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AI主導の創薬研究開発、合成生物学、デジタルバイオマーカーは、すでに「今ここ」にある進歩の一部にすぎませんが、将来、さらに大きく進歩する可能性があります。
バイオ医薬品へのベンチャー投資は、2年間の下落傾向の後、2024年に約260億米ドルへと急回復しており¹、新たなイノベーションの波に対する信認の回復を示しています。
分子生物学、計算化学、AIを活用した創薬の進展により、新薬創出のタイムラインが短縮され、まったく新しい治療モダリティが生まれつつあります。
一方で、ゲノミクス、リアルワールドエビデンス(RWE)、デジタルヘルスツールから得られるさまざまなデータが組み合わさることで、疾患がどのように発症・進行し、治療に反応するのかについて、これまでにない深い理解が得られつつあります。
これらのブレークスルーは、医療の可能性そのものを再定義し、精密医療、予防医療、個別化医療を特徴とする新たな時代の到来を示唆しています2。
医療に主体的に関わる新しい世代が生まれつつあります。患者はもはや、医療を一方的に受けるだけの存在ではありません。
PwC米国の「2025 US Healthcare Consumer Insights Survey」によれば、患者の65%が、反応的(事後的)なヘルスケアよりも予防的アプローチを好むと回答しています。
患者は、より早く新しい治療を受けられることや、治療の成果が日常生活の中で無理なく実感できることを求めています。データやデジタル技術、個別化された情報を活用できるようになった患者は、自らの医療について主体的に判断し、選択する存在へと変わりつつあります。
こうした流れを踏まえれば、将来の患者は、自分自身の体質や生活習慣に合わせて調整された治療を当然のものとして求めるようになります。
また、治療がどの程度効果を上げているのかをその都度確認できる仕組みを求め、医薬品そのものの最適化にとどまらず、生活全体を見据えた包括的で個別化された支援や助言を期待するようになります。
テクノロジーはすでに、医療における体験や期待、可能性そのものを大きく変える原動力となっています。
将来、医師はAIを日常的に活用するようになると思われます。臨床の現場では、判断をリアルタイムで支援する高度な支援システムが、診療の質とスピードを高めていくことが想定されます。
患者にも同様に広がり、臨床試験への参加や治療の選択から、個別に設計された服薬支援や健康増進プログラムに至るまで、医療のあらゆる場面で、テクノロジーを組み込んだ体験が広がっていくことが期待されます。そこでは、医療機関だけでなく、さまざまな外部パートナーが連携しながら支える仕組みが前提となります。
要するに、テクノロジーは単に研究開発を速める道具ではなく、製薬企業が関わるあらゆる接点において、人が感じる体験の質を高める存在となり、その変化はすでに始まっています。
変化を後押しするもう1つの大きな要因としては、医療費の増加がもはや持続可能な水準を超えつつあることが挙げられます。米国の医療費はすでに5兆米ドルを超え、年率約8%という高い伸びで増え続けている状況です。
社会はこれまでのやり方、すなわち病気が進行してから治療する仕組みや、予防よりも症状の管理に重点を置く非効率を、そのまま受け入れ続ける余裕を失いつつあります。
こうした費用の圧力は、保険者、医療機関、政策立案者、患者に至るまで、医療に関わるすべての主体に対して、「より高い価値」を求める方向へと行動を促しています。
製薬企業にとって、これは試練であると同時に大きな機会でもあります。求められているのは、革新的な治療方法を提供することにとどまらず、医療費が膨らむ根本原因に働きかけることです。具体的には、より早い段階での介入、患者を的確に見極めた治療の実施、デジタル技術を活用した継続的な見守りの他、実臨床での成果を通じて疾病全体の負担を軽減する取り組みなどが挙げられます。
