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より良い社会を作るため、私たちは個人で、または所属する企業や団体で、あるいはそれらの枠組みを超えた仲間と一緒に社会の難問の解決に挑まなければなりません。私たちSocial Impact Initiativeは、意思のある人たちが手を組み、社会全体の重要な課題を解決するような方法を編み出していきたいと考えています。
筆者の関心事は、コレクティブインパクトアプローチを解明し、分かりやすく説明し、日本社会で皆が使えるものにすることにあります。
2011年にジョン・カニア氏とマーク・クラマー氏が共同で執筆し、スタンフォードソーシャルイノベーションレビューに発表された論文「コレクティブインパクトアプローチ」は、世界中で大きな反響がありました。そこでは、個々のインパクトをそれぞれが生み出すのではなく、皆が同じ方向を向いて集合的なインパクト(コレクティブインパクト)を創出していくための5条件が解説されています。筆者もこの論文に非常に共感し、複雑な社会課題解決には、このアプローチが有効であると確信しています。
この論文では、コレクティブインパクトアプローチに必要となる5つの条件が紹介されています。
このうち、「1.共通のアジェンダ」の重要性を本稿ならびに、本連載の次回となる第7回で解説していきます。そのためには、問題の性質をどのように読み取るのか、課題やあるべき姿をどのように設定するのか、またステークホルダーがどう影響してくるのかについての説明が必要になります。それらを踏まえて、コレクティブインパクトアプローチの真髄に迫ります。
「そもそも問題が多すぎて、どこに注目すべきなのかが分からない。いったい何に取り組んだらいいんだろう」
「いろんな人が関わっているから、人それぞれの立場によって物の見え方が違う。正しい答えはあるのだろうか」
社会課題解決に熱心に取り組んでいる人なら、また1回でも社会課題を解決したいと真剣に考えたことがある人なら、このように考えたことがあるのではないでしょうか。私たちは企業や団体の中で、一定の難易度の課題を解決できるようになっています。しかし、それらの解決法が適用できないのが社会課題なのです。
論理的思考に慣れている人たちにとっては基本的な話になりますが、まず私たちはどうやって問題を認識し、課題を特定しているのかについて改めて考えます。コンサルティングワークのみならず、ビジネスパーソンにとって必須の思考法であるロジカルシンキングに則って解説します。
まず「単純な問題」について説明します。
現状に「このままでは良くない事柄」や「ネガティブな事柄」が含まれている場合、問題が内在しています。例えば、経費申請をしなければならないという状況において、経費システムを使ったことがないため、申請手続きがよく分からないという「現状」があったとします。それに対して、申請手続きにあまり時間をかけず、手短かに済ませるという「あるべき姿」があります。この「現状」と「あるべき姿」の間にギャップがあります。このギャップを埋めるためには何をすればよいのかを考えること、それが課題検討になります。この例は、非常に簡単であるため、課題検討するほどの大層なことではありませんが、課題は「申請手続きの習得」であり、解決策としては「マニュアル読んで、手順を理解すること」などが想定されます。
次の例は「複雑な問題」です。
いま、あなたはある会社の経理部で働いているとします。毎日多くの経費申請が回付され、伝票処理に追われてます。月初には月次処理対応があり、休む間がありません。
この場合は、どうでしょう。業務量が多すぎて部門全体の作業負荷が高くなっているという「現状」があるのに対して、繁忙期以外の残業はなく、また日常的に余裕をもって業務を遂行するという「あるべき姿」があります。「現状」と「あるべき姿」のギャップを埋めるために「経理業務の効率化」が課題として定義されます。この後、さまざまな視点から課題検討がなされ、具体的な解決策が決まっていきます。
次の例は「より複雑な例」です。
あなたは経理部に所属しており、自分のみならず周りの多くのスタッフが毎日残業せざるを得ません。伝票を発行する人の責任範囲のことまで経理部がフォローすることになったり、あるいは経営層より計画の見直しや突発的な対応を求められたりしています。本来は、もっとじっくりと分析し、考察を織り交ぜ、経営の意思決定に良い影響を及ぼすような重要なコメントを出したいと思うものの、まったく手が回っていません。結局は、日々目の前の業務に追われています。
この例は、前述の「単純な問題」「複雑な問題」より複雑です。現状の積み上げから問題が認識されつつも、本来のあるべき姿も明確になっているようでなっていない点が特徴です。
