネ分野では、バイオマス燃料価格の上昇が収益性を圧迫するものの、焼却灰の活用など循環型バイオ経済を後押しする芽が見られます。実装面では、事業目標には機会分析の落とし込みを、サステナビリティ目標にはTNFDや科学に基づく目標ネットワーク(SBTN)に整合したリスク管理指標の設定を行い、両者をKPIとして運用することが重要です。自然関連の取り組みでリスクを最小化し、機会を最大化することで、中長期の企業価値向上と自然と共生する持続的な成長を実現できます。

不動産と生物多様性に関するグローバルの動向 ――自然との関係性を読み解く:日本の事例研究

( PDF 3.95MB )

主要メンバー

白石 拓也

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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