ストラテジーコンサルティング主催セミナー開催レポート

業界横断型の価値創出で拡げるロンジェビティビジネスの可能性

  • 2026-06-15

PwCは、昨今のメガトレンドを背景に、顧客の求める価値創出に向けた産業の再編の重要性を「Value in Motion」というコンセプトで分析しています。PwCコンサルティング合同会社ストラテジーコンサルティング部門は、この概念に基づき、長寿社会における新たなビジネステーマ「ロンジェビティ(Longevity)」を多面的に捉え、幅広い産業が交わる価値創造の可能性を探るべく、2026年4月24日に「Value in Motion―業界横断で創り出す、ロンジェビティビジネスの未来」というセミナーを開催しました。本セミナーでは、これからの健康長寿社会において、新たな価値を共創するための知見と意識を紹介しました。

イントロダクション:業界を取り巻く変革仮説と、価値の源泉「ロンジェビティ」の重要性

セミナー冒頭では、PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング パートナーの石本雄一が登壇し、「Value in Motion」の考え方と、新たな価値創出の源泉としてのロンジェビティビジネスの可能性について解説しました。

■業種単位の静的な産業モデルから、業種横断による動的な価値創出エコシステムへ

石本はまず、「Value in Motion」について、これからの産業変革の背景を整理した考え方であると説明。昨今の環境変化を踏まえ、「業界単位での『静的な産業モデル』から、顧客が求める価値を起点とした『動的な価値創出エコシステム』に移行しなければ、顧客の求める価値を生み出せなくなる」と指摘します。
その上で、生活者のニーズが「成果・目的」にシフトしつつある傾向を見据え、生活者向け産業における新たな価値創出の源泉として6つの仮説を提示。中でも特に注目すべきテーマが、今回のセミナーで取り上げる「ロンジェビティ(Longevity)」だと石本は説明します。

図表1:新たな価値創出の源泉となる6つの仮説

差込

■「より良く長く生きる」ためのロンジェビティビジネスの可能性

ロンジェビティとは、単に「長く生きる」ことにとどまらず、「より良く長く生きる」ことを多面的に志向する概念です。「生命寿命や健康寿命に加え、社会的寿命や経済的寿命も横断的に捉え、トータルに伸ばしていこうとすれば、関与する産業分野も広がっていく。医療や介護などヘルスケア関連にとどまらず、食、消費財、住環境、教育、金融、さらには地域づくりなど、多様な産業が関わる成長領域となっていく」と石本は語ります。

続けて、石本はロンジェビティ市場の3つの成長ドライバーを示しました。まずは「需要」、すなわち上記4つの寿命を延伸したいという生活者ニーズの高まりです。2つ目が「供給」で、これは技術の進展による寿命延伸のための商品・サービスの拡充を指します。そして3つ目が「制度・資本」で、ロンジェビティビジネスにお金が流れる仕組みの整備となります。

図表2:ロンジェビティ市場の3つの成長ドライバー

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このように、ロンジェビティは一過性のトレンドではなく、中長期の成長テーマとして定着しつつあります。石本は「多様な業界が連携することで、統合的なビジネスが生まれる可能性がある」と、業界の垣根を越えた共創の重要性を訴えました。

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 石本雄一

講演1:ウェルビーイングの高い次世代型の産官学民協働による地域づくり~わが国の「健“幸”長寿」戦略~

続けて、東京大学の教授で高齢社会総合研究機構(IOG)の機構長を務め、未来ビジョン研究センター(IFI)にも参画する飯島勝矢氏が登壇し、産官学民協働の取り組みについて講演しました。

■高齢社会の新たな形を描き、社会に提言していく

飯島氏はまず、これからの高齢社会で実現すべきテーマを掲げ、その実現に向けて継続的な政策提言を行っていくとの方針を示しました。「エビデンスを踏まえた高齢者の定義の引き上げ」や「高齢社会対策は高齢者のためだけではないことを次世代に示す重要性」など、近年の提言実績を紹介した上で、自身も副理事長として深く関わっている日本老年医学会が約10年前に提唱した新概念「フレイル(虚弱)」を中心に、そのフレイル予防を軸とした健「幸」長寿なまちづくりについて説明しました。

■高齢者に必要なのは、メタボ健診よりもフレイルチェック

飯島氏が強調するのは、「健康診断とフレイルチェックの両輪が必要」ということです。健康診断はBMIなどのメタボ診断に象徴されるように、生活習慣病の予防に主眼を置いていますが、基準となるデータは中年層のものです。「そのまま高齢者に当てはめてしまうことで、筋力が衰えて要介護を目前にしていたとしても、BMIの数値が良いだけで『健康体』と判定されてしまいかねない」と警鐘を鳴らします。

