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諸外国の医師偏在対策はこちら(米国・英国編)(ドイツ・フランス・ロシア編)
深刻化する医師偏在の是正に向け、厚生労働省は2026年5月に「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン(第8次後期)」、同年6月に「医師確保計画策定ガイドライン(第8次後期)」を公表しました。本稿では、今回の改定の要点を整理し、その政策的意義を概観します。
【ポイント】
諸外国と同じく、地域や診療科による医師偏在の是正は日本においても積年の課題とされてきました。これに対応するため、2018年7月に医療法(以下、法)が改正1され、法に基づいて都道府県が策定する医療計画の一部として、「医師確保計画」および「外来医療計画」が位置付けられることとなりました。
法によれば、医師確保計画は、医療計画のうち、①二次医療圏および三次医療圏における医師確保の方針、②確保すべき目標医師数、③目標の達成に向けた施策に関する事項2を、外来医療計画は、医療計画における外来医療に係る医療提供体制の確保に関する事項3を定めたものと規定されています。各都道府県は、厚生労働省が2018年度末に示した医師確保計画策定ガイドライン(以下、医師確保計画GL)・外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン(以下、外来医療確保GL)4に基づき、2019年度に法改正後初回の計画をそれぞれ策定、翌2020年度より4カ年での運用が始まりました(2024年度以降の計画期間は3年ごと)。
どちらのガイドラインにも共通するのは、これまで地域間の医師の多寡を比較する際に用いられてきた指標「人口10万人対医師数」に基づく対策が、医師偏在対策に結び付いていなかったことへの率直な反省です。これを踏まえ、ガイドラインには、全国ベースで医師の多寡あるいは偏在を示す客観的な指標として、「医師偏在指標(図表1)」および「外来医師偏在指標」が導入されました。
図表1:医師偏在指標 計算式
図表1の式から分かるとおり、医師偏在指標(および外来医師偏在指標)はまったく新しい概念ではなく、いわば修正版の「人口10万人対医師数」です。ガイドラインによれば、指標の算出にあたっては以下の5要素を考慮するとされていますが、計算式を見る限り、③および⑤は加味されていないように見受けられます。
①医療需要(ニーズ)及び人口・人口構成とその変化
②患者の流出入等
③へき地等の地理的条件
④医師の性別・年齢分布
⑤医師偏在の種別(区域、診療科、入院/外来)
このうち、⑤の診療科ごとの医師偏在については、産科/小児科医師偏在指標を別に定義することで手当てしたようです。一方、③へき地等の地理的条件や⑤区域別の医師偏在はやはり計算式に含まれておらず、詳細は後述しますが、このことが医師偏在指標の有効性を限定的なものにとどめた可能性があります。
また、両ガイドラインの間には偏在対策の力点に違いがあったことも指摘できます。すなわち、医師確保計画GLでは医師偏在指標が下位3分の1と上位3分の1の二次医療圏をそれぞれ「医師少数区域」・「医師多数区域」と定義し、両方向から是正の取り組みを規定する一方、外来医療確保GLには少数区域の概念自体がなく、もっぱら外来医師多数区域における対応が定められていました。この相違点は、直近のガイドラインにおいても同様です。
その後、第8次医療計画の前期にあたる2023年3月には、医師確保計画・外来医療確保計画を更新(策定)するための改正版ガイドラインが公表されました。いくつかの点で新しい取り組みが定められたものの、この時の改正は主に記載内容の時点更新にとどまり、制度の枠組みにかかわる変更は限定的でした。
転機となったのは、厚生労働省が2024年12月に医師偏在対策の更なる実効性向上を狙って公表した「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」(以下「総合パッケージ」)です。この総合パッケージでは、重点医師偏在対策支援区域の創設、医師偏在是正プランの策定、経済的インセンティブの導入、外来医師偏在指標が一定数値(当初の例示では標準偏差の数倍)を超える「外来医師過多区域」で新規開業を希望する者への各種要請など、従来よりも踏み込んだ施策が新たに打ち出されました(図表2)。
図表2:医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ 具体的な取り組み5
出所:厚生労働省、2024年、『医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ』
これを受け、総合パッケージの内容を制度化するための法令改正(医療法:2025年12月・健康保険法:2026年5月など)を経て、2026年5月には「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン(第8次後期)」、同年6月には「医師確保計画策定ガイドライン(第8次後期)」がそれぞれ公表されました。これらの後期ガイドラインは、総合パッケージおよび改正医療法の内容を具体的な計画策定・運用ルールへと落とし込むための実施指針であり、特に医師確保計画GLの文言からは、医師偏在指標だけに依拠していては偏在の是正は不十分との認識が読み取れます。
後期版ガイドラインでは、総合パッケージの内容を反映し、「医師偏在是正プランの策定」が盛り込まれたほか、「医師の養成過程を通じた取組」として、これまで学部教育(地域枠など)のみに着目していた取り組みの対象を臨床研修・専門研修にまで拡大するとともに、地域に必要な診療科の医師の育成・確保を支援することが定められました。その概要は以下のとおりです。
後期ガイドラインにおいて目を引くのが、今回新たに導入された「へき地尺度」の概念です。
