AI時代の人的資本経営を考える

地方銀行人事エグゼクティブ会議2026開催レポート

  • 2026-07-24

2026年5月、PwCコンサルティング合同会社は地方銀行の人事エグゼクティブを対象とした講演、ディスカッションイベントを開催しました。当日は日本各地の地域経済をけん引する地方銀行のCHRO、人事担当執行役員、人事部長・室長の方々30名にご出席いただき、PwCコンサルティングのパートナーらによる講演および参加者によるテーブルディスカッションが行われました。

【開会挨拶】地銀業界全体で変革を進める一歩に

開会の挨拶を務めたのは、PwCコンサルティング 執行役員 パートナー 組織人事コンサルティングリーダーの北崎茂です。今回の地方銀行の人事エグゼクティブ会議を開催することになった経緯について、北崎は「PwCでは、2年前に地方銀行を対象とした人事コンサルティング専門チームを立ち上げた。各行の人事部門の課題やニーズについて理解を深めるうち、地銀業界固有の課題が明らかになったことから、情報共有の場を設けることが業界全体にとって有益な機会になると考え、本会を開催した」と語りました。

さらに、今回のテーマである生成AIについて、「生成AIの活用は、人事業界共通のチャレンジ。各行で個別に取り組むよりも、互いにアイデアを出し合い、学び合いながら業界全体で変革を進めることで、日本全体の人的資本経営を前進させる一歩となることを期待したい」と挨拶を終えました。

PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 北崎 茂

PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 北崎 茂

【基調講演1】「人材ポートフォリオ・マネジメントとは」

基調講演1では、PwCコンサルティング ディレクター 加藤守和が登壇し、「人材ポートフォリオ」をテーマに講演を行いました。地方銀行向けの組織人事チームをリードする加藤は情報発信、執筆活動にも力を入れており、『企業変革を実現する人材ポートフォリオ・マネジメント戦略』(労務行政)ほか日本企業が抱える人事課題をテーマとした書籍を多数執筆。5月27日には最新刊『異質を認め合う組織』(日本能率協会マネジメントセンター)を刊行しています。

地方銀行に必要な「人材ポートフォリオ・マネジメント」とは

長らく続いた低金利時代から金利のある世界へと回帰しつつある今、地方銀行には顧客の本業支援を通じてビジネスを支え、付加価値を高め、地域経済に貢献する役割が期待されています。そうした中、地方銀行は金融のみならず、経営コンサルティング、DX、人材紹介など、顧客のライフサイクルの変化や外部環境変化に応じた総合的支援が求められるようになり、高い専門性を持った人材が不可欠となっています。加藤は、「収益基盤を確立するためにも、注力する分野を見極め、そこに適切な人的リソースを配分する必要があり、各行で『人材ポートフォリオの策定』と『専門性の高い人材の育成』が急務となっている」と述べました。

加藤は「人材ポートフォリオ」を「どのような質と量の人材を組み合わせるかを可視化したもの」と説明し、「従来の人員計画との違いは、人材の『質』に着目している点にある」と述べました。その上で、ただ必要な人数の人材を確保する、といった発想ではなく、事業戦略に直結するような専門性から考えて、人材の質と量をモニタリングしながら人材への投資を行っていく「人材ポートフォリオ・マネジメント」の重要性を訴えました。

課題は「戦略・企画人材の育成」

人材ポートフォリオ・マネジメントを進めるにあたっては、それぞれの機能別にどのような専門性を持った人材が必要かを洗い出していく必要があります。加藤は地方金融機関に共通の機能とそれぞれの課題をマッピングした図を示し、「各機能がそれぞれ非連続の課題に直面しているため、全体でアップデートが求められる」と述べました。

図表1:各機能が非連続の課題に直面しており、機能全体のアップデートが必要

各機能が非連続の課題に直面しており、機能全体のアップデートが必要 ,

では、地方銀行において具体的にどのような人材タイプが求められるのでしょうか。加藤は、地方銀行における標準的な人材タイプをプロットした「地域金融機関における人材タイプモデル」を示しつつ、「特に課題感が強いのが、戦略・企画人材の育成」だと話し、「戦略・企画人材の育成には、ポテンシャルのある人材に成功経験を積ませるサクセッションプラン(後継者育成計画)が極めて重要になる」と強調しました。

図表2:地域金融機関における人材タイプモデル

地域金融機関における人材タイプモデル ,

現在、注力分野の人材確保に向けて、多くの地方銀行でM&Aや事業承継などの専門人材を育成する取り組みが進んでいる他、銀行法改正を受け、DX/ITを中心とした外部人材の採用も活発化しています。加藤は、「専門人材の定着と活躍のためには、適切に評価し処遇する人事制度が不可欠」であり、「当社ではこうした制度面を含め、人材ポートフォリオ・マネジメントの実現を支えるソリューションを提供していきたい」と述べて講演を締めくくりました。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 加藤 守和

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 加藤 守和

【基調講演2】「人事領域における生成AI活用の進化と課題」

続く基調講演2では、PwCコンサルティング 執行役員 パートナーの北崎茂が登壇し、「人事領域における生成AI活用」をテーマに、最新の動向や活用事例について解説しました。北崎は組織人事コンサルティング領域にて30年近い経験を有し、2022年より同社の組織人事コンサルティング事業のリードを務めています。