飯島氏がフレイル概念を基盤にしながらフレイルチェックを考案したのも、「後期高齢者の健康診断をメタボ健診からフレイル健診に衣替えすべき」との狙いからでしたが、長年にわたり定着している制度を変更するのは容易ではありません。そこで近年、自治体との連携のもとに推進しているのが、近隣住民の力による地域レベルでの「住民主体フレイルチェック」です。

東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授 飯島勝矢氏

■官民連携による地域フレイルチェックを通じて、地域社会の一員として健康長寿を延ばす

飯島氏がフレイルチェックで重視するのが、地域の一員として社会交流の中で取り組むこと。その背景には、「筋肉の衰えが進むことで外出頻度が低下し、社会的孤立、生きがい喪失といった『負の連鎖』を招く」との見解があります。

そこで、地域自治体との協働で市民主体のフレイルサポーターを養成し、地域の集いの場で「①食(栄養と口腔機能)、②身体機能(運動や生活活動)、③社会参加」の三位一体を軸とした包括的なフレイルチェックを実施。住民同士の「お互い様なので一緒に高め合って行こう」という共感の価値観の下、高齢者自身もサポーターとなり、多世代混合による地域のつながりの中で、「社会に貢献している、他者へ支援している」という生きがいを感じながら健康長寿を目指しています。飯島氏はその成果について「住民主体フレイルチェック活動では、参加住民と非参加住民の比較による要介護認定の抑制効果(-13%減)や介護給付費の抑制効果も有意に認められている」とも言及しました。

この取り組みは、全国106の自治体、さらには海外(まずは東アジア諸国)にも展開しつつあり、全国規模のビッグデータベースの構築・活用に寄与しています。そして、この住民主体活動というボトムアップ型の地域づくりと、国行政が仕掛けている新政策(例:高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施)などが上手く融合され、シームレスに機能することを目指しています。また、全国各地のサポーター同士がネットを介してつながり、地域を超えた交流や仲間意識を育む効果もある、と飯島氏は語ります。

■幅広い産業界との化学反応を生み出す「触媒」になりたい

飯島氏は最後に、幅広い業界から集まったセミナー参加者に「産学官民協働による健幸長寿まちづくり」という新たな価値創造への参画を訴えかけました。「健幸長寿というのは、言い換えれば、健康長寿とウェルビーイングの高い幸福長寿、この両方を実現することを意味します。高齢社会はイノベーションの宝庫なのです。私たちが触媒となって、幅広い業界との化学反応を起こしていきたいと思っていますので、住民のポテンシャルを生かした『コミュニティのリデザイン(再構築)』を一緒にやっていきましょう」との締めの言葉に、参加者は大きな拍手で応えました。

講演2:ヘルスケア産業による予防・健康づくりの加速

続けて、経済産業省ヘルスケア産業課の秋葉智己氏が登壇し、ヘルスケア産業を経済成長と社会課題解決の両立に導く政策の方向性や現状について講演しました。

秋葉氏は、「ヘルスケア産業政策の推進によって健康寿命を伸ばし、社会の担い手を増やすことが持続的な経済成長につながる」という方向性を説明した上で、企業等から健康投資を呼び込み、効果的なヘルスケアサービス市場を創出するために同省が推進する以下の6つの柱を示し、注力する4テーマについて詳述しました。

ヘルスケア政策の6つの柱

  • 健康経営の推進
  • PHR(パーソナルヘルスレコード)を活用した新たなサービス創出
  • 質の高いヘルスケアサービスの創出・振興
  • 介護・認知症等の地域課題への対応
  • ヘルスケアスタートアップ支援
  • 医療・介護・ヘルスケアの国際展開

■健康経営の推進

経済産業省では、「従業員の健康保持・増進の取り組みは、将来的に収益性などを高める投資」との考えのもとに健康経営を推進。健康経営優良法人や健康経営銘柄といった顕彰制度によって年々、裾野が拡大しています。秋葉氏は、こうした潮流の中で実際にお金が動く仕組みの必要性を指摘し、「資本市場でも、投資先企業の健康経営を評価する動きが広がりつつあるので、投資家向けの情報開示ガイドブック作成などを通じて、その動きを加速させていきたい」と語りました。