前述のように、従来用いられてきた医師偏在指標は、人口あたり医師数に医療需要、患者流出入などを加味したにとどまり、山間部などのへき地住民にとっての医療アクセスの難しさといった地理的要因が十分に織り込まれていない点で限界がありました。こうした問題意識を踏まえて導入されたへき地尺度は、①人口密度、②最寄りの二次・三次救急病院までの直線距離、③離島、④特別豪雪地帯の4因子に基づいて計算され、郵便番号から市区町村、二次医療圏に至るまで、単位区域の広さを柔軟に設定できるのが特徴です(図表3)。
図表3:へき地尺度(Rurality Index for Japan:RIJ)の概要6
出所:厚生労働省、2025年、『第7回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 資料1 医師確保計画の見直しについて』
へき地尺度は、以下2つの場面での活用が想定されています。
①医師偏在指標が中位の二次医療圏のうち、へき地尺度が上位10%の部分(7区域)を医師少数区域に編入し、医師偏在指標が下位3分の1の二次医療圏と同じ扱いとする。(図表4)
②重点医師偏在対策支援区域を設定する際の一要素として、へき地尺度を考慮する。
図表4:へき地尺度に基づく医師少数区域の拡大 概念図7
出所:厚生労働省、2022年、『第5回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ資料1 医師少数区域・医師少数スポット、医師の確保の方針及び目標医師数』を基にPwC作成
特に、重点医師偏在対策支援区域は二次医療圏のみならず、市区町村や地区単位などでの設定も想定されています。前述のように、へき地尺度を狭い区域で算出できる点は、地域の実情に応じたきめ細かな対策を講ずる上で有用と考えられます。
第8次前期までの外来医療計画では、外来医師偏在指標に基づいて「外来医師多数区域」を設定し、同地域における新規開業希望者に対して不足する医療機能の提供を求め、拒否する場合は協議への出席を求める仕組みを設けることとされていました。しかし、第8次後期版では、これらの仕組みの効力が乏しく、期待された効果が必ずしも得られていないとの認識が示された上で、地域外来医療の公表や、「外来医師過多区域」の設定および同区域における取り組みに関する項目が新設されました。その概要は以下のとおりです。
特に第6章は、総合パッケージ2の②で示された「外来医師過多区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等」を具体化したものであり、自主的な協力を前提としていた従来のガイドラインから、事実上の義務付けに軸足を移した点に大きな特徴があります。
図表5:医師偏在の是正に関するこれまでの主な動き・関連指標(まとめ)
今回の、第8次後期医師確保計画策定ガイドライン・外来医療ガイドライン改定は、制度が発足した2019年度以来の大改正であり、これまでの両計画の実効性不足や地域事情の反映が不十分であったことを踏まえ、医師偏在是正プラン、重点医師偏在対策支援区域、へき地尺度、外来医師過多区域などの新たな枠組みや基準が導入されました。とりわけ、へき地尺度の導入は、医師数を中心とした従来の評価方法の限界を見据え、住民の医療へのアクセスや地理的条件など、需要側の要因も踏まえた対策の必要性を具現化したものであり、今回の改定を象徴するものといえます。
しかし、これらの新しい枠組みがどの程度有効な対策に結び付くかは今後の運用や指標の使い方次第であり、経過を慎重に観察する必要があります。例えば、へき地尺度に基づいて今回新たに医師少数区域の指定を受けたのは7つの二次医療圏9に過ぎません。現状の活用方法では、専門家による研究と検討を経て提唱された需要側起点の新しい指標が、既存の医師偏在指標を補助する役割の域を出ず、宝の持ち腐れになる恐れがあります。
同様に、上述の新規開業時に各種措置が適用される予定の外来医師過多区域の候補も、現状はわずか9つの二次医療圏にとどまっています。また、要請や勧告の様態によっては、「新たに開業しようとする者に一方的に負担を押し付けるのは不公平ではないか」といった先行開業者の立場を既得権益と捉える立場からの反発や、地域内で医療関係者の分断を招く懸念も拭い切れません。効果的な医師偏在対策には、継続的な各種データの蓄積と、その分析に基づく客観的・建設的な議論の積み重ねが今後いっそう期待されます。
1 医療法及び医師法の一部を改正する法律(平成30年法律第79号)
2 法第30条の4第2項第11号
3 法第30条の4第2項第10号
4 厚生労働省通知 医政地発0329第3号 医政医発0329第6号「医師確保計画策定ガイドライン及び外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドラインについて」平成31年3月29日
5 厚生労働省医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ(概要)令和6年12月25日
6 厚生労働省第7回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会資料1(一部改)令和7年11月14日。なお、引用した地図には北方領土が含まれていないが、これは北方領土が日本の主権が及ぶ領土でありながら管轄権の一部を事実上行使することができていないためであり、このことが北方領土に対する日本の法的立場に影響を与えるものではない
7 厚生労働省第5回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ資料1令和4年6月16日を一部改変
8 区中央部・区西部・区西南部・区南部・区西北部(以上、東京都)、京都・乙訓(京都府)、大阪市(大阪府)、福岡・糸島(福岡県)、神戸(兵庫県)。厚生労働省医政局地域医療計画課事務連絡「外来医師過多区域に係る候補区域の公表について」令和8年3月27日
9 後志・中空知・上川北部(以上、北海道)、置賜(山形県)、北信(長野県)、五島(長崎県)、宮古(沖縄県)。厚生労働省 医師偏在指標(令和8年4月公表)
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