【定置用蓄電池ビジネスへの挑戦】―新たな取引市場を活用して、蓄電池事業者はどのようにマネタイズするか―

2023-11-02

※2023年9月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

2050年にカーボンニュートラルを達成することを目指して、太陽光発電や風力発電の更なる導入が求められています。これらの電源は季節や天候などにより出力が自然変動するため調整力の提供が不可欠ですが、この役割を果たす電源として蓄電池が期待されています。蓄電池は、再生可能エネルギーに併設するタイプ(再エネ併設蓄電池)、電力系統に直付けするタイプ(系統用蓄電池)、電力メーターの内側となる需要家施設(Behind The Meter)に設置されるタイプ(需要家蓄電池)に大別されます。近年、特に系統用蓄電池は、経済産業省や東京都による補助金、さらには長期脱炭素電源オークションの新設により導入を検討する事業者が急増しています。

本稿では、定置用蓄電池に関係する取引市場、マネタイズに関して概括します。

定置用蓄電池ビジネスの基本的な構成

蓄電池は、複数の取引市場に参加することが認められています。蓄電池ビジネスへの参入事業者が、複数の市場から最大限に収益を確保するためには、市場取引や蓄電池の放充電指令・状態監視といった運用が必要となり、この運用には取引ノウハウ、業務を支えるITシステムが不可欠となります。ただし、参入事業者は自前で運用への投資・運用体制を設けず、蓄電池の運用業務を代行する事業者に、高度な蓄電池運用を委託することも可能です。なお、市場の参加資格を満たさない小規模蓄電池はVPP(Virtual Power Plant)アグリーゲーターが大規模に蓄電池を束ねて市場取引をすることで、小規模な蓄電池でも市場参入することができます。ただし、長期脱炭素電源オークションへ参加する場合は、単独で10MW以上の発電所であることが要件となっているので留意が必要です。

図表1 電力市場・電力システムにおける定置用蓄電池の構成例

電力の価値には、kW価値、ΔkW価値、kWh価値があり、下図に示すようにこれらの価値をそれぞれ取引する市場があります。蓄電池の収益性を向上させるには、蓄電池の特性(応答性)や容量規模、参入エリア、設置場所、季節、天気予測などを条件にして、参加する市場、売買する価値(ΔkWかkWh)、売買のタイミング、売買する量、売買する価格を最適化していく必要があります。

図表2 系統用蓄電池の収益獲得イメージ

定置用蓄電池ビジネスにおけるマネタイズのポイント

上に示したように定置用蓄電池のビジネスモデルは、大型の系統用蓄電池を用いるもの、アグリゲーションを行うもの、市場収入を中心とするもの、長期脱炭素電源オークションからの固定収入を中心とするものなど、さまざまな形態があります。そのため、まずはどのようなビジネスモデルを目指すのかを検討することが重要です。加えて特に重要となってくるのが、市場やオークションからの収入予測と、全体のキャッシュフローの分析です。

(1)ビジネスモデルの検討

  • 自社が選好するリスク・リターン・プロファイルへの適合や、社内の他ビジネスとの協調など、自社にとって最適なビジネスモデルを選定する
  • 必要に応じて協業先を検討する

(2)各市場(卸電力、需給調整一次~三次②、容量市場等)の将来価格分析

  • 蓄電池事業のプロジェクト期間は15~20年程度であることから、長期にわたるプロジェクト期間中の収入予測のため、各市場の将来価格を想定する
  • 長期脱炭素電源オークションの場合は競合分析や、ペナルティや費用増等の各種リスクを踏まえた入札価格の検討を行う

(3)対象プロジェクトの収益予測

  • (2)の価格予測結果を適用して、プロジェクト期間中の収益を予測する
  • 各市場からの収益が最大となるような最適運用シミュレーションに基づく収益予測(劣化やサイクル数制約なども要考慮)を行う
  • キャッシュフローモデルを作成し、収入、費用に関連する各要因のインパクト分析と、それを踏まえたベンダーや金融機関等との各種交渉を行う

PwCでは、定置用蓄電池ビジネスへの参入をお考えの皆さまに対して、マネタイズのポイントとなる各種検討・分析業務を含む幅広いサービスをご提供しています。ご興味のある方は、PwCが発表している下記の蓄電池関連レポートやWebサイトをぜひご覧ください。

PwC Japanグループでは、蓄電池産業の9大アジェンダを以下のとおり設定しました。

(1)蓄電池市場の将来見通し(業界横断での市場動向)︓業界横断での蓄電池市場の動向に関する分析に加え、将来の市場拡大を実現していくための異業種連携や政策措置などの必要性について論点を整理

(2)系統用蓄電池の市場動向︓電力需要の平準化(ピークカット)など、電力会社の運用コスト削減に寄与する観点から、その普及意義を含めて、系統用蓄電池の市場動向を分析

(3)需要家用蓄電池の市場動向(家庭用および産業用)︓富裕層向けの住宅などへの普及が進む家庭用蓄電池や、再エネ導入およびGHG排出削減の観点から需要増が見込まれる産業用蓄電池の市場を分析

(4)車載用蓄電池の市場動向︓EVの普及拡大に伴う車載用蓄電池の需要増大や、エネルギーマネジメント、災害時対応(BCP)など、関連サービスの創出状況などを含む市場動向を分析

(5)車載用蓄電池のビジネスモデル︓電気自動車(EV)の電池を再利用した大型蓄電事業など、EVの利用拡大に伴い展開される多様な新規ビジネスモデルを分析

(6)蓄電池のリサイクル︓蓄電池のリサイクルを見据え、バッテリーのリユースおよびリサイクルの現状などについて、環境保全や資源制約などの観点から分析

(7)蓄電池サプライチェーンビジネス︓蓄電池ビジネスを取り巻く世界的状況を踏まえ、蓄電池プレーヤ ーによるバリューチェーン拡大の動向やビジネス強化に向けた取り組みについて分析

(8)気候変動対策における蓄電池の役割︓再エネの導入と蓄電池の利活用を組み合わせてエネルギーの地産地消を促進するとともに、GHG排出量の削減に貢献し、さらなる普及に向けたインセンティブを設計するという観点から市場動向を分析

(9)サプライチェーン管理高度化のための情報プラットフォーム︓バリューチェーン上にある蓄電池の財務および非財務価値を最大化し、企業間の情報連携を促進するための情報プラットフォームの動向を分析

執筆者

岩崎 裕典

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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竹内 大助

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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