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『セキュリティ・クリアランス制度』法制化の最新動向と日本企業が取るべき対応【第4回】ガイドライン及びQ&Aの公表
2025年5月2日付で公表された「重要経済安保情報保護活用法の運用に関するガイドライン(適合事業者編)」、「重要経済安保情報保護活用法の運用に関するガイドライン(行政機関編)」及び「適正評価に関するQ&A」の概要を解説します。
PwCでは、ビジネスリーダーとセキュリティリーダーを対象として、サイバーリスクに関する調査(Global Digital Trust Insights)を20年以上継続して実施しています。
2025年度は、77カ国・7地域のビジネス・テクノロジー・セキュリティなどの分野の経営層4,042名を対象に実施しました。
「Global Digital Trust Insights」によると、企業がサイバーレジリエンスを構築する上で解消すべき重大なギャップがあることが明らかとなりました。より安全で持続可能な未来を築くために、これらのギャップを解消し、サイバーセキュリティを事業戦略の中心に据えることが企業に求められます。
本レポートでは調査結果をもとにして、セキュリティ強化の上で日本企業が抱える課題と課題解決のためのアプローチ、その有効性について解説します。
デジタル分野における法令・ガイドラインの数は、2020年と比較し、10倍以上に増加しています(図表1)。グローバル展開する日本企業は、準拠すべき法令・ガイドラインを把握し、組織単位で遵守に向けた統制を図る必要があります。
出所:各国・地域の公的情報よりPwC作成
昨今では、各国のデジタル分野における法令・ガイドラインは増加され、罰則も強化される傾向にあります。
海外展開する日本企業は準拠すべき法令をタイムリーに把握・対応することが必要です。
デジタル分野における法規制は、主に①セキュリティ対策の構築、②サプライチェーンリスク管理、③インシデント報告の3つにおいてコンプライアンス義務を課しています(図表2)。企業がコンプライアンス要件に準拠できなかった場合、影響が企業のグループ全体にまで及ぶ可能性があります。
デジタル法規制に対して準拠している自信があると回答した日本企業の割合は40%未満であり、グローバルと比較して20ポイント以上のギャップがあります(図表3)。各デジタル法規制への対応が十分でないと感じている企業が多いことが分かります。
出所:PwC, 2025 Global Digital Insights Survey, Q15
日本企業では、2024年の「Global Digital Trust Insights」の結果と同様に、CEOはCISOに比べて法規制の影響を過小評価する傾向があり、両者の意識に依然としてギャップが見られます(図表4、図表5)。CEOは、法規制対応の必要性を十分に認識できていない可能性があります。
出所:PwC, 2024 Global Digital Insights Survey, Q17 PwC, 2025 Global Digital Insights Survey
出所:PwC, 2024 Global Digital Insights Survey, Q17 PwC, 2025 Global Digital Insights Survey
グローバルと比較して、日本企業では経営層とセキュリティ部門との間で情報を連携する機会が少ないという結果が出ています(図表6)。情報連携が不足していることにより、経営層が組織におけるセキュリティ課題を十分に把握できず、企業のセキュリティ対応の遅れにつながっていると考察されます。
出所:PwC, 2025 Global Digital Insights Survey Q28
経営層が組織におけるセキュリティ課題を十分に把握できていないことが、日本企業の課題だと考えられます。
日本のCISOは、グローバルに比べて経営に関与する機会が少ないという結果も出ています(図表7)。結果として、CISOを通じて組織のセキュリティ分野における課題が経営層に十分に伝達されず、組織内でのセキュリティ対応の遅れにつながっていると考えられます。
出所:PwC, 2025 Global Digital Insights Survey, Q21
CISOは、組織のセキュリティ分野における課題を経営層に直接伝える役割を担うことが期待されているものの、日本においては、当該の役割が十分に機能していない可能性があります。
CISOの地位向上は、組織のサイバーセキュリティリスクの低減とレジリエンス強化に不可欠です。CISOの地位を向上させ、経営に関与できるようにするためには、CISOと経営層の双方が協力し、戦略的なビジョンと具体的なアクションを共有することが求められます。
CISOと経営層(CxO)の双方が協力し、継続的なコミュニケーションを通じて戦略的なビジョンと具体的なアクションを共有することが重要です。実践のためには、組織においてCISOおよび経営層(CxO)の業務や役割を明確化することが必要となります。
PwCでは、最新のセキュリティ・業界知見をもとに、CISOが効果的に機能するためのアドバイザリーサービスを提供しています。
日本企業では、CISOが経営に参画する機会がグローバルに比べて少なく、組織全体でのセキュリティ対策に遅れが生じていることが明らかになっています。CISOの立場が依然として低く、経営に関与するための権限や機会が十分に与えられていないことが課題であり、解決のためには、組織におけるCISOの地位向上が求められます。PwC Japanグループのサイバーセキュリティリーダーは以下のような観点からCISOの地位向上の必要性に言及しています。
本調査の結果から、規制への対応に関してグローバルと日本企業で格差が生じている現状が明らかになりました。また日本企業では経営層とCISOが十分な連携が取れていないことが、規制やセキュリティ対策への遅れが生じている1つの原因である可能性も見えてきました。
グローバルでますます増大するデジタル法規制にタイムリーに対応するためにも、CEOをはじめとするビジネスリーダーがデジタル法規制への対応やセキュリティ対策を経営課題として認識し、CISOと強い連携を図ることが重要です。
本レポートの示唆が、日本企業にとってCISOの役割を改めて認識し、デジタル法規制やセキュリティ対策を経営課題として推進する一助となり、セキュリティ担当者にとっては自身のキャリアデザインを描く一助となれば幸いです。
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2025年5月2日付で公表された「重要経済安保情報保護活用法の運用に関するガイドライン(適合事業者編)」、「重要経済安保情報保護活用法の運用に関するガイドライン(行政機関編)」及び「適正評価に関するQ&A」の概要を解説します。
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営業秘密は企業の競争優位性を支える重要な資産であり、経営層はこれをリスク管理の一環として重視し、戦略的に対応することが求められます。シリーズ第1回となる本稿では、営業秘密の定義とその重要性について解説します。
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グローバルでは近年、船舶サイバーセキュリティに関する統一規則(IACS UR E26/E27)の発行を筆頭に、海事分野におけるサイバーセキュリティの機運が高まっています。船舶・港湾分野におけるサイバーセキュリティの動向を理解し、発生しうる規制対応リスクについて解説します。
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航空業界は、航空機や関連システムの高度なデジタル化やグローバルなサプライチェーンによる複雑化が進む中、サイバーセキュリティの重要性がかつてないほど高まっています。こうした背景から欧州航空安全機関(EASA)が2023年10月に制定した、情報セキュリティに関する初の規則となるPart-IS(委員会実施規則(EU) 2023/203および委員会委任規則2022/1645)について解説します。