上述の例を整理します。
「単純な問題」の問題は1つで、あるべき姿も明確です。また、課題の定義や解決策の考案も容易にできます。「複雑な問題」の問題は1つの場合もあれば、複数の場合もあります。あるべき姿はある程度明確であり、課題の定義や解決策の考案はやや難解であるものの「上手くやればできる」というものです。この「上手くやればできる」という点については、後ほど解説をします。
「より複雑な問題」の問題は複数あり、あるべき姿もぼんやりしていて不明瞭です。そのため、課題の定義も解決策の考案も難解です。
| 問題 | あるべき姿 | 課題の定義 | 解決策 | |
| 単純な問題 (Simple Problem) |
1つ | 明確 | 容易 | 容易 |
| 複雑な問題 (Complicated Problem) |
1つ or 複数 | ある程度明確 | やや難解 | やや難解 |
| より複雑な問題 (Complex Problem) |
複数 | 不明瞭 | 難解 | 難解 |
「複雑な問題」を解説する中で、「課題の定義や解決策の考案は『上手くやればできる』」としました。この点を詳しく解説していきます。
繰り返しになりますが、課題とは、本来こうあることが望ましいとする姿と、現状・問題のギャップを埋めるための取り組みを指します。ただし現実的には、取り組むべきことが瞬時に明確になるような単純なことはほとんどありません。そのため「取り組むべきこと」を明らかにするために、さまざまな観点からその事柄について調べ、検討を重ねていきます。いわゆる課題検討です。
課題検討では、「事実に基づいて組み立てられているか」「事象の因果関係は明確に示されているか」「理由や原因の分析はなされているか」「順序立てて考えられているか」「辻褄が合わないところはないか」などを検証しながら、進めていきます。効率的に考えるために、最も確からしいと考えられる仮の答え(仮説)をおいて、事実をぶつけて仮説検証型で考えることもありますし、共通に考えられる「型」や「枠組み」、いわゆるフレームワークを用いて考えることもあります。両方をうまく取り入れながら考えていきます。
私たちは、こうして効率的かつ高いレベルで確からしい答えを得る方法を体得し、それらを上手く使いこなしながら物事を考えていると言ってよいでしょう。
しかし、このような解決法が通じるのは「複雑な問題」までです。「より複雑な問題」を検討する際には、これまでの思考法やフレームワークのみでは太刀打ちできません。
そして、社会課題の解決に向けて、根本的なことや本質的なことを深く考えれば考えるほど「より複雑な問題」であることが分かってきます。さらには、上述の例のよう「1社内で起きていること」でなく、いろんな人が関与していることで、より複雑性が増していきます。そして、これまでの思考では整理がつかないことに気づくのです。
「貧困な子どもの支援のため、ボランティアやサポーターの拡大の施策展開に関わっている。ただ、そもそも子どもの貧困をなくすことはできないのか」
「不登校や引きこもりの人たちへの学習支援に関与している。ただ、彼ら彼女たちがとても生きづらそうなのは、なぜなんだろう。もっともっと生きやすい社会を作ることはできないのだろうか」
「精神障がいや発達障がいがある人は仕事を見つけづらいので、就労支援のため企業とのマッチング部分に携わっている。しかし、本当は就職後に生き生きと働ける環境を提供したい。それはどうやったらできるのだろうか」
「そもそも問題が多すぎて、どこに注目すべきなのかが分からない。いったい何に取り組んだらいいんだろう」と思うところの正体はこれです。
「この取り組み自体には非常に意義がある。ただ、これを続けていっても根本的な解決にはつながらないのではないか。もっと大きなことを、もっと広域にやらなくてはならないのではないか」という、社会システムに効くアプローチの必要性を認識していきます。
本稿では主に企業で働く方々にも分かりやすい説明にするために、身近なコーポレートイシューを事例として取り上げました。しかし、昨今はサステナビリティの考え方のもと、多くの企業が社会課題解決に力を入れています。ESGに代表されるようなコーポレートサステナビリティを、いずれの会社も本格的に推進しています。
上述の考え方にコーポレートサステナビリティをあてはめると、どのようになるのでしょうか。連載の第7回では、コーポレートサステナビリティと社会課題解の深いところに位置するいわゆる「ソーシャルな領域」の違いを確認しながら、コレクティブインパクトアプローチにおける「共通のアジェンダ」の重要性を解説します。
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