こうした取り組みを通じて、製薬企業は医療を「高額な病気対応の仕組み」から、「予防と良好な治療成果を基盤とする持続可能な仕組み」へと転換する一翼を担うようになります。
最後に、製薬産業そのものが、これまでのあり方を見直し、急速な変革に取り組むことが求められています。過去5年間にわたり新薬承認が著しく増えたにもかかわらず、同期間において当該セクターは資本市場で低調でした。
図表1:医薬・ライフサイエンス産業の市場パフォーマンス vs. S&P 500
2020年12月31日~2025年12月31日
投資家は、イノベーションだけではもはや十分ではないというシグナルを出しています。特に、多くの企業が類似の治療領域を追い、激しい真正面競争を生み、リターンを圧縮している状況においてはなおさらです。
同時に、新たな価格制度と関税政策が企業の損益計算書に直接的な圧力を加えています。結果として、従来のアプローチでは、最高の株主リターンを生み出すのに必要な成長と生産性の見通しを提供できず、ビジネスモデルが逼迫しています。投資家の信認を回復するためには、製薬企業は「どこで」「どのように」価値を創出するのかを再定義しなければならないと思われます。
2025年第4四半期のデータは、若干の楽観的な兆しを示しています。数年にわたる低調なパフォーマンスと期待値の停滞の後、製薬セクターは市場を上回り、政策逆風、特許切れ、一部企業の「ポストコロナの崖」によって形成された厳しいサイクルの後に、転換点が訪れる可能性を示唆しています。
図表2:PLS産業の市場パフォーマンス vs. S&P 500(Q4 2025)
2025年第4四半期
この変化は、GLP-1だけにとどまらない新たなサイエンスに対する信頼の高まりと、今日の市場に対応する新たな戦略(例えば、患者との直接的な関わりの強化、低コストの運営モデルなど)によって推進されているようです。
もちろん、単一の四半期の成果がこれまでの数年にわたる実績を一気に覆すわけではありませんが、今は投資家の信頼を取り戻すための重要な機会と捉えるべき局面にあります。
精密医療やAIを活用した創薬の進展によって、開発期間の短縮や生物学的可能性の拡大が期待される中、サイエンスと事業モデルの双方において、新たな勢いが芽生え始めています。
次の10年は、サイエンスの厳密さとテクノロジーの可能性、消費者産業との共感、厳格な資金の管理者としての投資規律を組み合わせられる企業が報われると思われます。
この新時代において成功は、「改善された生命」「回避されたコスト」「創出された価値」によって測定される可能性があります。
2035年の製薬リーダーは、今日とは根本的に異なる姿になると思われます。以下の能力が、勝者とその他に分けるのではないでしょうか。
勝ち残る企業は、生物学・テクノロジー・データの最前線で事業を行うことになります。
ゲノミクス、合成生物学、分子工学、AI主導の創薬における進歩を、疾患を管理するだけでなく、治癒または予防治療へと転換していきます。
R&D組織は動的な学習システムとして機能し、RWE、デジタルバイオマーカー、患者データを継続的に統合して、洞察を加速し、開発リスクを低減します。
「研究」と「ケア」の区別は曖昧になり、創薬は患者アウトカムにリアルタイムで適応し、継続的かつフィードバック駆動のプロセスになると思われます。
最も成功する製薬企業は、「治療を届ける」とは何かを再定義する立場にあります。
単発の処方という取引的関係を超え、ブランド化されたヘルスジャーニーを創造することになります。つまりデジタルコンパニオン、個別化された支援、進捗に関するリアルタイムフィードバックを患者に提供するようになっていきます。
これらの企業は、医薬品の価値が薬剤だけにあるのではなく、それが可能にするアウトカムと、そこから生まれるロイヤルティにあることを理解しなければなりません。
行動科学、データ分析、人間中心設計を組み込むことで、疾患ライフサイクル全体で患者を支えるエコシステムを構築し、そこに参画しなければならないと思います。
