【電⼒‧ガス業界における市場リスク管理の概要と確認ポイント】―今こそ実施すべき市場リスク管理の総点検―

  • 2026-05-29

本稿では、中東情勢不安定化による燃料価格のボラティリティの高まりを受けて、改めて、市場リスクに直面する電力・ガスはじめエネルギー事業者の皆様が取り組むべき市場リスク管理の概要と確認ポイントを整理します。

はじめに

燃料価格のボラティリティの高まりで思い出されるのは、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に端を発する燃料価格・電力スポット市場価格の高騰ではないでしょうか。市場価格変動リスクが発現し、市場からの電源調達価格が高騰したことで、適切なリスク管理を実施していなかった小売電気事業者は、売値との逆ザヤで大きな損失を受け、事業停止・撤退等を余儀なくされました。
こうした事態を受け、各社市場リスクへの対応の機運が高まった一方で、実際のリスク管理の対応に目を向けると、事業者によって事業規模や範囲も異なることから、その方法や成熟度は各社各様です。
本稿は、図表1に示しているリスク管理の概観を説明するものであり、抜けている観点や今後取り組むべき項目がないかの総点検のきっかけになればと思います。

図表1:リスク管理に求められるPDCAサイクルとその体制

PwC作成

リスク管理のアプローチ

1.リスク管理に必要な体制(規則・組織)の構築

市場リスク管理では運用方針やプロセスを規程類に明文化し、組織設計に落とし込むことが重要です。

  • リスク管理委員会の設置など、リスク管理情報を定期的に報告・管理する体制の構築
  • リスク管理規程、運用細則の作成
  • 市場リスク管理に係る職責権限の設定
  • 業務分掌・フローの作成
  • フロント・ミドル・バック機能の配置

確認ポイント

  • リターン(収益)だけでなく市場リスクも定期的に報告される体制が整っているか
  • リスク管理規程および運用細則が整備されており、実運用にかなった内容になっているか
  • スピード感のある打ち手実行につながる職責権限になっているか
  • フロント機能のけん制や不正防止に資するミドル・バック機能を有しているか

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2.リスク管理業務の運用構築

リスク管理の運用においてもPDCAサイクルを意識した運用が重要です。

① Plan(管理指標の設定とポジションの把握)

  • 粗利に対する各ドライバー(=管理指標)の感応度を算出
  • 自社が各価格指標でロング/ショートポジションのいずれなのかを把握

② Do(リスクの定量化)

  • 主に時価評価損益とリスク量(VaR、EaRなど)を算定し、市場リスクを評価
  • 市場リスクだけでなく、キャッシュフローリスクや信用リスクなども個別に管理

③ Check(管理指標と閾値の確認)

  • 対計画との比較や市況変化を捉えるために、時価評価損益をモニタリング
  • 事業継続上の観点から自社で設定した閾値を超えないか、リスク量をモニタリング

④ Action(アクションプランの設定)

  • 取り得る打ち手(ヘッジ戦略の採用等)を効果の影響度やタイミングとともにリストに整理

確認ポイント

  • 打ち手につながる管理指標・粒度・頻度になっているか
  • 収支悪化の予兆を捉えられる管理項目を設定できているか

こうしたリスク管理体制の運用を、図表2のような内容を基に進めていきます。

図表2:ポジション把握と損益・リスク量の確認イメージ

PwC作成

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3.基盤構築

リスク管理業務の運用方法整備と合わせて、それを円滑に実行するための基盤構築が重要です。ただし事業規模や管理方法によって、表計算ソフトなどのツールで簡易的に実施するか、ベンダーによるシステム導入をするかの判断は慎重に検討する必要があります。

  • 需給収支管理の標準化およびEPM(Enterprise Performance Management)の導入
  • ETRM(Energy Trading and Risk Management)の導入

確認ポイント

  • 事業拡大などにより、需給収支算定およびリスク量の算定が既存の表計算ソフトでは非効率になっていないか
  • 属人的な対応により、監視の目をすり抜けた取引が可能な状態になっていないか
  • 打ち手の実行に資する分析が可能な処理能力・カスタマイズ性・拡張性を有したシステムが導入されているか

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PwCの提供できる価値と実績

電力小売事業において安定した収益を上げ続けるには、リターン(収益)だけでなくリスクの把握も重要です。また、効果的な打ち手につながる組織体制および運用の確立が、事業継続に必要不可欠な要素となります。
PwC Japanグループは、電力・ガス業界のリスク管理や、その一環で実施するヘッジ取り組みについて幅広い支援実績を有しており、メンバーファーム間で連携することで、全体の総点検から一部運用の高度化までご支援が可能です。

【支援実績の例】

  • 経営管理体制の見直しとミドルオフィス立ち上げ支援
  • リスク管理業務におけるリスク量定量化および職責権限の見直し検討支援
  • 電力需給収支・リスク管理定量化システムの導入支援
  • ヘッジ会計適用に係る方針・規程類、プロセス、取引フローマニュアル等の整備支援
    など

執筆者

村松 久美子

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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花山 真司

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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宇城 拓平

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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雨田 耕太郎

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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郷原 遼

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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