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米中をはじめとして、AIを中心としたテクノロジーへの投資競争が苛烈さを増しています。背景には、AI分野での優位性が今後の産業競争力や国家間の覇権形成に大きな影響を及ぼすとの見方があり、半導体、レアメタル、AI基盤モデルなどの中核領域にとどまらず、AIの進化により高度な判断や作業を担うことが期待されるロボット領域にも投資が広がっています。
日本はこれまで、ものづくり基盤の蓄積に加え、人とロボットの組み合わせによる高品質な生産体制やサービス提供を強みとしてきました。しかし、AI活用が進む中でその立ち位置は変わりつつあり、日本の強みを生かした戦略を見つめ直してグローバルポジションを再構築すべき転機を迎えています。政策的な支援もあり1兆円規模の半導体・AI基盤モデルへの投資が進む中で、フィジカルAIについても今後数年を通じて産業エコシステムの基盤づくりが進む見通しです。中でも、製造・物流・建設・モビリティ(自動運転・次世代モビリティ)・サービス(小売など)の現場での利用を進めることで、急速に進む少子高齢化に伴う労働力減少を補い、かつ、世界で戦える素地ができる可能性があります。一方で、日本が迅速に、低コストで、かつ持続可能な形で競争力を強化するためには、冷静にその競争力の比較を行うことも必要です。また、経済安全保障上の観点からは、米中先行に起因するサプライチェーンリスクを踏まえれば、モデル開発力だけでなく、産業横断でデータを収集・循環させるガバナンスと、エネルギー制御も含む統合的な産業基盤の設計が不可欠です。本稿では、ロボティクス分野の競争優位がハードウェア中心からデータ・AI・運用基盤へ移行している中、AIロボティクスのユースケース獲得競争が進行しつつあることを、PwCコンサルティング合同会社独自の分析ツール「Intelligent Business Analytics(IBA)」を用いたグローバル技術トレンド分析から示した上で、日本がグローバルポジションを再度獲得するための指針を提案します。
米中をはじめとして、AIを中心としたテクノロジーへの投資競争が苛烈さを増しています。これは、AIを掌握する企業が、その国の産業競争力や覇権形成に大きな影響を及ぼすと考えられます。さらに近年のAIの急速な普及は、単なるソフトウェア革新にとどまらず、産業構造と社会インフラの前提を塗り替えつつあります。近年、技術の発展は個別テーマの線形的な進化ではなく、複数テーマが相互に影響しながら連鎖的に進む形で広がりを見せています。
こうした構造変化に関する動向を捉えるため、本稿ではまず、技術テーマ間の相関関係に着目した俯瞰的分析を行いました。図表1は、400を超える技術テーマそれぞれにおける特許と投資の成長率を示したものであり、バブルの大きさは各技術テーマにおける特許出願数の規模を示します。生成AIの特許出願数は他テーマに比較して顕著に大きく増えており、次いで画像処理や半導体関連技術、量子計算、マテリアルズ・インフォマティクスなどの特許出願数成長率が高い状態となっています。また、特許出願数成長率あるいは投資成長率が高い技術テーマの中には、グリーントランスフォーメーション(GX)エネルギー技術をはじめとするエネルギー生産技術や調節技術が多く見られます。これらの結果から、生成AIが多くの技術領域に対して「起点」として作用している流れを見て取ることができます。生成AIの進展により、推論・学習のための計算資源需要が急増し、それがデータセンター、半導体、ネットワーク、冷却、電源といった周辺領域に強い波及効果を生んでいます。
特に電力需要の増大は、単なるコスト増ではなく、国家レベルでの産業競争力に直結する制約条件として顕在化しています。生成AIの学習・推論の高度化が進めば進むほど、電力供給の安定性と価格競争力が、技術競争の土台そのものを左右し得るのです。このような電力需要の急増に対応するためには、単一の電源に依存するのではなく、多様な電源構成が不可欠となります。GXの観点からも、再生可能エネルギーの拡大に加え、系統安定化、蓄電、需要制御、場合によっては原子力・水素なども含めた多層的な選択肢を整備していく必要があります。すなわち、生成AIの進化は「デジタル領域に限る話」ではなく、エネルギー・産業・政策を横断する社会システムの問題として捉え直すべき局面に入っています。