将来の勝者となる製薬企業組織は、これまでにない速さ・スリムさ・賢さを備えた、適応的でAI対応のオペレーティングシステムによって動くようになっていくと思われます。
通常業務は自動化し、分析は増強し、知能的プラットフォームによって複数の業務システムサービスを連携して動かし、複雑なタスクや業務の流れが自動化され、速度・効率・有効性・リスクが継続的に改善されていきます。
R&D、製造、コマーシャル、サプライチェーン、コンプライアンスにまたがる創薬バリューチェーンのデジタル統合により、組織縦割りの解消とサイクルタイムの圧縮が実現し、月単位が週単位に、週単位が日単位になるようなイメージです。
高度分析とデシジョン・インテリジェンスにより、リソースは価値を最も生む場所へ動的に配分され、自動化と生成AIは運用コストを劇的に引き下げ、エージェント型AIは、企業内の各部門において人の生産性を大きく押し上げるようになります。
これらの組織は従来のヒエラルキーというより、自己学習し自己改善する「生きたネットワーク」として駆動し、イノベーションを向上させる能力を持ちます。
これらの能力が組み合わさることで、製薬産業は「医薬品メーカー」という伝統的役割を超え、長らく資本市場における製薬産業セクターの低迷から脱することが可能になると考えます。
CEOは、以下4つの要請それぞれについて、具体的な進捗を示すべきです。そしてこれらは一体となって、製薬の次の時代の青写真を形成することになると思われます。
先進的な製薬企業は、2026年には創薬の進め方そのものを見直し始め、2035年を見据えた研究開発モデルの土台を築きつつあります。
企業内に閉じた線形的な研究開発モデルは限界を迎えつつあり、これに代わり、人間の知見とAIを中核に据え、グローバルなデータとパートナーシップを横断的に接続するネットワーク型イノベーションエコシステムが新たな標準となっていくと考えます。
このモデルでは、創薬における「発見」は単発の成果ではなく、データ・生物学・テクノロジーのリアルタイムな相互作用を通じて、持続的に進化するプロセスとして再定義されると考えます。
第一のアクションは、研究開発ポートフォリオを、グローバルに見て医療ニーズが最も高く、なお治療選択肢が限られている疾患領域へと戦略的に再配分することです。こうした領域で創出されるブレークスルーは、治療可能性の定義を刷新すると同時に、サイエンスを基盤とする企業活動の原点を再び明確にすると思われます。
企業が持続的に競争優位を確立するためには、既存市場での小幅な改善に依存するだけでは不十分です。今後の成長余地は、臓器機能低下の回復や遺伝性疾患の治癒、健康寿命の延伸といった、いまだ十分に開拓されていないフロンティア領域に存在しており、そこへの戦略的かつ大胆な投資が求められると思います。
これを可能にするため、組織は内部研究能力を、バイオテックの先駆者、AI創薬プラットフォーム、ベンチャーインキュベータ、学術コンソーシアムと結び、流動的なイノベーションネットワークを形成すべきです。
こうした「生きたエコシステム」は学習と発見のスピードを加速し、R&D生産性を劇的に改善することが可能になります。
AIによるポートフォリオ管理と予測分析の高度化により、企業は、新たに現れる科学的知見や患者ニーズに応じて、投資配分を機動的に再構成できるようになるのではないでしょうか。
その結果、研究開発体制は、より迅速・精緻で、より挑戦的なものへと変わっていきます。単に既存市場で競争するための仕組みではなく、医療の新たなフロンティアを切り開くことを前提とした体制へと進化していくと思われます。
2035年に勝ち残る製薬企業は、サイエンスの進展に伴って事業を遂行するよう進化し、それは、継続的に学習・最適化・適応を行うインテリジェントシステムによって支えられていくと考えます。
2026年には、リーダー企業はAI、オートメーション、デジタルツインを企業のあらゆる階層に組み込み、業務の加速とコスト削減をスケールで実現するために、自社のオペレーション基盤変革に着手し始めると思われます。
