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PwC Japanグループは2024年6月14日に「ネイチャーポジティブ経営の実践に向けてー自然、気候、人権課題の統合的なアクションを起こすー」と題したセミナーを開催しました。
生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)での「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)による開示フレームワークの公表に伴い、ネイチャーポジティブ経営の重要性は高まり、幅広い業界が対応を求められています。しかし、開示対応に追われる一方で、本来求められているはずの事業変革に向けた展望を持てていない、と頭を悩ませている方も多いのが実情です。
そこで、6月の環境月間に合わせ、ネイチャーポジティブ経営をテーマに本セミナーを開催しました。
本セミナーではまず、ネイチャーポジティブ経営の最新動向を解説しました。また、国内の先進企業や国際機関の有識者を招き、各社の取り組みをご説明いただき、事業変革にあたっての課題、今後求められるアクションについてディスカッションを行いました。本稿ではこうしたセミナーの様子をご紹介します。
PwC Japanグループ サステナビリティセンター・オブ・エクセレンス パートナー 齋藤 隆弘
気候変動を経営危機と認識し、ネットゼロに取り組んでいらっしゃる企業は多いと思いますが、ネイチャーは更に深刻な状況にあります。2050年には日本近海の漁獲量がゼロになり、食卓に魚が並ばなくなるという食糧問題にもつながるリスクです。
本セミナーでお伝えしたいことは3点です。
1点目は、ネイチャーポジティブ経営はネットゼロ対応・人権尊重との統合的なアプローチが求められていることです。ISSB(International Sustainability Standards Board)では生物多様性、人的資本の個別のガイドラインも検討されています。
2点目は、ビジネス機会の創出につなげることの重要性です。例えば、穀物業界の主要企業は水面下で持続可能なサプライチェーンの整備により、製品の付加価値を上げる取り組みを進めています。目先の規制対応のみならず、戦略的に取り組みを進めることが重要です。
3点目は、パートナーシップを組み、エコシステムを構築することの必要性です。ネイチャーポジティブ経営はサプライチェーン全体に関わる問題であり、単独での実施は現実的ではありません。サプライヤーやNGOなどさまざまなステークホルダーとの協働が欠かせません。
PwCサステナビリティ合同会社 マネージャー 小峯 慎司
「ネイチャーポジティブ」の定義については国際的に協議されている一方、定義にかかわらず、ネイチャーポジティブ経営の動きは、目標の打ち出し、自然保全への投資・取り組み、TNFDに沿った情報開示といったさまざまな角度から進んでいます。
ネイチャーポジティブ経営においては、ネットゼロ・人権尊重と統合的に考えていくことが重要です。ネイチャーポジティブとネットゼロ、人権尊重がトレードオンになる取り組みを模索していく必要があります。また、自然・気候・人権テーマの統合の動きは規制やソフトローの中でも現れてきています。
これらの動向を受けて企業は、既にTNFDなどで取り組んでいる「評価」「目標設定」「変革」の一連のプロセスの中で、自然・生物多様性のみならず気候変動、人権課題への配慮を組み込んでいくことが求められます。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 服部 徹
ネイチャーポジティブの領域でも、脱炭素と同様にこれから、さまざまなビジネス機会が生まれてきます。環境省・農林水産省・経済産業省・国土交通省による「ネイチャーポジティブ経済移行戦略~自然資本に立脚した企業価値の創造~」の中でも、リスクを把握したうえで、自然資本に根差した新たな成長につながるチャンスをとらえていくことを強調しています。企業の持つ技術・製品を活かし、ネイチャーポジティブに貢献する未来のヒット商品・サービスをどう生み出すかがポイントです。
2020年代になり、テクノロジーの発展と気候変動、人権等の社会課題の解像度の高まりに伴い、環境ビジネスに取り組める素地が整ってきました。パネルディスカッションでご登壇いただく住友林業、KDDIの皆様を含め、世界では、地域住民、研究所、NGOなどとのパートナーシップや、AIやリモートセンシングなどの最新のテクノロジーを活用した環境に資するビジネスの取り組みが動き始めています。
次の1~2年の企業の皆様にとってのテーマは、パートナーシップとテクノロジーを活用しながら、ネイチャーポジティブに資する新たなビジネスモデルを描くことだと考えています。
住友林業株式会社 執行役員 サステナビリティ推進部長 飯塚 優子氏
住友林業は長期ビジョンMission TREEING 2030を掲げ、「森と木の価値を最大限に活かした脱炭素化とサーキュラーバイオエコノミーの確立」という事業方針の下、ネイチャー関連の取り組みを進めてきました。
例えば、当社の植林地であるインドネシアの熱帯泥炭林では、適切に水位管理を行うことで、泥炭地の乾燥による森林火災を防止、CO2排出抑制をしています。保護価値の高いエリアを特定するだけでなく、コンサベーションエリアが孤立しないよう周辺の植林事業者とも協力し「緑の回廊」を設けています。また昨年は、インドネシアでマングローブ林を取得しました。地域住民と協働してマングローブ林保全に向けた取り組みを進めていく計画です。
自社植林地での取り組みに加え、商社部門が木材調達も行っていますので、木材調達委員会を設置し、持続可能な森林からの木材・木材製品の調達100%を実現しています。調達先の上流の伐採地での人権インパクト分析を行い、先住民等の有する土地の権利侵害リスクの大きさを可視化しました。
