
内部統制(SOX)関連コラム:内部統制報告書から読み解く子会社管理シリーズ:(1)リモートワーク環境下における内部統制上の課題
内部統制報告書から読み解く子会社管理シリーズ:(1)リモートワーク環境下における内部統制上の課題
2021-07-12
日系企業による海外事業の買収(M&A)件数は年々増加しています。買収後の統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)にはさまざまな対応が必要であり、J-SOX対応も重要な要素の一つとなります。買収先がJ-SOXの評価対象となった場合は、期末までに評価を完了できるような体制を整備しなければならず、買収のタイミングによってはタイトなスケジュールでの対応が求められます。
今回は海外事業の買収に伴うJ-SOX対応への影響および、導入に伴う課題についてご紹介します。
海外事業の買収後、まずは当該買収先がJ-SOXの評価対象拠点に入るか検討しなければなりません。J-SOXの評価対象拠点となる場合、評価対象範囲を決定する必要があります。
具体的には、財務諸表に与える影響に鑑みて
の3点のうち、評価対象とするエリアを決定することが求められます。その上で、評価対象プロセスを選定していくことになります。
評価対象プロセスが決まると、内部統制の文書化、整備状況の評価、キーコントロールの選定、運用状況の評価、評価結果の文書化および取りまとめ、改善策の策定・実施、経営者への報告および承認、という一連の流れを実施できる体制の整備が必要です。
これら一連のJ-SOX対応を進めるにあたっては、プロジェクトチームを立ち上げ、プロジェクトメンバーを選定し、計画を立案することが有効です。この中でも、プロジェクトに関与する組織・部門の役割と責任の決定・明確化がポイントになります。
海外事業の買収によるJ-SOX対応には、日本国内での買収とは異なる対応が求められるケースがあります。
主な課題と対応策には、以下のようなものが挙げられます。
米国のSOX法をはじめ、海外にも内部統制に関する法律が存在しますが、J-SOXには海外のSOX法とは異なるルールがいくつか規定されています。
例えば、全社的な内部統制の42の例示項目、評価対象プロセスの選定方法、運用テストのサンプル件数の決定方法、経営者による内部統制の評価結果を外部監査人が評価する「インダイレクトレポーティング」の採用など、J-SOX独自の考え方が取り入れられています。
また、J-SOXに関する公表資料の多くは日本語であり、海外の内部統制の専門家であっても細部にわたってJ-SOXの内容や実務を把握することには困難が伴う可能性がります。
加えて、そもそもSOX法(または同等の規制)が施行されている国がそこまで多くない、という事情もあります。そのため多くの場合、内部統制の概念やJ-SOXの制度趣旨などを現地担当者が一から理解することに困難が伴います。
従って、海外の事業体を買収し、その事業体がJ-SOXの対象となった場合、J-SOXに精通した人材の確保が必要となります。また、買収先の国にSOX法が存在しない場合は、内部統制の考え方や必要となる水準、評価のために必要となる手続きおよびその時期について、現地担当者と齟齬なくコミュニケーションできる人材の確保も求められます。
J-SOXは日本の法律や制度、文化と整合した内容となっているため、異なる文化圏でどのようにJ-SOXを適用するか、という点を考慮する必要があります。
例えば、国によっては監査役会という組織体の存在が想定されていない、各国独自の法律上の規制がある、ビジネスそのものやマーケットが違う、不正に対する考え方が違う、などさまざまなケースがあります。日本で期待される一般的な統制が、そのまま現地で適用できない状況が生じた場合、どのように内部統制上の問題をクリアするか、個別に考えなければいけません。このような場合、J-SOXで期待される内部統制の趣旨を理解した上で、現地の制度や文化をその制度・趣旨に当てはめることができる人材や体制が必要となります。
また、内部統制のデザインを確認し、テストを実施する際に必要となる証憑は、英語ではなくローカル言語で作成されている場合が多々あります。さらに、買収先の担当者へのヒアリングもローカル言語での実施が必要となる場合が想定されます。従って、ローカル言語に対応可能な人材の確保も課題となり、ローカル言語に対応でき、現地でプロジェクトを推進できる人材を確保する必要があります。
さらに、国による制度・文化・言語の違いはプロジェクトのスケジューリングにも大きく影響します。海外拠点へのJ-SOX導入にあたっては、現地の文化、慣習等に根ざした長期休暇など、プロジェクトスケジュールを検討する際に、特別に考慮すべき事項があります。また、時差の影響も考慮する必要があります。一般的には、日本国内でのJ-SOXの導入に比べ、余裕をもったスケジューリングを組むよう考慮が必要です。
海外事業の買収に伴うJ-SOX対応では、日本国内での買収に比べ、多くの利害関係者とコミュニケーションをより綿密に取る必要が生じます。
J-SOX対応では通常、経理・財務部門のみならず、リスク管理、コンプライアンス、法務、人事、事業部門など社内の多様な関係者の関与が不可欠です。
特に海外事業の買収にあたっては、現地監査人や現地のアドバイザーなどと認識を合わせたり、問題点を共有したりする必要があります。親会社、親会社の監査人、買収先の担当者、現地(買収先)の監査人、現地でのアドバイザーなどの視点をそれぞれ反映させる必要があるため、場合によっては早い段階から密なコミュニケーションが求められます。
そのため、監査人を含む多様なステークホルダーと適時にコミュニケーションを図りながら、課題および進捗の管理を行うための高度なプロジェクトマネジメントが必要となります。
同時に、コミュニケーションを円滑に進めるために、買収先の会社の事業に深い知識を持ち、親会社と適宜連携ができる司令塔となるような現地担当者を選任することが求められます。
上記の課題を踏まえると、まずは以下の点を考慮すべきと考えます。
多くの企業が、海外拠点の実態を把握・管理することを経営課題としています。これは現地のガバナンス態勢の実態が分からないことや、日本と現地で役割期待に対する認識に齟齬があることなどが一因と考えられます。
J-SOX対応を単なる法律上の義務と捉えるのではなく、それを契機として現地との活発なコミュニケーションを図ることができれば、買収先の実態の見える化が可能となります。
同時に、日本の本社が現地企業に期待する役割や責任を明確化し、役割分担を整理することで、お互いの認識齟齬を解消することにもつながります。
そうすることで、現地企業の実態が透明化され、その期待値も明確になるでしょう。J-SOX対応は買収先のガバナンス高度化に資するだけでなく、グループ全体に適切なガバナンス体制を構築する、という成果をもたらすと考えます。
内部統制報告書から読み解く子会社管理シリーズ:(1)リモートワーク環境下における内部統制上の課題
本シリーズでは、内部統制の不備が明らかになった事例を踏まえながら、子会社を管理する上での課題について考えます。
海外事業の買収に伴うJ-SOX対応への影響および、導入に伴う課題についてご紹介します。
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