こうした高度に知能化された運営体制は、これまでの縦割り組織を見直し、研究開発、製造、営業、供給体制を一体的に結びつけた、柔軟で即応性の高い仕組みへと転換します。
業務の流れに組み込まれた自動化の仕組みは、定型作業を効率化し、状況に応じて資源配分を見直し、意思決定に要する時間を月単位から分単位へと短縮することを可能にしていく思われます。
定型業務を自動化が担い、分析をAIが補強することで、人はより付加価値の高い領域に創造性と専門性を集中できるようになります。
先進企業は、まず中核業務のデジタル化や統合的なデータ基盤への投資から着手し、スピードと効率の向上を実証する無人化運用の試行を進めることができるのです。
こうした取り組みを積み重ねることで、より簡素で迅速、かつ強靭な運営体制が形づくられ、研究開発のスピードに見合った精度で価値を届けることが可能となります。
製薬企業と患者の関係は、取引というよりパートナーシップに近づいていくようになります。
最も成功する企業は、疾患の発症前から治療、そしてその後の長期的な健康維持に至るまで、患者に寄り添い続ける、統合されたヘルスエコシステムを設計していくと思われます。診断前にはニーズを先回りして捉え、治療中は適切に支援し、治療後も持続的な健康を支える存在になります。
デジタルプラットフォーム、バーチャルコーチング、予測分析によって、個別化された適応的エンゲージメントが可能になり、適切なメッセージ・介入・支援を、適切なタイミングで提供できるようになります。今後数年、先進的な企業は以下の重要ステップを踏むことで、この能力を構築することが可能になります。
教育、アドヒアランス支援、データ共有を単一のシームレスなインターフェースに統合した、患者直結(DTP:direct-to-patient)のプラットフォームを開発し、一方向のコミュニケーションを双方向関係へ転換していきます。
予測分析や行動分析を活用することで、患者の状態悪化や治療への関心低下の兆しを早い段階で捉え、問題が深刻化する前に対応できるようになります。
あわせて、テクノロジー企業やデータ関連企業と連携し、ウェアラブル機器やバイオセンサーなどを活用した新しいつながり方を広げていくことで、医療だけでなく、健康づくり全体へと製薬企業の役割を広げるようになります。
さらに、実際の医療現場で得られる治療成果を患者支援に直接結びつける仕組みを取り入れ、患者の体験を継続的な改善につなげていくと思います。
その結果、評価の軸は単なる処方量ではなく、服薬の継続状況や満足度、生活の質の向上といった「患者にとっての成果」へと移っていきます。
こうした変革は、医療を「治療の瞬間」から「生涯にわたる健康体験」へと進化させ、価値創出、アウトカム達成、信頼構築のあり方を大きく変えていくようになります。
これらの行動は、エンゲージメントが「断続的ではなく連続的」「反応的ではなく予測的」である時代の基盤をつくります。やがて「治療の瞬間」から「生涯の健康体験」へのシフトは、患者が価値をどう認識するか、アウトカムがどう達成されるか、信頼がどう獲得されるかを変えていくようになります。
2026年を起点に、人間の知能と機械の知能の境界は、対立するものではなく、生産性を高め合う形で次第に曖昧になっていくのではないでしょうか。
製薬企業は、人間の創造性や専門的判断力と、エージェント型AIの計算能力と学習能力を組み合わせた「ハイブリッド人材」の育成に本格的に投資することになっていきます。
それに伴い、職務定義、評価指標、キャリアパスは、固定的な役割や経験年数ではなく、適応力とアウトカム創出能力を中心に再設計されていくでしょう。
科学的専門性と計算知能を融合したハイブリッドチームは、研究開発における発見を加速し、安全性を高めると同時に、患者エンゲージメントをより高度に個別化することを可能にしていきます。
大切なのは、AIが人に取って代わるものではないという点です。
