
【2024年】PwCの眼(8)EV化における競争優位のポイントの変化
EV化が進む中、自動車業界の利益獲得の源泉は機械系/ハード系から半導体やソフトウェアといったデジタル系/ソフト系に移行しつつあるため、自動車メーカーやサプライヤーには事業戦略の再構築が求められています(日刊自動車新聞 2024年8月26日 寄稿)。
2024-03-21
SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の投入が本格化すると言われている。完成車メーカーは、車両販売収益からADAS(先進運転支援システム)、保険、メンテナンス、充電などにおけるソフトウェア更新を通した収益創出への移行を図っている。この動きに対して、部品メーカーやITベンダー、周辺のモビリティ事業者など、様々な企業が採るべき方向性を定めるべく、変化を注視している。SDVによって、車両開発を取り巻く環境はどのように変わるのか。変化の中で、新しい領域の攻略と従来の領域の守りをどのように両立するか。そして進化の中で、相反する要求にどう対処するか。こうした観点から整理したい。
車両開発において、ECU(電子制御ユニット)のソフトウェア更新を効率化することは不可欠である。そのためには、部品メーカーとのすり合わせの中で個々にECUを配置することで複雑化していた個別最適型のE/E(電気/電子)アーキテクチャから、車両の要所に少数のECUを配置する全体最適型に再構成することが重要となる。また、車両に配信するソフトウェアの価値を最大化するために、直近の開発モデルにSW/HW(ソフトウェア/ハードウェア)要件の照準を合わせた従来型の開発手法から、ソフトウェアが更新されていくこと見据えて上市時点でハードウェアをオーバースペックにする、長期視点の開発への転換も求められる。
ただし、すべての領域で同じアプローチを採るべきではない。インフォテインメントなど安全性の要求が低い領域では、β版をリリースした上で市場からのフィードバック情報を基にソフトウェアを進化させていくことが重要となる。一方、車両制御など命に関わる領域では、安全性の確保が必須となる。また、β版による進化と安全性追求の境界線には、企業としてのリスク思想も影響する。既存の完成車メーカーと比して、新興系はADASや自動運転技術などでリスクを取って先行し、企業価値を高めようとする傾向にある。
こうしたSDVのトレンドの中で、完成車メーカーは、車両プラットフォームの1つ1つのE/Eアーキテクチャを変更するだけで多大な開発費・人的リソースが掛かる。同時に、目の前ではモデルリリースへの対応が迫る。このジレンマの中では、新たな取組に集中する組織を既存の組織や役割から切り離した上で、提携などを通して外部のケイパビリティを取り込むといった経営レベルの意思決定が欠かせない。
また、車両領域によって進化と安全性追求という異なるアプローチが求められる中、部品メーカーや他の自動車業界関連各社には、自社が置かれた領域を適正に見定めたうえで、既存事業の深堀と新たな領域の探索のバランスをとる両利きの経営が時として求められる。既存事業においては、デジタルも活用した業務効率化を通して次の一手に向けた投資原資を確保すること、新たな領域では新興・異業種企業とも共創しながら技術革新を取り込むことが有効である。ただし、新たな領域においても、これまで自動車業界で培ってきた品質に係る知見や拠点、業界各社とのネットワークなどに立脚したスキームを構築することが、共創相手からも期待されていることを忘れてはならない。
小長井 啓
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
※本稿は、日刊自動車新聞2024年1月29日付掲載のコラムを転載したものです。
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