■PHRを活用した新たなサービス創出

近年PHR(パーソナルヘルスレコード)、すなわち健診、レセプト、ライフログなど健康に関わる個人のデータを活用して、行動変容に役立てるサービスが次々と登場しています。経済産業省では、こうしたPHRサービスの創出と定着に向けて、マイナポータルから取得できるデータの活用に向けた環境整備や、ライフログデータの標準化による活用促進、医療や介護を含む幅広い産業分野と連携したユースケース創出などに取り組んでいます。

経済産業省 ヘルスケア産業課 秋葉智己氏

■質の高いヘルスケアサービスの創出・振興

質の高いヘルスケアサービスを生み出していく上で、重要なのがエビデンスです。秋葉氏は「サービスを作る側からは『どんなエビデンスが必要か分からない』『エビデンスを得るための時間やコストがかけられない』との声が上がっている一方で、利用者側からは『効果がはっきりしない』『似たようなサービスがあって、どれが効果的なのか分からない』との声が聞かれます」と語ったうえで、医薬品のような治験や承認制度がない予防・健康づくりの分野において、科学的エビデンスに基づくサービスを創出することが重要だと指摘し、そのために進めている取り組みを説明しました。

■ヘルスケアスタートアップ支援

経済産業省による後押しのもと、ヘルスケア領域のスタートアップ企業の数は堅調に増えているものの、スケール化や適切なエグジットには至らないケースが少なくないと、秋葉氏はデータを基に現状を語ります。そこで近年は、引き続き裾野を広げつつも、さらなる成長や適切なエグジットにつなげていく方向に舵を切っています。具体的には、実証フィールドとのマッチングを支援する地域拠点の設立など、国内でのエコシステムを強化などです。また、海外市場獲得に向けた支援にも力を入れ、JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)とも連携し支援プログラムを提供しています。

秋葉氏は最後に、スタートアップと大企業との連携が新たな価値創出の鍵になると強調。セミナー参加者に参画を呼び掛けるとともに、どのような支援や政策が必要かなど、インプットも求めて講演を締め括りました。

グループディスカッション:参加者それぞれの視点・立場から、ロンジェビティビジネスの可能性と課題を検討

セミナーの後半では少人数に分かれたグループディスカッションを実施しました。ディスカッションのテーマは以下の2つです。

テーマA:消費財起点での「心身の活力(Vitality)」を支える未病・行動変容エコシステム
テーマB:小売・リアル空間起点での「役割と居場所」を創出する次世代コミュニティ

セミナー参加者が属する業界は、化粧品、食品、小売、金融、住宅設備など多岐にわたり、登壇者やPwCコンサルティング合同会社のメンバーも交え、多角的な視点からの議論が交わされました。PwCが開発したAIツールによって、議論の内容がその場で図示・可視化されたこともあり、具体性のあるディスカッションとなりました。

約1時間にわたるディスカッションの成果は、各テーブルの代表者から発表・共有されました。PwCコンサルティング合同会社 Strategy&のディレクター 菅原聖史は、「今回のディスカッションでは、各社が持つ強みやケイパビリティを掛け合わせることで、単一の会社や業界では実現できない、ユニークな業界横断型のビジネスモデル構想を創出することができました。今後、PwCが架け橋となることで、各社とさらなるディスカッションを重ねながら、新たな価値創造のためのエコシステムの実現に向けて取り組んでいきたい」とディスカッションをまとめました。

PwCコンサルティング合同会社 Strategy& ディレクター 菅原聖史

クロージング:異業種の視点を持ち寄る機会を提供することで、新たなエコシステムの創出に貢献したい

ディスカッション終了後は、PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング部門のリードパートナー 服部真が閉会の挨拶を行いました。「社会が複雑化し、単一の企業だけでは解決できない課題が増える中、クロスインダストリーの取り組みの増加は止まらない流れだと考えています。今回のテーマであるロンジェビティはまさにその典型ですが、他にも安全保障や資源確保、フィジカルAIなど、業界を超えて取り組むべきテーマは多数あります。今回のように、普段は接する機会のない多彩な業界の方々が集まる機会を提供することで、新たなエコシステムの創出に貢献していきたいと思います」と締め括りました。

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 服部真

今回のセミナーを通じて、「Value in Motion」をキーワードに、価値創出に向けた動的な異業種連携の必要性とともに、これからの日本社会で強く求められるロンジェビティビジネスの成長・発展への重要性が共有されました。講演から得られた気づきや、ディスカッションで交わされた議論が、新たな企業間連携やエコシステムの種となることを期待します。

主要メンバー

服部 真

パートナー​, PwCコンサルティング合同会社

Email

石本 雄一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

菅原 聖史

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

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