本稿の主題であるフィジカルAIは、まさにこの生成AIメガトレンドの延長線上で立ち上がってきた次の競争領域と言えます。生成AIの発展が、計算資源需要、データ基盤整備、エネルギー需要を促し、その結果として現実空間でAIを動かすフィジカルAIの領域が加速するという連鎖が見えます。生成AIが「言語や知識」の世界でブレークスルーを起こしたのに対し、フィジカルAIは「物理世界で動くAI」として、製造・物流・建設・モビリティ・サービスなど、現実空間のさまざまな分野の生産性と安全性に直接影響します。したがって、グローバルの技術動向を俯瞰する上では、生成AIを起点とする波及構造を押さえつつ、次の競争がどこで発生するかを見極めることが重要となります。単に「今、ある技術が発展している」ことに着目するだけでなく、どの技術群がどの領域と結びついて伸びているか、そういった中で投資の流れがどこに集中しているかを明らかにすることで、政策・企業戦略・研究開発投資の優先順位付けをより客観的に議論できるようになります。
図表1:400超の技術テーマにおける特許と投資の成長率、特許出願数の規模の比較(分析対象期間:2016年1月~2025年12月)
出所:PwC作成
※400を超える技術テーマのうち、視認性を考慮し、特許出願数成長率35%以上50%以下かつ投資成長率30%以上75%以下であって特許出願数40万件以下のものは原則非表示
フィジカルAIは、ロボット・モビリティ・デバイスなどの実体が物理世界の環境を認識し、自律的に軌道や経路などを含むアクションを判断し、実行(制御)する技術です。フィジカルAIは、近年のロボティクスの高度化や自動運転の進展といった技術的背景に加え、各国の政策・投資の方向性によって大きく推進され始めています。
日本においても、政策を起点としてフィジカルAIに関する議論と投資が加速しています。政府が半導体・AI開発に1兆円超を投資する方針が報道されてきましたが、高市政権が示す成長戦略の核となる17分野の1つとしても半導体・AIが掲げられており、その主要な製品・技術などにフィジカルAI(特にAIロボット)が含まれます。*1,2この中核をなすAIロボティクスについては、AIロボティクス戦略および実装ロードマップが策定され、日本のロボット産業の国際競争力の強化やAIロボティクスの社会実装、持続的な経済成長と社会課題解決への貢献を目標とした施策が掲げられており、施策の1つとして基盤モデルとデータ循環の枠組みの構築が打ち出されています。*3経済産業省が推進する「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」では、2026年度に3,800億円超の予算が計上されており、国産AI基盤モデルの開発を通じた産業競争力強化やGXへの貢献が目標として掲げられています*4。これはAI・半導体産業基盤強化政策の一環として位置付けられており、政府の半導体・AIの関連投資は2030年度までの7年間で10兆円以上と見込まれています*5。加えて、政府はAIを産業競争力および国家安全保障に直結する重要分野としており*6、フィジカルAIを含むAIの領域が日本の産業政策の中核的な位置付けを得つつあることが分かります。
基盤モデルとは、大量のデータセットを用いて事前にトレーニングされた大規模なAIモデルを指し、幅広いタスクに適用可能なことを特徴とします。その中でもVLA(Vision-Language-Action)モデルは、視覚情報と言語情報を踏まえてロボットなどの行動を生成するモデルで、フィジカルAIのコア技術として注目されています。
基盤モデルの構築には、図表2に示すように多様なデータが用いられ、データは大きく3階層に分けられます。1つ目は実機や現場から収集されるリアルデータです。現実の作業や環境を直接反映するため品質は高い一方、取得できる量には制約があり、収集コストも高くなります。2つ目は、シミュレーションデータです。仮想環境上で作業空間やロボットを再現し、物体の配置、照明、摩擦、重量、カメラの位置、ロボットへの指令値などを変えながら、物理演算に基づいて画像や動作のデータを生成します。大量生成は可能ですが、環境を作り込む工数が大きく、現実との差分をどこまで抑えられるかが課題となります。3つ目は、世界モデルなどを活用した生成データです。実世界の動画データなどを学習したモデルにより、ある状態や指示に対して起こり得る場面の変化を生成し、データ量を大きく拡張することが期待されます。一方で、実機データや物理演算に基づくシミュレーションに比べると、生成結果の正確性やロボット動作への適用可能性を検証する必要があります。
このように、リアルデータ、シミュレーションデータ、世界モデルなどによる生成データは、量、品質、作成コストの面で特性が異なります。基盤モデルの構築では、実機や現場から得られる高品質なデータを軸にしつつ、シミュレーションや世界モデルを活用してデータ量を補完することが重要となります。さらに、現場で基盤モデルを搭載したロボットを動作させ、そこで得られる観測データや動作結果、タスクの成否をモデルの評価や追加学習に戻すデータ循環の仕組みも重要となります。
