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自営業等に従事する人々が加入する国民健康保険(以下、国保)の保険者である市町村は、日本の地域医療および公衆衛生分野において、「住民の健康増進」と「医療費の適正化」という、一見、別物と捉えられるような2つの側面を併せ持つ課題に対応しています。その具体的な施策として続けられてきた国保ヘルスアップ事業は、制度開始から10年以上を経た現在、事業の意義や成果が再評価されています。
本事業はこれまで、住民の健康寿命延伸を目標に掲げ、生活習慣病予防を目的とした特定健診・特定保健指導を中心に展開されてきました。しかし健診受診率や指導件数などの数値目標を追うことに終始する自治体も少なくなく、また事業終了とともに、実施前の状態に戻る例も散見されました。
再評価を通じて現在は、実際に住民の行動変容を促進し地域全体の健康増進に結び付く取り組みと持続的かつ組織的にこれらを定着させるための実践的方策が、保険者・自治体職員にとって喫緊の課題となりつつあります。
このように転換期を迎えている国保ヘルスアップ事業について、本稿ではその目的や構造を再整理し、将来的な実務運用の方向性について考察していきます。
国保ヘルスアップ事業は、市町村国保が主体となって被保険者の健康保持増進を図る保健事業を指します。単なる健康教育にとどまらない多層的なモデル構造となっており、特定健診・特定保健指導の実施、生活習慣病等の重症化予防、それらを実現するためのツールとしてのICT活用の促進やそのサポート、医療従事者・介護事業者などのステークホルダー間の連携の推進などが含まれます。
本事業は国が進める「データヘルス計画」に基づくもので、事業の実施に際しては保険者による医療費適正化の取り組みを支援する「保険者努力支援交付金」が支払われます。
ここで、事業における国、都道府県、市町村の役割を整理します。国は、政策目標の設定や交付金の配分ルール作成や評価指標の提示を行い、財政面では保険者努力支援交付金を措置します。都道府県は、国民健康保険の共同保険者として管内市町村の健康課題の可視化や市町村への助言・支援を担います。具体的には国保ヘルスアップ支援事業を実施し、データ分析基盤の整備、人材育成、モデル事業の実施などを通じて市町村の取り組みを後押しします。他方市町村は、地域のデータヘルス計画に沿った国保ヘルスアップ事業を計画・実施し、住民への具体的なサービス提供の主体となります。
保険者努力支援交付金においては、特定健診受診率や特定保健指導実施率、重症化予防の取り組み内容が評価指標とされ、各保険者間で成果を「相対評価」する仕組みが採用されています。これは、2018年度(平成30年度)に制度移行がなされ、事業実施の有無ではなく、その遂行度合いが問われるものとなったことによります。
保険者努力支援交付金は2020年度(令和2年度)から制度が拡充されました。自治体の予防・健康づくりを抜本的に後押しするために、従来の「ヘルスアップ事業」分(年間あたり50億円規模)の補助金を統合し、2025年度(令和7年度)には総額約202億円が確保されています1。
交付金は大きく「事業費分」と「成果連動分」に分かれており、「事業費分」は、各都道府県が提出した事業計画に基づいて、国が当該年度の事業経費を全額交付します。市町村と都道府県は、交付金を活用して当該年度に事業を実施し、翌年度に実績報告を行って、未使用額があれば国庫に返納する仕組みになっています。「成果連動分」は、各自治体の取り組み実績や成果に応じて翌年度の交付額が増減する成果連動型のインセンティブであり、厚生労働省が毎年度提示する評価指標に基づき都道府県ごとにスコアを算出し、その全国の総得点に占める割合に応じて、交付金額総額が按分されます。成果連動分として都道府県に交付された財源は、当該年度の国保の保険給付費に充当する形で用いられ、結果的に生じた剰余金は翌年度以降の財政調整原資に充当することが認められています。
このように、事業費分で予算措置による直接支援を行い、成果連動分で成果に応じた報奨を与える二本立ての設計によって、自治体の保健事業の充実と効果の向上が促されています。
PwCコンサルティング合同会社は、国保ヘルスアップ事業の実施主体である保険者および自治体担当者にヒアリングを実施しました。その結果、次の3点が主な課題であることが明らかになりました。
従来の広報活動や集団健診の利便性向上のみでは、対象者の高齢化や制度理解不足に起因する限界を突破し難い状況にある
対象者と連絡が取れない、対象者に拒否される、面談を実施できないなど、初期段階での対象者の抵抗感が強く、担当者の業務モチベーション低下につながっている
努力が数値的成果として表れにくいことで事業の位置付けが弱まり、属人的な対応に依存する傾向が生じている
PwCコンサルティングではこれらの課題への対応策として、特定健診の受診から特定保健指導の実施終了までの各ステップにおいて、対象者の目線に立った離脱要因の分析を行い、先行事例を基に、各ステップの「ベストプラクティス」を策定しました(図表1)。
図表1:「特定健診の受診~特定保健指導終了」各ステップのベストプラクティス
ここからは、ベストプラクティスを実践するに当たって重要なポイントを、「対象者参加・行動変容」の目線と「保険者」の目線に分けて紹介します。
保有するレセプト・健診データ等を分析し、リスク層別・介入優先度設定を行う等、具体的な戦略立案に資する情報資産として最大限活用することが不可欠。データの可視化は支援の質向上と内部共有にも寄与するものとなる
行動経済学の知見を応用(ナッジ理論)し、受診勧奨文書の記載内容を最適化することで、住民の受診・行動変容を促進。また、SMS、電話、訪問、アプリなど多様なコミュニケーション手段を併用して接点を効果的に拡大する
歩数競争、食事記録ポイント制などを導入し、対象者間での競争を促進する。
住民同士が相互に励まし合える環境を整備し、継続を促進する。
地域医療が、「住民の健康増進」と「医療費の適正化」という二つの課題を同時に解決することが求められる中、住民の健康増進は単なる医療費削減を超え、地域社会のウェルビーイング向上の基盤形成に資する重要な要素です。こうした中で国保ヘルスアップ事業は、国民皆保険制度の一端を担う市町村国保がその本来の機能を発揮して、「地域の健康長寿を支える主体」として飛躍するための重要な政策ツールです。制度設計にはインセンティブが組み込まれ、各地で創意工夫が進んでいますが、真に成果を上げるには定量目標の追求にとどまらず、住民のQOL向上に寄与する総合的施策として再定義することが不可欠です。そのためには属人的努力に頼らず、PDCAサイクルを継続的に運用し、自治体組織として健康支援力を体系的・持続的に強化する必要があります。
こうした取り組みを成功させるには、行政内部の努力だけでなく、医療従事者・介護事業者・企業および第三者機関・学術機関など多様なステークホルダーとの協働と知恵の結集が不可欠です。今後、本稿で述べた課題を一つ一つ克服しながら制度を進化させていくためには、現場の声とエビデンスに基づく対話が求められます。その対話の中で、私たちPwCコンサルティングのような第三者の提案も活用していただきながら、国保ヘルスアップ事業をテコに地域保健医療の充実と持続可能性の確保という共通の目標に向けて、産官学が一体となって挑戦していくことが期待されます。
1 厚生労働省保健局『令和7年度予算案(保険局関係)参考資料』https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001382245.pdf
2 厚生労働省『令和5年度国保ヘルスアップ(支援)事業 先進的モデル事業事例集』https://www.mhlw.go.jp/content/001463828.pdf
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