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本連載「Social Impact Initiative 社会を変える旅に出る ―社内外で仲間を集め、コレクティブインパクトを創出していく―」の第6回「コレクティブインパクトアプローチ『共通のアジェンダ』の重要性」(前編)では、世の中には「単純な問題」「複雑な問題」「より複雑な問題」の3種類があり、現状、問題、あるべき姿、課題、その解決策との関係について解説しました。社会を変えたいと考えれば考えるほど「より複雑な問題」にはまっていき、「いったい何に取り組んだらいいんだろう」と迷子になっていく難しさがあることを述べました。
ところで、昨今はコーポレートサステナビリティが進んでいます。多くの企業が社会問題や環境問題を解決するための取り組みを進めています。これらにも同じように「単純な問題」「複雑な問題」「より複雑な問題」があるのでしょうか。本稿では、前編の整理を発展させながら、コレクティブインパクトアプローチにおける「共通のアジェンダ」の重要性を解説します。
結論から言うと、コーポレートサステナビリティの取り組みも、ほとんどが前述の3つの分類で整理ができます。
いくつかの例を「単純な問題」「複雑な問題」「より複雑な問題」の3つに分けて記してみます。
例えば、脱炭素社会に向けてさまざまな取り組みがなされています。「自社のGHG排出量を可視化し、削減のための施策を推進する」場合、問題やするべきことも明確であるため、「単純な問題」とみなせます。「取引先と連携して、グループ会社全体として削減施策を推進する」場合は、問題がいくつか絡み合ってきますが、やはりするべきことはある程度明確であるため「複雑な問題」とみなすことができます。さらにもう一歩先に行って「他社と連携して、地球温暖化抑止に取り組む」となる場合は、これは「より複雑な問題」と言えるかと思います。
イメージしやすいために、かなり平易な書き方をしていますが、前編(本連載の第6回)で例示した経理業務の整理と似た要領で、「現状」「あるべき」「課題」を整理できます。
企業起点で問題を認識し、課題を特定し、解決策を講じるときには、大きな特徴があります。自社が「主」になっている点です。そして利害関係のあるステークホルダーがいます。特に意識をするステークホルダーは投資家ですが、やはり、自社とステークホルダーに、「主」と「客」の関係性があります。
取り組みに関わる人や資金といったリソースは自社が負担するため、得られるインパクトやリターンの多くは自社が得ることを優先します。ポジティブインパクトのみならず、ネガティブインパクトの軽減も、受け取る主体は自社が優先され、他のステークホルダーの優先順位は下がるでしょう。
コーポレートサステナビティの進展により社会が良くなる、環境負荷が減らせるということは、間違いない事実ではあるものの、1社単独で活動を続けていても、根本的な課題解決につながらないという気持ちを募らせる人たちが現れてきます。
ここからは「より複雑な問題」に、「ステークホルダー」という軸を1つ追加します。すると、これまでの1社の視点で見ていた時よりも、さらに複雑性が増すことが分かってきます。
社会を起点とする問題を捉える際、ステークホルダーを追加することで、問題とする事柄が変わっていきます。1つのステークホルダーに1つの問題、複数の問題が積みあがっていきます。
事実として存在する現状も、どのステークホルダーが見るかによって何を問題とするのかが変わってくるためです。ステークホルダーごとに、重視していることや行動指針は異なります。そのため、あるステークホルダーが見れば「これに対応する必要がある」と思う一方で、別のステークホルダーには「それも重要だが、こっちの話の方がもっと緊急度が高い」というような状態です。
これが「いろんな人が関わっているから、その人それぞれの立場によって物の見え方が違う。正しい答えはあるのだろうか」という気持ちになる正体です。
社会課題の解決を目指す際、複数のステークホルダーが関わることで、問題とする事柄が変わってくるということが分かってきました。問題とすることが複雑になるため、課題の定義や解決策の考案が難しくなるのです。
しかし、ここでさらに1つの疑問が湧いてきます。
「ステークホルダーは皆、本当に同じ『あるべき姿』を描いているのか」という疑問です。ここがぶれると、課題定義も解決策も上手く組み立てられません。
企業の中で何かに取り組むときは、同じ方向を向くために、何かしらの資料を作って「ここに向かってみんなで力を合わせていこう」と音頭を取るものです。しかし、皆のものでもある一方で、誰のものでもない社会は、皆が「主」であると同時に皆が「客」であるとも言えます。社会を前に、起きている事象をとらえ「このあるべきに向かっていきましょう」と引っ張る、社会のPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)のような人はいません。強いて言えば、社会課題の影響を真っ向から受けている当事者はいますが、少数派であったり、人数は多くても社会的影響力が低いマイノリティであったりするため、物事を主体的に推進することは極めて難しいのです。
社会課題を深く考えると「より複雑な問題」となり、明確な「主」がある企業課題とは違い、「主」や「客」が明確でないステークホルダーが多く介在することになり、問題とみなすことがそれぞれによって変わってくるということが分かりました。
長くなりましたが、この理由により、コレクティブインパクトアプローチが必要であると、筆者は考えています。「問題意識はそれぞれバラバラでも良い。課題を何とするのか、どういうアクションを取るかはそれぞれで決めればよい。ただ、どこに一緒に向かうかは決めておこう」。こういった考え方です。どこに向かっていくかを決め、それぞれがそれぞれの持ち場で最大限のパフォーマンスやパワーを発揮すれば良いのです。
コレクティブインパクトアプローチの成功5要件の1つが「共通のアジェンダ」をもつこととされる理由はここにあると、筆者は考察しています。
加えると、いまやステークホルダーは「人」とは限りません。外部環境の変化がその代表例です。数年前まで、全然関係していなかったような要因が、急に影響を及ぼす可能性もあります。官公庁や自治体といった公的機関のルールや法令などにより、状況が変わります。また、人々の価値観も多様化しています。これまで一般的と思われていた考え方が通用しないという事象も発生するでしょう。進化を遂げたテクノロジーも、思わぬ形で問題を引き起こしたり、問題の所在を変えたりする可能性があります。
今後の社会を取り巻く問題は、状況によって変動し、動的に変わっていきます。これからの課題解決には、こういった複雑性への対処も必要となるでしょう。
私たちが慣れ親しんで使いこなせるようになっている「ロジカルシンキング」の在り方も、これからは大いに変わっていくでしょう。1つの視点に主眼をおいたロジカルシンキングから、ステークホルダーごとに視点をリフレームして考える思考が必要になってきます。そのためには、さまざまな社会の担い手の考えを傾聴し、動きを観察する力をつける必要があります。
ある程度明確な「あるべき姿」をベースにギャップを捉え、課題検討を行っていたワーキングにしても、ぼんやりとしている中でも「あるべき姿」を設定する力が重視されていきます。いま、目の前にある難問を分析しつつも、社会システムのどこにどういった力学が働くと社会は動くのかを洞察する思考、すなわち「システムシンキング」が重視されていきます。
また、プロジェクトマネジメントに代替する役割を期待される中間支援組織(バックボーン組織)が、日本でも急激に育っていくかもしれません。
社会課題の性質を改めて理解し、新しい協働「コレクティブインパクトアプローチ」を日本社会で皆が使えるものにするために、その前段階として新しいケイパビリティの開発にも力を入れていければと思います。
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