フィジカルAIが多様な環境・対象物に適応するためには、膨大かつ多様なデータやデータ循環の仕組みに加えて、安全性・ガバナンスの枠組みも重要となります*3。国家投資が基盤モデルへ向かう背景には、単一企業のみで完結させることが難しいというフィジカルAIの性質があります。AIの学習・推論の性能を高めるだけではなく、実社会での運用を前提とした統合的な土台が不可欠です*4。そのため、国家が一定の基盤モデル整備を主導・支援した上で民間企業が競争し、社会実装を進める構図がとられています。ここには、さまざまな考え方があることも事実であり、民間企業がスピードを重視してビジネスを進めることが重要である一方、1つの産業形態として国家的に推進していく上でのかじ取りも必要であると言えます。
図表2:フィジカルAIの技術アーキテクチャ
出所:PwC作成
基盤モデルが整えば、それをどう現場に落とし込み、どの領域で価値を生むかが重要となり、競争の焦点は次に「ユースケース獲得」に移ると考えられます。生成AIにおける「モデル開発競争」から「アプリケーション競争」への移行と同様の構造転換がフィジカルAIの領域でも起こる可能性が高いでしょう。企業においては、政策の流れを読み、ユースケース獲得競争の初動で優位性を築く戦略が求められます。
フィジカルAIの競争は、基盤技術の優劣だけで決まるものではなく、むしろビジネスアプリケーションレイヤーにおいて「現場で使われ価値を生む」ユースケースに落とし込むことや、持続可能な運用基盤を確立できることが、競争力の鍵となります。フィジカルAIの価値は制御対象の運用フェーズから創出されるものであり、継続的な学習と改善が価値を最大化することがその前提となります。日本においては、製造・物流・建設・モビリティ・サービスといった分野で、ソブリン性(主権性)の高い我が国固有のデータを活用したユースケース構築の動きが顕著になることが見込まれます。
日本の製造業は、高品質・多品種少量生産が主流であり、各製造現場の装置や工程は高度にカスタマイズされています。そのため、フィジカルAIの導入にあたっては、現場ごとに異なる詳細なデータと知識の融合が求められます。国内の製造データを適切に管理し、セキュアに活用できる環境を整備することは、品質維持と生産性向上の両面で不可欠と言えます。
輸送分野では、日本の道路環境、交通法規、文化、高齢化に伴う移動ニーズなど、諸外国と異なる環境に適合した国内固有のデータが不可欠となるほか、高度な安全性の確保や法令遵守の観点からも、国家主導によるデータ管理・モデル設計が求められます。
物流分野および店舗・医療・介護など多岐にわたるサービス分野では、運用環境や利用者ニーズが極めて多様であるため、環境変動に対するロバスト性の担保だけでなく、言語・文化・法規制に即したローカライズや、人との協調や共生が求められます。特に日本では、超高齢化と労働力不足が進む中での現場の省力化ニーズに加えて、サービス品質要求が高く、国内固有のデータ収集とその適切なガバナンスの確立、システム全体の安全設計によって高い安心・安全を実現することが、ユースケースの成功に不可欠となります。
フィジカルAIの重要性が高まる一方で、日本が直面する重大なリスクは、米中がAI基盤モデル開発で先行していることに起因するサプライチェーンリスクです。AI基盤モデルは、計算資源、半導体、クラウド、ソフトウェアスタック、データ収集・学習環境などを含むエコシステムによって支えられています。もしこの価値連鎖の中核部分を海外に依存したままフィジカルAIの社会実装が進むと、地政学的な摩擦や規制変更、供給制約などにより、国内で必要なモデル構築が不可能となる可能性があります。特にフィジカルAIは、ロボットやモビリティと結びつくことで、産業競争力だけでなく社会インフラや安全保障にも直結する側面があります。したがって、サプライチェーンとバリューチェーン上の分断が生じた場合、日本の産業競争力が致命的に低下するリスクは甚大となります。
このリスクに対して、喫緊の課題としては、データを収集し、主要産業においてAI活用を推進することが挙げられます。データがなければモデルは育たず、モデルがなければユースケースは成立しません。さらに、データの収集・利活用には、セキュリティ、プライバシー、品質といったガバナンスが不可欠です。すなわち、日本に必要なのはモデル開発力だけではなく、産業横断でデータを集め、使い、循環させるガバナンスであり、これが構築できない場合、フィジカルAI時代の競争において構造的に不利な立場に置かれるでしょう。