生成AI活用に「効果の差」

対話型AI「ChatGPT」が公開されたのは2022年11月。生成AIは今も驚異的なスピードで進化を続けており、向き合い方次第で、企業価値に大きな差が生まれる時代となっています。北崎は「人的資本開示の観点でも、AI活用は投資家の高い関心事となっており、それに応えていくことは日本企業の共通課題だ」と話しました。

PwCの生成AIに関する実態調査によると、日本企業における生成AIの導入率は56%(2025年春)で、先進5カ国と比較しても遜色ないレベルにあります。一方で、諸外国では効率化だけでなく、顧客への提供価値を高める方向にAIを活用している傾向が強く、「効果」という点では大きな差が生じていることが示されました。

生成AIの活用は人事領域でも進められています。PwCがグローバルで実施した分析では、73に分類した人事業務のうち43の業務について効率化が可能であると整理しており、この中で北崎は「特に採用業務の効率化やデータ分析を行うピープルアナリティクスにおいてAIの強さが示されている」と分析しました。

AIによるスキルマネジメントの可能性

北崎が着目するのはAI活用によるスキルマネジメントの可能性です。AIを活用することで、人事部門が保有するデータだけでなく、営業情報や研究開発情報など、現場部門も含めた社内にあるさまざまな人材にまつわるデータを抽出。それを基にスキルを推論化・自動生成することで、これまでにない範囲でのスキルデータの可視化を実現することができるようになります。北崎は「スキルベースでの人材ポートフォリオ構築、採用や育成、ジョブアサイン、定期異動モデルなどにも活用でき、包括的なスキルマネジメントが可能になる」と、今後の展望を語りました。

図表3:包括的なスキルマネジメントこそが効果を最大化

包括的なスキルマネジメントこそが効果を最大化 ,

AIを起点とした人事組織のあり方とは

人事組織はどう変わっていくのでしょうか。北崎は、「今後はAIを起点としたものに変わっていく」という見方を示しました。定型業務を行うOPS(オペレーションズ)はAIによって自動化し縮小していく一方で、現場部門を支えるHRBP(HRビジネスパートナー)と全社視点での活動を司るCoE(センター・オブ・エクセレンス)、そして人のケアや従業員のエンゲージメント向上を担うピープルパートナー、さらには、多様化・複雑化する人的資本経営全体を統括するハブ機能の重要性が増していくのではないか、と予測。「人事の組織機能体系も見直す時期にきている」と語りました。

図表4:これからの人事のオペレーティングモデル ~生成AIが変化のドライバーに~

これからの人事のオペレーティングモデル ~生成AIが変化のドライバーに~

最後に、AI時代に人事部門が考えるべきアジェンダとして、次の4点を挙げました。

  1. 生成AIの浸透・働き方の変化に伴う人材ポートフォリオの早期予測・調達・育成
  2. 生成AIをベースにした働き方の戦略浸透と人的資本投資
  3. 生成AIトレンド、HRテックのトレンド把握とHRテックアーキテクトの育成
  4. 人的資本経営の加速と生成AIの進化を見据えた人事部門の価値提供のあり方のリデザイン

北崎は「今後は生成AIなどテクノロジーの変化を捉えながら、人事機能や人事組織のあり方をどう変えていくかが共通のアジェンダになってくるだろう」と、講演を締めくくりました。

【テーブルディスカッション】

講演後は、PwCコンサルティングの加藤守和がモデレーターを務め、テーブルディカッションが行われました。参加者は「自社における人材ポートフォリオの重点領域はどこか」「AIによって、地方銀行のHRはどのように変化するか」という2つのテーマについて、テーブルごとにそれぞれの取り組みや課題を話し合いました。

セッション終了後は各テーブルでの議論が共有され、「重点領域を定めても、外部環境の変化が激しく、イシューが次々に変わってしまうため、人材ポートフォリオにうまく組み込むことができない」「AIについては業務効率化の目的でしか使用していなかった。今日の話でさまざまな活用例を知り、大変参考になった」「今後、地方銀行はどうなっていくのか、中長期的な視点でどんな人を育てたいかを改めて考えたい」といった声が聞かれました。

【閉会挨拶】

閉会の挨拶はPwCコンサルティング 執行役員 パートナー 組織人事・チェンジマネジメントチームの坪井 淳が務めました。坪井は、経営環境が大きく変化する地方銀行においては、「事業運営に必要となる人材の量と質を特定し計画的に確保する、つまり人材ポートフォリオを組織ケイパビリティとして持つことこそが競争優位源泉となり、事業競争力を高める武器となる」との考えを示した上で、「今後はデジタルと人の力を組み合わせることで人材ポートフォリオ戦略の精度と再現性を高めてほしい」と述べました。最後に「PwCコンサルティングは、今後も皆さまと情報交換を行いながら、地域、日本全体の発展に向けてお手伝いができればと考えている。本日はありがとうございました」と述べ、地方銀行人事エグゼクティブ会議2026を締めくくりました。

PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 坪井 淳

PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 坪井 淳

主要メンバー

北崎 茂

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

加藤 守和

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

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