AIは、人の判断力を高め、学びを速め、より大きな成果を生み出すための力を広げる存在であり、将来必要となる能力を整理し、分野を横断した学習の仕組みを整え、AIを日々の業務の中に取り入れていく企業は、人とAIが協力することによって生まれる本来の力を十分に引き出すことができると思われます。
2026年末までに、次世代の製薬企業の姿はすでに見え始めている可能性があります。
研究開発の再定義や患者体験の再構想、オペレーションの抜本的な再設計にいち早く着手する企業こそが、同業他社を上回る競争優位を確立すると同時に、将来の事業機会に向けた土台を整えると思われます。
勝ち残る企業は、不確実性が残る状況においても行動を選び、学びながら前進します。
大胆に試行を重ね、成果の出た取り組みを素早く展開し、変化に適応し続ける力を組織に根づかせていくこととなります。
情報基盤への投資、患者との信頼関係づくり、AIを活用して力を高めた人材への投資には、今、取り組むべきです。この先10年にわたって積み重なる形で大きな価値を生み出していく可能性が高く、その好機は、すでに目の前にあると思われます。
だからこそ、2035年の製薬企業の姿を、今の段階から描き、形にしていく必要があります。目指すべき企業像は、未来の健康そのものと同じように、賢く、変化に強く、そして人に寄り添う組織となります。
この将来像を実現するには、新しい発想だけでは足りず、資金の使い道についての考え方そのものを見直すことが欠かせないと思います。
これまで主に、既存の治療分野や適応の追加、従来型の販売手法に資金を振り向けてきた配分を転換していく必要があり、そして企業は、フロンティア科学、新たな治療モダリティ、次世代の創薬アプローチへと資本を振り向けることができます。
同時に、デジタル・エンゲージメントや患者体験にも、より大きく、より長期的な投資を行い、プラットフォーム、データエコシステム、インテリジェントインターフェースを、パイプラインと同等の戦略資産として位置づけていくでしょう。
こうした転換の資金源として、多くの企業は、ポートフォリオ全体を見直し、変革投資を推進するための必要な資金にどのようにアクセスするかを再評価すべきです。
それは、成熟事業や中核ではない事業を売却して資金を捻出し、将来に向けた戦略的な賭けへ振り向けることを意味する場合もあれば、民間資金との連携など、より創造的な資金調達スキームを活用することを意味する場合もあります。
もっとも、大胆な変革には必ずリスクが伴います。
製薬企業がビジネスの仕組みを組み替え、変革のスピードを高める局面では、ガバナンス、データの正確性、患者安全を、すべての業務や基盤にあらかじめ組み込んでおく必要があります。
これを支える考え方が「コンプライアンス・バイ・デザイン」です。
そのためには、継続的な監視の仕組み、判断過程の見えるAI、先回りしたリスク分析が不可欠であり、これらがあって初めて、信頼を損なうことなく迅速な意思決定が可能となります。
製薬産業の変革は、サイエンスやテクノロジーの問題であると同時に財務と組織の問題でもあります。
資金と能力を、製薬産業が果たし得る変革的な役割に対する大胆なビジョンと整合させることができる企業こそが、次の時代のリーダーシップを定義していくと思います。
PwC米国が示した「The future of Pharma」は、サイエンス、テクノロジー、資本配分、組織変革を統合した大胆な再設計の必要性を明確に示しています。
その方向性に異論はなく、むしろ、日本の製薬企業にとっては、より切迫したテーマです。
日本の製薬企業は、これまで世界第3位規模の市場を背景に成長してきました(現在は世界第4位)。しかし現在、その前提は静かに、確実に変化しています。高齢化の進行、財政制約の強まり、継続的な薬価改定、ドラッグロスの顕在化、原薬供給の海外依存など、これらは一過性の問題ではなく、構造的な制約条件であると考えています。
その中で求められるのは、単なる効率化や部分的なデジタル化ではなく、事業モデル、資金配分、リスク許容の水準そのものを再定義する覚悟です。