フィジカルAI時代に必要となる産業基盤は、単一の企業や単一の技術領域の努力では整備できません。むしろ、ソブリン性・ガバナンスを確保しつつ、多様なテクノロジーを集積し、産業として循環させる仕組みが必要です。図表2に示した簡易的な技術アーキテクチャからも分かるように、フィジカルAIはロボット・モビリティを含む産業機器やAI基盤モデルだけの話ではなく、センサー、駆動系、エネルギーインフラ、クラウドやエッジコンピューティングを含む計算プラットフォーム、データプラットフォーム、通信などを含む統合アーキテクチャとして成立します。そのため、統合的な産業基盤の設計が求められます。
注目すべきは、対象領域にエネルギーレイヤーが含まれる点です。AIを動かすための電力供給だけでなく、冷却・排熱・蓄電・需給制御といった「エネルギーの制御」そのものが、AI・ロボットシステムの稼働と直結します。今後、現場のロボットやモビリティが増えれば、局所的な電力需要はさらに増大し、電力制約は現場導入のボトルネックになり得ます。図表1で示したエネルギー技術への投資の高まりも、こういった背景を反映しているものと見られます。したがって、産業基盤としては、AI/ロボットを支える計算基盤と同時に、エネルギー制御の基盤も一体として設計する必要があります。
このような統合的な基盤を機能させるために必要な取り組みは大きく4つに整理できます。第一にビジネスモデルの構築です。単発導入ではなく、継続的な価値提供と費用回収が成立するモデルが必要となります。第二に人材育成・供給・アロケーションの仕組みです。フィジカルAI時代には、AI人材だけでなく、現場工程、安全、運用設計、制御、データガバナンスまでを横断できる複合人材が必要となります。また、ロボットや部品のメーカーに加え、SIerの育成や連携も必要となります。第三にデータ連携です。企業内最適に閉じたデータでは汎用性が育ちにくく、産業横断の連携が必要となります。高品質なデータを効率的かつ安全・安心に収集し使用できるデータエコシステムの構築と、フィジカルAIのアーキテクチャを見極めて層別の取り組みを連携しつつ進めることが重要になります。第四にエコシステム構築と参画の流れです。スタートアップ、大企業、大学、政府が役割分担しつつ、実証と導入を回す仕組みがなければ、ユースケースの獲得競争に勝つことは難しいでしょう。AIロボティクス戦略においても論じられているように、*3ティーチングカスタマーと位置付けられるような開発から本格導入まで協働できる需要家がソリューションをいち早く導入し、検証・フィードバック・改善を行うサイクルを後押しすることも重要と言えます。
日本は長らくロボットハードウェアの強みで世界を牽引してきました。しかしAI・データ連携時代に入り、その相対的地位は低下しつつあります。ここでは、歴史的な変遷を通じて、なぜこの変化が起きたのか、そして今後の戦略を考える上で何が論点となるのかを整理します。
1960年代以降、産業用ロボットの原型は米国発で開発が進められていました。しかし、日本の自動車産業には、過酷な労働環境からの解放や品質向上、量産体制の確立という強いニーズが存在し、そのニーズに支えられる形で産業ロボットが自動車産業を中心に導入されました。結果として、日本の産業ロボットは世界を牽引し、ハードウェア技術と生産現場での運用知を蓄積しました。この時代は、精密制御、動作の高速性、安全性の確保、量産品質などの点が競争優位の源泉となりました。
2000年代以降、競争は「ロボットの開発そのもの」から「データ連携・AIとの連携」が必要な時代へ移行しました。ロボットが単体で繰り返し作業を行うだけでなく、環境変化への適応、複数工程の最適化、現場データの収集・活用が価値の中心になりました。ここで重要なのは、ハードウェア単体の性能よりも、データを集め、学習し、モデルを更新し、運用に反映するサイクルの構築です。この変化の中で、日本の競争優位性が相対的に低下しました。
2020年代に入り、ヒューマノイドの開発競争が中国を中心に加速しています。日本が以前から基礎技術・PoCレベルでは取り組めていたサービス分野でも、比較的廉価に多様な環境への導入が求められる中、競争に劣後する環境が生まれつつあります。ここで、ハードウェアなどにおける国内の優位性をどう活かすかが問われています。サプライチェーンを確保し、持続可能な産業形成につなげるには、ものづくり基盤の継承によるハードウェアの強みや蓄積された現場における運用知を核にしつつ、データ連携・AI基盤・エコシステムを統合した競争力を再構築しなければなりません。
日本は、フィジカルAI時代において、ロボティクス分野で培った技術力や強みを核に、どのように競争力を高めていくべきでしょうか。冷静に競争力の比較を行わなければ、日本が競争力を迅速かつ低コストで、持続可能な形で強化することは難しいと考えます。この観点から、AIロボティクス領域にフォーカスし、PwCコンサルティング合同会社独自の分析ツールであるIBAを活用して技術トレンドや国・地域別の動向を分析しました。