森林セクター全体に関わる取り組みとしては、WBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)のForest Solution Groupに参画し、2022年には「森林セクターのネイチャーポジティブに向けたロードマップ」を発行しました。森林は、炭素吸収・固定機能により脱炭素に貢献すると同時に、生物資源、水・大気・土壌などネイチャーポジティブに関わるので、その重要性を積極的に情報発信していきたいと考えています。
KDDI株式会社 コーポレート統括本部 サステナビリティ経営推進本部長 矢野 絹子氏
KDDIでは、長期ビジョンの中でサステナビリティ経営を中核に据えたうえで、命と暮らしと心を「つなぐ」ことを使命と捉え、取り組みを進めてきました。
通信事業者であるKDDIがネイチャーポジティブに取り組むのは、事業継続のリスク低減、および成長のための機会創出につながると考えているからです。
リスク低減に向けては、環境・景観に配慮した基地局設置や、海への環境負荷を抑えた海底ケーブル敷設に取り組んできました。機会創出に向けては、自然関連の影響を受ける領域に対して、自社の強みである5G通信やドローンなどを活用した課題解決につなげることを考えています。
また海洋DXの事例として、水空合体ドローンやブルーカーボンの自動計測技術の活用による藻場の保全、スマート農業・漁業の事例として、環境データの取得・活用を通じた水位管理の省力化およびIoTセンサーを用いたカキの養殖の実証実験、生物データ可視化の事例として、出資先である株式会社Biomeとの協働による外来種調査等、様々な取り組みを進めてきました。
ネイチャーポジティブの取り組みは自社だけでできるものではなく、大きな環境・社会価値を生んでいくためには、パートナリングがカギになると考えています。
国際自然保護連合 日本委員会(IUCN-J) 副会長 兼 事務局長 道家 哲平氏
ネイチャーポジティブへの移行のためには、展望、行動目標、規制、市場、技術革新、対話、人材育成などさまざまな要素が必要です。グリーンウォッシュの線引きのあり方についても昨今議論が活発化しています。
世界で行われているような他機関の協働を日本でも実現するため、IUCNの日本委員会としてもネイチャーポジティブ宣言を発出しました。
また、IUCNは昨年、ビジネスによるネイチャーポジティブへの貢献に向けた10原則を公表しました。原則として、「自然全体を考える」「回避と緩和」「全体的行動」等に加え、「測定可能性」として、精緻なデータがない中で数値目標は順応的に取り入れていくべきことも記しています。
ネイチャーポジティブへの移行に向けては、生物多様性条約COP16などの国際会議を通じて、企業やNGOなどの関係者の知見を活かした議論・協働の場を作っていけたらと考えています。
登壇者:
住友林業株式会社 執行役員 サステナビリティ推進部長 飯塚 優子 氏
KDDI株式会社 コーポレート統括本部 サステナビリティ経営推進本部長 矢野 絹子 氏
国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J) 副会長 兼 事務局長 道家 哲平 氏
モデレーター:
PwCサステナビリティ合同会社 ディレクター 甲賀 大吾
甲賀:
ネイチャーポジティブはまだ比較的新しい概念ですが、皆様の組織ではどのように社内・国内の理解を醸成し、取り組みを推進されてきたのでしょうか。
飯塚:
脱炭素に関しては社内理解が進んでいる一方、ネイチャーポジティブに関しては今なお道半ばです。既に数多くの取り組みがあるものの、どのようにポジティブな状態を実現しているかを測る指標の整理はこれから進める必要を感じています。例えば、住友林業では国内の社有林の37%を保護林としていますが、その面積の中でどのような変化が起きているかを測定するための指標などです。
矢野:
ネイチャーポジティブによるビジネス機会の創出に関しては、お客様の課題に答えるというこれまでの事業のあり方と連続的に捉えることで、社内理解の醸成を進めてきました。一方で、点在している個々の取り組みを、ネイチャーポジティブの視点から総体的なものとして捉え、整理しなおすことは今後の課題だと考えています。
道家:
ネイチャーポジティブの国内での理解醸成に向けては、私たちとしても、生物多様性の世界目標を日本語版にして更に普及を図る取り組みも、まさに検討しているところです。
甲賀:
今後の構想やアクションについてはどのようにお考えでしょうか。ビジネス機会の創出やパートナーシップの構築などの観点からお聞かせください。
飯塚:
ビジネス機会の獲得に向けた今後のアクションとして、熱帯泥炭林の保全に関するコンサルティング事業があります。自社で培った知見を他社の課題解決に活かせると考えています。また建築セクターにおいて、ビルや住宅の建築から解体に至る一連の長い期間の中で、建築資材の原材料選択・構造・設計等の観点からサーキュラーな状態を開発・実現することがビジネスチャンスにつながると考えています。
矢野:
自治体との取り組みや産学官の連携など、幅広くパートナーシップを組むことが重要だと考えています。KDDIではファンドを運営しており、スタートアップに出資をして連携を進めているのが特徴です。お金の投資に留まらず、協業までつなげることが重要だと考えています。
道家:
パートナーシップについては、企業やNGOがつながるきっかけを作る組織になれたらと考えています。また、成功事例だけでなく失敗談なども共有していくことが重要です。企業がNGOと協働するにあたっては、ボランティアベースではなくビジネスパートナーとして正当な対価のもとでつながることも必要だと考えています。
甲賀:
本日はご登壇いただきありがとうございました。本日のセミナーがネイチャーポジティブへの移行に向けた有意義な対話の場になればと願っております。
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