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現代の企業を取り巻く環境は激しく変化しています。AIなど最先端技術の登場、地政学リスクの増大、環境規制の強化、新興企業の台頭など、これまでのビジネスモデルが通用しにくくなっています。こうした不確実性の高い時代には、そこで働く従業員の創造性や多様な価値観の尊重が企業の競争力の核となるため、「ヒト」の価値が最重要視されています。
かつては、生産設備や資金力の大きさが競争優位の源泉でした。しかし今では、働き手一人一人が持つ独自のスキルや価値観、多様な働き方への適応力こそが差別化の脅威となっています。特に、生成AIなど新たなテクノロジーは、業務の効率化だけでなく社員一人一人の仕事への向き合い方や価値の生み出し方に大きな影響をもたらしています。
PwCが実施した「グローバル従業員意識/職場環境調査「希望と不安」2025」に、興味深い回答が出ています。グローバル全体では従業員の54%、日本では35%が過去1年間に業務にAIを活用したと回答しています。これらのユーザーの大半は既にAI活用のメリットを実感しており、4分の3の従業員がAIによって生産性が向上し、仕事の質も向上していると回答しています。そのうち、生成AI(GenAI)を日常的に活用しているユーザーは最も楽観的で、10人のうち9人がAIによる改善を実感しているだけでなく、さらなるメリットも期待していると回答しています。
まさにテクノロジーの変化によって、働く環境が大きく変わりつつあると言えるでしょう。
出典:PwC実施 職場環境調査「希望と不安」2025
「エンプロイーエクスペリエンス(Employee Experience:EX。以下、EX)」とは、従業員が日々の仕事や職場環境、人間関係などを通じて感じるあらゆる「体験の質」を指し、その追求により、働く人の意欲や満足度、幸福感を高めることを目的としています。組織がこのEXを高める努力を重ねることによって、社員はより高いパフォーマンスを発揮し、組織全体のイノベーションや成長の推進力につながるのです。
顧客体験(CX)向上の鍵となるのもEXだと言えます。商品の質だけでなく、スタッフ・店員の対応やサービスが顧客満足に大きな影響を与える場面は多数あります。先進的な企業においては、現場の従業員に一定の裁量を認め、顧客のニーズに即座に対応できる体制づくりが成功の秘訣とされています。従業員自身が会社や仕事に誇りを持ち、自発的に動ける環境が不可欠であり、CXの土台となるのがEXの向上なのです。
「従業員エンゲージメント」はよく知られる言葉になりましたが、これは従業員が会社への帰属意識や貢献意欲を示す「結果」を表しています。一方EXは、その「結果」を生み出す「過程」であり、社員が働く中でどのような体験を積み重ねているかが核心です。社員は日々の仕事や上司との関係、評価制度の運用、同僚との交流を通して会社との関わりを感じ取り、これがエンゲージメントに反映されます。
日本企業のエンゲージメントレベルは世界的に低い傾向にあります。例えばエンゲージメント調査を年に1回実施していても、その結果をうまく活用できていないことが多いように見受けられます。それと言うのも、エンゲージメント調査の「結果」だけを見ても、「原因」は浮き上がってこないからです。エンゲージメントの結果につながる「過程」に目を向けなければ、本質的な解決につながりません。従業員が毎日、瞬間ごとに「体験」する出来事が、ポジティブなものか、ネガティブなものか。どこに痛みを感じる体験(ペインポイント)があるかを突き止め、ポジティブな体験として上書きできるようにしていくことが重要です。
企業にとってEXの推進は、「従業員の価値観の多様化」を受け入れ、個別性に寄り添う仕組みを作ることを意味します。これまでは、同質的な正社員中心の組織であることを前提に整備された画一的な教育制度や評価基準が十分に機能してきましたが、今や多様な性別、年齢、価値観を持つ従業員が共に働く時代に突入しています。
そして、評価制度や研修、人事施策の柔軟な運用は、注目と検討の余地が大きいところだと言えます。例えば、評価結果に納得できない従業員がいれば透明性の確保や説明の徹底を進め、場合によっては制度そのものの見直しを検討する必要があります。こうした取り組みは、従業員を「資本」として扱い尊重する「人的資本経営」にほかなりません。
また、個々の従業員が「一人の人間として尊重されている」と実感できることは自己肯定感を育み、仕事に誇りを持つことにつながるため、帰属意識や貢献意欲が高まります。これは、ひいては企業の収益性や持続的成長にも寄与することが多くの研究で示されています。
特に注目すべきはZ世代を中心とした若手従業員です。Z世代はデジタルツールに慣れ親しみ、多様性への理解も深い一方で、「ゆるい職場」と感じる環境では成長実感が得られず早期離職を検討する傾向が強まっています。
SNSなどで多くの情報にアクセスでき、自分に合った働き方・環境を求める傾向が顕著です。したがって、組織はキャリアアップを望む人には充実した研修や仕事の機会を提供し、ワークライフバランス重視の人には柔軟な勤務体系を用意するといった個別対応に工夫して取り組む必要があります。従業員が自分自身を企業の要求に合わせて変えるのではなく、企業や仕事が従業員に合わせて変わる姿勢が求められていると言えます。
海外の事情を見ると、米国をはじめとした多くの先進国では労働市場の流動性が高く、EXを損われると従業員は、よりよい環境へと移っていってしまいます。だからこそ、人材の希少性・流動性の高い産業であるテック業界を中心として、報酬だけでなくワークスタイルの柔軟性や、多様でユニークな福利厚生を提供する企業が増えています。
日本においても、これまでより労働市場の流動性は高まっています。特に、次の時代を担う若手世代は「成長実感」を得られない企業に厳しい見方をします。将来に対する不確実性が増している中で、自分の市場価値が高まらない職場にいることに意味が見出せないといったところでしょう。
一方で、「自分のペースで働きたい」というニーズも高まっています。企業は、先述の成長実感だけに対応していると、このようなニーズに対応できません。従業員の価値観が多様化しており、画一的なルールや制度では帰属意識の醸成や組織への定着が難しくなっています。個々人の価値観に合わせて、ルールや制度をパーソナライズできる余地を持っていることが重要です。従業員の体験価値を高めていくためには、従業員自身が自己意思によって「選択可能」なものにしていく必要があります。
企業と従業員の関係性は変わりつつあります。慢性的な人手不足を大きな理由として需要と供給のパワーバランスは変化し、企業が一方的に「従業員を雇用」するという関係ではなくなっています。従業員が雇用され続ける能力であるエンプロイアビリティを磨くことが求められる一方で、企業は従業員から「選ばれる企業」であるエンプロイメンタビリティを高めなければなりません。企業と従業員の関係性は、縦の「雇用型」から、対等な「ビジネスパートナー型」にシフトしているのです。
今や「ヒト」は希少資源であり、「優秀な人材を選ぶ」のではなく、「優秀な人材に選ばれる」ことがビジネスにおける競争優位の源泉になります。単に給料やブランド力に依存する時代は終わりました。EXは非金銭的な価値を訴求することであり、人材戦略の核と位置付けられるものです。
VUCAの時代を生き抜くためには、企業が社員一人一人の多様なニーズや価値観に対応し、自律的で自己肯定的な働き方を実現させる環境を整えることが最重要です。その取り組みの心臓部がEXであり、これを経営の中心課題として推進することが将来の企業競争力と成長の鍵となるでしょう。
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