図表3は、IBAによって分析した技術トレンドです。対象領域に含まれる技術をAIによって技術クラスターに分類しており、各技術クラスターについての市場期待値(マイノリティ出資額)を縦軸、技術スコア(技術の成熟度)を横軸、特許出願規模をバブルの大きさとして表しています。技術スコアと市場期待値によって4つの領域に分類し、マクロトレンドを把握します。領域1は技術シーズの探索を行う領域、領域2は今後技術開発が進む可能性が高い領域、領域3は技術開発が進み投資も進められていて市場形成の中心となっているトレンド領域、領域4は技術開発が長く続けられており技術的に成熟しつつある領域と定義しています。市場期待値が高い領域2および3の大部分を、制御ソフトやロボットシステムに関連する技術が占めていることが分かります。また、ユースケース創出に関する技術が投資を集めつつあることが見て取れます。ユースケース拡大に伴い、繊細で汎用的な高度ハンドリング技術が進展していることがうかがえ、これらには指・爪構造を用いるハンドリング技術も含まれます。
図表3:AIロボティクス領域における各技術の市場期待値、技術スコア、特許出願数
出所:PwC作成
続いて、「センシング・判断・動作・ユースケース」の各バリューチェーンに分類される主要な技術クラスターについて、国・地域別の技術スコア(各国・地域の企業/プレイヤーのスコア平均値)を比較した結果を、図表4に示します。センシング関連技術においては中国が全面的に存在感を示しますが、日本は安全性に関するセンシング・判断技術に強みを有します。また、知覚・学習に基づく高次自律化に関する「ロボットの知能化を実現する認知・学習プラットフォーム」技術において優位性を有することが分かります。一方で、複数ロボットの分散制御や作業分割および人協調などを特徴とする「AIによる自律的タスクプランニングと人間協調制御」技術クラスター、触覚把持や学習に基づくマルチロボット管理までを含む「ロボットの自律的スキル獲得と行動」など、人協調や群制御に関する判断技術においては欧州が優位性を示しています。判断および動作関連技術においては、日本が精密マニピュレーションなどに関する技術において優位性があることが見て取れます。また、ユースケース創出においても、日本は市場期待値の高い領域2および3に属する技術において特に存在感を示しています。
ここでは国・地域ごとの技術的観点からの強みについて考察しましたが、日本の中でも個社ごとに強みは異なります。IBAを用いることで自社・他社の強みを把握することも可能であり、データに基づく客観的分析も活用しながら、各社の状況を把握していくことが重要となります。
図表4:主要技術クラスターにおける国・地域別の技術スコア
出所:PwC作成
少子高齢化・労働力減少という環境下で労働・生産体系を維持する必要があるという点で、日本はフィジカルAI導入が最も合理的な国の1つです。基盤モデルとデータエコシステムを構築しながら、自国・自社の強みを生かしつつニーズ起点でユースケースを獲得し、かつてロボットで世界を席巻したようにグローバルポジションを再構築すべきと考えます。
提言1:基盤モデル活用とデータエコシステム構築
国内投資が進むフィジカルAI基盤モデルなどを活用し、日本固有の情報(現場データ、運用条件、規制、品質要件)を用いたユースケースを創出することが重要です。このためには、国内外の成功事例も参考に、企業横断・産業横断的に高品質なデータを効率的かつ安全・安心に収集し、使用できる共通のデータ管理システムや法規制の整備を通してデータエコシステムを構築することと、フィジカルAIのアーキテクチャを見極めて層別の取り組みを連携しつつ進めることが重要になります。
提言2:国・個社の両レイヤーでの推進
ユースケース獲得競争は、国のレイヤー(政策、規制、標準化など)と、個社のレイヤー(導入、運用、事業化など)を両輪として、相補的に進める必要があります。スタートアップや大企業、大学・研究機関、国が連携して実証と導入のサイクルを促進するとともに、ティーチングカスタマーと位置付けられるユーザーがソリューションをいち早く導入して検証・フィードバック・改善を行うサイクルを、国が後押しすることも重要と言えます。また、介護や災害対応などを含めてAIロボティクスの市場が拡大する中で、官による需要創出を通して民間投資を促すことも必要となります。これによって、基盤モデルを「作って終わり」にせず、現場に落とし込み、初期の成功事例を積み上げることができるでしょう。
提言3:国内ニーズを起点としたユースケースの獲得