2035年を展望したとき、日本の製薬企業がグローバルの市場で競争力を維持していくためには、「内需中心モデル」からの明確な転換が不可欠です。日本市場での安定収益を前提とした戦略では、グローバルな価格決定力も、研究開発投資の持続性も確保できません。つまり、日本市場を主軸とした安定収益モデルだけでは、グローバルな価格決定力や研究開発投資の持続性を担保することは難しくなっています。
海外での収益拡大、研究開発機能の最適配置、国内供給基盤の戦略的維持といった複数の選択肢を組み合わせながら、国内外の役割分担を再構築する構造転換が不可欠であると思います。
同時に、AIやデータ活用は効率化のためだけのツールではなく、それは、開発期間の短縮や意思決定速度向上を通じて、研究開発投資の成果創出効率そのものを高める基盤であると思います。
開発サイクルが短縮されれば、より多くの成果を生み出すことが可能となり、その結果として企業価値や資本市場からの評価にも影響を及ぼします。AI投資とは、個別製品のNPV(正味現在価値)最大化にとどまらず、パイプライン全体の成功確率向上と資本効率の改善を通じて企業価値を持続的に高めるための戦略投資です。その実装には、データ基盤、業務プロセス設計、意思決定とリスク管理を含む組織ガバナンスを統合した全社的な再設計が不可欠となります。
さらに、製薬産業は経済安全保障の一翼を担う存在となっており、その責務は供給の安定にとどまらず、創薬・開発基盤や先端モダリティへの継続的投資を通じて国家の医療基盤を支えることにも及びます。
例えば、供給安定性はCSRの範疇ではなく、企業価値を左右する経営課題であり、欠品リスク管理、製造拠点の多様化、在庫戦略の高度化といった供給安定化施策を財務KPIや資本効率指標と接続できる企業は、資本市場から長期的な信頼を獲得していくことになると思われます。
そして何より重要なのは、限られた資金をどの領域にどの時間軸で配分するかという資金配分戦略です。
将来の競争優位を確立する企業は、既存事業の維持を前提とした投資配分から脱却しなければなりません。成熟領域や非中核資産を見直し、成長ドライバーとなる領域やデジタル基盤へ経営資源を再配分できるかが、長期的な企業価値を決定します。そのためには、ポートフォリオ再編や業界再編を通じた規模と機能の再構築も視野に入ることになります。
結論としては「変革しないことが最大のリスクである」ということです。2035年の世界では、米国の価格交渉モデル、欧州の統合評価制度、中国発イノベーションの台頭、AIネイティブ企業の出現が同時進行している可能性が高いと思われます。その環境下で、今までのグローバル化≒米国進出による成長・投資回収モデルが揺らいできた現在では、日本の製薬企業が競争力を持ち続けるためには、未来を予測することではなく、未来の競争条件を前提にいま構造を変えることが求められます。
Breakthroughs at scaleとは、単なる科学的飛躍ではなく、それは、戦略・資本・データ・組織能力を再結合し、産業構造そのものを進化させることに他なりません。
日本の製薬企業が次の10年で問われるのは、技術力だけではなく、グローバル市場で価格を獲得する胆力、AIを中核に据えた意思決定構造の再設計、患者との信頼を長期資産として構築する視座、経済安全保障を担う産業としての自覚、そして資本を未来へ大胆に再配分する覚悟です。そのことを考えた投資が行われていない企業は多いのではないでしょうか。
2035年の製薬企業像は自然に到来するものではなく、今の意思決定の累積によって形成されると考えます。
未来の健康が、より賢く、強靭で、人に寄り添うものであるために、その未来を支える製薬企業もまた、同じ資質を備えていなければならないと思います。
今、その選択の時期にあるのではないでしょうか。
※本コンテンツは、Breakthroughs at scale: the future of pharmaを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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