製造・物流・建設・介護など、供給制約が顕在化しておりニーズのある領域でユースケースを獲得し、現場に落とし込んで価値を創出することが、産業基盤の整備とエコシステムの形成につながります。このとき、政策の流れと各種ユースケース実現の時間軸を見定め、実現に向けてフィジカル/デジタルをブリッジできるSIerを含むフィジカルAI人材育成やデータ収集およびガバナンス整備(安全性、信頼性、標準化など)を進め、時期を見定めて投資を行っていく必要があります。
提言4:強みの見極めと活用
日本は、産業機械やファクトリーオートメーションなどのロボティクス分野で培った高い安全性や精密な動作に強みがあることが、データ分析からも示されています。これらをAI技術と融合させてさらに進化させ、例えばミッションクリティカル領域の作業代替など日本の強みを生かすユースケースの創出を図ることが重要と考えます。AI技術との融合を進める上では、現場のノウハウを学習データとして意味付け・モデリングすることも必要になります。
提言5:グローバルとのアラインメントとプレゼンスの発揮
国内で獲得したユースケースおよび設計・運用・データガバナンスなどのノウハウは、同様の課題を抱える海外市場に対して輸出可能な競争力のある資産となり得ます。かつて日本が産業用ロボットのグローバル展開の中で実行してきたように、強みを生かしながらニーズのある市場でユースケースを創出し、その中でグローバル視点の仕組みづくりを進めることが重要となります。
IBAは、特定技術領域のグローバル特許データと企業の財務・投資情報をAIにより分析する新たな戦略分析ツールです(図表5)。特許技術の質的分析と企業投資の定量分析が可能であり、技術トレンドや企業の技術ポートフォリオを市場視点で俯瞰するなど、さまざまな機能を備えています。マクロトレンドや各企業の技術戦略を理解し、IBAコンサルティングサービスを通じて企業の戦略検討に新たな洞察を提供します。
IBAは、特許、財務、投資に係るデータを活用しています。ビジネスデータと技術データの組み合わせにより、新規事業開発、研究開発戦略立案、アライアンスパートナーあるいはM&A候補先の探索、技術デューデリジェンスなど、さまざまなユースケースに適合します。また、個社の技術ポートフォリオの可視化や、企業の財務データや特許データのドリルダウンを実施できる点も他社との差別化要素となっています。それにより、トレンド把握によるアイデア発想と仮説検証の両方が可能となり、より具体的で強固な新規事業開発や研究開発戦略立案を実現できます。
図表5:Intelligent Business Analytics(IBA)の概要
出所:PwC作成
*1 『戦略17分野における「主要な製品・技術等」』2026年3月10日内閣官房 日本成長戦略会議(第3回)資料1
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kaigi/dai3/shiryou1.pdf
*2 「先行して検討を進めている主要な製品・技術等の官民投資ロードマップ素案」2026年3月10日(2026年3月18日修正)内閣官房 日本成長戦略会議(第3回)資料2
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kaigi/dai3/shiryou2.pdf
*3 「ロボティクス戦略」2026年3月26日 内閣官房 AIロボティクスに関する関係府省連絡会議(第2回)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ai_robo/dai2/gijishidai.html
*4 「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業 効果検証シナリオ(初版)」2026年4月13日 経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 AI産業戦略室
https://www.meti.go.jp/policy/policy_management/ebpm/kensyo_shinario/260413_multimodal.pdf
*5 「第1回AI・半導体WG事務局説明資料」2026年2月12日 内閣府・経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/seichosenryakuwg/aisemicon01/shiryo04.pdf
*6 「人工知能基本計画」2025年12月23日 閣議決定 内閣府
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/aiplan_20251223.pdf
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